週間情報通信ニュースインデックスno.1293 2021/09/11


1.週刊文春をDXする」、電車の中づり広告を止めた編集長の覚悟(9.17 日経XTECH)
中づり広告を終了する──。週刊誌『週刊文春』が2021年8月26日発売号を最後に電車の中づり広告を止めたことが話題になっている。通勤時の風景として首都圏や大阪で定着していた広告を止める背景には、雑誌のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めなければ生き残れないという危機感があった。

 21年3月、文藝春秋は『週刊文春』のデジタル版である『週刊文春 電子版』を立ち上げた。価格は月額2200円(税込み)で、雑誌より1日前に記事を読むことができる有料Webメディアである。中づり広告の原資を、同社は電子版のマーケティング費用として投下し、紙からデジタルへのシフトチェンジを加速させる。

 近年の『週刊文春』は、「文春砲」とも呼ばれる大型のスクープで多くの注目を集めてきた。絶好調ともいえるこのタイミングでDXを進める意図とは。同誌の加藤晃彦編集長、村井弦電子版コンテンツディレクターに聞いた。

このタイミングで中づり広告を止めた理由を教えてください。

加藤晃彦・『週刊文春』編集長:理由は2つあります。1つは校了のタイミングで、中づり広告のほうが校了が1日早い。週刊文春の校了は火曜日夜ですが、中づりは月曜日。例えば火曜日にスクープをつかんで雑誌に無理やり入れたとしても、中づりは校了済みで入れられない。ずっと前からある問題ですが、スクープメディアとして発行を続けるうえで、この1日の時間差がかなりしんどかったんです。

 もう1つは、『週刊文春 電子版』に非常に手応えを感じていること。21年3月10日にサービスを開始して、「これはいけるな」と思ったんです。

 立ち上げを優先して、社内のエンジニアやデザイナーと話しながら、僕が雑誌も作りながら編集部としては1人で電子版のプロジェクトを進めてきました。建物でいえば、柱と屋根だけの掘っ立て小屋のようなものです。それでも有料会員が取れ始めた。ここに人とお金を投じれば確実に伸びる。そんな手応えがありました。

 では、どこから原資を出すか。雑誌に当てていた宣伝費をデジタルに振り向けようと考え、4月に上司に相談し、5月に役員会で承認を得ました。電子版強化の方向で社内のコンセンサスが取れたということです。

販売部門からすると、長年続けてきてある程度の集客効果が望める中づり広告を止める方針には異論もあったのでは。

加藤:いえ、それは出ませんでした。

意外ですね。

加藤:もちろん中づりの効果はあります。中づりって素晴らしい広告モデルですよね。通勤時間に見て、駅で降りてすぐにキヨスクで週刊誌を買える。高度成長期から続いた、もはや文化と言ってもいい。

 ただ、どちらかと言えば、その号の売れ行きに直結するというより、週刊文春という存在を知らしめるブランド広告の要素が強かったように思います。事実、週刊文春の売れ行きを左右するのは、広告よりもその号にスクープがあるかないかなんです。

 だからこそ、スクープを打てる環境を残すためのコスト戦略は非常に重要です。うちは取材経費は潤沢です。取材なら上に報告なくどこでも出張していいと伝えていますし、編集部員も減らしていません。この環境を維持するために、中づり広告を止めるといったコストカットは(経営側から要求されるのではなく)自ら戦略的に選択しなければなりません。

改めて『週刊文春 電子版』の概要を教えてください。そもそものきっかけは。

加藤:「立ち上げよう」というより「立ち上げなければならない」と感じたのは20年4月の緊急事態宣言の最中ですね。あの時、宣言の影響で書店がどっと営業を停止しました。「こりゃどうなるんだ」と僕は恐怖しました。だって、売り場がなくなったら、雑誌という紙が主力商品である週刊文春は終わりなんです。

 幸いなことに、あの時はコンビニエンスストアは営業を続けていたし、雑誌の物流も止まらなかった。むしろ書店の客がコンビニに流れたことや、大型のスクープを記事化できたことで、20年1?6月の販売部数は前年同期比でプラスでした。

「俺たち、やらないと死ぬぞ」  しかし、もともと書店比率が高い雑誌などは壊滅的な数字になった。うちはたまたまコンビニで手に取ってもらえる雑誌なのでよかったのですが、これは編集者としては恐怖ですよ。コンビニが営業を停止したら。物流が止まっていたら──。電子版を作らないと事業継続できない。なるべく早くやらなきゃいけないと思いました。意思決定をしたのが4月です。

 しかしご存じの通り、Webメディアはすぐに開発できるものではありません。特に課金システムの部分ですね。当社は『文春オンライン』など記事を無料で配信するメディアは持っていますが、課金の仕組みは持っていません。そこをどう作るか。本当は20年の年内にサービスを開始したかったのですが、最後の詰めなどで3月に伸びました。

雑誌を単純にデジタル化するのが「雑誌のDX」なのかというと、そうとも言い切れない部分があるように思います。先ほどの中づり広告の例でも、雑誌には雑誌ならではの購読・閲読体験があります。その顧客体験をどうデジタルに置き換えていきますか。

加藤:2段階あると思っています。初期段階はまずデジタルメディアを立ち上げて、そこから軌道に乗るまでのフェーズです。我々の初期段階のコンセプトは、「週刊文春のコンテンツをなるべく早く、そして読みやすく読者に提供する」というものでした。なので、まずは電子版のオリジナルコンテンツはやらないと決めた。立ち上げを優先したんです。申し上げた危機感がありましたから。「俺たち、やらないと死ぬぞ」って。

 先ほど掘っ建て小屋に例えましたが、2段階目はその小屋をより良い、心地よい建物に改修していくフェーズです。月刊『文藝春秋』から村井(村井弦『週刊文春』電子版コンテンツディレクター)が移ってきて、見せ方やタイミングを含めて細かい改修を続けています。

2.テラヘルツへの挑戦、「6G」で変わる周波数帯と電波の使い方(9.7 日経XTECH)
日本国内では2020年3月に第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが開始された。2021年現在、その次の世代となる「第6世代移動通信システム(6G)」への関心が世界中で高まっている。

 無線通信の高速化に最も効果的な手段は、周波数帯域の拡大である。6Gでは、これまで未開拓だった高い周波数帯域が検討されている。

 5Gの無線通信規格である「NR」では、52.6GHzまでの「ミリ波」の周波数帯が新たにサポートされる予定。今後は5G evolutionでの利用を念頭に90GHz程度までの拡張が検討されている。

 さらに6Gに向けては、高周波数帯の研究開発への期待が高まっている。例えば米国の連邦通信委員会(FCC)は、95G〜3THzといった「テラヘルツ波」と呼ばれる周波数帯の電波を6G向けに検討するよう世界に先駆けて推奨している。

 国内でも、特定実験試験局に使用できる周波数帯として92G〜100GHz(帯域幅8GHz)、152G〜164GHz(帯域幅12GHz)、287.5G〜312.5GHz(帯域幅25GHz)が追加された。6Gに向けては、90G〜300GHzの範囲が主な検討対象として考えられている。この周波数帯の電波は「サブテラヘルツ波」とも呼ばれる。

 サブテラヘルツ波のような高周波数帯では、5Gのミリ波に比較して10倍以上広い周波数帯域幅を利用できるとみられる。例えば、数百MHzの帯域幅を利用する5Gのミリ波では10Gビット/秒を超える程度だが、数GHzの帯域幅を使う6Gのサブテラヘルツ波では100Gビット/秒を超える通信速度を期待できる。

 5Gでは、ミリ波だけではなく、4Gよりも少し高めの「Sub6」と呼ばれる周波数帯(3.7G/4.5GHz帯)も利用されている。Sub6は、ミリ波ほど広い帯域幅は利用できないものの4Gよりは広い帯域幅が利用できる。加えてミリ波よりも電波が飛びやすいため広いエリアをカバーできる重要な周波数帯である。

 これと同様に6Gにおいても、サブテラヘルツ波に加えて、低い周波数帯やミリ波帯を組み合わせて用いることが重要になる。そのためには、5Gの既存周波数帯を6Gで利用するための技術が必要となる。また、Sub6が4Gよりも少し高い周波数帯であったように、Sub6よりも少し高い周波数帯の開拓も目指すべきである。いずれも今後の課題といえるだろう。

3.5Gパケ止まりはなぜ起きる? ソフトバンクの対策が明らかに(9.14 日経XTECH)
「Twitterを見ると、“5Gにつながっているのになぜ止まる?”“5Gかえって邪魔なんだけど”といったコメントを多く見かける。ソフトバンクは、このような“5Gパケ止まり”の改善に取り組んでいる」。ソフトバンク常務執行役員兼CNO(チーフネットワークオフィサー)の関和智弘氏は、2021年9月14日にオンライン開催した同社の発表会でこのように打ち明けた。

 関和氏によると、5Gにつながっているのにパケット通信が止まったりする現象は、「ソフトバンクに限った話ではなく、通信事業者共通の課題。5G展開の拡張期に生じる深刻な問題」と指摘する。

 関和氏は5Gパケ止まりのメカニズムについて、「5Gの連続性が不十分なエリアにて、無理に5Gを使わせようとすることがパケ止まりにつながる」と説明する。5Gエリアの端に利用者がいる場合、5G電波が弱いにもかかわらず、5Gによる通信を優先することがあり、それがパケ止まりを発生させるということだ。現時点で携帯各社は、まだまだ5Gエリアを広げている最中。このようにまだらなエリアが多い時期に、パケ止まりが起こりやすくなる。

 ソフトバンクは、5Gパケ止まりを改善するため、「5Gエリアの端の通信品質にこだわって最適化している」(関和氏)という。具体的には、どうしても速度が遅くなってしまう端末から基地局の上り通信について、「5Gエリアの端ではLTEに優先して接続するような制御を進めている」(同氏)。上り通信は速度低下の影響を受けやすく、パケ止まりにつながりやすいからだ。

 このような取り組みの結果、ソフトバンクのグループ会社であるAgoopが調べた携帯大手3社の5G速度比較では、ソフトバンクが他社と比べて、特に5G上り通信速度が改善しているという調査結果を示した。

 とはいえ根本的に5Gパケ止まり問題を解消するには、いち早く5Gエリアを全国津々浦々まで広げるしかない。ソフトバンクは5Gエリアの拡大を急ピッチで進めていることも明らかにした。同年9月13日時点で同社の5Gエリアは、5G基地局が1万4000局超に、人口カバー率に換算すると59%超に達したという。同年10月末には、5Gの人口カバー率80%、基地局数2万局を達成するという見通しも示した。

 ソフトバンクは既存周波数帯の5G転用や、KDDIと5G設備共用を進める合弁会社「5G Japan」も活用しながら、5G展開を加速している。関和氏によると「5G Japanによる(5G展開の)貢献度は、これからさらに加速する」という。

4.「6G」の要求条件は6つ、5Gと比べて何がスゴイのか(9.14 日経XTECH)
 NTTドコモでは、6Gで実現を目指すべき要求条件として6つの項目を挙げている。これらには5Gの性能をさらに高めた要求条件に加え、5Gにはない新領域への挑戦が含まれている。おのおのについて想定されるユースケースを交えつつ解説しよう。

超高速・大容量通信:100Gbps以上を狙う
 通信速度の高速化および通信システムの大容量化は、移動通信システム全世代にわたる普遍的な要求条件である。6Gでは、100Gビット/秒を超える通信速度および100倍以上の超大容量化の実現を目指す。

 通信速度が人間の脳の情報処理速度のレベルに近づくことで、単なる映像伝送(視覚・聴覚)だけではなく、現実の五感の情報伝送、さらには雰囲気や安心感などの感覚も含めた「多感通信」の実現も考えられる。

 このような従来にはない通信サービスを利用するには、今のスマートフォンを超えるユーザーインターフェースが必要になる。例えば、3Dホログラムの再生を実現するデバイスや、メガネ型端末のようなウエアラブル端末の進化が期待される。

 さらにこのような多感通信サービスは、超大容量通信によって複数のユーザー間でリアルタイムに共有できる。そのためサイバー空間上での協調作業など、新たなシンクロ型アプリケーションの実現も期待される。

 また、「サイバー・フィジカル融合」などの実現には、実世界の様々な情報をネットワーク上の「頭脳」であるクラウドやAIへリアルタイムに伝送する必要があるため、上りリンクにおける大幅な高速・大容量化が重要になる。サイバー・フィジカル融合とは、実際の物理空間内にある人やモノなどの要素を情報化し、予測や物理空間へのフィードバックなどに役立てるという考え方。すでに「デジタルツイン」などで産業分野に応用されている。

超カバレッジ拡張:サービスエリアを極限まで拡大
 現在では、通信は電気や水と同様にライフラインとなっている。今後、その重要度はますます高まるだろう。このため6Gではあらゆる場所で移動通信サービスを受けられるように、サービスエリアを極限まで拡大することを目指す。

 陸上の面積カバー率は100%を目標とする。さらに現在の移動通信システムがカバーしていない空・海・宇宙などを含むあらゆる場所へのカバレッジ拡張も狙う。

 これによって、さらなる人やモノの活動環境の拡大と、それによる新規産業の創出が期待できる。例えば、ドローン宅配や、農業・林業・水産業といった第1次産業における無人化や高度化が有望である。将来的には空飛ぶクルマや宇宙旅行、海中旅行など、2030年代の未来的ユースケースへの応用も期待できる。

5.KDDIとスペースXが宇宙通信で提携、au基地局のバックホールに(9.13 日経XTECH)
KDDIは2021年9月13日、起業家のElon Musk(イーロン・マスク)氏が進める米Space X(スペースX)の衛星ブロードバンド事業「Starlink(スターリンク)」と業務提携すると発表した。まずはスターリンクの持つ100Mビット/秒クラスの高速通信を生かし、山間部や島しょ地域(離島)などのau基地局のバックホール回線として活用する。将来的にはIoTや法人用途への回線提供も検討する。地上からではカバーしにくい地域を、宇宙から一気にカバーしようという取り組みはソフトバンクや楽天グループ、NTTグループも進めている。4社それぞれの提携先やアプローチが見えてきた。

 「実は私は(衛星電話サービスの)イリジウムの立ち上げメンバーの一人だった。2年ほど前にスペースXとの電話会議でお話をもらい、このようなプロジェクトには、ぜひ参画したいと返事をした」。KDDI社長の橋誠氏は、今回のスペースXとの提携の経緯について、このように打ち明けた。

 スペースXのスターリンクは、参入が相次ぐ高度160k?2000kmの低軌道(Low Earth Orbit:LEO)を周回する人工衛星を使った通信サービスにおいて、世界の先頭を走る存在だ。

 スターリンクは、地表からの高度560kmの周回軌道上に最終的に約1万2000基の人工衛星を打ち上げ、世界全体をカバーする通信網をつくる計画だ。「衛星コンステレーション」と呼ぶ人工衛星を互いに連携させる方式を活用する。既に約1500基の人工衛星を打ち上げ済みであり、21年2月からはベータ試験サービスを開始。現時点で約10万人が利用しているという。

 スターリンクは、低軌道衛星を使うことで、高度3万6000kmの静止軌道(Geostationary Orbit:GEO)人工衛星の通信サービスと比較し、遅延を抑えられ高速通信が可能になる点が特徴だ。スターリンクの通信速度は100Mビット/秒クラスといわれている。スターリンクは、スマートフォンのような一般的な端末ではなく、専用の送受信機を利用する。

 KDDIはスペースXとの提携で、まずは2022年をめどに、山間部や島しょ地域約1200カ所の基地局バックホール回線としてスターリンクを採用する計画だ。「山間部や島しょ地域の基地局のバックホール回線は、コストの問題から太い回線を用意できなかった。スターリンクの高速回線を使うことで、日本中どこでも高速通信を届けられる環境にしたい」と橋氏は続ける。

 人工衛星を使った通信サービスに必要な地上局(ゲートウエイ局)の準備についても、KDDIがスペースXに協力する。「KDDIは長く衛星通信に携わっており知見がある」(橋氏)。総務省から受けた実験試験局免許を活用し、既にKDDI山口衛星通信所にスターリンクの地上局を構築。両社で技術検証を進めるという。

 スターリンクは、一般消費者向け衛星ブロードバンドサービスも提供する計画。橋氏は「スターリンクはIoTや法人向けにも大きく活用できるコンセプトだ。あくまでサービス主体はスペースXになるが、日本市場についてはKDDIがよく分かっているので、両社で話を進めながら市場を広げていきたい」とした。

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