週間情報通信ニュースインデックスno.1410 2023/12/23


1.LoRAで生成AIを効率的にファインチューニング、GPUメモリー使用量などを削減(12.22 日経XTEC)
LoRA(ローラ、ロラ、Low-Rank Adaptation)とはLLM(大規模言語モデル)や画像生成AI(人工知能)を効率良く調整する手法の1つだ。ある特定のタスクやジャンルに寄せた出力をするようにカスタマイズする「ファインチューニング」を行う際に用いる。

 具体的にはLLMのパラメーターを固定したまま、別のパラメーターを「横付け」してその部分だけファインチューニングする。オプションパーツのようなイメージだ。

 例えば文章を生成するAIに、ある特定の作者のような文体で文章を生成させたいとする。この場合、LLMのパラメーターを全てファインチューニングするには大量の計算が必要だ。そこで前述の手法を用いると、計算コストや、計算するためのGPU(画像処理半導体)に関するコストなどを現実的な範囲に抑えることができる。

 LoRAの主な利用者は、LLMなどを一からつくらないものの生成AIを自社で独自にチューニングして提供・利用したい企業や一般ユーザーだ。他にもLLMなどの開発企業が想定される。

2.4年ぶりの世界無線通信会議「WRC-23」が閉幕、5G-Advanced向け周波数で合意(12.22 日経XTEC)
移動通信関連の業界団体GSMA(GSM Association)は2023年12月15日(現地時間)、同日に閉会した国際電気通信連合(International Telecommunication Union 、ITU)の世界無線通信会議「WRC-23(World Radiocommunication Conference 2023)」における合意内容についての解説をWebサイトに掲載した。今回の開催地はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ。WRCは3〜4年ごとに開催され、前回のWRC-19から4年ぶりとなる。

 WRCでは周波数など無線規則を見直し、必要に応じて改訂する。今回のWRC-23で各国政府は、移動通信向けの新しい低周波数帯域(ローバンド、1GHz未満)と、3.5GHz帯や6GHz帯の中周波数帯域(ミッドバンド)について合意した。GSMAは、5G-Advancedとそれ以降に向けた通信開発計画を可能にするこれらの成果を歓迎するとした。

 3.5GHz帯(3.3G〜3.8GHz)については、移動通信向けにさらなる活用を進めることで、欧州、中東およびアフリカ(EMEA)、南北アメリカ全域の合意を得た。新しく6GHz帯(6.425G〜7.125GHz)を移動通信用に使用することについても、EMEA、南北アメリカ、アジア太平洋地域のすべてのITU参加地域で合意した。6GHz帯は、5G-Advanced以降の容量拡大に向けて利用する。

3.物価高と規制緩和でMVNOの競争力向上、だが携帯大手に太刀打ちできないのはなぜか(12.22 日経XTEC)
円安などによる物価高で携帯各社の値上げが進む中、低価格に強みを持つMVNO(仮想移動体通信事業者)が競争力を高めているようだ。電気通信事業法の一部改正により独立系MVNOに対する規制が緩和されたことで、MVNOは料金の安さに加え、端末値引き施策などでも攻勢を強めてくると考えられる。だが、それでも携帯大手の牙城を崩すのは難しい。MVNOに足りないものは何なのだろうか。

 携帯電話料金引き下げを公約に掲げる菅義偉前首相の政権下にあった2021年、携帯各社の料金プランが大幅に変更され、今までにない安価なプランが多く登場したことを覚えている人は多いかと思う。それから2年が経過した2023年、携帯各社は再び料金プランの改定に動いた。だがその内容を見ると、値下げではなく値上げの傾向が強かった。

 携帯各社が値上げに踏み切った理由は他の業界と同様、円安などを起因とした物価高や、それに伴う給与引き上げなどが大きく影響している。基地局を運用するのに必要な電気代や、全国に構えたショップを運営するための費用が高騰したことで値上げを余儀なくされたわけだ。

 だがその一方で、値上げをしていないのがMVNOである。MVNOは携帯各社からネットワークを借りているため設備が少なく電気代高騰の影響を受けにくい。また大半のMVNOは店舗を持たないので、店舗にかかる費用高騰の影響も受けない。加えて携帯各社からネットワークを借りる際に支払う「データ接続料」も年々低下しているので、一層低価格を実現しやすくなっている。

 もちろん今後の物価変動がどうなるか筆者にも予想はつかない。だが2024年も現在のような状況が続く限り、物価高と電気通信事業法改正の2つの追い風によって、MVNOに有利な市場環境となることは間違いないだろう。

 これらの結果からは、携帯大手のサービスに長くとどまっているユーザーをMVNOなど他のサービスに乗り換えさせるには、リテラシーの向上が重要なことが分かる。さもなければMVNOの料金をいくら安くしても「面倒さ」が上回ってしまい、ユーザーは重い腰を上げない。

 ユーザーのリテラシー向上やサポートにはコストがかかる。携帯3社などの超大手企業でなければそのコストを負担できない現状が、競争が加速しない主因といえるのではないだろうか。そのコストを捻出してユーザーのリテラシーを向上させない限り、どれだけ競争優位性が向上しても、MVNOが伸び悩む状況は続くと筆者は考える。

4.米Ooklaが2024年の通信業界注目トレンドを予想、2023年のトピックス振り返りも(12.21 日経XTEC)
インターネットの接続性能評価サービス「Speedtest」を運営する米Ooklaは2023年12月13日(現地時間)、2023年の通信業界におけるトピックスを振り返り、2024年に起こり得るトレンドについてまとめた「Ookla’s Take on Telco Trends in 2024」を発表した。以下はその概要となる。

(1)5G SAの促進とFWAに次ぐ収益化の開拓
 2023年第3四半期のSpeedtest Intelligenceデータでは、世界の下り速度中央値は、4G(第4世代移動通信システム)の27.51Mビット/秒に対して5G(第5世代移動通信システム)は203.04Mビット/秒、上り速度では、4Gの8.21Mビット/秒に対して5Gは18.93Mビット/秒だった。一方で遅延時間は、4Gの52ミリ秒に対して5Gは44ミリ秒、前年比でもわずか1%の改善にとどまった。

(2)プライベートネットワークが着実に進む
 データやセキュリティーへのニーズが高まる中、プライベートモバイルネットワークの存在はますます重要になっている。様々な企業がデータ集約型アプリケーションやIoT(Internet of Things)デバイスに依存するようになるにつれ、5G技術の需要も高まっている。GSA(Global mobile Suppliers Association)によると、2023年第3四半期にプライベートモバイルネットワークを展開している企業のうち、45%が5Gを使用している。3GPP(Third Generation Partnership Project)のリリース16では、より広範な産業用IoT用途をサポートしており、2024年には、これに対応した産業用5Gデバイスが数多く発売される。RedCap対応デバイスも登場する。

(3)Open RANは困難に直面
 Open RANについては、どの程度までオープンになるのか、ハードウエアとソフトウエアのスタック間相互運用性の課題解決に向け、進捗遅れが発生するのではないかという懸念も指摘されている。一方で、米AT&Tは2026年までに同社の無線ネットワークの70%にOpen RANを適用する計画を発表した。

(4)生成AIの活用
 人の介入なしでネットワークを最適化して管理するゼロタッチネットワーク管理など、様々な機能への生成AI(人工知能)の導入が検討されている。しかし、2024年時点では、こうした動きは、ある程度精査される。

(5)クラウドゲーム市場にサムスンが参入
 韓国Samsung Electronics(サムスン電子)も2024年第1四半期に、世界10億人以上の携帯電話とタブレットユーザーに向けて、クラウドゲームサービスを開始する。

(6)通信衛星の時代が到来
 地上ネットワークと非地上系ネットワーク(NTN)の統合、シームレスで堅牢(けんろう)な通信インフラの構築に向け、衛星プロバイダーと通信事業者の連携が進んでいく。

(7)欧米で高まるフェアシェア論争
 行政機関や規制機関は、通信の急速な発展に伴う課題に対応する必要がある。現在、欧州連合(EU)では、ネットワークへの投資を続ける通信事業者と、ネットワークに多大な負担をかけながら利益を生み出している大手テック企業との間で、コストを公平に負担すべきだとする「fair share(フェアシェア)」についての議論が高まっている。

5.NRIが2030年のコンテンツ制作を予測、生成AIで誰もがアイデアを形に(12.19 日経XTEC)
 野村総合研究所の亀井卓也ICT・コンテンツ産業コンサルティング部長は「生成AIは現在、コンテンツやサービス、プラットフォーム、インフラ、ガバナンスなど全てのレイヤーを変革するテクノロジーになった。避けては通れないテーマだ」と位置づけを話す。

 フォーラムでは「デジタルライフ」「インフラ・プラットフォーム」「データ流通とガバナンス」「サステナビリティ経営」の4つの観点から、現在のトレンドに加えて生成AIで何が変わるか、どのようなルールづくりが求められるかなどを説明した。

 例えばデジタルライフでは、映像や書籍、ゲームなどのコンテンツに関する消費者のトレンドとして次の2点を挙げた。1つのコンテンツシリーズに多くの時間と金額を使う「推し消費」と、話題のコンテンツについて再生速度を速めるなど手早く大量に消費する「倍速消費」だ。

 推し消費の面では、生成AIがキャラクターのセリフを生成することにより、ゲーム内でキャラクターと自由に会話できるコンテンツが登場してきている。コンテンツに対するファンの消費をより長く、深くする効果があるという。プロットの発案などの創作プロセス、作画や翻訳などの制作プロセスを効率化できるため、倍速消費に応えるように大量のコンテンツを供給できるようになるという。

 AIの補助により、2030年には現在のコンテンツ制作における分業体制が崩れていき、消費者を含む誰もがアイデアを形にして発表できる時代が来ると予測する。

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