家庭でいわなを飼おう  電子冷却ガラス水槽の製作

 いわなは山深い清流に住み、幻の魚とも言われております。これを家の水槽で飼うことにトライしました。そのためには、冷たい清水の水槽を用意しなければなりません。市販の熱帯魚用の水槽では、熱の伝導が良いため冷却効率が非常に悪く、利用出来ません。やむをえず、2重ガラスの水槽を手作りしましたので紹介します。

水槽中を元気よく泳ぐいわな

右が水槽、左が電源装置

1.原理と構造の概要

 いわなを水槽で飼うためには、先に紹介した可搬型電子水槽で述べた通り、@水温を15℃以下に保つこと A常に空気を水に送り込んでやること B水の老廃物を除去し、常にきれいな水質を維持することです。 

 水の冷却は、可搬型電子冷却水槽と同様にサーモモジュールを用いますが、可搬型の水量が約15リットルに対し、60センチのガラス水槽では50リットルと3倍以上の量となります。従って、冷却するためのサーモモジュールも大容量となります。水槽は可搬型では、断熱機能を持つクーラーボックスを流用しましたが、この水槽は観賞用です。中が見えないと意味がありません。そこで断熱効果を持った二重ガラスの水槽を手作りしました。

 次に冷却装置ですが、実験的に可搬型に利用したサーモモジュールを2個直列に接続し、DC24Vで使用できるようにしました。(やや能力不足の感じで更に能力アップを検討中) 水の冷却は可搬型と同様に水槽の上部から冷却ブロック(アルミ)を水中に浸し、冷却するようにしました。

 電源は家庭用AC100Vをトランスでステップダウンし、DCに整流するものを作りました。(ここで作った電源はこれ以外の各種実験をするために容量は大きめです。DC0V〜30V―0A〜15A 電圧可変) 

 水の浄化装置は必須です。水槽上部に汲み上げてフィルターを通す熱帯魚用を用いておりますが、周囲の熱を出来るだけ吸収しないように、蓋や周辺を厚さ5mmのウレタンで囲っています。

エアポンプはAC100V用を用いております。

2.二重カラス水槽の作り方

 出来上がり寸法(ステンレスアングル)が600(横)×300(奥行)×360(高さ)mmになるように、底を含めた5面のガラス板(厚さ3mmクリアー)を2枚づつ用意します。

それぞれの面につき、ガラス板の周囲に3mm角のアクリル角棒(スペーサー)を両面粘着テープで張り付け、2重のガラス板とします。なお、アクリルスペーサは、ガラスの端より約5内側に張り付け、2枚張り合わせた際の周辺の溝(約5mm深)にシリコーンシーラント(クリア)を充填します。2枚のガラスの張り合わせはこのシーラントで持たせます。

5面の二重ガラスが完成したら、これで箱形に組立ます(粘着テープやガムテープで仮押さえすること)。ガラスの接合面には、上記sシリコーンシーラントを薄く塗布し、これで各面のガラスを接着させますが、これだけでは充分な接着強度が得られないため、接合面内側にシーラントを塗布します。約一昼夜でシーラントは固化しますが、このままでは、強度がないので、取り扱いは慎重にしてください。

枠は上記のガラスケースより内寸で6〜8mm程度大きく(つなぎ部の裏打ち板やネジ頭を逃げる。隙間に後でシーラントを充填する)して下さい。材料は16mm(厚さ1mm)のステンレス L型アングルに切り欠きを入れて折り曲げて作ります。つなぎ部は9mm(厚さ1mm)のステンレス L型アングルで裏打ちし、M2.6の皿ネジ(ステンレス)で止めます(溶接機材がないのでネジ止めとしました)。

枠の組立は、まず底面と周りの4本の柱を立て、この状態で、先に組み立てたガラスケースを慎重に組み込みます。底面には3mm程度のスペーサを部分的にかませて下さい。その後上部の枠を取り付け、ネジ止めします。

ガラス面とアングルとの間にバランスよくスペーサをかませ、間隙にシリコーンシーラントを丁寧に充填して行きます。かませたスペーサは後で取り除き、シーラントを充填します。シーラントが硬化すれば、水槽は持ち運び出来る強度になります。水漏れ箇所が無いか水を入れて確認し水槽は完成です。

3.冷却モジュールの作成

熱の放散側としては100mm×200mm程度の面積の放熱フィンを用意します。また吸熱側として60mm×160mm×10mm厚程度のアルミ板と水中に没するアルミフィンを用意します。吸熱側は水槽の水中に浸ける必要があります。10mm程度のアルミ板では困難なので、これに適当なアルミのフィンを付け、このフィンが水中に没するようにします。

  放熱フィンにはAC100Vで動く放熱ファンを取り付けます。ここでは2個使用しています。

  サーモモジュールはSM−06−127Mを2個使用します。これについては可搬型電子冷却水槽を参照して下さい。

  放熱フィンと吸熱アルミ板の間にこのサーモモジュールを挟みます。勿論両面には熱放散用シリコングリスを塗布します。

  挟み込んだサーモモジュールの周辺の隙間には、先に使ったシリコーンシーラントを隙間のないように充填します。

  サーモエレメントのリード線は放熱フィンに穴をあけ、取り出した方がよいでしょう。

  放熱フィンと吸熱アルミ板は、間にサーモモジュールをはさみ、M3〜4のネジで一体化します。

  

4.電源

 電源については、既製品がいろいろありますので、作り方は省略します。

AC100VをDC24〜28Vに変換する直流電源を用意して下さい。電流容量はMAX5Aあれば充分です。

サーモモジュール2個直列の場合の概略電流値を示します。

印加電圧DCV

流れる電流A

20

2.0

22

2.5

24

2.7

26

3、0

5.その他の配慮事項

  この冷却能力では、水温を急速に下げる力はありません。最初に注入する水は、15℃程度のものを使って下さい。

  水の浄化が必要です。このために市販の浄化装置を使用する場合、熱の吸収を極力抑えるよう、発泡ウレタンなどで断熱して下さい。

6.注意

電源にAC100Vを使用します。感電しないよう充分な配慮をして下さい。特に、DC電源については、1次―2次が絶縁されているトランスを使用したものをお使いください。

7.いわなを飼育してみて

いわなの入手

昨年7月、飼育するために、鬼怒川上流に渓流釣りに行きましたが残念ながら釣れず、釣り堀で観光客に食べられる直前の成魚(30センチのものを2匹)を購入して帰りました。2匹の命を救ったことになります。勿論運搬は可搬型電子冷却水槽を利用しましたが、ここで問題が生じました。あまりにも大きすぎ、2匹とも鼻先を水槽壁面にぶつけてしまったのです。元気はよいのですが、見栄えがしないので、2ヶ月飼育した後、鬼怒川に返してやりました。そして今年の4月13日、京都に桜を見に行った際、滋賀県の野洲川上流にある養魚場で10センチ程のいわな5匹を購入してきました。水温は5℃で手の切れるような冷たい清水で飼われていました。1匹100円です。ついでにそこで使っている餌も購入しました。水もポリタンク2本に汲み、同時に持ち帰りました。  

水槽に入れてみて

  持ち帰った水を水槽に入れ、ポリ袋に入れた氷を投入し、何とか10℃に冷やし、いわなを投入しました。5匹とも非常に元気だが …・・1匹奇形がいました。背骨が曲がっていて、かつ体が水中で浮いてしまいます。下を向いて一生懸命に泳いでいます。これは長生きしないな…・と思っていましたが1ヶ月経った今日も元気です。

  同時に購入してきた餌(沈降性)を与えましたが、餌には見向きもしません。しかし後で見ると無くなっているので確かに食べていることには間違えありません。ところが日を追っていわなの様子が少しづつ変わってきました。餌を投入すると沈降中の餌に飛びついて食するようになってきました。更に、最近は水槽の内側から全員こちらを見て、餌をねだるようになりました。あの幻の魚と言われたいわなが、人に餌をねだるなんて想像もしていませんでした。

  一週間前から金魚用の浮遊性の餌を与えています。粒餌を投入すると、水面に浮かびます。バシャと水音を立ててこれに勢いよく飛びつき捕食します。やはりいわなです。餌は非常によく食べます。そしておなかが出てきました。思わず自分の腹を触ってしまいました。排泄も盛んです。水がすぐ汚れます。一週間も保ちません。頻繁に水の交換をしております。清流水は入手できないので、水道水を1日放置して使用しています。水温も高め(15〜18℃)です。もう少し水温を下げ、魚の活性を落とし、餌の量を減らし、排泄を少なくしなければならないと思っております。現在の冷却能力では少し不足しています。

7月には清流に返そうと思っています。やまめと交換するつもりです。養魚場の人は、やまめ、あまごの方がいわなより敏感で飼育は難しいといっております。これにチャレンジするつもりです。あゆも飼いたいのだが……・明かりのコントロールで2年ものの鮎を飼ってみたい…・・とも思っております。

8.これからの改良点

  冷却能力を上げればよいのですが、装置価格、電力量も無視できません。やはり保冷構造の改良が課題です。外部の熱の吸収は、水槽の上部の断熱の不足と、浄化装置にあると思います。今後更にこの改良にチャレンジします。また、冷却装置を外付けする方法も検討中です。よりよい成果が出たらまたご紹介します。

                                                            以上