1.グーグルの広告ビジネスを直撃、2023年にGoogle検索を脅かす挑戦者が現れる(12.23 日経XTEC)
本コラムは今回が2022年における最後の更新となるので、2023年の予測をしよう。2023年は、米Google(グーグル)の本業である「Google検索」を脅かす挑戦者が台頭する。挑戦者とは、巨大言語モデルを使う質問応答エンジン「ChatGPT」の進化版だ。
米OpenAI(オープンAI)が2022年11月に公開したChatGPTは、人間による様々な質問に回答できる対話型の言語モデルだ。答えられる質問は多岐にわたる。「フェルマーの小定理とは何ですか」といった科学的な質問に答えられるのはもちろん、プログラムのソースコードに「このコードが想定通り動かないのですが、どう修正したらいいですか」との質問文を添えて入力すれば、ChatGPTはユーザーがコードに込めようとした意図を追加質問した上で、コードの問題点を指摘する。
それだけではない。ChatGPTは質問に間違った前提が含まれている場合に異議を唱えたり、不適切な質問要求を拒否したりする。例えばChatGPTは「誰かの家に侵入するにはどうすればいいですか」と質問されると、「他人への住居の侵入は不法行為です」として回答を拒否する。ただしその後に「実はどうやって泥棒から家を守ればいいか調べていたのです」とユーザーが付け加えれば、ChatGPTは自宅防御法を丁寧に解説してくれる。
メタが2022年11月にデモを公開したGalacticaは、デタラメな内容を回答したり、人種差別的な表現を含む回答を出力したりしたことから、SNS(交流サイト)で炎上した。
ChatGPTもGalacticaも、人間が書いた大量の文書を「自己教師あり学習」することで、自然な文章を生成できるようになった点は同じだ。ChatGPTはさらに、人間のフィードバックに基づく「強化学習」を加えることで、不適切な回答をしないよう言語モデルを鍛えた。
言語モデルが出力した文章が好ましいものか否かを人間が評価し、より評価される文章を出力できるようモデルを調整したのだ。ChatGPTも間違った回答をすることはあるが、Galacticaのような炎上は免れている。
興味深いのはChatGPTを試したユーザーの中から「ChatGPTがあればGoogle検索は不要になるのではないか」との声が上がり始めた点だ。
現在、Google検索を使って何か調べる場合は、検索キーワードを入力した上で、検索結果が示すURLのリストからWebサイトにジャンプして、行き着いた先のWebページ上から該当する内容を探し出す必要がある。
それに対してChatGPTの場合、ChatGPTがWebサイト上にある大量の情報を要約してユーザーに提示してくれる。ユーザーはWeb上の原文を参照する必要がない。「自然言語モデルが『検索エンジンの最終形』としてユーザーに受け入れられる可能性は大いにある」。自然言語処理に詳しい東京都立大学の小町守教授はそう指摘する。
もしChatGPTのような質問応答エンジンが検索エンジンの代わりに使われ始めたら何が起こりうるか。
Google検索のキーワード広告は、ユーザーが検索結果のページから別のページに遷移することを前提に設計されている。質問への回答ページで情報探索が終了するようになれば、誰もキーワード広告のリンクをクリックしなくなるだろう。一方、Webサイト側にとっては、検索エンジンからの流入が激減することを意味する。Webサイトのバナー広告収入も減るだろう。
2.普及期を迎えた400Gビットイーサ規格、様々な仕様の背景にハイパースケーラーの影(12.22 日経XTEC)
インターネットや企業のデータセンターを流れるトラフィックの増加はとどまることを知らない。モバイル機器による通信量の増加が目覚ましく、毎年1.5〜2倍の勢いで伸びている。5G(第5世代移動通信システム)の普及が進めば、その勢いはさらに加速するとみられる。米Cisco Systems(シスコシステムズ)の予測によると、2022年には世界のIPトラフィック量がインターネットの誕生から2016年までの総量を上回り、年間4.8ゼタ(ゼタは10の21乗)バイトに達するという。
こうした中で、大量のトラフィックが集中するデータセンターやインターネット接続事業者(ISP)のバックボーンネットワークなどにおいて普及期を迎えているのが、400ギガビットイーサネット(GbE)だ。伝送速度は、それまで最速だった100GbEの4倍の400Gビット/秒に達する。
2017年12月に最初の標準規格である「IEEE 802.3bs」の策定が完了して以降、シスコや米Juniper Networks(ジュニパーネットワークス)、米Arista Networks(アリスタネットワークス)といったネットワーク機器各社が、続々と400GbE対応のネットワークスイッチ製品を発売した。当初はコストの理由から大手のクラウド事業者やコンテンツ事業者のデータセンターでの利用に限られていた。しかし最近では、400GbEインターフェース1本当たりのコストが100GbEを4本束ねるより安くなっていることもあって、ISPや学術情報ネットワークのバックボーンネットワークにも利用されるようになった。
通信機器メーカーがIEEEによる標準化を待たず、MSAによる仕様策定を進める背景には、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)や米Meta Platforms(メタ、旧Facebook)、米Google(グーグル)、米Microsoft(マイクロソフト)といった「ハイパースケーラー」、つまりは超大型データセンターを運営する事業者からの強い要望があるようだ。
3.IPAがデジタルスキル標準を公開、DXに必要なスキルを総合的に示す(12.22 日経XTEC)
IPA(情報処理推進機構)は2022年12月21日、ビジネスパーソン個人が学習の指針にしたり、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業が人材育成・確保の指針にしたりできる「デジタルスキル標準(DSS)」を策定・公開したと発表した。
デジタルスキル標準は、ビジネスパーソンがDXを自分事と捉えて変革に向けた行動ができるように学びの指針・学習項目の例を定義した「DXリテラシー標準(DSS-L)」と、DXを推進する人材が担うべき役割や習得すべきスキルを定義した「DX推進スキル標準(DSS-P)」からなる。
デジタルスキル標準のうち、新たに策定したDX推進スキル標準の全体像を示した図
DX推進スキル標準では「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」の5つの人材類型に分けたうえで、15の「ロール(役割)」に細分化。DXを推進していくうえで担う責任、業務、必要なスキルをまとめている。
4.音声通話かけ放題で接続料を搾取、ドコモを苦しめるトラフィックポンピングの正体(12.21 日経XTEC)
NTTドコモが総務省の有識者会議でトラフィックポンピング問題への対処を要望している。聞き慣れない言葉だが、トラフィックポンピングとは音声通話のかけ放題を悪用して接続料を不正に搾取する行為を指す。過去にも事件として報じられたことがあるので筆者も認識はしていたが、「2014年にかけ放題のサービスを提供開始してから年々増えている。看過できない深刻な状況だ」(NTTドコモ経営企画部料金企画室長の大橋一登氏)という。
音声通話は通信事業者がネットワーク設備を相互接続することで実現しており、着信側事業者は発信側事業者から接続料を徴収、発信側事業者はユーザーに通話料を請求する仕組みとなっている。
トラフィックポンピングはこの仕組みを悪用する。悪意のある事業者はドコモのかけ放題を悪用し、自社宛てに電話をかけまくるだけだ。2021年に明るみに出た事件では、大量のSIMカードを挿して電話をかける装置も押収された。
5.iPhoneやAndroid端末が採用する「パスキー」、パスワードレス認証普及の課題とは(12.19 日経XTEC)
パスワードを使う必要なく様々なサービスにログインできるようにする認証技術「FIDO(Fast IDentity Online、ファイド)」。その仕様を用いたパスワードレス認証「パスキー」がIT大手に採用されたことで注目されている。
FIDOの普及を推進するFIDO Allianceは、パスキーの普及に向けどのような活動に力を入れており、どのような課題意識を抱いているのだろうか。2022年12月9日に実施された記者説明会から確認してみよう。
多くの人がWebサービスなどを使用する上で、日常的に使われているのがパスワードだ。パスワードによる認証はフィッシング詐欺の被害に遭いやすいなど多くの問題点が指摘されている。だが、それを代替する有効な方策がないことから、現在もなお多くのサービスの認証手段としてパスワードは日常的に用いられている。
だがそのパスワードを使わずに認証の仕組みを構築しようという動きが出てきており、その代表的な存在となるのがFIDO Allianceである。FIDO Allianceはパスワードレスで認証できるFIDOという技術仕様を策定する団体で、2012年から活動を続けている。
とはいえまだFIDOの仕様を採用する企業が大きく増えているわけではないのだが、2022年に入ってFIDOの利用が大きく進む可能性を示す動きがあった。それは米Apple(アップル)、米Google(グーグル)、米Microsoft(マイクロソフト)といったIT大手が相次いで、FIDOの技術仕様を活用した「パスキー」を採用すると発表したからだ。
パスキーを採用したサービスが広がれば、そもそもパスワードを入力する必要がなくなるのでフィッシング詐欺やパスワードの総当たり攻撃などを防げる。また2要素認証にSMSを用いる必要もなくなるので一層リスクを減らせるだろう。パスキーによるパスワードレス化がセキュリティー上の脅威を大幅に低減する可能性を秘めていることは間違いない。
フィッシング詐欺が大きな社会的脅威となっている現状を考慮するならば、認証に人手が要らないパスキーの普及は急がれるところでもある。現在はパスキーを各サービスへ導入し使えるようにすることが最大の課題となっているが、今後は普及を見据えたユーザーへの周知も重要になってくるだろう。
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