週間情報通信ニュースインデックスno.1444 2024/9/14


1.OpenAIが新モデル「o1」を発表、論理的思考というAIの弱点を克服する新境地(9.13 日経XTEC)
米OpenAI(オープンAI)は米国時間2024年9月12日、新たなAI(人工知能)モデル「o1(オーワン)」のプレビュー版を公開した。論理的思考力を高めて、難度の高い数学の問題などを解けるようにしたという。AIの弱点を克服しようとするオープンAIの新境地だ。

 o1はGPT-4oなど従来のモデルと比較して長い時間をかけて思考するようトレーニングしたモデルだ。強化学習によってより生産的な思考の方法を学ばせたという。同社は「より多くの強化学習とより多くの思考時間によってo1の性能が一貫して向上することを発見した」としている。思考の時間を長く取れば問題を解決する可能性が上がるという点で人間の思考プロセスと類似している。

 数学や物理学、プログラミングなどの複雑な問題をo1は得意とする。オープンAIによる評価では、GPT-4oの国際数学オリンピック予備試験の正答率が13.4%だったのに対して、o1のプレビュー版は56.7%だった。開発中のo1次世代モデルは83.3%に正答した。コーディングの評価でもo1はGPT-4oを圧倒した。次世代モデルは物理学や化学、生物学の難問に対して博士課程の学生と同等の性能を発揮するとした。

2.なぜだまされてしまうのか、サポート詐欺とディープフェイク悪用詐欺の巧みな仕掛け(9.13 日経XTEC)
相次ぐサイバー攻撃。個人ユーザーを狙う攻撃としては「サポート詐欺」が猛威を振るっている。Webサイトを見ていると、いつの間にかセキュリティーの警告画面が表示され、サポートセンターに電話するよう促される。そして警告画面中の電話番号に電話をかけると、有名企業の担当者を名乗る人物にサポート料金を請求されて支払ってしまう――。このように書くと、「なんでお金を支払ってしまうのか」と思うだろう。だが、支払ってしまう人が後を絶たない。なぜか。ユーザーをだます仕掛けが随所に施されているためだ。

 企業を狙う攻撃としてはビジネスメール詐欺が大きな脅威になっている。企業の経営者や取引先をかたったメールを財務担当者などに送り、攻撃者の口座に金銭を振り込ませる。近年では、ビジネスメール詐欺の成功率を高める「武器」が登場している。「ディープフェイク」である。偽メールと偽音声を組み合わせて、相手を信用させる。

 攻撃者は様々な工夫を凝らし、サイバー攻撃の手口は巧妙になる一方である。被害に遭わないためにはその手口を知ることが何よりも重要だ。

3.昔ながらの方法が窮地を救うことも? 見直してみたいBCPの在り方(9.12 日経XTEC)
取材活動をしていると、多くの企業が先端技術を取り入れることを是とする風潮を感じる。無論、私自身もそういった考えで企業や組織における先端技術の活用の様子を日々報じていた。しかしこの夏、はっと考えさせられることがあった。

 発端は、2024年7月に和歌山県田辺市で開催された「サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」だ。同シンポジウムの1日目。大阪大学の猪俣敦夫サイバーメディアセンター教授/CISO(最高情報セキュリティー責任者)が講演で、過去に起きたセキュリティーインシデントの報告書を基に教訓を語った。この中で出てきたテーマが「レガシーな技術への回帰」だった。以降、今のデジタル技術を前提としていない旧来のレガシー技術の使いどころについて考えるようになった。

 猪俣教授の講演では、2022年10月に大阪府の大阪急性期・総合医療センターで起こったランサムウエア攻撃について触れた。特に印象的だったのが、事業継続の話だ。報告書を読むだけでも、ランサムウエア攻撃の対処と事業継続の両立がかなり大変だったことを察する。

 報告書には当時の様子が事細かに記録してある。ランサムウエアによるインシデントだと判明してから、病院のシステムとネットワークを遮断。これにより電子カルテや普段の業務に使う関連システムが使えなくなったことで病院は大混乱に陥った。外来診療や緊急患者の受け入れ停止、予定手術の中止といった判断を余儀なくされ、事業継続計画(BCP)に基づいた運用へと切り替えた。

 復旧の見通しも立たず、システム障害の長期化が見込まれた結果、災害対策室主導でBCP対策本部会議を設置し、紙を使った運用や診療規模の縮小などの対策を施し、どうにか医療機能を継続させた。

 同事案では、遠隔地に保管していたLTO(Linear Tape-Open)テープに電子カルテのバックアップデータを保存していたことが不幸中の幸いだった。オフラインでバックアップデータを保存していたことが、ランサムウエア攻撃を受けた場合の対策として有効だったわけだ。

 取材をしていると、多くのデータは常時、ネットワーク接続環境下にある前提で保存されている。さらに、近年クラウド利用も主流になりつつある。データの検索や活用という視点に立つと、その価値が十分に高いことに異論はない。一方で、デジタル空間の脅威が以前にも増して大きくなっている今、バックアップやBCPについては、当たり前に存在するインターネットやクラウドなどの利用を前提としない、旧来の考え方や技術を取り入れるべきだと考える。

4.悪質クレーム電話をリアルタイム検知、三井住友海上がカスハラ対策にAIを導入(9.12 日経XTEC)
 三井住友海上火災保険がカスタマーハラスメント(カスハラ)対策として、悪質なクレーム電話をAI(人工知能)がリアルタイムで検知するシステムを、事故応対の業務を担う「保険金お支払センター」に導入した。2024年7月時点で、自動車保険に特化した2拠点に導入済みだ。

 顧客と電話オペレーターとの通話内容を音声認識AIがリアルタイムでテキスト化し、悪質クレームに該当する単語(キーワード)を検知した場合に、マネジャーへ自動でメールを送信する。マネジャーは顧客との通話内容のテキストを確認しながら、オペレーターに応対の指示を出す。カスハラには組織で応対できるようにすることで、オペレーターの負担低減を図る。

 音声認識技術にはNECが開発した「NEC Enhanced Speech Analysis - 高性能音声解析 -」を採用した。同技術の音声認識精度は約87%だったが、三井住友海上に導入するに当たって、保険業界で使われる専門用語や方言を追加学習したところ、現在は精度が約92%まで改善した。

 悪質クレームか否かは、あらかじめ登録した約100個の単語が登場するかどうかで判断する。対象となる単語は、三井住友海上のカスハラに関するマニュアルに基づいて検討した。

 通話終了後には内容を生成AIが500文字以内に要約し、担当者が内容を確認した上で、三井住友海上が使用する保険金支払システム「BRIDGE」に登録する。生成AIには米OpenAI(オープンAI)の大規模言語モデル(LLM)である「GPT」シリーズを、米Microsoft(マイクロソフト)の「Azure OpenAI Service」経由で利用している。

5.KDDIが災害復旧支援ツールを試験提供、能登半島地震で培ったノウハウ生かす(9.11 日経XTEC)
KDDIは、地図上に複数の災害関連情報を重ねて表示する「災害復旧支援ツール」を自治体向けに試験提供する。まずは、東京都多摩地域の全30の市町村を対象とした「防災DX推進ワークショップ」(2024年9月27日、10月31日、東京都市長会主催)で提供する。2025年度中にツールの商用化を目指すという。

 災害復旧支援ツールは、雨雲レーダーのデータやライブカメラ映像などのリアルタイム情報に加え、自治体独自のハザードマップデータや避難者数データといった災害関連情報を一元的に可視化する。バスルートやコンビニエンスストア、ガソリンスタンドといった地図情報も表示可能だ。1つの地図に多数の情報を重ねて表示できるKDDI独自の「ハイパーレイヤリング技術」を利用している。

 一般的な地図サービスではデータをサーバー上で統合するため、多くのパラメーターが存在するとサーバーの負荷が高くなり地図の表示に時間がかかる。一方、災害復旧支援ツールではリアルタイム情報や自治体情報などをユーザー端末側のエッジコンピューティングで処理している。KDDIによると、実際に端末で発生する負荷は小さく、古い世代の端末でも動作するという。さらにサーバー負荷も下がるため、「安価にサービスを提供できるはずだ」(同社)とする。

 KDDIは災害時を含む通信基地局の管理のため、以前から社内で同ツールを利用していた。能登半島地震では、基地局の稼働や避難所への電波提供などの状況を可視化し、通信復旧に役立てたという。同社は災害時に培った知見や技術を自治体の防災DXに活用できると判断し、同ツールの試験提供に踏み切った。

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