週間情報通信ニュースインデックスno.1228 2020/6/13


1.「半公共的機関の宿命」、NTTデータがCAFISの利用料見直し(6.12 日経XTECH)
NTTデータがクレジットカードなどの決済インフラである「CAFIS」の利用料の見直しに動いた。これまでは主に決済件数を基に利用料を算出していたが、新たに決済金額に応じて料金を決める仕組みを一部で導入する。公正取引委員会がCAFISの利用料に関する課題を指摘しており、NTTデータはこうした動きも踏まえ、対応に乗り出した形だ。

 NTTデータは2020年10月1日から新料金を適用する。料金改定のポイントは2つ。1つはクレジットカード取引においてカード会社が負担する利用料の見直しだ。従来は1件当たり最大3.15円が必要だったが、新料金では決済金額が1000円以下なら決済金額の0.3%に見直す。

 例えば、決済金額が100円であれば、カード会社は現状で最大3.15円をNTTデータ側に支払う必要があるが、新料金では0.3円になる。カード会社にとっては、加盟店に課す手数料を引き下げやすくなり、キャッシュレス決済の普及を後押しする可能性がある。

 もう1つのポイントは、スマホ決済サービスのアカウントへのチャージ時などに金融機関が支払う利用料の見直しだ。利用者が銀行口座からスマホ決済にチャージする場合、利用者とスマホ決済事業者の銀行口座間で資金を動かす必要がある。この取引にCAFISを使っており、利用料は金融機関が負担する。現状、金融機関はNTTデータ側に対して1件当たり最大3.15円を支払っているが、これを1件当たり1円まで引き下げる。 

 

2.世界に広がるマルチSIM、シングルSIMとはここが違う クアルコムが指摘(6.12 日経XTECH)
米Qualcomm(クアルコム)は2020年6月8日、1台の端末で複数のSIMカードが利用可能となるマルチSIMに関する自社の取り組みを掲載した。以下はその要約となる。

 以前より一部の地域で強い需要があったマルチSIM機能だが、最近では、スマートフォンメーカー各社からマルチSIM対応端末が次々発売され、その勢いは世界中に広がっている。Qualcommでも、Snapdragon X601)、X55、X52、X50などのマルチSIM対応5Gモデム-RFシステムを提供している。

 マルチSIM対応にあたっては、異なる2種類のネットワークによる途切れない通信が同時に行える必要がある。地域ごとに異なるネットワーク構成やSIMカードの組み合わせ、ユーザープリファレンスなど、さまざまな条件にも対応しなければならない。

 シングルSIM対応時と同等の性能や消費電力、信頼性を提供することも重要な課題だ。マルチSIM対応のモデム-RFシステムでは、こうした数々の要件に対応しながら、最適なユーザー体験を提供する必要がある。

 加えてマルチSIM対応端末では、それぞれのSIMカードで、複数世代の無線アクセス技術にも対応する必要がある。4Gや5Gからそれ以前の世代まで、同じ世代や異なる世代の通信技術を使った複数同時接続にも対応しなければならない。

 その上で、5GマルチSIM対応スマートフォンは、(1)全世界で利用可能なモビリティー、(2)快適なユーザー体験、(3)低価格での提供――の3点を実現する必要がある。以下は、これらに対するQualcommの取り組みとなる。

 (1)グローバルモビリティー
 Qualcommでは、マルチSIM対応5Gモデム-RFシステムでのグローバルモビリティー実現に向けて、@複数周波数帯への同時接続の実現、A各種5Gネットワーク構成のサポート、B複数ネットワーク技術のサポート3点を考慮した設計を行っている。

 (2)快適なユーザー体験
  Qualcommの5GマルチSIMソリューションは、5G接続時にも、他の接続ネットワークの影響を受けることなく最大のユーザー体験を実現。消費電力を最適化しながら、スループット、データ検索などでもシングルSIM時と変わらない体験を提供する。

 (3)低価格な端末の実現
 こうした様々な機能に対応する5GマルチSIMソリューションを低価格で提供することで、低価格でのマルチSIM対応端末提供が可能となる。Qualcommでは、RFトランシーバー、 RFフロントエンド、最適化されたソフトウエアを含む包括的なソリューションを提供することで、全世界的に対応する高性能なマルチSIM対応端末の、迅速かつ大規模な開発を支援する。また、高度なアンテナチューニング技術もマルチSIMの同時接続とその信頼性向上を手助けする。

 

3.無理解な経営者がテレワークを阻害、1000人超から不満が噴出した理由(6.12 日経XTECH)
Web会議の不都合な真実、ハンコと紙文化、VPN渋滞――。ビジネスパーソン3000人にテレワークの課題を聞いたところ、1000人超から不満などの声が集まった。日経BP総研 イノベーションICTラボが実施した「新型コロナ対策テレワーク実態調査」の結果を紹介する特集の第5回は、自由意見について取り上げる。

 調査で自由意見を募ったところ、テレワークに関する様々な不満が寄せられた。まずはWeb会議がらみの声を紹介しよう。Web会議は回線状態によって相手の声が聞き取りにくいことがある。この点について「音声が悪く、聞き取れない場合がある」(流通、営業・販売、派遣社員・契約社員)といった声が目立った。「音質(音飛び・遅延)と画質(遅延)」(製造、研究・開発、主任・係長クラス)を課題として指摘する意見もあった。

 Web会議は動画をやり取りするため、テキスト中心のメールやビジネスチャットよりも通信量がかさむ。米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズによると、パソコンを使って1対1のWeb会議に臨む場合は画質にもよるが毎秒600キロビット以上の帯域を確保したい。グループ会議の場合は毎秒800キロビット以上が推奨帯域である。

 ITツールへの不満でWeb会議と共に目立ったのは「VPN渋滞」に悩む声だ。多数の社員が一斉にVPN(仮想私設網)に接続することによって、社内システムにつながりにくくなる事態である。「VPNアカウントが足りていない」(製造、研究・開発、一般社員)、「VPNのライセンス数が少ない」(製造、研究・開発、主任・係長クラス)といった不満が複数あった。

 テレワークの阻害要因としてハンコや紙の書類を挙げる人も多かった。テレワークをする際の阻害要因や不便・不安に感じることを複数回答で聞いたところ、押印や決裁、発送など「書類・伝票類を取り扱う業務を対象とできず不便」を選んだ人が32.2%に達した。自由意見には「紙・印鑑を必須とする相手企業および自社業務の存在がネック」(流通、情報システム、課長クラス)、「書籍、参考資料などのデジタル化が済んでいない」(製造、総務、その他)との声があった。

 企業はVPN接続のライセンス数や機器を増やす、ワークフローや伝票レスの仕組みを導入する、などの対策が求められる。当たり前だが、これらの取り組みにはお金がかかる。この予算確保が課題である。テレワークのための投資は売り上げや利益に直結しにくいからだ。緊急事態を想定してお金を投じてこなかった企業においては、そのしわ寄せが現場の社員にいっている。投資の決断をしなかった会社に対する批判の声が多く集まった。例を示そう。

 「会社はそもそもテレワークの導入が必要と考えていないようだ。政府の緊急事態宣言を受けてようやく準備をしようとしているため、自宅待機の指示はするが業務ができない。業務遂行の困難性は感染によるものではなく、組織の準備不足が招いたものである」(情報・通信サービス、営業・販売、主任・係長クラス)。

 

4.「つながりやすさ」が売りのZoom、その知られざる仕組みとは(5.8 日経XTECH)
ビデオ会議や画面共有などの機能を備えるWeb会議ツールはテレワークでの協調作業に不可欠だ。ビジネス利用に向く主要なWeb会議ツールを取り上げ、特徴的な機能や便利な使い方を紹介する。今回は米ズームビデオコミュニケーションズ(Zoom Video Communications)の「Zoom」を取り上げる。 

 数あるWeb会議ツールの中でも勢いのあるのが「Zoom」だ。開発した米ズームビデオコミュニケーションズは2020年2〜4月期決算で売上高が前年同期比169%増と急伸した。 

 コロナ禍によるWeb会議ツールの爆発的な需要増を受けて、今やWeb会議の代名詞的な存在になっている。企業が業務で利用するのに加え、多くの学校がオンライン授業のツールとして利用している。 

 Zoomには無料版と有料版がある。無料版は3人以上が参加する会議の時間が40分以内に制限される。企業利用では有料版を契約するのがいいだろう。 

 料金は「ホスト」という単位で決まる。ホストは簡単に言うと、同時にいくつのWeb会議を開催できるかを表す。ホストが1つなら同時に開催できるWeb会議は1つだ。2つのホストを購入すれば、同時に2つまでのWeb会議を開催できる。 

 無料版・有料版共に基本機能は同じだ。参加者が会議に入る前に待機できる「待機室」、スライドや写真などを見せるための「画面共有」、参加者から発声している人を自動検知してその人の映像を強調表示する「アクティブスピーカー」、参加者が発言の意思表示をするための「挙手」、参加者をチーム分けして議論するための「ブレイクアウトルーム」、参加者映像の背景をカスタマイズする「バーチャル背景」、テキストチャット、会議内容の録画・録音などの機能を備える。 

 ただしこれらの機能は他社のWeb会議ツールも備えているケースが多い。Zoomだけが多機能とはいえない。ではWeb会議ツールの中でZoomが急伸したのはなぜか。 

 ズームビデオコミュニケーションズの日本法人ZVC Japanの佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャー(GM)が特徴の1つとして強調するのは「多人数でも安定してつながりやすい」という点だ。Zoomがつながりやすいのには理由があるという。それは端末側のコンピューターリソースを活用し、サーバーの負荷を抑えている点にある。 

 Web会議ツールは一般にクラウドサービスとして提供される。ユーザーはWebブラウザーやクライアントアプリケーション、またはスマートフォンアプリで、Web会議ツールベンダーのクラウド上のサーバーにアクセスし利用する。これはZoomをはじめ大半のWeb会議ツールに共通する仕組みだ 

 異なるのは、映像や音声の圧縮・復元という負荷の大きな処理をどこで行うかである。Zoomは主に端末でこの処理をするという。近年、端末の処理能力が飛躍的に高まっており、これを有効活用する。 

 端末の処理能力を生かすこのアーキテクチャーは多人数のWeb会議で効果を発揮する。「人数が増えてもサーバーの負荷増大を抑えられるので動作が安定する」(佐賀カントリーGM)。

5.アフターコロナ時代、KDDIの取り組みから見る地方のDXに必要なこと(5.8 日経XTECH)
 新型コロナ禍で重要性が高まっているデジタルトランスフォーメーション(DX)。その推進にはヒト・モノ・カネ全ての要素が必要だ。そうした力がない地方の自治体がDXを推し進め、社会的な課題の継続した解決につなげていくには何が必要だろうか。2020年5月18日に協定を締結したKDDIと會津価値創造フォーラムの事例から見ていこう。

 新型コロナウイルスの感染拡大により発令された政府の緊急事態宣言が2020年5月25日に解除された。多くの自治体で外出自粛要請も解除されたことから、徐々に新型コロナ前の日常生活に戻りつつあるようだ。

 だが一方で新型コロナウイルスの脅威は現在も続いており、密閉・密集・密接のいわゆる「3密」を避け、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を意識するなど、以前とは異なる生活を送る必要があるのも事実だ。

 そうした状況下で脚光を浴びたのがICTの活用である。感染拡大防止のために人と接する機会を減らす必要がでてきたことからテレワークが急拡大。ビデオ会議の利用も急増するなどICT関連のサービスが大きな注目を集めた。一方で紙や印鑑といったアナログな要素を伴う従来型のビジネススタイルが、テレワークの妨げになるとして批判を集めるようにもなった。

 新型コロナウイルスの脅威が当面続くであろう今後は、これまで以上にICTを活用し、DXを進める必要があるというのが共通認識となりつつある。ただDXを推し進めるには困難が伴いそうだ。

 特にDXの推進がなかなか進まないとされているのが地方の自治体である。少子高齢化が進む地方では多くの社会的課題を解決するためにDXが求められている。だが、その推進には知識を持つ「ヒト」、ICTを活用する「モノ」、そしてそれらを購入するための「カネ」が必要になる。地方ではその全てが不足している。

 そうした地方がDXを推し進めるには、何が求められるのだろうか。2020年5月18日に包括的連携協定を締結した福島県会津地域の任意団体「會津価値創造フォーラム」とKDDIとの取り組みから見てみよう。

 福島県・会津地域の17市町村では、製造業における雇用の縮小や若年層の流出などによって生産年齢人口が減少し、さまざまな課題が浮上しているという。そうした課題を自治体ごとではなく、広域でかつICTを活用して解決するために官民の有志によって設立されたのが會津価値創造フォーラムだ。

 會津価値創造フォーラムはKDDIと協定を結ぶことで、遠隔教育やプログラミング教育などの支援による会津地域のICT人材育成、地域の企業やスタートアップ企業との協業や連携、課題解決につながる新しい事業を共創する場を構築するとしている。

 ここでポイントとなるのは、KDDI自体が直接会津地域で事業を展開するのではなく、現地の人や企業の支援・育成に特化することだ。地域の課題解決を継続するには、それぞれの地域が主体となって取り組む必要があると考えているからだという。

 KDDIもこれまで、ICTを活用して地域課題を解決するさまざまな実証実験を実施している。そこで使われているのは多くの場合、国や自治体からの補助金、つまり一時的なお金だ。そのため仮に実証実験で良好な成果が得られ、事業化を進めるとなった場合、誰がお金を払ってKDDIのような東京の企業に依頼をするのかといった問題が浮上してくる。仮に資金をねん出できたとしても、その資金は全て東京の企業に流出してしまう。

 そのため各地域でICTを活用した継続的な取り組みを進める上では、地元の企業やベンチャーなどが主体となって取り組むべきだとKDDIは考えているようだ。だが地方にはそもそもICTに詳しい知識を持つ人が少なく、教育できる体制そのものが整っていない場合が多い。そこで同社は5Gなどを活用し、地方で効率よくICT教育を推進する取り組みに力を入れるとする。

 地方で本格的にDXを推し進める上では、各地域の人々が考え方の違いを乗り越えて協力し合える体制をいかに整えるかが重要になる。會津価値創造フォーラムの場合、そうした点にかなり配慮をしているようだ。

 同フォーラムでは各地域が大事にしている伝統や風習は尊重しながらも、プログラミング教育や鳥獣害対策など、共通して抱える課題は共同でテクノロジーを活用し、取り組むことを重視しているという。有益なICTの活用を進めるためにも、地域間で議論が空中分解しない土壌を整えることを重視している。

 企業にとっても、こうした地方での取り組みは売上高の拡大につながりにくく、積極的に手掛けるメリットを見いだしにくい点が課題として挙げられる。KDDIの今回の取り組みに関しても、将来的に地方のベンチャー企業への出資や、傘下のイーオンなど教育関連事業でのビジネス拡大に結び付けていけるとしているものの、ビジネス面ですぐに明確なメリットに結び付く部分は少ないように見える。

 だが地方の衰退は、長期的に見れば都市部の大企業にも人口減や消費地の消失といったリスクとなってふりかかる。KDDIもそうしたリスクに強い危機感を抱いたからこそ、ICTによる地方の課題解決に向けた取り組みに力を入れるに至ったのだろうし、こうした意識を持つ企業を増やしていくことが、地方の課題解決には最も重要だと筆者は考えている。

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