週間情報通信ニュースインデックスno.1242 2020/9/19


1.「規制改革とデジタル化は表裏一体」、平井大臣と河野大臣が連携強化へ(9.18 日経XTECH)
平井卓也デジタル改革相と河野太郎行政改革・規制改革相は大臣就任翌日の2020年9月17日に開いたそれぞれの記者会見で、デジタル庁の設置と行政改革で連携を強めていく考えを明らかにした。「規制改革とデジタル化の推進は表裏一体の部分がある」(河野大臣)という認識からで、両大臣は連携を深めるため「週1回のペースで会合を持つ」(平井大臣)という。

 平井大臣は、2021年1月をメドに召集される次期通常国会にデジタル庁の根拠となる設置法案を提出すると説明。設置の時期については「政府が2022年4月の発足を目指している」との一部報道があったが、平井大臣は「それより速いペースでやらないと(菅)総理の期待に応えられない状況だ」と述べた。法案成立を前提に、早ければ2021年中の設置を目指していると見られる。

 デジタル庁の権限や業務範囲などは明言を避けたが、デジタル分野に詳しい民間人を多く登用することで、「他の省庁とは一線を画する」とした。検討を早めるため2020年9月19日からの4連休で関係者を集めた合宿を開き、担当する業務範囲や権限、目指す政策などについて議論を深めるという。

 河野大臣は「デジタルで何ができるのかというより、むしろデジタルでできないものは何なのかという時代になってきている」という時代認識を示した。自身が1980年代、富士ゼロックスに勤務していたときにサテライトオフィスの実証実験の担当者をしていた経験を振り返り、「あの当時ですらかなりの業務がデジタルでできた。今では何でもデジタル化できるという前提で、それを実現するために必要な規制改革をやらなければいけないと思っている」と意気込みを述べた。

2.菅新総理の携帯料金引き下げへの執念、消費者の真のニーズを見誤ってないか(9.18 日経XTECH)
020年9月16日、前官房長官で自民党新総裁の菅義偉氏が内閣総理大臣に選出された。菅氏が力を入れている取り組みの1つに携帯電話の料金引き下げが挙げられる。菅氏が総理大臣に就任したことで行政から携帯大手3社に対する値下げ圧力は一層強くなるとみられる。だが、これまでの行政の取り組みを振り返ると、そうした取り組みが真に消費者のニーズに応えているとは言い難いと思える。

 菅氏の姿勢が明確に表れたのは、2018年に「携帯電話料金は4割程度引き下げられる余地がある」と発言したこと。これを受ける形で総務省は2018年より有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」を立ち上げた。そこでの議論が2019年10月の電気通信事業法改正に反映された結果、従来の業界の商習慣を大きく覆す規制が次々実施されることとなったのである。

 具体的には、通信契約にひも付く形での端末代値引きを禁止し、通信料金と端末代を明確に分離した「分離プラン」の導入を義務化した。通信契約に基づかない値引きも2万円までに規制。さらに、長期契約を結ぶ代わりに通信料金を引き下げる、いわゆる「2年縛り」の違約金上限を従来の10分の1の水準にまで引き下げるなど、大ナタというべき規制が実施されたのである。

 改めてなぜこのような規制が導入されたのかといえば、毎月の通信料金を原資としてスマートフォンの大幅値引きをすることで顧客を獲得し、2年縛りによって長期契約を結ばせることという従来の商習慣が、通信料金の高止まりを招く要因とされたためだ。端末の大幅値引きを規制することで通信料金の値引き競争を引き起こし、長期契約による縛りを減らすことで消費者がより安価なサービスへと移りやすくすることで、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社の寡占状態に終止符を打ちたいというのが法改正の狙いだったわけだ。

 先の議論の中では有識者からも疑問の声が上がるほど、根拠に乏しい内容を総務省が強引に押し通す姿勢を見せたこともあった。政権幹部である菅氏の強い姿勢と後押しが、法改正のプロセスに大きく影響していたと感じさせた。

 法改正から間もなく1年が経過しようとしている中、携帯電話事業者が料金を大幅に引き下げて競争が加速したのかというと、実態は全く逆である。携帯大手3社の決算を見ると法改正後は解約率が一層低下し、番号ポータビリティによるユーザーの移動も減少するなど、むしろ競争は停滞しており3社の寡占はより強固になったとさえ感じる。

 競争が停滞した理由は、1つはスマートフォンの値引き規制である。従来消費者の大きな乗り換え動機となっていたスマートフォンの大幅値引きができなくなったことで、2年縛りの制約が実質的になくなったにもかかわらずユーザーが動かなくなってしまったのだ。

 さらに一連の端末値引き規制によって、ハイエンドモデルが主体となる5G(第5世代移動通信システム)対応スマートフォンの値引きも規制されることとなった。その結果、携帯3社が5Gの商用サービスを始めた今は5G対応スマートフォンを普及させるべき時期であるにもかかわらず、端末販売は伸び悩んでいる。危機感を募らせる声も出てきているほどで、日本が5Gにおける国際競争力を高める上で大きなマイナス要素にもなっている。

 そしてもう1つの理由は、新規参入の楽天モバイルの事業が順調に立ち上がっていないことだろう。行政側の動向を見ると、楽天モバイルの参入で価格破壊を起こし、消費者がそちらに多数流れることで価格競争が進むと期待していた向きが強かった。

 だが楽天モバイルはインフラ整備の遅れによって本格サービス開始が2019年10月から2020年4月にずれ込み、その後も「Rakuten Mini」の対応周波数を無断で変えてしまうなど多くのトラブルを発生させ総務省からも指導を受けており、現在も安定したサービス提供ができていない状況にある。短期的に既存の大手3社の対抗勢力となるのは難しいというのが正直なところだ。

 一方で楽天モバイルの本格参入によって、KDDI傘下であるUQコミュニケーションズの「UQ mobile」や、ソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドが対抗プランを打ち出すなど、低価格の通信サービスを提供するサブブランドなどでは競争が加速傾向にある。その結果、サブブランドのサービスを利用すれば月額3000円前後で10GBのデータ通信が使えるなど、かなりお得にスマートフォンが利用できる状況にあるのも事実だ。

 しかもサブブランドは有名芸能人を起用したテレビCMを展開しており知名度も上がっている。にもかかわらず、より高額な携帯3社のメインブランドのほうが多くの顧客を抱えたままなのが現状だ。その理由を考えると消費者の本音とともに、現在の行政の取り組みにずれがあることが見えてくる。

 それを示しているのが、総務省が現在実施している有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」の第7回会合で、ICT総研の代表取締役である齊藤和氏が提示した「スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査」である。この調査では日本の料金は欧州より高いが米国や韓国よりは低く中位レベルである一方、4Gの接続率や通信速度はトップクラスであり、Webアンケートでも料金よりもサービスエリアや通信速度の満足度が高い結果が出たという。

 総務省が実施した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」では日本の携帯電話料金が世界的に高い水準にあるとし、菅氏が継続して料金引き下げを訴える根拠もその調査にあるとみられている。だがICT総研の調査からは高いネットワーク品質に対してユーザー満足度が高く、それを考慮すれば必ずしも日本の携帯電話料金が高いとは言えない様子も見えてくる。

 つまり消費者は、世界的に見て高水準にあるネットワーク品質を中心に、サービス面で高い満足度を得ているからこそ、料金が高くても携帯大手のメインブランドから乗り換えようとしないという分析が成り立つ。これまでの歴史を振り返っても、かつてPHSが「つながらない」という負のイメージが定着して競争力を失ったように、安くてもサービスの質が落ちることを消費者が求めていないのではないだろうか。

 通信料金は携帯電話事業者の収入の柱であり、菅氏がかつて要求したように携帯大手のメインブランドの通信料金を4割引き下げてしまえば、携帯各社がコスト削減のためサービスの質を落とす選択をする可能性が高まるだろう。その結果として消費者が最も重視しているサービスの質が落ちるようなことがあれば、かえって不満を高める結果となりかねない。

 既にMVNOやサブブランドといった低価格の選択肢が多数存在するにもかかわらず、今もなお業界全体で料金引き下げにこだわる理由がどこにあるのか。行政は、品質より料金を求めるはずのユーザーが高いサービスを契約したままであるというミスマッチについて、もっと真剣に考えるべきではないかと筆者は考える。

3.千葉・印西で巨大データセンターの建設ラッシュ、クラウド大手をひき付ける秘密(9.17 日経XTECH)
ベッドタウンとして人気を集めている千葉県印西市は、IT業界では大規模なデータンセンター(DC)が集う「DC銀座」として知られている。さらに現在、海外の大手クラウド事業者の需要を見越した「ハイパースケール」向けのDCが続々と新設されている。あまりの需要の多さに、電力会社も電力供給の増強へと動き出した。

 千葉ニュータウンを擁する印西市は、自然豊かな環境が残っていることやショッピングセンターなど大型商業施設があることなどを理由に、住みよい街のランキングで上位に名を連ねることも多い。

 しかしIT業界では、ベッドタウンとは別の顔を持つことで知られている。大規模なデータセンター(DC)が集積する「DC銀座」だ。米Amazon Web Services(AWS)などのDCがある場所として「INZAI」の地名は世界に知れ渡っている。

 しかも最近は、北総鉄道・京成電鉄の千葉ニュータウン中央駅の周辺で、海外の大手クラウド事業者の需要を見込んだ「ハイパースケール」と呼ばれる大規模な郊外型DCの建設が相次いでいる。

 現在、印西でのDC新設を明らかにしているのは、英Colt Group(コルトグループ)のColtテクノロジーサービス、米Digital Realty Trust(デジタル・リアルティ・トラスト)と三菱商事の合弁会社であるMCデジタル・リアルティ、米Google(グーグル)などである。また建設現場の状況から三井不動産と米Equinix(エクイニクス)がDCを新設中であることが分かった。まだ公表はしていないものの、印西への進出が噂されるDC事業者も存在する。

4.主役不在のアップル新製品発表会、透けて見えるデバイス戦略の変化(9.17 日経XTECH)
米Apple(アップル)は米国時間2020年9月15日に新製品発表会を実施した。発売が遅れるとされているiPhoneの新機種が登場せず「主役不在」の発表会となった。新たに発表されたApple WatchとiPadの新機種、そしてサービスからはアップルのビジネスの変化を明確に見て取ることができる。

 新型コロナウイルスの影響により、2020年のiPhone新機種の発表は数週間遅れると公表していたアップル。米国時間の2020年9月15日と、ほぼ例年通りのタイミングで新製品発表会をオンラインで実施したことから、新iPhoneの発表も期待する向きも少なからずあった。

 だが発表会の冒頭、CEOのティム・クック氏は「2つの製品を取り上げます。それはApple WatchとiPadです」と明確に宣言。新iPhoneの「チラ見せ」もなく、SNSでは落胆の声を上げる人も多かったようだ。やむを得ない事情があるとはいえ、主役不在の印象が否めないというのが正直な感想でもある。

 とはいえ今回の発表内容からは、アップルのビジネスの方向性に明確な変化が出てきたことを見て取ることができる。そのことを示しているのが低価格なデバイスのラインアップ充実であり、中でも象徴的な存在といえるのがApple Watchである。

 今回アップルは、従来のApple Watchの正統な後継モデル「Apple Watch Series 6」だけでなく、新たに低価格版の「Apple Watch SE」を用意。価格も2万9800円(税別)からと、4万2800円(税別)からのApple Watch Series 6より安価に設定され、購入しやすさを重視したモデルとなっている。

 もちろん、Apple Watch SEは低価格化のため、Apple Watch Series 6に追加された血中酸素濃度の測定機能などは用意されておらず、ボディ素材を選ぶこともできない。だが性能面では前モデルとなる「Apple Watch Series 5」にかなり近く、コストパフォーマンスが高いApple Watchとなったことは確かだ。

 iPadの新機種に関しても、低価格モデルの強化が進められていることが分かる。今回発表されたのは第8世代の「iPad」と第4世代の「iPad Air」であり、いずれも「iPad Pro」より下のクラスのラインアップを入れ替えているからだ。

 このうち最も低価格なのは第8世代iPadで、プロセッサーに「A12 Bionic」を採用するなど性能を強化しながらも約3万4800円(税別)からと購入しやすい価格設定となっている。ただこちらは従来のiPadからコンセプトは大きく変わっておらず、正統進化というべき内容にとどまっている。

 大きく変わったのはiPad Airのほうだ。分かりやすくいえばiPad AirがiPad Pro化したのだ。実際第4世代のiPad Airは11インチのiPad Proとほぼ同じデザインを採用しており、ディスプレーサイズは10.9インチと0.1インチ小さく、厚さも0.2mm厚いが外観はほぼ同じだ。

 今回発表した新デバイスに加え、2020年4月に低価格を重視した第2世代の「iPhone SE」を投入していることを考えると、ここ最近アップルが、価格重視でコストパフォーマンスの高いラインアップにかなり力を注いでいることが分かる。

 過去を振り返ると、市場で廉価版のイメージが付いてしまった「iPhone 5c」「iPhone XR」などに関して、アップルは品質の高さをアピールしてそのイメージを払しょくすることに力を注ぐなど、低価格での販売に決して前向きではなかった。その同社が一転して価格重視のデバイスに力を入れるようになったのはなぜか。

 その理由はサービスにあるといえよう。アップルはここ最近、iPhoneを中心にハードウエアの販売が伸び悩んでいる一方、「Apple Music」「Apple TV+」などのコンテンツやサービスが業績の新たなけん引役となるまでに成長している。サービス事業の下支えがあるからこそデバイスの低価格化を進められたわけで、さらにサービス事業を伸ばすためにはより多くの人にアップル製品を利用してもらう必要があると判断し、低価格のラインアップの拡大を推し進めているのではないだろうか。

 もちろん今後もアップルらしい高付加価値のデバイスは継続して投入されるだろうが、今回の発表を含めた最近の同社の動きからは、サービス事業の拡大でデバイス事業に変化が出ている様子が明確に表れていると感じる。それだけに今後発表されるであろう新iPhoneも、従来通りの高額モデルだけでなく、比較的購入しやすい安価なモデルの登場が期待される。

5.5Gロボットオーケストラが中国国際博覧会に登場、ZTEがMECを駆使(9.15 日経XTECH)
中国ZTEは2020年9月8日、2020中国国際サービス貿易博覧会(China International Fair for Trade in Services、CIFTIS)にて、5GとAIを使った大量ロボット制御デモを披露した(ZTEのニュースリリース)。5GとAI、MEC(Mobile Edge Computing)技術を駆使して、オーケストラに見立てた大量のロボットを自由に操れるものだった。

 今回のデモでは、後方にLEDスクリーンを置き、その前にAI識別機能を搭載した5Gロボットオーケストラを扇形に並べて配置している。指揮者がこれらのロボットの前に立つと、ロボットは、AIを統合した産業向け低遅延5G通信を使って、自動的に指揮者の動きを認識し、その意図を理解して演奏を行う。今回の5Gロボットオーケストラは、このAI認識システムと、MECのエッジクラウドサーバーにある音楽再生システムを使って実現されている。

 今回のデモに向けては、5G高速バックホールネットワークサービスも使われている。指揮者の動きは高解像度カメラで録画され、MECエッジクラウドサーバーに5G高速ネットワークを介して送信される。このMECエッジクラウドサーバーで高速コンピューティングとソフトウエア処理を行い、AIシステムに情報提供することで、音声と動画の同時処理を実現している。

 ZTEでは、今後もこのような5GとAI、MECを使ったアプリケーション実現に向けて、製造業やエネルギー、輸送や教育などの分野で活動を進めていくとしている。

 スウェーデンEricssonも2020年9月8日、中国瀋陽の地下鉄で提供中の、同社の5G屋内向けスモールセル「Ericsson Radio Dot System」を使った中国China Mobile(中国移動)ユーザー向け5Gサービスを紹介している。

 中国北東部にある瀋陽では、毎日90万超の乗客が地下鉄を利用する。今回の地下鉄9号線への5Gサービス開始により、増え続ける顧客の通信データ量に対する需要に十分対応できるようになるとしている。

 地下鉄9号線に設置されたEricssonの5G Radio Dot Systemは、複数の周波数帯に対応し、1Gビット/秒の安定した下りリンク速度を提供する。最大伝送レートは1.4Gビット/秒。1Gバイトの高解像度動画を10秒以内にダウンロード可能な通信を提供する。

 小型で設置が簡単な5G Radio Dot Systemは、既に地下鉄9号線の22駅に500基以上が設置されている。設置に当たっては予定の日程を20日から40日前倒しで完了できたという。

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