週間情報通信ニュースインデックスno.1238 2020/8/22


1.プライベートクラウドで呼制御サーバーを利用、シスコが電話関連サービスを国内で開始(8.21 日経XTECH)
 米シスコシステムズ日本法人は2020年8月21日、新しい社内電話向けクラウドサービスを日本国内で始めると発表した。具体的には音声通話やビデオ通話、メッセージングなどの統合コミュニケーション機能を提供する呼制御サーバー製品をクラウドで提供するサービス「Cisco UCM Cloud」の提供を始める。

 同社はこれまで呼制御サーバー製品「Cisco Unified Communications Manager(CUCM)」を提供してきた。「Cisco UCM Cloud」はこのCUCMをシスコのデータセンターに設けた顧客企業専用のプライベートクラウド環境で運用するサービスだ。

 電話関連機能についてシスコシステムズ日本法人は2019年11月、「Cisco Webex Calling」の提供を国内で始めている。同社の泰道亜季クラウド&ホスティッドコーリング営業部マネージャは「Cisco Webex Callingはパブリッククラウドの形での提供になるが、Cisco UCM Cloudはプライベートクラウドで電話機能を利用したいといったニーズに応えられる。社内でCUCMを運用してきた顧客企業もCisco UCM Cloudへ移行していける」と説明する。

 同社はCisco UCM Cloudを1000人以上の社員がいる企業や、電話を使った業務が多い金融業や公共団体などに向けて提案していく。Cisco UCM Cloudの市場想定料金は税別で、1ユーザー当たり月額1000円からになる見込みだ。

2.建設業界に近づくドコモを直撃、現場は5Gとクラウドの使い道が多い宝島か(8.21 日経XTECH)
NTTドコモが2020年6月以降、建設業界に急接近している。主に建築現場向けのサービスを相次いで投入してきた。

 7月14日に竹中工務店と建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進で合意したのは、記憶に新しい。業界内で大きな話題になった。

 現場における人の生産性向上に主眼を置いたデジタル変革を、両社で一緒に進めるのもユニークだ。デジタル技術を活用した「デジタル朝礼」「デジタルKY(危険予知)」「工程進捗共有」「AI(人工知能)エージェント」「マストタスク管理」「パーソナル(健康)管理」などに、20年度内に順次着手する。

 ここ2カ月ほどのドコモの活発な動きには、布石があった。6月30日、ドコモは同社のネットワークと接続したクラウド上の設備を使えるサービス「ドコモオープンイノベーションクラウド」のオプション群を発表。端末とクラウド設備を結び、5G(第5世代移動通信システム)による低遅延で安全性が高い通信を提供する「クラウドダイレクト」を東京都、大阪府、神奈川県、大分県で開始した。

 クラウドダイレクトの中身を見てみると、建設業界をターゲットにしたものが多く含まれることが分かる。AR(拡張現実)対応のスマートグラスやVR(仮想現実)ゴーグルを用いた現場作業の支援、建築物の点群データ利用、MR(複合現実)を使った建築鉄骨の検査などである。

 これらのサービスはいずれも、先述したドコモオープンイノベーションクラウドの基盤上で提供する。

3.武田薬品が全世界5万人を在宅勤務に移行、それでもVPN渋滞と無縁だった訳(8.20 日経XTECH)
製薬大手の武田薬品工業は2020年2月から大規模な在宅勤務に移行した。約5万人の全従業員が対象で、その9割が日本国外で勤務する。最新リモートアクセス技術の導入によって、VPN渋滞とも無縁だった。

 「2020年1月に中国拠点が在宅勤務に移行したところ、VPN(仮想私設網)の利用率が急上昇した。そこでVPNに頼らないリモートアクセス手段の導入を決断した」。製薬大手である武田薬品工業のマイク・タワーズCISO(最高情報セキュリティー責任者)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う在宅勤務への移行についてこう語る。

 武田は全世界約80カ国に拠点を置き、約5万人の従業員の9割が日本国外で勤務するグローバルカンパニーだ。それだけに新型コロナ対策に動き出すのも早かった。感染が最初に始まった中国の拠点では1月20日に感染症対策を開始。2月9日には世界の拠点で不要不急の海外渡航をすべてキャンセルした。日本では2月17日からMR(医療情報担当者)や東京本社で働く従業員を対象に在宅勤務へ移行した。さらに3月7日からは在宅勤務の対象を全世界に広げた。

 武田は日本企業の多くが苦しんだ「VPN渋滞」とは無縁だった。同社は新型コロナの感染拡大前から「脱VPN」を推進しており、業務アプリケーションやセキュリティーシステムのクラウド移行を進めていたほか、VPNを使わずにオンプレミスの業務アプリケーションを利用可能にする「アイデンティティー認識型プロキシー」を導入する計画もあったからだ。

 この技術の導入予定は2021年だったが、新型コロナの感染拡大に伴い計画を1年前倒しにした。そのため2020年3月に全世界の拠点が在宅勤務に移行した際には、VPNにほぼ頼らずに業務を遂行できるようになっていた。

4.利用者にそっぽを向かれた5G、新型iPhoneでも挽回は無理?(8.19 日経XTECH)
携帯電話大手3社の2020年4〜6月期連結決算が出そろい、NTTドコモとKDDIは減収増益、ソフトバンクは増収増益だった。新型コロナウイルスの感染拡大で携帯電話端末の販売数は減ったが、販売店に支払う手数料も減少。テレワークをはじめとした法人需要の拡大も増益に貢献した。他業界に比べて安定ぶりが際立った。

 各社の決算説明会で興味深かったのが、2020年3月に商用サービスが始まった5Gの進捗状況に対する捉え方の違いだ。各社とも基地局の展開は順調とするが、提供エリアはまだごく一部に限られる。当然、契約者の5Gへの移行はそれほど進んでいない。5Gの契約数を開示しているドコモで24万件(2020年8月1日時点)の水準だ。

 ドコモはこの水準について「計画を上回っている。2021年3月末に250万件という目標に向かって取り組んでおり、(下半期に投入する)普及モデルが出てきたら本格的に広がるだろう」(吉沢和弘社長)との期待を示した。

 一方、KDDI(au)は「5Gへの移行が進んでいない。焦りを感じている」(高橋誠社長)と危機感をにじませた。「5Gの進捗は数字として出せないが、2020年3月と4月に予定していたイベントが中止となり出ばなをくじかれた。(2021年3月末に5Gの契約数を)二百数十万件まで持ち上げたく、2020年秋に再出発と考えている」とした。

 かたや、ソフトバンクは「スマホ累計契約数で2023年度に3000万件(2019年度実績は2413万件)を目指す」(宮内謙社長兼CEO)としたうえで、3000万件のうち6割は5Gスマホになるとの見通しを示した。さらに「2020年秋後半から2021年にかけて『5G祭り』が始まる」とまで宣言した。

 ここまでの説明を読むと、KDDIだけが不調のように感じるかもしれないが、恐らくそれほど大差はない。確かにドコモは順調に見えるものの、まだスタートしたばかりで決定的な差がついているわけではない。ソフトバンクは今回、決算と同時に成長戦略の詳細を説明したこともあり、必然的に威勢の良い話になる。

 確実に需要を見込めるとすれば、5G対応が噂される新型iPhoneだ。ただ強気な米Apple(アップル)が低廉な価格を設定するとは考えにくく、毎年新版に乗り換えるファン層を除くと、それほど広がらない可能性がある。2020年秋には5Gに対応した米Google(グーグル)の「Pixel」も登場する。価格は6万500円からと現行の10万円以上もする5Gスマホに比べれば安いが、一般に広く受け入れられる水準とは言いがたい。

 新型コロナの影響も大きい。そもそも5Gは毎月の通信料金が高い大容量プランとの組み合わせが基本になる。小容量プランと組み合わせて使えるケースもあるが、通信量上限にすぐに達して速度制限を受けたのでは意味がない。コロナ禍で将来への不安が高まる中、毎月の費用負担が高まる乗り換えは避けようという流れは強まりそうである。

 総務省が2020年3月に実施したアンケートでも厳しい結果が出ている。「5Gサービスへの切り替え時期」を聞いたところ、「少なくとも2022年までには切り替える予定はない」が60.2%を占めた。「可能な限り速やかに切り替えたい」は8.1%、「2020年中には切り替えたい」は6.8%だった。

 そして最大の課題は5Gならではの「キラーサービス」が存在しないことだ。携帯各社はVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用したサービスなどを展開するが、現行4Gで使えるものも多く、わざわざ5Gに切り替えるユーザーはかなり限られそうである。上記のアンケートで5Gにすぐに切り替えない理由を聞いた結果でも「現行のサービスに満足しており、5Gサービスに切り替えるメリットを現時点で感じていないから」が59.4%だった。キラーサービスについては5Gの商用化前から懸念されていたものだ。

 5Gは現状、新型コロナの影響もあり、「端末」「料金」「コンテンツ/サービス」という携帯電話事業の根源的な部分で課題を抱えていると言える。携帯各社は2020年秋以降の「5G祭り」に向け、どのような施策を打ち出してくるのだろうか。「5Gスタートキャンペーン」や「5G無料キャンペーン」の延長は当然として、もう一歩踏み込んだ一手に期待したい。

5.ローカル5Gの導入コストが高い理由、低価格化を後押しする製品・サービスは?(8.18 日経XTECH)
企業がギガビット級の無線ネットワークを独自に構築できるローカル5G。最大のネックは導入コストだ。NECや富士通、エリクソン・ジャパンといったベンダーはローカル5Gの基地局や交換機(コア)の価格を公表していないが、インテグレーターに導入費用を聞くと「構築費を含めて最小構成で1億円弱」(NTTコミュニケーションズ)、「案件によるが数千万円から1億円に届く」(NTT東日本)という。

 さらに導入コストの参考になるのが、総務省の「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」だ。ローカル5Gなどを活用した地域課題解決に約37億4000万円の予算を確保し、2020年度に20件程度の実証を予定する。このうちスマート農業の3件は入札公告を終え、それぞれの契約金額は1億9800万円、2億4750万円、2億2880万円とされる。この金額にはシステム構築などの費用も含まれるが、目安にはなる。大企業でなければとても手を出せない水準だ。

 導入コストが高いのには理由がある。まずローカル5Gの構成だ。5Gの構成は4G(LTE)を併用するNSA(ノンスタンドアローン)と、5Gだけで動作するSA(スタンドアローン)の2種類がある。ローカル5Gに割り当てられている28ギガヘルツ帯の周波数は現状、NSAの一択となり、4Gと5Gの両方のネットワークを構築しなければならない。単純に基地局の数が増える。加えて、基地局や交換機の多くは携帯大手向け。専用ハードウエアで処理性能や信頼性などを高めた「キャリアグレード」の製品だ。どうしても高くなる。

 だが、総務省が2020年内に予定するローカル5Gの拡充により、この状況は大きく変わりそうである。新たに割り当てを予定する4.5ギガヘルツ帯は、4Gの構築が不要なSA構成で運用できる。電波の直進性が高い28ギガヘルツ帯に比べて設計しやすく、多くのベンダーやインテグレーターが本命と見据える。このタイミングに合わせて各社が新たなソリューションを投入する計画だ。

 基地局や交換機も安くなる。富士通は「(現状の導入コストが)一般に数千万円の上のほうとすると、かなり下がった価格を提示できると考えている。逆に価格が低下しなければ広がらないので、何分の1といった水準を目標としている」(神田隆史5G Vertical Service室エグゼディレクター)。具体的には、基地局や交換機を汎用のIAサーバーとソフトウエアで実現することにより、価格を抑える。携帯大手向けの製品は最小構成でも1000ユーザー単位となるが、「10ユーザーのようなスモールスタートで安価に導入できるようにする」(同)。

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