週間情報通信ニュースインデックスno.1318 2022/3/12


1.先進企業は決して口にしない「DX」、恥ずかしい言葉との自覚はあるか(3.11 日経XTEC)
デジタルトランスフォーメーション(DX)。日経クロステックの読者であればおなじみの言葉だろう。企業がデジタルテクノロジー、すなわちITを使ってビジネスを根本的に変革することを指す。

 もともとは、スウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授(当時)が、2004年に発表した「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」という論文で使った言葉だ。本来は生活全般に対するデジタルテクノロジーの影響を示していたが、現在ではビジネスに限って使われることが多い。

 ちなみに、「トランスフォーメーション」がなぜ「X」になるのかが不思議な人もいるだろう。英語のトランス(trans)には「変える」や「超える」という意味があり、クロス(cross)も同様の意味だ。このことからクロスを表す「X」が略として使われているという。

 現在の技術系メディアはDXの話題であふれている。試しに日経クロステックでタイトルに「DX」を含む記事を数えてみたところ、2022年1月の1カ月間だけで43本もあった。平均すると1日に1本以上になる。さらに、本文中にDXという言葉が出てくる記事はその何倍もある。ITに関連した記事はほぼDX一色といっていい。

 DXは「従来のIT化とは異なる」という文脈で語られることも多い。IT化はパソコンや情報システムの導入を指すのが一般的で、作業の効率化や人件費の削減を主な目的としていた。

 これに対し、DXは経営判断やビジネスモデルにITを生かすという側面が強い。企業の存続そのものがITの活用にかかっているという意味で、DXの意義が強調されている。

 一般にDXの推進は「良いこと」、DXの遅れは「悪いこと」とされている。私もそのことに異論はない。しかし、「そもそもDX自体がそんなに素晴らしいことなのだろうか」という疑念を持っている。

 というのは以前、ある投資系コンサルタントから「シリコンバレーの先進的な企業で、DXについて議論しているところはない」という話を聞いたことがあるからだ。

 少し考えてみれば、当たり前のことかもしれない。例えば、GAFAM(Google、Amazon.com、Facebook(現Meta Platforms)、Apple、Microsoft)に代表される米国の大手IT企業は、顧客企業のDXに言及することはあっても、自社のDXについて語ることはない。なぜなら、彼らにとってDXは遠い過去の話だからだ。

 パーソナルコンピューターの黎明(れいめい)期に設立されたアップルやマイクロソフトがビジネスにITを生かし始めたのは、かなり昔のはずだ。さらにグーグル、アマゾン・ドット・コム、メタプラットフォームズの3社に至っては、生まれたときからデジタルネーティブであり、そもそも「トランスフォーメーション」の必要がない。米国で続々と生まれている最先端のスタートアップであれば、なおさらだろう。

 要するに、DXとは本質的に「ITの活用に出遅れた企業が先進企業に追いつこうとする活動」なのだ。DXに取り組むこと自体は重要だが、誇らしげに言うようなことではない。「自社は遅れている」と大声で宣伝しているようなものだ。

2.WCで「Open RAN」の勢いは本物に、富士通とNECの海外進出は?(3.11 日経XTEC)
2022年2月28日から3月3日にかけてスペイン・バルセロナで開催されたモバイル業界最大級の展示会「MWC Barcelona 2022」(以下、MWC)。今年のMWCでは、さまざまなベンダーの基地局製品をオープンインターフェースに基づいて組み合わせられる「Open RAN」がいよいよ本格的な勢いを見せ始めたことが印象深かった。Open RANは世界の通信事業者の間で次々と採用が始まり、調査会社の当初予想を上回るペースで成長している。Open RAN対応基地局をいち早く製品化し、国内で商用展開しているNECや富士通などの国内勢にとっても世界進出のチャンスが訪れている。

 「2030年までに欧州に展開している基地局の30%をOpen RAN対応にする」――。  欧州の大手通信事業者である英Vodafone(ボーダフォン) CTO(最高技術責任者)のJohan Wibergh氏は、MWCで開催した講演の中で、このように語った。ボーダフォンの例ばかりではなく、ここに来て世界各国の通信事業者がこぞって、Open RANの本格採用やトライアルをスタートしている。

 米国のOpen RAN関連の新興ベンダーParallel Wirelessマーケティング担当Vice PresidentのEugina Jordan氏は、MWCの講演に登壇し「Open RANは立ち上がりから7年が経過し現実的になった。英GSMAの調査によると、アンケートに回答した通信事業者の約60%が今後1?2年以内にOpen RANの展開を始める」と話した。

 現在の無線アクセスネットワーク(Radio Access Network、RAN)市場は、中国・華為技術(ファーウェイ)とスウェーデンのEricsson(エリクソン)、フィンランドのNokia(ノキア)という通信機器大手3社が8割近いシェアを占めている。Open RANは、この寡占を打ち破ることを目的の一つとして始まった。これまで難しかったさまざまな基地局製品を組み合わせられるOpen RANは、通信事業者に適材適所の選択の自由をもたらすため、急速に支持を集めている。

 実際、米国の調査会社Dell'Oro Groupは22年3月、21年のOpen RAN市場の売上高が当初予想を大きく上回り、20年の2倍以上になったことを明らかにしている。同社は2026年にOpen RAN関連の基地局製品が、基地局製品全体の市場の15%を占めるまで成長すると予測する。

 実は、Open RAN導入で世界的に先行しているのは日本だ。NTTドコモと楽天モバイルの2社が、Open RAN仕様に基づいた基地局を展開しており、世界の注目を集めている。日本市場においてOpen RAN対応の基地局製品を商用展開するNECと富士通は、世界展開に向けて有利な立場にある。

 今回のMWCで、Open RAN製品の世界展開に向けた波ををうまくつかんでいたのが富士通だ。NTTドコモやソニーが会場出展を取りやめたことで日本勢の存在感が薄かった今回、同社は4年ぶりに会場内にブースを出展。入り口から近いホール2に日本勢として最大規模のブースを構え、Open RANやMWC直前に発表したvRAN(virtualized RAN)製品をアピールしていた。

 富士通のOpen RAN対応の基地局製品は、NTTドコモのほか米国の新規参入事業者として注目を集めるDish Network(以下、Dish)に採用されている。同社はMWCで自社イベントを開催し、NTTドコモやDishの幹部を交えて、Open RANのメリットをアピールした。

 NTTドコモ常務執行役員CTOの谷直樹氏は、日本からリモートで富士通のイベントに登壇。「ドコモは15種類、4社のベンダーの製品を組み合わせて5Gネットワークを展開している」と説明。さまざまなベンダーの機器を取り入れて柔軟なネットワークを構築できるOpen RANのメリットをフルに活用している事実を紹介した。

 パブリッククラウドであるAWSをフルに活用した5Gネットワークを構築することで注目を集めるDishは、Open RANに基づいた基地局も展開する。CNO(Chief Network Officer)のMarc Rouanne氏は「1カ月に1000カ所ベースで基地局を増やしている。Open RANは事前に聞いていたよりも、ずっと簡単に扱える」と話した。

 富士通のイベントに日本からリモート参加したNTTドコモ無線アクセス開発部部長の安部田貞行氏は「新たな製品を追加しようとした場合、確かに今は非常に短い時間で済むようになった。しかし、19年時点では正直大変だった。ベンダーごとに実装の違いがあったりして、当時は相互接続試験に苦労した」と話す。

 現在、NECのOpen RAN関連のビジネスは、日本国内でのネットワーク運用の実績を武器に、国内外で5件の商用契約、22件のトライアル、30件以上の案件見通しに拡大したという。

 富士通も、ドコモやDishとの商用契約を含めて、国内外で13件のプロジェクトが進行していると明かす。両社ともに世界のOpen RAN市場において、波をうまくつかんでいる様子だ。

3.「XR業界に新・ムーアの法則」、ファーウェイ幹部の基調講演(3.10 日経XTEC)
中国Huawei Technologies(ファーウェイ)は2022年3月2日(現地時間)、MWC Barcelona 2022にて同社キャリアBGマーケティング部門最高責任者Philip Song氏による基調講演「5G+XR: Bringing Imagination into Reality」の概要をニュースリリースとして同社のWebサイトに掲載した。XR(Extended Reality)業界には、「新・ムーアの法則」とも言うべき法則が当てはまるとしている。

 Song氏の提唱する「新・ムーアの法則」は、次のようなものとなる。 XRによる通信需要は18〜24カ月ごとに倍増する:今後2〜4年の間に、12K、24Kといった高フレームレートのXRコンテンツが一般的になり、通信需要も指数関数的に増加する。

XRコンテンツ開発機能も18〜24カ月ごとに倍増し、コンテンツ制作費用を大幅削減する:HuaweiのCloud XRサービスは、3Dマッピングや空間コンピューティング、デジタルヒューマンレンダリングといった機能を提供し、コンテンツ開発を支援する。

 このほかHuaweiでは、AR-HUD(AR対応ヘッドアップディスプレー)や、5G Massive MIMO、FTTR(fiber to the remote、光ファイバーと電話線を利用した高速データ通信サービス)によるデータ通信高速化でもXR開発を支援。今後は、迅速なXRコンテンツ開発を支援する 「Cloud-network Express」に加え、ユビキタスなギガビット級アクセスを提供する「Gigaverse」実現に向けても取り組みを進める。

4.導入コストを抑えて管理の手間も軽減、「クラウド型無線LANサービス」の正体(3.9 日経XTEC)
 クラウド型無線LANサービスを使えば、サービス提供事業者がクラウドサービスに実装した無線LANコントローラー(WLC)を使える。このため利用者は調達や初期設定の手間を軽減できる。企業向け無線LANの導入時に特に負担となる、認証の仕組みを合わせて提供するサービスが多い。

 クラウド型は、費用のかかり方がオンプレミスとは異なる。オンプレミスのWLCを導入する場合、アプライアンス製品だと1000万円近くするものもある。クラウド型はWLCを購入する必要がないため初期費用を低く抑えられる。その点でも導入は容易と言えるだろう。一方で月々のライセンス費用などで維持費用は高くなる。

 多くのクラウド型無線LANサービスはネットワークの設定を変更するWLCの機能だけでなく、管理を効率化する機能を備えている。例えば無線LANアクセスポイント(AP)を含むネットワーク機器の監視は、オンプレミスとは異なり、専用の監視サーバーを構築する必要がない。

 ネットワーク機器の設定値や固有情報などの一覧が可能なインベントリー管理の機能も、運用負荷の軽減に寄与する。利用状況をヒートマップなどにして可視化する機能もある。

5.MWCで見えた主役交代、巨大クラウド事業者が通信インフラ丸飲み(3.8 日経XTEC)
「通信業界はクラウドを受け入れる準備が整った。通信事業者はクラウドストラテジーを持つ必要がある」――。

 2022年2月28日から3月3日にかけてスペイン・バルセロナで開催されたモバイル業界最大級の展示会「MWC Barcelona 2022」(以下、MWC)において、世界最大のクラウド事業者である米Amazon Web Services(AWS)Chief Technologist TelecommunicationsのIshwar Parulkar氏は、このように訴えた。

 過去2回の開催が新型コロナウイルスの感染拡大によって中止や規模縮小を余儀なくされたMWC。3年ぶりに多くの人が会場に足を運び、かつての雰囲気を取り戻した今回のMWCにおいて、主役となったのがAWSや米Microsoft(マイクロソフト)などの巨大クラウド事業者だった。

 AWSは、CEO(最高経営責任者)のAdam Selipsky氏をはじめ数多くの基調講演に登壇。スイスSwisscomやスペインTelefonicaなど世界の通信事業者がAWSを活用して通信インフラの構築を進めている事例を紹介した。NTTドコモも将来的な導入も見据え、AWSを活用してコアネットワークを構築する実証を開始する。中でも21年4月に発表したAWSと米新興事業者Dish Network(以下、Dish)との協業は、無線アクセスネットワーク(RAN)からコアネットワークに至るまでエンドツーエンドでAWSのクラウドを活用する。これは、これまでの通信業界の常識では考えられなかった形態  マイクロソフトもMWC会場内のメインストリートである「ホール3」の中心地にブースを出展。クラウドを活用して通信インフラを構築できるサービスを積極的にアピールしていた。同社は21年6月、米AT&Tのコアネットワークを買収すると発表。その内容に世界が衝撃を受けた。マイクロソフトは今後3年かけて、クラウドサービス「Microsoft Azure」上にAT&Tのコアネットワークを再構築し、AT&Tはマイクロソフトからコアネットワークを借りてサービスを運用する。

 巨大クラウド事業者が、なぜここに来て通信インフラを侵食しつつあるのか。  第1の理由として、巨大クラウド事業者自身が通信インフラの最大のユーザーである点である。巨大クラウド事業者は、自らが抱える膨大なデータを世界中へ流通させる必要があり、通信インフラとの関わりがどんどんと密になってきているのだ。

 実はインターネットの国際通信の99%を占める海底ケーブルにおいて、今や米Google(グーグル)、米Meta Platforms(Meta、旧Facebook)など巨大クラウド事業者が利用から投資面で主役になっている。海底ケーブルのトラフィックの実に約7割をGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの略)をはじめとするコンテンツ事業者が占めるようになり、グーグルやメタが海底ケーブルに直接投資を始めているからだ。

 巨大クラウド事業者は米国はもちろん欧州やアジア各地、南米などに巨大なデータセンターを建設している。利用者が、自分の住む地域に近いデータセンターにアクセスすることで体感品質を向上するためだ。世界に分散したデータセンターを同期するためには、海底ケーブルを通じた大量の通信が必要になる。かつて通信事業者から海底ケーブルを借りていた巨大クラウド事業者だが、借りるよりも自ら投資したほうが経済合理性上、有利な状況になった。海底ケーブルは、今では巨大クラウド事業者の「イントラ網」と化している。地球を飛び交う膨大なデータが、わずか10年足らずで海底ケーブルの使われ方から投資の主体までを一変させたのだ。

 第2の理由として、通信インフラのソフトウエア化が急速に進んでいる点がある。専用機器がほとんどだった通信機器分野に、汎用サーバー上のソフトウエアとして動作する、いわゆる仮想化の波が訪れている。この仮想化と巨大クラウド事業者が提供するパブリッククラウドとの親和性が高く、仮想化した通信機器がパブリッククラウド上で動作可能になってきたからだ。

 通信機器分野の仮想化の波は、まずコアネットワーク分野に訪れた。2010年代半ばからNFV(Network Function Virtualization)として、顧客管理や交換機能などを担うコアネットワークの機器をソフトウエアで動作可能になった。

 とはいえ通信事業者はこれまで、パブリッククラウドではなく自らのデータセンターに構築した環境で、仮想化したコアネットワークを運用してきた。「ネットワーク機能をクラウドのワークロードとして動作させるためには、AWS側にいくつか改善するべき点があった」(AWSの Parulkar氏)からだ。

AWSではハイパーバイザーの改良や仮想ゲートウエイ機能の実装などを用意。「通信業界はクラウドを受け入れる準備が整った」とする。 例えば通信パケットを処理するためには、遅延を極力抑えたプロセッシング環境が求められる。さらにAWSのようなパブリッククラウド上のコンピューティング機能は「レイヤー3以上の通信プロトコルさえ理解していればよかった」(AWSの Parulkar氏)。しかし、通信インフラとしての役割をパブリッククラウドが果たすためには、レイヤー3よりも下の通信プロトコルを理解して、実装する必要があった。つまり、「クラウドと通信インフラの“インピーダンス”を調整する必要があった」(同)。

 これらの課題を解消するためにAWSはここ数年で、素早いパケット処理が可能な新たなハイパーバイザー「AWS Nitro Hypervisor」や、仮想ゲートウエイ機能などを強化したという。こうした取り組みによって、冒頭のようにパブリッククラウド活用にかじを切る通信事業者が相次ぐようになった。逆に、移動通信システムの仕様もパブリッククラウドとの親和性を高める方向で進化している。5G向けのコアネットワークである「5G Core(5GC)」は、コンテナベースのクラウドネイティブを前提としたアーキテクチャー「SBA(Service Based Architecture)」を採用する。このために、巨大クラウド事業者のサービスを通信事業者が通信インフラの一部として採用しやすくなったという事情がある。

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