週間情報通信ニュースインデックスno.1440 2024/8/10


1.AIはチャットで人間をだませるか、500人を動員した大実験の結果はいかに(8.9 日経XTEC)
人工知能(AI)の進歩により、人間のように振る舞うシステムが登場している。代表例が大規模言語モデル(LLM)だ。ChatGPTなどを使っていると、まるで人間相手にチャットをしているように感じるだろう。

 チャットの応答だけ見ると、相手がAIなのか人間なのか区別できないのではないだろうか――。米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者グループは、500人を動員して実験し、その結果を論文にまとめて2024年5月に発表した。

 研究者グループが実施したのは、いわゆるチューリングテストである。チューリングテストとは、AIが人間と同じように会話できるかどうか調べるテスト。会話相手の人間がAIだと気づかない場合(AIと人間を区別できない場合)、そのAIはチューリングテストに合格したことになる。

 参加者のうち400人が「質問者」となって、様々な質問を入力する。それに対してゲームアプリと通信している「証人」が答えを返す。証人になるのは、残りの参加者100人と3種類のAI(ELIZA、GPT-3.5、GPT-4)のいずれか。なおELIZAはAIと言ってもルールベースのチャットボット。LLMのELYZAとは異なる。

 質問者は5分間にわたって証人に対してメッセージを送る。そしてその応答から、相手がAIか人間かを最終的に判断する。その際には、その判断にどのくらいの「確信度」があるのか0から100の数値で入力する。質問者は1度に1つのメッセージしか送れない。各メッセージは最大300文字。

 さて結果を見てみよう。ある証人が質問者によって人間と判断された割合を「合格率」とする。合格率が最も高かったのは人間で67%、次いでGPT-4が54%、GPT-3.5が50%、ELIZAが22%だった。

 GPT-4は、当てずっぽうによる確率(50%)よりも高い割合で人間をだませたことになる。さらにGPT-4を人間と判断した質問者は、平均で73%の確信度を持っていた。これらから論文では、GPT-4はチューリングテストに合格できたといってよいだろうとしている。

2.東海道新幹線周辺のモバイル体験を英社が調査、ソフトバンクは5G全指標で首位(8.8 日経XTEC)
独立系調査会社の英Opensignalは、東海道新幹線でのモバイル体験を分析したリポートを公開した。5G(第5世代移動通信システム)に関してはソフトバンクが全ての指標において1位を獲得し、特に5Gゲーム体験と5G利用率では単独首位に立っている。2024年7月31日に同社Webサイトで発表した。

 全体的なユーザー体験では、上り速度で楽天モバイルが1位となり、2位のソフトバンクに33.3%、3位のau(KDDI)に88.5%の大差をつけている。全体的なゲーム体験ではソフトバンクが単独首位となった。

 5Gユーザー体験では、全ての指標においてソフトバンクが首位となった。5Gゲーム体験では単独1位、5G下り速度と5G動画体験、5G音声アプリ体験ではauと同率1位、5G上り速度では楽天モバイルと同率1位となっている。

3.ランサムウエアへの適切な初動対応は備えあればこそ、平時に取り組んでおくべき6カ条(8.8 日経XTEC)
「ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)に適切な初動対応をするには、平時の備えが重要だ」――。専門家らは異口同音にこう強調する。

 経営者視点でのセキュリティーインシデント対応に詳しいPwCコンサルティングの上杉謙二ディレクターは「緊急時の対処を平時に決めていなければ、思いつきで行動することになる」と警告する。思いつきの初動対応ばかりでは被害を食い止められない。

(1)誰が、いつまでに、何をするかを決めておく
 第1回で示した通り、攻撃発生後に必要な初動対応は大きく4つある。「拡大の防止」「封じ込め・根絶」「分析・特定」「復旧作業」だ。また、これらの初動対応を進める過程で社内・社外の様々な関係者に対する情報のやりとりが必要になる。

(2)被害範囲の特定や重要な資産の保護に役立つ情報をそろえる
 ネットワーク図があると被害範囲の絞り込みや、ランサムウエアに感染した可能性があるシステムを切り離すポイントの特定が容易になる。それだけ素早く対応できる。

4.AIはモバイルの新たな事業機会を生み出せるか、EricssonのAPAC CTOに聞く(8.7 日経XTEC)
Ericsson Vice President Chief Technical Officer, Asia PacificのMagnus Ewerbring(マグナス・エヴァブリング)氏、エリクソンのアジア太平洋地域の最高技術責任者として、技術戦略を推進。エリクソンに長く在籍し、研究、製品開発、市場ユニットなどで幹部職を歴任してきた。

 世界を見渡してもこれぞといった応用(キラーアプリケーション)が見つからず、停滞感が漂う現在の5G(第5世代移動通信システム)。この状況を打破して、モバイル(通信)の分野に新たな事業機会を生み出せるような技術の登場が待ち望まれている。候補の筆頭は爆発的に普及が進むAI(人工知能)だ。そして、5Gから6G(第6世代移動通信システム)へと進む標準化の過程で、魅力的な将来技術が登場してきている。

 AIはとても重要なテクノロジーで、当社は何年も前からAIの取り組みを始めている。現在、当社の事業すべてのオペレーションでAIを活用している。目的は2つ。一つはAIの知見を社内に蓄積していくこと。当社のエンジニアは4万人いるが、そのうち3万5000人以上がAIのトレーニングを受けている。

 もう一つはAIを製品やソリューションにどう実装していくかを見極めることにある。AIは製品の製造だけでなくサポートする上でも多大な影響がある。当社は、AIに関してきちんと責任を持って適用していけるよう最大限の注意を払っている。いわゆる「信頼できるAI」だ。信頼できるAIを使ったソリューションを生み出していくことで、新たな価値を通信事業者などの顧客に対して提供できると考えている。

 我々は通信の分野で適用可能なAIを「テレコムAI」と称して、製品やソリューションに広く展開しようとしている。重要なのはテレコムAIの学習に使うデータの取り扱いだ。多くの場合、データの所有者は通信事業者であり、広くシェアできるものではない。ChatGPTは広く一般に使用される。この点がテレコムAIとChatGPTが全く違うところだ。

5.クラウドストライクの大規模障害を口実に、ゼロトラストを停滞させないでほしい(8.6 日経XTEC)
陳腐な言葉で恐縮だが、びっくりした。米セキュリティー大手CrowdStrike(クラウドストライク)のEDR(エンドポイント検知・対応)ツールが2024年7月19日に引き起こした、世界的なシステム障害のことだ。既報の通り、多くの有力企業が長時間にわたる業務停止に陥った。

 同社や米Microsoft(マイクロソフト)が後日公表した情報によれば、直接的な原因はEDRツールのドライバーがメモリー上の無効なアドレスを参照しようとしてクラッシュしたことだ。このドライバーが不具合のある設定ファイルを処理しようとして発生した。

 今回、「多数の有力企業が利用していて驚いた」という声や「そもそもクラウドストライクを知らなかった」という声を幾つも聞いた。知られざるクラウドストライクのEDRツールが有力企業に浸透した理由は、ゼロトラストを支えるツールの1つとして注目されてきたからだ。

 ゼロトラストの考え方にのっとれば、社内ネットワークの通信も信頼できない。そこで社内ネットワークの不審な通信を検出・遮断する手段として、クラウドストライクのEDRに脚光が当たったわけだ。

 もし今回の一件をきっかけに、セキュリティー向上の取り組みを停滞させかねない事態があなたの現場で起こっていたら、ぜひキンダーバグ氏の一連の助言を参考にしてほしい。何を言われようとも辛抱強く、ゼロトラストの考えに基づくセキュリティー強化を続けることこそ、サイバー攻撃に対する効果的な防御策だと筆者は信じている。

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