週間情報通信ニュースインデックスno.1484 2025/7/12


1.「生成AIを使い続けると脳が劣化する」は本当か? 6月の注目AI論文(7.11 日経XTEC)
 ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)の普及は、大学の教員にとって悩みのタネでもある。学生に小論文の課題を出すと、授業を理解していない学生もLLMで「それっぽい」論文を提出してくるからだ。

 米MIT(マサチューセッツ工科大学)Media Labなどの研究チームが2025年6月10日に投稿した論文「Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task(脳とChatGPT:エッセー執筆タスクへのAIアシスタント使用時の認知負債の蓄積)」は、教育現場で学生がLLMを使うことの悪影響を実験で示し、XをはじめとするSNSで大きな話題を呼んだ。2025年6月のSNS言及数で世界1位である。

 著者チームは教育におけるLLMと利点と限界を示すため、参加者54人からなる実験を行った。参加者を「LLMグループ」「検索エンジングループ」「頭脳グループ」の3群に分け、4カ月にわたってSAT(米大学進学希望者向け標準テスト)形式の小論文を計4回書かせ、人間の教師とAI審査員に採点させた。その過程で参加者の脳波を測定し、認知負荷及び脳内ネットワーク結合度を計測した。

 4回の執筆のうち最初の3回は、LLMグループはGPT-4oを利用でき、検索エンジングループは検索サービスを含むWebサイト(AIサービスを除く)を利用できる一方、頭脳グループは自らの頭脳のみが頼りで、LLMもWebサイトも使えないようにした。4回目はLLMグループと頭脳グループの一部メンバーで条件を逆転させ、前者はいずれのツールも使えず、後者はLLMが使えるようにした。

 この結果、参加者のうちLLMグループの成績は、全ての点で頭脳グループを下回った。LLMグループは執筆こそ速いが、論文自体は構成が画一的で、特に人間の教師からの評価は低かった。脳内ネットワーク結合度も総じて低かった。

 脳内ネットワークが最も活性化したのは、4回目で頭脳グループがLLMを使って執筆したケースだった。研究チームはこの結果について、教育的な視点として「まず自らの力のみで執筆させ、次に適切なタイミングで(LLMなどの)AIツールを導入することで、脳内ネットワークがより広範に活性化するようになるのでは」と主張する。最初に自分の脳で考えさせ、続いてLLMの出力を参照することで、脳がLLMからより多くを学べるようになる、というわけだ。

2.博士や修士の「日雇い労働者」が最先端AIの原動力、教師データの時代は続くのか(7.11 日経XTEC)
最先端のAI(人工知能)は、数学や物理、法律、医学などの難しい問題が解けることで知られる。こうしたAIの能力開発において、時給40〜50ドルで雇われた博士号や修士号を持つギグワーカー(日雇い労働者)が大きな役割を果たしていたことをご存じだろうか。

 スケールAIは、機械学習モデルのトレーニング(訓練)に使うデータの作成を手掛けるスタートアップである。その企業評価額が286億ドル(約4兆2000億円)に達する理由を調べると、最先端AI開発の裏側にある、興味深い実態が浮かび上がった。

 スケールAIはアフリカや南アジアを対象に、平均時給1.5ドルの労働力をオンライン経由で集めて、画像データの中に映り込んでいる物体を識別してメタデータを付与するといった作業を依頼。そうして作成した教師データを米GM Cruise(GMクルーズ)や米Tesla(テスラ)といった自動運転技術を開発するメーカーに提供していた。

 しかし2019年ごろに大規模言語モデル(LLM)が台頭すると、教師データの作成を取り巻く状況は一変した。

 LLMの開発においては、大量の文章データを読ませる「自己教師あり学習」を中心とする「事前学習(Pre-Training)」に続いて、人間にとって好ましい回答を生成させる「アライメント(Alignment)」を目的とした「事後学習(Post-Training)」を行う。この事後学習に、人間が作成した大量かつ良質の教師データが必要になるのだ。

 LLMの主な事後学習としては、模範例となる問題と回答のペアを教師データに使用する「教師ありファインチューニング(SFT、Supervised Fine Tuning)」や、LLMによる出力の良しあしを人間が評価してLLMを改良する「人間からのフィードバックに基づく強化学習(RLHF、Reinforcement Learning from Human Feedback)」がある。

 その後、LLMに解かせる問題が高度になるにつれ、SFTの教師データとなる問題や解答を作成する難易度や、LLMによる出力の正誤を人間が判断する難易度も格段に高度化した。そこでスケールAIなどのラベリング事業者が始めたのが、博士号や修士号を持つ高度な専門家人材による教師データ作成や出力評価だった。

3.NVIDIAの時価総額が世界初の4兆ドルに、DeepSeekショック後もAIチップ需要衰えず(7.10 日経XTEC)
米国時間2025年7月9日、米NVIDIA(エヌビディア)の時価総額が一時、4兆ドル(約586兆円)を突破した。時価総額が4兆ドルを超えた企業は世界で初となる。

 「18カ月以内に、次の焦点は5兆ドルになるだろう」。テック業界を長年ウオッチする米Wedbush(ウェドブッシュ)証券のアナリスト、ダニエル・アイブス氏はこう予測する。時価総額が4兆ドルを超えてもなお、高成長への期待はしぼんでいない。

4.大手IT企業コンサルタントの提案が正しいとは限らない、トラブル呼ぶ「人ごと姿勢」(7.9 日経XTEC)
Q.大手IT企業(A社)のコンサルタントに、当社(B社)のある業務を刷新するための要求定義と企画資料の作成を依頼しました。打ち合わせを含む作業は、コンサルタントとその部下が担当です。納品後に、法令や通達面での課題があり見直しが必要だと分かりました。見直しは別途、追加料金が必要になると言われ納得できません。提案やアドバイスを含めたコンサルティング内容に問題があったのではないでしょうか。

 大手IT企業やコンサルティング会社だからといって、所属するコンサルタントが行う提案が正しい完成形だとは限りません。コンサルタント個人の業務スキルと経験値によって、提言や成果物に差が生じるからです。そもそも、今回の件は、実態としてA社に丸投げしているB社に問題があります。

 上流工程である要求定義の主体者がすることとして、大きく、外部(IT企業やコンサル会社)に依頼するか、自社で作成するかがあります。本来は、自社が実現したい要求をまとめるので「自社で作成」があるべき姿です。

5.安いだけじゃない「新趣向MVNO」、特典魅力のカブ&ピース・メルカリ・JALが参入(7.9 日経XTEC)
大手キャリアのサブブランドやオンライン専用プランが契約者を増やしている一方、MVNO(仮想移動体通信事業者)は2020年をピークに伸び悩んでいるようだ。しかし2024年以降、ただ安いだけではなく、利用者にメリットがある特典やサービスを提供するMVNOが相次いで参入している。その中から、「KABU&モバイル」「メルカリモバイル」「JALモバイル」を取り上げよう。

 「KABU&モバイル」は実業家の前澤友作氏が立ち上げた企業であるカブ&ピースが2024年11月20日から提供するMVNOサービスだ。カブ&ピースはモバイル通信のほか、固定インターネット通信や電気、ガスを提供するサービスなどを展開している。どのサービスでも、利用料金に応じてカブ&ピースの未公開株との交換に使う「株引換券」(1枚1円相当)を受け取れる。

 利用料金の10%相当の株引換券がもらえるので、3GBの場合は毎月107枚が付与される。なお、月額500円(税込み、以下同)で加入できる「プラス会員」になると、もらえる株引換券の枚数が2倍になる。

 カブ&ピースはサービスを通じて株式投資家の増加を目指している。本来、株取引はリスクを伴うが、KABU&モバイルで入手できる株式はオマケなのでリスクはほぼないと考えていいだろう。将来同社が株式公開して株価が上がれば、大きな収益に得ることも期待できる。

 メルカリモバイルの最大の特徴は、「メリカリ」アプリでギガ(データ容量)を売買できることだ。ギガを使いきれなかったときは1G?20GBの範囲で自由にギガ数を設定して、1取引につき最低200円以上の価格で出品できる。逆にギガが足りない場合は、出品されたギガを購入して利用できる。なお、売買が成立すると、出品側は売上額の10%が販売手数料として差し引かれる。

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