週間情報通信ニュースインデックスno.1424 2024/3/30


1.AIが社長に? 分身が欲しい中小企業社長の切実な願いを実現するサービス(3.29 日経XTEC)
 「AI社長」の正式リリースだという。反射的に「犬や猫を社長や店長に抜てきして話題づくりをするように、AIを社長に見立てて目立とうとしているだけではないか」と思った。

 しかしプレスリリースの内容を読んでみると、意外に真面目なサービスのようだ。AIを利用して社長の分身をつくるサービスだという。たしかに中小企業の社長が「忙しすぎて自分の分身が欲しい」と言っているという話はよく聞く。ニーズがありそうだし、AIの有効な活用法かもしれない。そう思い、このサービスの提供企業であるTHAを取材してきた。

 THAの西山朝子社長は、新卒で大手人材企業に就職。マーケティングやWebサイト改善などITに関連する業務を手掛けた。そうしたITのスキルをさらに高めたいと2019年にDeNAに転職した。DeNAでは副業が認められているため、様々な中小企業のWebサイト作成や広告運用を個人事業主として手伝っていた。

 そんなとき対話型AI「ChatGPT」に出会って衝撃を受けた。早速、中小企業にも勧めてみたが、反応がよくない。多くの中小企業は独自の価値観や技術といったその企業だけが持つ強みで勝負している。一方、ChatGPTで得られるのは平均的な模範解答だ。そのままでは強みを生かせない。また、中小企業ではデスクワークよりも現場に行ってスマートフォンでやり取りするといった働き方が多いため、ChatGPTによる業務効率化はあまりなじまない。

 「中小企業のコアはやっぱり社長」(西山社長)。そこで思いついたのが、社長の知識を実装したAIサービスの提供だ。社内のコミュニケーションに利用されているLINEやChatworkなどのツールに仮想的な社長をチャットボットとして実装すれば、社員が自然にAIを利用できる。

 AI社長には、社長の考えや経験、営業テクニック、会社に蓄積された情報などを盛り込み、チャットボットとして実装する。これにより、社員が社長のノウハウを利用したり、社員に社長の考えを浸透させたりできるようになる。

 AI社長の内部では、組み立てたプロンプトを米OpenAI(オープンAI)のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)に送り、回答を得ている。プロンプトは「社長の情報」「社内資料」「ユーザーからのメッセージ」の3種類の情報を元に組み立てる。社内資料の検索・反映にはRAG(検索拡張生成)を利用している。

 社長のヒアリングには約2時間をかけ、その社長の価値観や考え方などを聞き出す。それを2000文字程度の文章に落とし込んでいる。

2.「6Gでは制御プレーンをシンプルに」、複雑化する開発・運用にQualcommが提言(3.29 日経XTEC)
米Qualcomm(クアルコム)は6G(第6世代移動通信システム)時代に向けて、より効率的で柔軟なネットワーク実現について考える連載を同社Webサイトで開始した。2024年3月21日掲載の第1回では通信制御情報を送受信するコントロールプレーン(制御プレーン)の役割について考察した。以下はその概要となる。

 6Gに向けては、データネットワーク(インターネット)とセルラー(携帯電話)ネットワークを融合する必要がある。データネットワークは様々な種類の端末へのサービス提供を目的としており、セルラーネットワークは音声通信デバイス向けに開発されたものとなる。

4Gや5Gでは、ユーザープレーン内のIPをコントロールプレーンで制御することでデータ通信を実現する。しかし、NASやRRC上でのサービス対応は、IPベースでのサービスに比べて開発、導入、試験、保守に専門的な知識が必要となる。既存のネットワークへの影響にも配慮しなければならないため、コントロールプレーンへの機能追加には制限もある。これは、サービス展開を進めようとする事業者にとってコストを含めて課題となる。

 こうした課題を克服するためには、コントロールプレーンを接続性とデータサービス確立に不可欠な要素にのみ対応するシンプルな形にし、ユーザープレーンでサービスへの統合アクセスを可能にする手法が有効となる。ロケーション(位置情報)、データ収集、産業向けIoT、その他の6Gサービスは、ユーザープレーン上でIPベースのサービスとして実行する形となる。

 これにより、ネットワークサービスの開発や導入、運用が簡素化され、事業者、利用者の両方にメリットをもたらす。Wi-Fi(無線LAN)ネットワークなど、他の無線技術や、有線技術との連携なども可能になる。

3.ずさんな安全管理が露呈したLINEヤフー、総務省が注視するNAVERとの「支配関係」(3.29 日経XTEC)
総務省は2024年3月5日、「通信の秘密」の漏洩でLINEヤフーを行政指導した。対象は同社が2023年11月27日に公表した情報漏洩である。業務委託先のマルウエア感染を契機に旧LINEのシステムへの侵入を許した。システムの管理をNAVER子会社に委ね、原因を即座に特定できない状態だった。総務省は行政指導で資本関係の見直しにまで言及する異例の事態となっている。

 「電気通信事業全体に対する利用者の信頼を大きく損なう結果となったものであり、当省として極めて遺憾である」

4.限界近づくNTT固定電話の全国維持、次代の主役はモバイルかブロードバンドか(3.28 日経XTEC)
不採算地域で通信サービスを維持するための「ユニバーサルサービス制度」がNTT法の見直しを左右する論点に浮上してきた。現在、通信事業者で唯一、固定電話サービスを全国あまねく提供する責務を負っているNTTが、対象を固定電話からモバイル中心へと移行させる代替案を示し、制度の刷新を求めている。

 現行の制度対象は主にNTTの固定電話だが、メタル回線の老朽化と加入者減少に見舞われている。事業収支も赤字額が増え続けている。NTTの提案はKDDIやソフトバンク、楽天モバイルなど他事業者にも責務を分担させることがポイントだ。固定電話の全国維持を担ってきたNTTの役割は変わるべきなのか。ここに来て反対意見も交えた議論が進み、モバイルを制度の中心に据える課題も見えてきた。

 現行制度はIP電話を含まず、基本的には加入者が減り続けているメタル回線の固定電話を対象にしている。NTTの島田明社長は「メタル回線は2035年に設備の限界を迎える」とし、メタル回線の撤退方法を探っている。次の制度を考えるべき時期に来ている。

 NTTが求めるモバイルを中心にした制度とは、メタル回線を使う固定電話を制度の対象から外し、携帯電話またはワイヤレス固定電話(携帯電話網を利用した固定電話)のサービスに切り替えるものである。NTTは「現在の固定電話よりも低いコストで制度を維持できる」(島田社長)と主張する。

 固定電話の役割後退を見越して、世界的にはブロードバンド回線を制度対象にする動きがある。日本でも現行の固定電話に加えて、ブロードバンドを対象にする制度改正が進んでいる。ブロードバンドを対象とする特長は特定サービスではなく、「手段」を利用者に確保できることだ。電話だけでなく、インターネット接続など様々なサービスを保障できる。光ファイバーに限定せず、地域によって無線などを組み合わせた制度設計もできる。

5.日本の通信を支える「25兆円」NTT資産の行方、インフラ維持や外資防衛策が課題に(3.25 日経XTEC)
NTT法を見直すことで、国内通信市場にどのような競争環境をつくるか。総務省の有識者会議「通信政策特別委員会」は現在、「公正競争」「経済安全保障」「ユニバーサルサービス」の3つのワーキンググループ(WG)を設置して専門的な議論を進めている。どの論点にも大きく関わるのが、NTTが保有する管路や電柱、とう道、局舎などの施設だ。

 NTTが敷設する光ファイバー回線の貸し出しを通じて、他事業者も施設の恩恵を受けている。日本の通信インフラを支える存在だ。KDDIやソフトバンクなどの競合事業者はNTTしか持ちえない「特別な資産」と呼ぶ。しかし、重要な施設にもかかわらず、NTT法などの法令上、必ずしも位置付けが明確ではない。NTTと競合事業者の主張が激しく対立するポイントになっている。

 KDDIやソフトバンクなどの競合事業者は、電電公社時代に建設したものが主であることから「国民負担で成り立った25兆円の特別な資産」(KDDIの高橋誠社長)と位置付ける。25兆円の根拠は電電公社時代の設備投資累計額(旧郵政省が集計)だという。この主な原資は加入電話の施設設置負担金(電話加入権)を含む当時の利用者が負担した通信料金である。

 このことが「NTTには特別な規制が必要だ」という根拠にもなっている。ソフトバンクの宮川潤一社長は「NTTの設備を外国資本による買収リスクなどから守るためにNTT法が必要だ」と主張する。現在のNTT法は、NTTに対する外資比率を議決権ベースで3分の1未満に制限している。

 一方、NTTは電電公社から継承した施設だけに注目し、民営化後の設備投資を考慮しない議論や規制論を否定する。NTTによれば、電電公社から引き継いだ設備や施設は減価償却が進み、現在の価値は「2兆円程度」(NTTの廣井孝史副社長)に過ぎない。

 NTTは、競争ルールが整備されている通信設備については「公正競争を確保するための開放義務などには今後もしっかり対応していく」(島田明社長)という。実際に光ファイバー回線や局舎のコロケーションなどは長く実績がある。固定電話で50%以上のシェアを持つNTT東西は「第一種指定電気通信設備」制度で設備の開放義務を負っているからだ。NTTは通信設備の開放義務を規定した電気通信事業法で、公正競争ルールは確保できるとの立場を取る。

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