週間情報通信ニュースインデックスno.660  2008/06/21

1.Web 2.0はどこへ行ったか(6.20 nikkeibp)
 一時ほど、Web 2.0という言葉を耳にしなくなった気がする。
 来る日も来る日も聞かされていた言葉が、さほど目立たなくなってくるという場合には、2つのケースがある。

 1つは、いわゆるfad(一時的な爆発的ブーム)だった場合。切り立った山のような形で盛り上がりを見せたものが、これまた急カーブを描いてしぼんでい く。
 もう1つは、plateau(高原状態)である場合だ。 実際には、従来と違うレベルで新しい状態が定着したケースである。この場合、変化率が大きい時 期には報道などで触れられることが多いものの、世間が新しい状態に慣れるにつれ、実態の変化やそのインパクトの大きさにかかわらず、あまり取り上げられな くなる。

 Web 2.0というのは、明らかに後者だろう。その言葉の定義の曖昧さや、「世界を変える」といったやや大仰な取り上げ方、といった問題点はあるものの、Web 2.0は、様々な形で定着してきており、ひっそりと、しかし着実に活用する個人や企業が増えてきているように思える。

R&DへのWeb 2.0型「場」の活用
 こういった着実な活用の例として、R&D(研究開発)に社外のネットワークを活用する動きが出てきており、なかなか興味深いものがある。

 例えばInnoCentiveという「場」がある。ここでは、R&D上の難問を解決したい企業から「こういう条件で、この時期までに、この問題 を解決してくれれば、賞金を出す」という掲示がなされる。これに対して、登録した科学者や研究者が解決策を提供し、その中で、最も優れた解を出した個人が 賞金を獲得する、というものだ。

 具体的な例を挙げてみよう。ある時、
―ある匿名の企業からの課題#3109
―15カ月後がデッドライン
―R4 butanic acidという化合物を、2ステップ以下のプロセスで、80%以上の歩留まり、95%以上の純度、1キロ100ドル以下のコストで、合成する手法を求む

といった掲示がなされた。

 この課題#3109の場合、実際に7カ国10人のメンバーから、解とサンプル化合物が提供され、ある製薬企業を引退した科学者が賞金2万5000ドルを 得た。

 InnoCentiveの場合、課題を掲示した企業とは別の領域で研究をしていた科学者・研究者から、異分野ならではのユニークな解決策が提供されるこ とが多いという。

 もう1つ、The MathWorks社のユーザー・コミュニティーであるMATLAB Centralという「場」を紹介しよう。ここでは、個々人が解決策のアイデアを提示すると、他の人がそれに自分のアイデアを付け加えたり、別のより良い 解決策を出したりする形で、複数の参加者による擬似プロジェクトが進行する。この場合には、個人の知恵にとどまらず、アイデア間の相互作用が生まれてくる ことで、当初思いもしなかったユニークな解決策がもたらされることが期待されているのだ。

 音響環境改善というテーマで議論が行われた際には、約2週間のうちに当初案より10倍以上効果的な答えが出てきたという。

 MATLAB Centralの場合、複数の参加者の共同作業で解決策が生み出されることもあり、金銭的な報酬はごくごくわずかなものだ。参加者は、仲間内での「尊敬」 や「称賛」といった、精神的な褒賞を糧に、知恵を出していくことになる。

2.マイクロソフト、試練の時(6.19 nikkeibp)
米マイクロソフト(MSFT)の最新基本ソフト(OS)「Windows Vista(ウィンドウズ・ビスタ)」には、消費者も法人顧客もうんざりしている。ハードウエアに多額の投資が必要なのに、ユーザーが魅力を感じるような 新機能がほとんど備わっていないためだ。企業がVista導入を控える兆候も表れ、ウォール街のマイクロソフト株の見通しにも影響が出始めている。

米資産運用会社サンフォード・C・バーンスタインの上級アナリスト、チャールズ・ディボナ氏は6月10日、マイクロソフトの業績予測に関するリポートを発 表した。同氏はマイクロソフトについて強気の見通しを立てることで知られている。

だが、ディボナ氏はリポートで、企業のVista導入が遅々として進まないことを理由に、2009年度(2009年6月期)の売上高予測を3億9500万 ドル引き下げ、1株当たり利益の予測も0.02ドル下方修正した。

今年5月、バーンスタインがIT(情報技術)専門家372人を対象に実施したインターネット調査では、企業における2011年初めまでのVista予想導 入率はわずか26%で、約68%という、1年前に実施した同様の調査の数字を大きく下回った。

マイクロソフトの株価は年初から大幅下落
今回の調査は主に米国内を対象に、米IT関連出版社ジフ・デービス・メディア及び米IT関連調査会社ピアストーン・リサーチと協力して実施された。 Vista導入に際して、大量のメモリーと高い演算処理能力を備えた高スペック機が必要なこともネックとなっているのが分かる。企業が既に保有している旧 型機でVistaを導入する率は約10%となる見通しで、前回予測の27%から大幅に低下した。

「IT専門家たちはVistaに対して、冷めた、否定的な見方をするようになってきたようだ。それなりに話題になった機能もあるが、乗り換えてまで使いた いと思わせる魅力的な特徴はない」と、ディボナ氏はインタビューで述べている。例えば、Vistaに標準搭載されている最新の画面描画技術「WPF」につ いても、企業は“関心なし”と冷ややかだ。

3.ウェブメディアは「たぶん誰も儲からない宣言」(6.19 nikkeibp)
 ブログを始めとするウェブ上の情報発信は、他のメディアに比べて更新頻度こそ命であり、そこでは情報の「フロー」が優先されます。それ は、決して「鮮度」を意味するわけではなく、前回にも述べたように、ウェブ上では「発信し続けること=存在すること」なので、フローは否が応でも高まって いく運命にあります。

 しかし、一方でアーカイブされていく情報も、後において重要性を帯びてきます。それは検索エンジンによってその情報を欲する人々が時間軸を超えて存在す るからです。これは情報の「ストック」となります。そして、ストックは、文脈(コンテクスト)を形成する情報として、時間経過とともに変質します。なかに は、そうならないものもありますが、書籍のように独立した(スタンド・アローンな)外部メディアとして存在することができる情報がストックには含まれま す。

電子メディアの性格がもたらすデフレスパイラル
 「フローする」情報は、もともと紙メディアよりも電子メディアとの親和性が高く、情報の取得・加工、配信までの時差をどんどん短縮していきます。やが て、OOH(屋外広告)も電子化され、デジタルサイネージに切り替わることで、フローの高いメディアに生まれ変わるかもしれません。静的な看板よりも、電 子的にコンテンツを入れ替えることで、時間帯を変えての表示が可能となり、高収益を見込めるからです。

 ただし、電子コンテンツの難しい点は、フローが高まることで、価値の逓減も早くなるということです。これを、わたしは「電子メディアの収穫逓減」と呼ん でいます。

 フローが激化すると、総体的に価値のデフレーションに繋がりかねません。つまり、貴重だったものが、どんどん巷にあふれ、その逆に人々はメディアリッチ な体験者になっていきます。メディアリッチになる一方で、それらの価値は低くなるというパラドックスをはらんでいます。

エロを想起すれば、わかるかな?

 それは制作側に対しての高コスト化を招きますが、残念ながら、相応の対価を得ることは困難でしょう。フローが高いがゆえ、価値のデフレが起きているの で、コンテンツ自体の価額はいまより上がらないためです。つまり、タダ同然で入手できるのにもかかわらず、それに対価を払おうとは思わない人は増える一方 ですが、同時に、コンテンツへの期待値は高まるばかりなのです。

カネを払わないヒヒョーカばかりが増えるってこった。

 おそらく、今後は動画など工数の多いメディア形式がネットや携帯でも主流を占めるだろうと思われていますが、つくる側がロボットでもなく、 YouTubeやニコニコ動画のようなCGMでもない限り、制作するプロフェッショナルを潤わさないというシナリオが考えられます。

 技術革新はコストを下げますが、フローを高めるあまり、人間を駆逐するという側面を秘めています。大昔なら労働者が自分たちを失業に追い込む機械を破壊 したところですが、現代のラッダイト(機械破壊主義者)は、破壊してもキリがないほど無数のPCに囲まれて暮らしているため、共生の妥協点を探ることが肝 要です。

 技術革新は、業界全体を構造不況に陥れかねません。これを乗り切るためには「身軽である」ということが、「誰でもメディア」時代の必須条件になります。 「身軽」ということは、固定費、設備投資が少なく、人を多く抱えない、ということです。

参入障壁が低いことが、価格低下を加速する
 加えて、もうひとつ悪いお知らせがあります。

 それは総体の収益が減少するのではないかということです。ウェブや携帯メディアは、紙媒体やテレビのように新規参入が困難な業界と違い、同一ジャンルに フローが高いメディアが続々と参入する可能性が高いため、総体的な利益が減少してしまう可能性が高いと思われます。

 電子メディアは、情報以外に、メディアそのものの流動性(フロー)の高さが特徴として挙げられます。つまり、いつでも、どこでも、だれでも立ち上げられ るがゆえです。それにより、あっという間に市場が飽和する可能性があります。「ゼロサム・ゲーム」【*】ならまだマシですが、新規参入者は広告費のダンピ ングや寝ないで働くという無茶をするので(笑)、場合によっては「マイナスサム・ゲーム」【*】のような事態が起こりえるかもしれません。

【*】ゼロサム・ゲーム :ゲームに参加している人の利益総和がゼロ。ゆえに誰かが勝利すると、必ず敗者がいる。
 
【*】マイナスサム・ゲーム : ゲームに参加している人の利益総和がマイナス。全員の利益が減少するため、全員が敗者になりえる。
 旧来メディアのように代理店がメディア企業と結託して、利益を守ろうという団結や意志が強固ではないため、メディアと代理店側がそれぞれ暴走をしかね ず、業界全体を不況に陥れる可能性がついてまわるのです。

 加えて、日本のインターネットメディアの広告費の単価が米国に比べて安価なことを勘案すると、メディアが気軽に構築できる時代において、そのメディアが 立脚するジャンルによっては、「誰も儲からない宣言」を発動しなくてはならない不安が常につきまとうのです。

 現実問題として、ウェブメディアといっても、ビジネスモデルが多種多様のため、ひと括りにした業界というものが存在しません。もし、あるとすれば、 「テーマ切り」のテーマそのものが帰属する業界になるでしょう。そのため、PV数もさることながら、どれだけスティッキーなユーザーを抱えているかという 指標が必要です。そのため、CTRもさることながら、今後はコンテンツの質とも連関する滞在時間なども重要なファクターになってくるでしょう。米国では同 じテーマを扱うブログメディアを集めた広告販売シンジケーションが立ち上がりました。日本においても、今後ウェブメディアの発展とともに、メディアが主体 となっての代理店や企業への働きかけも必要かもしれません。

 さて、広告の話に逸れてしまいましたが、メディアそのもののフローが高いということがリスクになるという事例として、「ちょいワルおやじ雑誌症候群」に ついても触れておきます。

「ちょいワルシンドローム」は、ウェブメディアの悪い未来予想図
 ご存知のように、中年の富裕層を狙った雑誌は「LEON」に始まり、その後、各種競合雑誌の出現を招きました。しかし、そもそも狭い市場のパイを奪い 合った結果、多くの競合者が「LEON」を追い越せないという現実を鑑みるに、一度に存在できる総数が限られたジャンルでは、先駆者になるか、そうでなけ れば参入しないという判断が、特にウェブメディアにおいては必要といえます。

 また、隆盛を誇っていたと思われる携帯向けのサービスやメディアが、あっという間に売り上げを落としたことを鑑みると、フローが高いメディアは、技術革 新、トレンドの変化、外的要因(法規制や社会的な変化など)等により、ライフサイクルも短命に終わる可能性が高くなります。それはまるで、テナントが しょっちゅう変わる往来の一角のようでもあります。

 たとえば、技術がだれにでもその門戸を広げるほど、フローは高まり、“全員討ち死に”という様相を呈してきます。もちろん、あらゆる分野において成功者 は氷山の一角であり、その氷山の底辺には累々と屍が積まれていることでしょう。そして、その底辺の面積はますます増えていくばかりですが、それらをM&A していくという考え方が、特定ジャンルにおいては有効であることにも触れておきます。

4.スピード社が破った常識(6.17 nikkeibp)
 北京五輪競泳の前哨戦ともされた「ジャパン・オープン」は、日本人選手の日本記録の更新に沸いた。筆頭は、世界記録を約1秒も短縮した男 子200m平泳ぎの北島康介選手だろう。

 更新の“立役者”となった英スピードの水着「レーザー・レーサー」。日本水泳連盟が選手に着用を認めたメーカーは、デサント、アシックス、ミズノの3社 のみだったが、選手がレーザー・レーサーを“試着”したところ16人が日本記録を更新した。

 日本でスピード製品の開発、製造、販売の権利を持つのはゴールドウイン。アスレチックスタイル事業本部の小嶋正年スピード事業部長は「レーザー・レー サーで記録更新ラッシュが起きると、既に宣言していた。今年は水着開発の元年」と誇らしげに語る。

 その自信の背景にはレーザー・レーサーの素材がある。従来の日本製品と一線を画す決定的な違いがあるのだ。
「競泳水着にはある常識があった」と小嶋氏は言う。それは「きつい」は「遅い」というもの。締めつける水着は泳者の動きを制限し、速さを損なうからだ。だ から、スピードを含めて日本で一般的な水着の素材は、糸を編み込んだ「ニット」から成り立っていた。伸縮性が高く、着心地がいいのが特徴だ。

 この常識を破ったのがレーザー・レーサーである。スピードは2004年頃から水着の新素材を、世界中の繊維市場で探していた。その結果、選ばれたのは、 無名に近いイタリアの繊維メーカー「メクテックス」の素材だった。

 メクテックスが提供したのは「織物」。「従来の日本の競泳水着の枠から完全にはみ出すものだった」(ゴールドウイン)。編み物が1本の糸をループ状に構 成するのに対し、織物は縦糸と横糸を組み合わせて布地を作る。一般的には、Tシャツのように引っ張れば伸びるものが編み物で、背広やYシャツのように伸縮 性が乏しいものが織物とイメージすると分かりやすい。 実際、ゴールドウインは、初めて発売した織物製の水着「FS-PRO」の販促資料に、「着やすさを 求めるなら、よした方が賢明です」とうたった。

 しかし、その後にこう続く。「速さを求めるなら、賢明な選択です」。

「日本勢、すぐには作れない」
 「我々の製品を着た選手は必ず『浮いているようだ』と言います。それは織物だからです」と小嶋氏は説明する。
 実際、従来のニット製の水着の場合、生地の重さは1m2当たり約240g、水を含むと2倍近い403gとなる。これに対して、レーザー・レーサーの生地 は、通常117gと軽いうえに、水を含んでも、126gとほとんど変化しない。

 こうした特徴から、世界のトップスイマーが、レーザー・レーサーを選んでいる。日本の水着メーカーや繊維メーカーは安閑としていられない。

5.NICT,“触れる立体映像”の技術で文化財を再現 (6.19 nikkeibp)
 独立行政法人の情報通信研究機構(NICT)は2008年6月18日,立体映像の触感を確認できる技術を使って,複雑な形状をした日本の 文化財を再現することに成功したと発表した。これにより,体験学習など教育機関での活用や,遠隔地からの商品確認をビジネスに活用したい企業などの需要を 見込んでいる。

 NICTでは研究開発している「超臨場感コミュニケーション技術」の一環として,視覚,聴覚,触覚などの多感覚情報を統合して再現する「多感覚インタラ クションシステム」を開発している。同システムは映像を表示する専用ゴーグルとディスプレイを含む映像提示台,感触を伝える専用ペンと音声を伝えるヘッド フォンからなる。このシステムを使うと,利用者は専用ゴーグルを通して見た立体映像に専用のペンで“触れる”ことで,触感や触れた時の音を確認できるよう になる。

 今回再現したのは高松塚古墳出土品の「海獣葡萄鏡」。「非常に緻密(ちみつ)で複雑な形状をしており,通常であれば触れることのできない貴重な文化財。 今回の成功により,インタラクティブ体感型の新しい展示システムの実用化にメドがついた」(広報室)としている。

 今後想定されるこの技術の具体的な用途としては,「提示デバイスが普及すれば,博物館や学校でのリアルな体験学習が可能になる。また,国内のブロードバ ンド普及率は高いため,ネットを活用して遠隔地からさまざまな商品を体感するという使い方も考えられる。通信販売などで需要があるのではないか」(同)と の考えを示した。

 多感覚インタラクションシステムは高度画像処理技術として,内閣総理大臣および科学技術政策担当大臣が指揮する総合科学技術会議が発表した「革新的技術 戦略(案)」に含まれる技術。主に文化資産などの体験学習への活用が期待されている。


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