1.AIは仕事を奪うのか肩代わりするのか、労働なき未来で人類に残るもの(3.13 日経XTEC)
休暇前の最後のコラムで私は「まとまった時間ができたので、これまでなかなか手をつけられなかった『記事の作成プロセスをAI(人工知能)でいかに自動化できるか』などについてもいろいろ実験したいと考えている」と書いた。では、そうした実験を実際にやったのか。結論から言うとほとんどしなかった。時間はあったので、できなかったのではない。する気になれなかったというほうが実態に近い。「AIの登場により、記者という仕事そのものが不要になるのではないか」という疑念を捨てきれなかったからだ。
対話型AIのChatGPTに、記者が不要になるかどうかを尋ねてみたところ、やはり多くの業務はAIに置き換えられるとの回答だった。その上で、これまで知られていなかった事実を取材で掘り起こす作業は、より重要になるという。「AIが強くなるほど、本来のジャーナリズムだけが残る」とのことだった。
他の仕事も同じだ。最近のソフトウエア開発の現場では、人間がコードを書くことがめっきり減ったという話をよく聞く。プログラマーという仕事が消えつつあるのだ。これからプログラマーになろうとするのは、インターネットや交通網が整備された現代社会で飛脚を目指すようなものかもしれない。
18世紀半ばから19世紀にかけての産業革命では、人は肉体労働を機械に任せられるようになった。AIの登場により、その対象が知的労働にまで広がった。現在起こっていることは、産業革命の最終段階なのかもしれない。
以前、「芸術の本質は役に立たないことだ」という話を聞いたことがある。調べてみると、オスカー・ワイルドの有名な小説「ドリアン・グレイの肖像」の序文に書かれている言葉が基になっているらしい。
効率重視の現代社会では「役に立たないことには価値がない」と短絡的に切り捨てがちだ。しかし、役に立たないことの中にも価値はある。労働から解放された未来の人類にとって、そうした価値こそが重要なのではないかと最近は考えている。
2.先端LLMで例外なく観測された「思わぬ弱点」とは、2月のAI注目論文
(3.13 日経XTEC)
ChatGPTやClaudeといった最先端のLLM(大規模言語モデル)は、単一の質問(プロンプト)に対しては高い精度で回答できる一方、日常会話でよくある複数回のやり取りからなる質問には精度がガクッと落ちてしまう――。そんなLLMの思わぬ弱点を示す論文が、2026年2月の世界SNS言及で1位になった。Microsoft ResearchとSalesforce Researchの研究チームによる「LLMs Get Lost In Multi-Turn Conversation(大規模言語モデルは複数ターンにわたる会話で混乱する)」である。
実験では15のLLMについて単一ターンおよび複数ターンの会話をシミュレートした。この結果、いずれも複数ターンの会話では能力(aptitude)の低下と信頼性(reliability)の大幅な低下がみられた。
この論文が投稿されたのは2025年5月だが、2026年4月開催のAIトップカンファレンス「ICLR 2026」の口頭発表に採択された他、2026年2月に著者の1人がX上で「現時点での最新モデルでも同様の精度劣化がみられる」と明らかにしたことで、AI研究者の間で改めて注目された。研究者コミュニティーの間で、AIエージェントの社会実装にあたって解決すべき長期的課題の1つと認識されつつある。
これまでLLMの性能を測るベンチマークの多くは、単一の質問テキストに対する回答の精度を測定するものだった。一方、日常会話の多くは複数のやり取り(ターン)の中で少しずつ情報が明らかになるのが一般的で、一問一答型のベンチマークとは乖離(かいり)がある。そこで論文の著者は「1つの質問を複数の断片に分割し、それを段階的に開示する」AIを構築し、最新のLLMと対話させた。
3.26年の注目トレンド、宇宙データセンターや航法技術
(2.18 日経XTEC)
情報通信技術関連市場の調査会社である米ABI Researchは、2026年以降の宇宙技術トレンドとして、次の7つを挙げた。(1)地球低軌道(LEO)衛星ネットワーク:クラウドコンピューティングやAI(人工知能)サービスインフラとして需要が拡大。(2)宇宙データセンター:地上の太陽光発電に比べて1平方メートル当たり10〜40倍のエネルギー供給が可能。(3)アジア太平洋地域の宇宙技術:中国、インドを筆頭に多くの新興宇宙大国が台頭。(4)D2D(衛星と端末の直接通信)、NTN(非地上系ネットワーク):サービス提供に向け、衛星事業者と通信業界が連携強化。(5)ソフトウエア定義ネットワーク:再プログラム可能な衛星の開発。(6)測位・航法・タイミング(PNT)技術:中軌道(MEO)で運用するGNSS(全球測位衛星システム)の脆弱性をLEOベースのPNT技術で回避。(7)航法技術の強化:PPP(精密単独測位)の広域カバレッジとRTK(リアルタイムキネマティック)の高精度測位を兼ね備えた技術の開発。
4.ランサム被害からの復旧にはなぜ時間がかかるの?
(3.11 日経XTEC)
ランサムウエア攻撃に遭って被害が発生した場合、その復旧には複数の工程が必要です。まず侵入経路を特定し、攻撃を封じ込め、システムを復旧させ、再発防止策を講じます。それぞれの工程を慎重に進める必要があったり難度が高かったりするため、それらが積み重なって時間がかかるわけです。
特に時間がかかる作業は3つあります。1つ目はフォレンジック調査です。ネットワーク機器などに残ったログを収集・分析し、攻撃者や侵入経路などを特定します。ログを保存するためにデータセンターへ出向いたり、大量のログを分析したりします。分析には専用のソフトウエアを使いますが、特にOS(Operating System)に関する専門知識が必要です。
2つ目はリストアです。ランサム被害からの復旧には、攻撃者が侵入する前の健全なバックアップデータを使う必要があります。場合によっては古いものを使わざるを得ず、当然ながら最新の状況との差分は大きくなります。この差分を入力して整合性を取る作業は時間がかかります。整合性が取れない場合はシステムを再構築しなければならず、バックアップデータを使ってリストアするよりもさらに時間がかかります。
3つ目は運用資料の整備です。被害の再発を防ぐ上ではアセスメント、つまりセキュリティー対策の評価が欠かせず、それにはシステムの構成や運用に関する「最新の」資料が必要です。そうした資料が十分ではない現場があります。その場合、資料の整備に時間がかかります。
5.ついにAIが人から仕事を奪い始めた、解雇規制を緩和しないと日本は滅びるぞ
(3.9 日経XTEC)
日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を妨げ、AI(人工知能)活用でも後手を引かすことになる「日本の厳し過ぎる解雇規制」だ。可及的速やかに緩和しないと本当に大変なことになるぞ。
さて、私の主張を改めて具体的に言うと、企業を縛る規制を大幅に緩和せよということだ。規制とは例えば、整理解雇をする前に配置転換や出向、希望退職の募集といった回避努力をしっかりやらねばならない解雇回避努力義務などだ。当然分かると思うが、こうした規制に縛られていたら、AIエージェントが人間の仕事を代替できるようになったとしても日本企業は余剰従業員を配置転換などで処遇し続けなければならないよね。日本は「空前の人手不足だから大丈夫」なんて話もあるが、そんなものは幻想だ。この件は後で書く。
もう1つ理由を挙げるとすると、例の「SaaS(サース:ソフトウエア・アズ・ア・サービス) is Dead」の空騒ぎだ。米Anthropic(アンソロピック)が2026年1月30日に、ユーザーのプロンプト(指示文)に応じて業務を処理する「Claude Cowork(クロードコワーク)」に関して新たな発表をしたことで、株式市場を中心に大騒ぎとなった。AIエージェントが営業やマーケティング、財務などの一連の業務を担えるとしたため、SaaSは無用になると見なされたわけだ。
そういえば、極言暴論と並ぶ私のもう1つのコラム「極言正論」において、ついに私は「もはや『DXで生産性アップ』を目標にしても仕方がないとさえ思い始めている」と告白してしまった。極言正論は日経クロステックだけなく日経コンピュータの読者向けにも書いており、極言暴論に比べてかなりお行儀が良い。あまりネガティブなことを書かないし、DXの機運を盛り上げるようなことも書いてきたのだが、「もはやこれまでか」とネガティブな気分で書いたのがその極言正論だ。
いずれにしろ、AIなどが想定を超えるスピードで進化するデジタル革命の時代において、日本や日本企業が生き残っていくためには、厳し過ぎる解雇規制の緩和が不可欠であるという私の信念は、何があろうと1ミリも揺るがない。最近、高市早苗首相が主導する「働き方改革」の行方が関心を集めている。実際に働いた時間に関わりなく、あらかじめ決めた時間を働いたと見なす裁量労働制の適用範囲の拡大が主な眼目のようだが、タダ働きの長時間労働を招くのではないかという懸念も浮上している。
実は私も懸念している。過労死などを防止する目的の労働時間規制がこれを機に、なし崩し的に緩和されていくとしたら、由々しき問題だからね。空前の人手不足だからといって、労働時間を増やすことで何とかしようなんていうのは愚策以外の何ものでもない。企業はAIなどを活用したDXで生産性を爆上げすることによって人手不足を解消し、その勢いで生じた余剰人員も減らす。失業した人は新たに生まれた企業などへ転職できる。そんな社会を創るために緩和すべきは解雇規制のほうだからな。間違えないでくれ。
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