週間情報通信ニュースインデックスno.1369 2023/3/11


1.ミリ波からセンチメートル波に後退?MWCで見えた6Gの今(3.9 日経XTEC)
2023年2月27日から3月2日にかけてスペイン・バルセロナで開催されたモバイル業界最大級の展示会「MWC Barcelona 2023」では、5Gの次の世代である「6G」に向けたデモを見ることができた。

 6Gは、2030年前後の実現を目指す新たな通信システムだ。国内外の研究機関や大手通信機器ベンダー、通信事業者などが2020年前後から続々と6Gに関するホワイトペーパーを公表。早くも世界で主導権争いが進みつつある。

 6Gの初期の議論では、100Gビット/秒といった超高速通信を目指すために、100GHz幅を超える帯域幅を活用できる可能性があるサブテラヘルツ波(100G〜300GHz帯)に注目する団体が多かった。

 ここに来て、サブテラヘルツ波を補完する6G向け周波数帯候補として、センチメートル波(7G〜20GHz)への注目が集まっている。光に近い特性を持ち、物陰に入ると通信できなくなるサブテラヘルツ波に対し、センチメートル波は、現在5Gで使われるSub6帯(2.5G〜6GHz帯)に近く、エリア展開と容量向上に適するからだ。

 どの周波数帯が6G向けの主役になるのかによって、使われる半導体や回路の実装方法も変わる。6Gで使われる周波数帯の行方は、設備投資する通信事業者のビジネスモデルから通信機器ベンダーの競争、さらにはデバイスメーカーの開発をも左右する。

2.KDDIが1000億円投入しメタバースに本腰、過去3年で見つけた勝ち筋とは(3.10 日経XTEC)
KDDIは2023年3月7日、新たなメタバースサービス「αU(アルファユー)」を開始した。「3年で1000億円規模を投資し、同等以上の売り上げ規模を目指す」(KDDI事業創造本部の中馬和彦副本部長)という気合の入りようで、同社にとって本気のメタバース展開といえる。

 ただ世界的に見てもメタバースの勝ち筋はまだ見えていない。社名を変えてまでメタバースに注力し巨額投資をしてきた米Meta(Meta Platforms、メタ)も、決して順風満帆ではない。

 KDDIは過去3年にわたって都市と連動したメタバース「バーチャル渋谷」などを展開してきた。これらの経験を踏まえて、現時点で見えてきたメタバースの勝ち筋を追求したのが今回のαUだ。KDDIが見出いだしたメタバースの勝ち筋とは何か。

 αUは、メタバースに関連した複数のサービスで構成する。利用者同士が会話を楽しんだりイベントを開催したりできる「αU metaverse」や、アーティストの360度自由視点のライブ配信を楽しめる「αU live」、デジタルアートなどを購入できる「αU market」、暗号資産を管理できる「αU wallet」、実店舗と連動した仮想店舗で買い物ができる「αU place」――である。間口を広げるために、当初はスマホアプリでの利用を基本とした。ヘッドマウントディスプレー(HMD)には今後対応予定という。

 KDDIがαUで狙うのは、「イベント型の一過性のメタバースから、普段使いのメタバースにしていく」(中馬氏)点である。

 メタバースに定着してもらえる動機になるようKDDIが今回取り入れたのが、好きなアーティストや作品に惜しみなくお金を投じる「推し活」をメタバース上で高度化するような仕組みである。

 メタバース内の「推し活」でデジタルコンテンツが流通するようになれば、手数料ビジネスが成立するようになる。「経済圏が立ち上がることで、利用者が集う『中毒性』が生まれる。これでようやく(メタバースビジネスの)スタートラインに立てる」と中馬氏は力を込める。

3.SASEを構成する「CASB」と「ZTNA」、役割と動作をやさしく解説(3.6 日経XTEC)
SWG(Secure Web Gateway)と並んで、SASE(Secure Access Service Edge)で重要な技術が2つある。クラウドサービスの利用状況を可視化するCASB(Cloud Access Security Broker)と、利用者や端末の状態を基にアクセスを制御するZTNA(Zero Trust Network Access)だ。順に動作を見ていこう。

 CASBはクラウドサービスの利用状況を可視化・制御するサービスだ。SWGと同様に、端末とクラウドサービス間のデータのやりとりを監視する。

 CASBの役割は主に3つある。まずはクラウドサービスの利用状況の可視化だ。どの利用者がどのクラウドサービスをどれくらい利用しているのかを把握できる。従業員が勝手に利用しているクラウドサービス、いわゆる「野良クラウド」の検出にも役立つ。

 2つ目はアクセス制御である。野良クラウドへの接続を遮断し、利用を認めているクラウドサービスだけに利用を制限できる。

 3つ目はデータ保護。DLP(Data Loss Prevention)と呼ぶことも多い。利用企業が設定したポリシーに基づき、クラウドサービスのデータにアクセスできる従業員を限定したり、クラウドサービスから別の場所にデータを移すことを禁止したりできる。クラウドサービスのデータだけでなく、エージェントを導入した端末のデータを保護する機能を備えるサービスもある。

 CASBの実装方法はいくつかあるが、SASEにおけるCASBでは主に2つの方式が使われる。クラウドサービス宛ての通信をすべて検査する「インライン型」と、クラウドサービスからAPI(Application Programming Interface)経由で利用状況を取得する「API」型である。

 インライン型では、利用企業が利用を認めているかどうかにかかわらず、さまざまなクラウドサービス宛ての通信を識別・可視化する。野良クラウドの検出や制御などに役立つ。

4.DX推進に必須のユーザーフレンドリー、デジタルスキル標準に学ぶ(3.6 日経XTEC)
「デジタルスキル標準(DSS)」なるものをIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が出している。PDFファイルをダウンロードしてみると140ページにもなる大作だ。内容は大きく2つに分かれていて、1つは「DXリテラシー標準」、もう1つは「DX推進スキル標準」である。DXリテラシー標準は「すべてのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルを定義」、DX推進スキル標準は「DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルを定義」としている。

 政府や自治体がつくるアプリも同様の課題を抱えていることが多い。総じてユーザーフレンドリーという視点に欠けているからだ。役所の論理で考えた仕様は管理側の目線で考えられており、ユーザー視点に欠ける。必要な機能はあるんだから使えるはず、では普及するわけがない。

 資料もアプリもユーザーフレンドリーであることをもっと追求すべきなのだ。その役割を担うのがDX推進スキル標準でいう「デザイナー」である。DX推進スキル標準では5つの人材類型を提示している。ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウエアエンジニア、サイバーセキュリティーである。

 デザイナー以外の詳細はここでは割愛する。デザイナーとは「ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点などを総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材」と定義されている。

 日本はデザインに弱いのか。いや、決してそんなことはなく、ゲームやWebサービスの業界には優れたデザイナーが大勢いる。あるいはインダストリアルデザインや建築の意匠設計の分野でも日本には逸材が多い。異業種の優れたデザイナーが交流し、コラボレーションしていくことで、新たな変革が生まれるのではないか。それこそDXである。デザイナーの育成と彼らがアウトプットするユーザーフレンドリーなインターフェースがDX推進には必須であろう。

5.「ChatGPT」からイラスト生成まで、既存ビジネスを揺るがし始めたAI技術(3.6 日経XTEC)
AIを活用したチャットボット「ChatGPT」や、高い精度で画像やイラストを自動生成するサービスが注目され大きな論争を巻き起こしている。AIを活用したサービスの精度の高まりが、我々の生活やビジネスに小さからぬ影響を与えつつあることは間違いない。

 ここ最近、IT関連のニュースを見ていてChatGPTというワードを見る機会が非常に増えたと感じる人は多いだろう。これはAI技術を活用したチャットボットであり、米OpenAI(オープンAI)が開発し2022年11月に公開したものだ。

 これまでもAI技術を取り入れたチャットボットは多く存在したが、ChatGPTは人間からの多種多様な質問に自然な言葉で回答し、会話を続けてより適切な回答が得られる。加えて、指示された内容に沿ったプログラムを書けるなど、非常に多様なニーズに応えてくれることから、たちまち注目の的となったようだ。

 そしてこのChatGPTに注目し、自社サービスに早速取り入れたのが米Microsoft(マイクロソフト)である。同社は米国時間の2023年2月7日、検索サービス「Bing」などにOpenAIのAI技術を取り入れると発表している。同社はChatGPTよりも強力なAIの言語モデルを採用したとしており、それをBingに活用した「チャット」を新機能として提供するという。

 この機能はどちらかといえばBingの検索結果を要約して分かりやすく文章にしてくれる補完機能というべき内容で、引用先のWebサイトを確認することもできる。会話ベースで知りたいことの詳細を追いやすくなる点など、従来の検索サービスを有効利用する上で一定のリテラシーが求められていた部分が解消されたと評価され、利用の順番待ちが発生するなど大きな評判を呼んでいるようだ。

 AI技術の進化が社会に衝撃を与えたケースは、ChatGPTに限った話ではない。実は2022年にはAI技術を活用して画像やイラストを簡単に生成できる技術やサービスが相次いで登場し、大いに話題となったのである。

 その火付け役となったのは、同年に公開された機械学習モデルの「Stable Diffusion」や、AIによる画像生成サービス「midjourney」などだ。これらは入力したキーワードに応じ精度の高い画像を簡単に生成してくれることが話題となった。

 AI技術を活用したサービスがこれだけ急激に話題となっているのには、技術の進化と学習データの増加による精度の高まりが背景にあることは確かだ。そして、これまでどちらかといえば既存の技術やサービスのサポート的な役割が主だったAI技術が、主役となりビジネスやサービスに大きな影響を与え、ゲームチェンジを起こす可能性が高まったのは確かだろう。

 例えば、画像生成AIを使えば簡単な操作で様々なパターンのイラストを作り出せることは、ゲーム会社などのように多くのイラストを活用する側からしてみれば業務の効率化が進む可能性がある。その一方でイラストレーターなどにとっては、仕事が奪われる懸念も出てきつつあるようだ。

 一層大きなゲームチェンジの可能性があると見られているのが検索サービスだ。現在の検索サービスは、検索結果にキーワードに応じた広告を表示する「リスティング広告」が大きな収入源となっているが、Bingのようにその結果表示がチャットにまとめられ文章となってしまえばリスティング広告の挿入自体が困難になってくる。

 もちろん現在のAI技術は完璧ではなく、今回触れたサービスでも誤りや問題が起こり得ると指摘する声は少なからずある。だが急速に進化しつつあるAI技術によって生み出されるサービスが、今回の事例のように既存のビジネスを大きく揺るがすケースは今後増えていくだろう。我々もAI技術との付き合い方を大きく変える必要に迫られるかもしれない。

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