週間情報通信ニュースインデックスno.1248 2020/10/31


1.iPhone 12でKDDIとアップルが密な連携、5Gで変わる事業者とメーカーの関係(10.30 日経XTECH)
KDDIは2020年10月16日に発表会を実施し、米Apple(アップル)の「iPhone 12」シリーズ販売に向けていくつかの施策を打ち出した。中でもiPhone 12とネットワークを密に連携した機能を強くアピール。こうした取り組みは、端末とネットワーク、サービスとの関係に大きな影響を与えることになるかもしれない。

 アップルは日本時間の2020年10月23日に、新しいiPhone「iPhone 12」シリーズのうち2機種を発売した。iPhone 12シリーズはラインアップが4機種に増え、全機種が5G(第5世代移動通信システム)対応になるなど大幅にリニューアルされたことで話題となっており、例年以上に注目を浴びているようだ。

 iPhone 12シリーズのうち先行販売される「iPhone 12」「iPhone 12 Pro」は、国内ではApple Storeなどの他、例年通りNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯大手3社からも販売される。その1社であるKDDIは2020年10月16日に発表会を実施、auブランドで販売を開始したiPhone 12シリーズの販売拡大に向け、いくつかの施策を発表した。

 携帯電話事業者が新iPhoneの発表に合わせて料金関連の新たな施策を打ち出すことは珍しくない。だが高橋氏がより強いこだわりを持って打ち出したのが、iPhone 12シリーズとネットワークを活用した新たな施策である。

 その1つは、iPhone 12シリーズの特徴の1つでもある「スマートデータモード」への対応だ。これはユーザーの利用状況に応じて、5Gのエリア内でも4Gのネットワークを使うなど、ネットワークを適宜切り替えることで高速通信と省電力を両立する機能である。

 高橋氏によると、スマートデータモードはアップルと携帯電話事業者が密に連携し、ネットワークを調整することで実現できる機能とのこと。それゆえ世界でもこの機能に対応している携帯電話事業者は十数社に限られ、国内ではKDDIをはじめiPhone 12シリーズを販売する携帯大手3社のみ。楽天モバイルは対応しないことになる。

 またKDDIはもう1つ、iPhone 12シリーズとネットワークを連携させた機能として「au 5Gエクスペリエンス」を挙げている。こちらはスマートデータモードによって、iPhone側が「このユーザーは使い放題のプランを契約しているか」を判別できる仕組みを生かした機能。「データMAX 5G」などの使い放題プラン利用者が5Gエリアで通信している場合、対応するコンテンツの画質や音質を自動的にアップするというものだ。

 対応するサービスはアップルの「Apple Music」「FaceTime HD」の他、「TELASA」「SPORTS BULL」「smash.」など、KDDIが関連するサービスも順次対応していくとのこと。この機能は使い放題プランを提供している携帯電話事業者しか活用できず、国内でiPhone 12シリーズと使い放題プランを正式に提供しているのはKDDIだけであることから、高橋氏はこの機能が現状、国内ではKDDIでしか実現できないものだとしている。

 このアップルの動きからは、スマートフォンメーカーが携帯電話事業者と密に連携し、新しい機能やサービスを作り出そうとしている様子がうかがえる。メーカー側としては、従来より高度な機能が利用できる5Gのネットワークを有効活用し、他のメーカーより優位に立ちたい狙いがある。一方、携帯電話事業者にとっても、人気メーカーとの連携でライバルの事業者との差異化につなげられるメリットがあるだろう。

2.SaaSの利用を可視化するCASB、ゼロトラスト「仲介人」の役割とは(10.30 日経XTECH)
SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)利用状況を可視化する「クラウド・アクセス・セキュリティー・ブローカー(CASB)」を取り上げる。可視化を通してユーザーにSaaSの適切な利用を促すと共に、マルウエアなどの脅威からデータを守る。

 CASBは大きく分けて4種類の機能を備える。第1はSaaSの利用状況の可視化だ。CASBはSaaSと連携し、サービスへのログイン状況やデータのアップロード/ダウンロードなどの情報を取得する。例えばユーザーがBoxやGoogle ドライブ、Dropbox等のクラウドストレージに保存する機密情報を社外へ共有しようとした際には、それを検知してユーザーやシステム管理者にアラートを出す。

 第2はデータセキュリティー(情報漏洩防止)だ。企業が定めたルールに基づき、クラウド上で機密性の高いデータが扱われていないか確認する。機密情報が検出された場合は暗号化やアクセスのブロックを行う。例えば「クラウド上にはクレジットカード情報をアップロードしない」といったルールに基づき、違反があれば該当するデータへのアクセスをブロックする。

 第3はコンプライアンスだ。利用するSaaSの認証機能やデータ保護基準などが、国や業界の規制や企業のコンプライアンスに違反していないか確認する。公共機関の監査に必要な証跡の取得やリポートの作成にも対応する。

 第4は脅威からの防御だ。SaaS上のマルウエアを検知し、隔離等の措置を行う。加えてセキュリティー基準が低く、情報漏洩のリスクが高いSaaSなどへのアクセスをブロックする。

 CASBは「クラウド・アクセス・セキュリティー・ブローカー」との名称から分かるように、ブローカー(=プロキシー)として機能して、SaaSへ向かう通信を全てキャプチャーして検査するものとして登場した。ブローカーとは仲介人という意味だ。現在はブローカーは使わずに、SaaSとはAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由で連携する方式も多いものの、CASBとの名称が使われている。

 ブローカー型の代表的な製品であるNetskopeでは、業務用デバイスにエージェントをインストールすることで「シャドーIT」であっても利用状況を可視化できる。シャドーITとは、企業の管理下にないITサービスやデバイスを社員が許可なく利用することを指す。一方で管理下にあるITサービスを利用する場合は「サンクションIT」と呼ばれる。社用デバイスから、SaaSをプライベートアカウントで利用することもシャドーITにあたる。ブローカー型は通信の途上でパケットを分析して、プライベートアカウントでのSaaSの利用を可視化する。

3.モヤモヤするiPhoneのAI性能、謎が明らかになる日も近い?(10.30 日経XTECH)
米Apple(アップル)が毎年秋にiPhoneやiPadの新製品を発表する度に、筆者はモヤモヤとした感情を抱いてしまう。何に対してか。アップル製プロセッサーが備えるディープラーニング(深層学習)専用演算ユニット「Neural Engine」の性能についてである。

 アップルが初めてNeural Engineを搭載したのは2017年11月に発売したiPhone Xシリーズのプロセッサー「A11 Bionic」で、コア数は2個で1秒間に最大6000億回の演算処理ができた。その後Neural Engineは、2018年9月に発売したiPhone XSシリーズの「A12 Bionic」で8コア、演算回数は最大5兆回/秒となり、今回、2020年10月に発売されたiPhone 12シリーズの「A14 Bionic」で16コア、演算回数は最大11兆回/秒になった。

 Neural Engineの性能は、登場して3年で18倍以上も向上したことになる。アップルが新製品発表会でNeural Engineの性能をアピールするのも当然のことだろう。それに対して筆者がモヤモヤとした感情を抱いてしまうのは、その性能が「どれぐらいすごいのか」がピンと来ないためである。

 そもそもNeural Engineは何に使われているのだろうか。例えばアップルが2019年9月に発売したiPhone 11シリーズ以降のカメラ機能には、複数枚の画像を合成して高精細でノイズの少ない画像を生み出す「Deep Fusion」が搭載されていて、これにはNeural Engineが使われているのだという。

 ところが同じようにNeural Engineを備えているiPhone XやiPhone XSでは、Deep Fusionが利用できない。iPhone 11が搭載する「A13 Bionic」は、iPhone XSのA12 Bionicと比べてNeural Engineの性能が20%向上したとするが、iPhone XやiPhone XSでDeep Fusionが利用できないのは、Neural Engineの性能が足りないからなのだろうか。

 アップルが2020年9月から配布を始めたiOS 14では、翻訳機能や音声入力機能がデバイス(ローカル)で動作するようになったが、これにもNeural Engineが使われているのだという。ただしこれらの機能が使えるのはiPhone XS/XR以降のモデルである。iPhone XはNeural Engineを搭載するが、対応していない。やはりNeural Engineの性能が足りないのだろうか。

 筆者がモヤモヤしているのは、Neural Engineに期待してiPhone Xを購入したのにその恩恵を感じていないから、だけではない(残念ではある)。Neural Engineの性能がどれぐらいあれば、どういったことが可能になるのか。それが明らかでないからモヤモヤしているのだ。

 これはアップルだけの問題ではない。ディープラーニング専用演算ユニットは、米Qualcomm(クアルコム)や韓国サムスン電子などもNPU(Neural Processing Unit)などと呼んで力を入れている。例えばクアルコムの「Snapdragon 865」のNPUは、15兆回/秒の演算が可能だという。しかし演算回数ではないユーザーにとって分かりやすいAI性能は、これまでよく分からないのが実情だった。

 そうした状況が現在、少しずつ改善されようとしている。機械学習ベンチマークの「MLPerf」が、スマートフォンにも対応したからだ。

 MLPerfは米Google(グーグル)や中国百度(バイドゥ)、米ハーバード大学、米スタンフォード大学、米カリフォルニア大学バークレー校の呼びかけで2018年に設けられたMLPerfコンソーシアムが策定する機械学習のベンチマークだ。機械学習の性能を訓練(トレーニング)と推論に分けてそれぞれ計測できるよう複数のタスクが用意されている。そして推論に関する最新結果が、2020年10月21日(米国時間)に公開された。

 公開されたのは最新の「MLPerf Inference v0.7」によるベンチマーク結果だ。画像分類や物体検出、自然言語処理、医療画像認識、音声認識、レコメンデーションなどのタスクでの性能を競う。サーバー用のチップを使った推論性能を競うデータセンター部門のほか、エッジ部門、携帯電話部門、ノートパソコン部門がある。

 携帯電話部門の場合は、機械学習モデルに「MobileNetEdge」を使った画像分類とモデルに「SSD - MobileNetv2」を使う物体検出、モデルに「Deeplabv3+ - MobileNetv2」を使う画像セグメンテーション、そしてモデルに「MobileBERT」を使う自然言語処理という4種類のベンチマークを実行する。そして今回は、クアルコムが「Snapdragon 865+」、サムスン電子が「Samsung Exynos 990」、台湾MediaTek(メディアテック)が「Dimensity 820」のベンチマーク結果をそれぞれ公開している。

 ベンチマーク結果は、各タスクの処理を1秒当たりに何回実行できたかで示されている。最近話題の自然言語処理モデル「BERT」のスマートフォン版であるMobileBERTでは、サムスン電子が最も優れた結果を残して、クアルコムとメディアテックがそれに続いた。その一方で物体検出や画像セグメンテーションのタスクではメディアテックやクアルコムの結果が良くて、サムスン電子はそれを追っていた。各社のディープラーニング専用演算ユニットには、得手不得手があるようだった。



4.ロボットが商品陳列棚まで先導、カインズが「デジタル店舗」オープン(10.29 日経XTECH)
ホームセンター大手のカインズは2020年11月3日に、デジタル技術を駆使した新店舗を埼玉県朝霞市に開く。ロボットが客を商品の陳列棚まで案内するほか、客はデジタルサイネージ上で陳列場所までのルートを検索できる。広い店内でも客が迷わないように工夫を凝らし、利便性向上を狙う。

 埼玉県朝霞市の商業施設「くみまちモールあさか」に開く新店「カインズ朝霞店」に、様々なデジタル技術を投入した。ロボットによる売り場案内では、ロボットが搭載するタッチパネルで探したい商品を選ぶと、その商品がある陳列棚の前やその近くの通路前までロボットが先導して案内する。また、店内のデジタルサイネージで商品を検索すると、売り場までの経路をマップで表示する。

 その他、園芸の専門家にリモートで相談できるサービスや、Webサイトからドッグランを予約できるサービスなども新たに始める。カインズは「当社が持つデジタル技術をフル活用した初めての店舗で、今後も様々な施策を実施する計画だ」(広報)と意気込む。

5.プライベート5Gは企業と産業をどう変える? クアルコム解説(10.27 日経XTECH)
米Qualcomm(クアルコム)は2020年10月20日、5Gプライベートネットワークが企業と産業に与える影響について解説した(Qualcommのブログ)。以下はその要約となる。

 3GPPによる5G NRの最初の標準化仕様であるリリース15では、スマートフォンや固定無線、PCなどのアプリケーションに向け、eMBB(enhanced mobile broadband、高速大容量通信)に焦点を絞ったことで、その商用化が急速に進んだ。リリース16では、NPN(5G non-public networks、5G非公共ネットワーク)のサポートが追加され、外部からアクセス不可能なプライベートネットワークとして利用できるようになる。5Gプライベートネットワークは公共のネットワークから物理的、仮想的に切り離され、外部とは異なるハードウエアや仮想マシン、ネットワークスライスが使える環境となる。

 プライベートネットワークは、特定のカバレッジエリアやネットワーク容量、用途に合わせたモビリティーを実現できるように設計、最適化することができる。公共のネットワークからのアクセスを許さないことで、信頼性も高めることができる。また、ユーザー数や通信状況の予期せぬ変更も起こらないことで、リソースの状態がより予測可能になり、活用しやすくなる。

 5Gプライベートネットワークは、様々な企業、産業のニーズに合わせて設計、最適化できる。超低遅延通信や5G無線ネットワークを使ったLAN(local area network)サービス、データパケット送受信時の高い時間確定性の保証など、様々な要素に重点を置いた設計が可能となる。

 3GPPのリリース16では、5G NRのすべての機能が5Gプライベートネットワークとして利用できる。これにより、プライベートネットワークでも、既に公共ネットワークで実績のあるネットワークインフラ機器、ソフトウエア機能や端末の利用が可能となり、プライベートネットワーク立ち上げまでの時間を大幅に節約できる。

 5Gプライベートネットワークは、パブリックネットワークと統合する形にも、独立するようにも設計できる。どちらのアーキテクチャーも、オプションでパブリックネットワークサービスに拡張できるため、プライベートネットワーク用端末がプライベートネットワーク外に出た際に、パブリックネットワークでも使用することができる。

 統合型のプライベートネットワークでは、サービス加入と制御信号処理はパブリックネットワークが管理する。どちらのアーキテクチャーでも、ユーザーデータ信号処理はプライベートネットワークで行い、データ発信側と終端側5G端末のオンプレミスでのエッジコンピューティングを低遅延で行うことができる。これにより、応答性に優れ、連携時の束縛が少なく、プライベートエッジでの高度な画像処理が可能な低消費電力の拡張現実(XR)、即時性の高いクラウドアプリケーションやクラウドストレージなど、企業の生産性を強化する新たな機会創出が見込める。

 プライベートネットワークのエッジコンピューティングリソースやネットワークインフラ、端末は、データセキュリティーが確保されたプライベートネットワーク内で物理的に保護できる。プライベートネットワークは、他のアクセスを排除し、データのプライバシーやセキュリティーを保護できる、高い価値を持つネットワークだと言える。

 インタストリー4.0による未来の工場は、5Gによる大きな付加価値を持つものとなる。高速移動する巨大な金属障害物など、課題の多い無線環境でもサービス品質を提供するため、5Gには、3つの要素が用意されている。eMBBとIoT機器の大量接続、eURLLC(enhanced ultra-reliable low latency communications、超高信頼低遅延通信)だ。100ミリ秒から1ミリ秒の低遅延、99.9%から99.9999%、つまりパケットロス100万分の1の信頼性、数kビット/秒から数Gビット/秒の高速性。リリース16で標準化された5Gプライベートネットワークは、そのコネクティビティーと柔軟性、効率性でこうした需要に対応し、生産性向上に貢献する。

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