週間情報通信ニュースインデックスno.1468 2025/3/8


1.コンパクトで高性能なAIモデルを「蒸留」で生成、大規模モデルの知識を借用(3.7 日経XTEC)
「蒸留(Distillation)」は、一般に「教師モデル」と呼ばれる大規模で高性能なAI(人工知能)モデルの学習データを、よりパラメーター数の少ない小規模な「生徒モデル」に移転させることを指す。これにより、性能を高めた小規模モデルを効率的に構築できる。

 例えば米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)は2024年12月、モデルの蒸留を支援する「Amazon Bedrock Model Distillation」のプレビュー版の提供開始を発表した。また、中国のAI開発企業であるDeepSeek(ディープシーク)が、この手法を用いて安価に高性能なAIモデルを開発したのではないかと話題になっている。

 これまでAIモデルの性能は、データ量や演算量、パラメーター数の増加に応じて向上すると考えられてきた。いわゆる「スケーリング則」だ。このスケーリング則をベースに開発された大規模モデルは、大規模なGPU(画像処理半導体)環境を必要とするため、運用コストが膨れ上がる。

 スマートフォンやIoT(インターネット・オブ・シングズ)機器などのいわゆるエッジデバイスでは、大規模モデルの利用が制限される。データセンター外の機器には必要な計算リソースを搭載できないからだ。大規模モデルを利用可能な環境でも、推論時間が長くなったり、機器の消費電力が膨大になったりするなど、様々な課題が生じている。

 こうした大規模モデルの運用にまつわる課題を緩和するため、蒸留によって生徒モデルを作り、大規模モデルの代替としてエッジデバイスなどで利用する。大規模モデルをそのまま運用する場合に比べて演算量や消費電力を抑え、AIモデルをより安価に運用できる。

 法務関連のAIエージェントを提供する英Robin AI(ロビンAI)のAmazon Bedrock Model Distillation活用事例では「教師モデルと比べて98%の精度を保ちながら、コストを65%削減した」(アマゾン ウェブ サービス ジャパン=AWSジャパンの岡本京エンタープライズ技術本部製造・自動車グループ本部長)。パラメーター数も少ないため推論にかかる時間も短縮できる。

 生成AIの蒸留には、技術的な課題が残るという。「生徒モデルの性能は教師モデルの性能に及ばない上、知識の移転もすんなりといかない」(割田主任)。性能を最適化するにはまだ試行錯誤が必要で、効率的な知識移転手法の確立が期待されている。

2.Metaの「JEPAモデル」は動画で現実世界を学ぶ、子供に負けるLLMの弱点克復(3.7 日経XTEC)
大規模言語モデル(LLM)ベースの生成AI(人工知能)だけでは、人間よりも優れた汎用人工知能(AGI)は実現できない――。米Meta(メタ)の著名AI研究者、Yann LeCun(ヤン・ルカン)氏は常々そう主張する。そのルカン氏がLLMの代わりに「推す」のが「Joint-Embedding Predictive Architecture(JEPA)」という新しい機械学習モデルだ。

 ルカン氏がそう考える根拠は、現在のAIにおける主流となったLLMの能力不足だ。ルカン氏は2025年3月初めにIEEE(米電気電子学会)の「Technology and Engineering Management Society」が公開したインタビューで、主にテキストを事前学習したLLMが、(1)論理的推論(リーゾニング)の能力が欠けている、(2)現実世界から学べない――という問題を抱えていると指摘。LLMだけではAGIは実現できないと主張した。

 LLMの弱点を克服したAIを実現するには、AIがテキストではなく動画(=現実世界)から物理法則などを自ら学習できるようになる必要があるとルカン氏は見る。ポイントとなるのは現実世界というものの情報量の多さだ。

 人間はさらに視覚に加えて、聴覚や触覚、運動経験などからも現実世界のデータを学習している。人間はLLMよりも多くの情報で学習しているので、一部のタスクではLLMよりも人間の方が賢いのだというのがルカン氏の主張だ。

 しかしルカン氏は、LLMで世界モデルを構築するのは容易ではないと見る。なぜならLLMは動画などの視覚情報の学習や理解を苦手としているためだ。

3.サイバー攻撃被害の6割がランサムウエア、身代金支払い拒否を明言は18社(3.6 日経XTEC)
「第2四半期決算時に説明したランサムウエア攻撃によるシステム障害の影響で、第3四半期には売上高で約130億円、営業利益で約40億円の機会損失が生じた。結果として全社連結の第3四半期決算は減収減益となった」。

 2025年2月14日に開いた四半期決算の説明会で、カシオ計算機の田村誠治執行役員IR・財務戦略担当はこう切り出した。

 カシオの例にとどまらない。サイバー攻撃の損失を調査して感じるのは、ランサムウエアが被害深刻化の元凶だということだ。

 10億円を超す損失は全てランサムウエアによるもの。1億円を超す損失を明らかにした企業22社を見ても、15社はランサムウエア攻撃による被害である。

 近年のランサムウエアはごく少数の端末だけでなく、脆弱性を突いて複数のサーバーに感染し、とりわけ重要なデータを暗号化するケースが増えている。業務に深刻な影響を与えることが多く、すぐにでも対策が必要だ。感染範囲の特定から業務の復旧、再発防止策までを含めれば膨大なコストがかかる。

4.最大速度の理論値が4倍以上のWi-Fi 7、現状のパソコンは2ストリーム以下だが十分高速(3.3 日経XTEC)
最近はWi-Fi 7の無線規格に対応するパソコンが増えている。Wi-Fi 7の速度は前規格の6/6Eよりも理論値で4倍以上高速化している。その高速無線通信をすぐに体験したい人も多いだろう。

Wi-Fi 7は、理論値の最大速度がWi-Fi 6/6Eの4倍以上の46Gbpsに達している。  速度向上に大きく関わっているのが「チャンネルボンディング」機能の向上だ。帯域内のチャンネルを複数束ねて通信する技術。Wi-Fi 7は6GHz帯に接続した際に、従来の2倍の16チャンネル(320MHz)を束ねて高速化を図っている。

 Wi-Fi 7独自の「マルチリンクオペレーション」機能も速度アップに貢献。2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯の周波数帯を同時接続したり、電波状況の良い周波数帯に自動的に切り替えたりできる。速度だけでなく接続の安定性も向上する。

 最大46Gbpsはあくまで理論値で、実際に対応ルーターとパソコンを接続した環境ではもっと速度が落ちる。ルーターは最大4ストリーム(アンテナ4本)、パソコンは2ストリームで、接続時はストリーム数が少ないほうの速度に合わせる。それでも最大5.76Gbpsなので十分に高速だ。

5.楽天モバイルが富士通のオープンRAN対応無線装置を採用、5Gエリア構築を効率化(3.4 日経XTEC)
 楽天モバイルと富士通は2025年3月3日、楽天モバイルが富士通のオープンRANに対応した無線装置(RU)を2025年中に導入すると発表した。楽天モバイルは小型軽量かつ低消費電力のRUを採用することで、設置スペースとネットワーク運用コストを削減しながら5GのSub6帯における基地局展開の効率化を進める

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