週間情報通信ニュースインデックスno.97 2007/03/17
 

1.ソニーの、もう一つの敗因(3.15 nikkeibp.jp)
 iPodの話である。このテーマについては、「なぜ(あのウォークマンを生み出した)ソニーが、アップルに負けたのか」という問題設定で、さまざま媒体を通じ多くの分析や意見が提示された。これだけ話題になったということは、「携帯型音楽端末は日本の特産品」だと信じていた人たちが、勝ったときより3倍大きなショックを受けた、ということかもしれない。それはともかく内容について言えば、例えば「iPodはデザイン、機能、大きさと、どの要素をとっても日本製品を凌駕している。日本の『ものづくり』の力が衰えたことを示す格好の例だ」との意見があった。「いや、そうではない。ハードウエアだけを見るのは日本人の悪い癖。アップルの本当の勝因は、単にカッコイイ端末を作ったことにあるのではなく、音楽配信というサービス、データ圧縮などのソフトウエアをトータルに用意したことにある」。との主張もある。これを受け、「日本メーカーにはコンセプトを描く構想力がない」といった、少々乱暴な結論も目にした。

 どれも正しい。そう感じつつも、もっと本質的な原因があるのではと、筆者は感じてきた。色々な意見が出尽くした後に何かを言うのは「後出しジャンケン」のようで心苦しいが、それは「企業の感情」というものなのである。

 ソニーとアップルの間には競争があり、それがアップルの完勝に終わったという世評をそのまま受け入れるなら、敗因はまさに、そのことにあったのだと思う。つまり、音楽会社を持っていたということだ。こうした企業のあり方は、日本ではとても自然なことである。メーカーが「材料部品から機器製造、販売まで手掛ける」という垂直統合型の形態をとることが一般的だったのだから。その一員であるソニーが、「音楽配信事業を進めるなら、音楽を作り、流通させ、それを聴く機器まで一貫して提供する体制を整えるべき」という垂直統合的な発想に立っていたことは、想像に難くない。

 この「垂直統合型」でソニーが音楽配信事業で先行し、成功を収めていたとすれば、それはそれで快挙だっただろう。グループの音楽会社は、この成功によって業績を伸ばし、配信サービスを独占することで大きな利益を上げ、専用端末も売れに売れる。音楽というジャンル全体をソニーが手中にするのである。

 同社には、垂直統合型事業の成功体験があった。ゲームである。部品から手掛け、PS2などのゲーム機を作って売る。ゲーム・タイトルの一部も手掛ける。第三者がゲーム・タイトルを制作して販売する場合もライセンス収入を得る。ゲームという分野でプレイステーションやPS2が圧倒的な強さを誇っていたころ、その収入はソニーを支えるほどになり、他社はその勢いに恐れおののいた。あのビル・ゲイツさえ恐れを抱き「ソニーにリビングを独占させる気か」と叫んだらしい。この恐怖感が、マイクロソフトをゲーム市場への参入へと駆り立てる原動力になったのだと、ある関係者から聞いた。

 人は支配されることを好まない。それは組織にとっても同じ。だから、誘いの話を持ち込む人の背後に、そうした支配の影がちらついてはいないかをかぎ分けようとする。ソニーが音楽配信事業を始めようとする場合、説くべきは音楽会社だったはずだ。ネットはある。端末も作ろうと思えば作れる。ただ、店に並べる商品、つまりは音楽タイトルが足りない。それを保有する音楽会社の同意と協力が得られるかが、重要なカギになる。その説くべき相手にとってソニーは脅威か。アップルはどうか。アップルはともかく、ソニーは恐かったに違いない。そもそもソニーは、音楽会社からすれば立派な「競合会社」。アップルの「第三者」という立場とは決定的に違う。

 この理屈を一気に飛躍させれば、「構想力の有無ではなく、垂直統合的な企業か分業を旨とするオープンな企業かということが勝負を分けた」となるだろう。その差は能力ではなく、周囲の感情、もっといえば恐怖感や嫌悪感の差とも言えるだろう。もっとも、iPodは大成功を収め、アップルは音楽こそ手掛けないものの、配信以降をすべて牛耳ろうとしている感もある。そのことが、新たな恐怖感を周囲に振りまいている可能性はあるのだが。

2.世界の匠になった義理人情の人(その2)(3.16 nikkeibp.jp)
岡野工業代表社員・岡野雅行 ―― 一番うれしかったこと
高橋 三千綱

岡野雅行さんを、さらに世界の岡野に押し上げたのが、痛くない注射針「ナノパス33」(販売名「マイクロテーパー針」)の開発である。それまでは、先端の直径は0.4ミリのものが主用で、その後、0.3ミリが使われるようになったが、それでも、使用する患者には、若干の痛みがともなった。

 それを、岡野さんは、直径が0.2ミリ、液の通過する針の穴の内径が80ミクロン(0.08ミリ)という、極細の針を造り出したのである。2005年7月から医療機器メーカーのテルモが販売を始めた。
 これは世界で一番細い、インシュリン用の注射針である。蚊が刺したほどにしか感じない、という注射針は、毎日2?3回、インシュリンを注射しなくてはならない糖尿病患者を、苦しみから解放したといわれている。

 その技術力を聞き及んだ小泉前首相が、首相時代の2006年1月18日に、岡野工業を表敬訪問した。そのとき、注射針を実際に腕に刺して、「痛くナーイ」発言をして、総理の庶民人気に拍車がかけられたものだった。いかめしい男たちが、狭い工場を徘徊する姿は異常な光景であったが、そのときの様子がワイドショーでも放映されると、テルモには、痛くない注射針の注文が殺到した。

 それ以前から、敏感な兜町は、テルモ株に反応していたが、その放映以降さらに注目しだし、ナノパス発売後、1年間で1.3倍の株価をつけるようになった。その話をすると、「そうだなあ。大谷内(哲也さん。テルモの注射針開発のリーダー)がうちに初めてきた頃は、テルモの株は1600円だった。そのとき、うちは2番手の会社だといっていた。今は4800円の株価がついているのかな」。

 こんな話を岡野さんとするのは、実際にお会いしてからなのだが、取材の前の私は、なんとなくユーウツだった。工場は、墨田区東向島にあり、京成押上線八広駅から5ー6分歩いたところにある。

 その地域に来たのは、東京に住んで50年以上になるのに、初めてだった。向島で、芸者さんの踊りを見ながら酒を飲むことはあっても、工場地帯に足を踏み入れることはなかったのである。 岡野さんの工場に向かう頃、私は、最終目標を自然治癒において、インシュリン注射から、投薬に切り替えたばかりだったのである。それも、注射が痛いのがつらかったのである。そして、自分が使っていた針こそが、「痛くない注射針」だと思い込んでいたのである。

 憂鬱の原因はそこにあった。岡野さんと会って、「痛くないというけど、実際は痛えんだよ」とは、いえない。
 

 挨拶のあと、黙って岡野さんの話に耳を傾けていると、同行した編集者が、私の話を持ち出した。それで、仕方なく、持参してきた注射針を持ち出した。すると、あ、これは、違うものだ、と岡野さんが笑っていった。なぜだか、ほっとした。

 「これは、パイプでやっているもので、たとえば、根元から先端まですべて、0.3ミリなんだね。パイプだと、穴の中がガチャガチャになっちゃうんだね。穴が詰まっちゃうんだ。パイプでも、根元から先まで、ずっと0.2ミリの注射針はつくれるけど、それだと、液がスムーズに流れないんだ。うちのは中も外も、きれいに研磨しているから、液の流れがスムーズなんだ。高橋さんにちゃんと説明します。おい、注射針とパンフもってこいよ」

 岡野さんはそういったが、社員は全部で6人。そのうち経理は奥さんで、娘婿の縁本幸蔵さんは、取材の場所には顔を出すことはなく、自分の仕事に没頭している。ほかの3人も機械の管理をしている。結局、6人のうちのひとりである、代表社員の岡野さん自身が、針をとりにいった。

 それを自分の腕に射してみせた。な、痛くないんだよ、という。

 そこに居合わせたお客さんが、高橋さんにも射してもらったら、というと、これはおれが射したあとだから、病気うつっちゃうよ、まずいよ、といって笑っている。

 「これは先にいくほど細くなっている。うちではテーパー状といっているんだが、先端の刺さるところは、0.2ミリ。おれは科学者じゃないからわからないんだが、流体力学からすると、この形だと、液がスムーズに流れるというんだ。先生のやっている針は元も先も太さは同じだから、抵抗を食うんだね。それも痛くしないために、先っちょを細くしているんだね」

  「それは、テルモの方が、ちょっと高いからなんだ。利ざやを考えると、病院にとっては他のものの方がもうけられるんだ」
  2005年9月にTBSで放映された番組に出演した岡野さんは、自宅で短いビデオを見せられる。
 そこにはインシュリン依存型の糖尿病で苦しんでいた小学生が、岡野さんの開発した注射針を、はじめて射したときの感想を述べていた。
 「全然痛くなかった。つくってくれた人、ありがとう」
 そう少年はいっていた。それを見た岡野さんは、思わず胸が熱くなった。
 「職人が子どもにありがとう、といわれたんだ。生きていてあんなに感激したことはなかった」

3.モバイルの風を起こすのはだれ ― FON、iPhone、イー・モバイル(3.14 nikkeibp.jp)
 どれほどユニークなプロジェクトであっても、市場の動向や投入タイミング次第で将来性が違ってくるものだ。そうしみじみ実感するのが FON である。

 FON とは2004年にスペインでスタートした公衆無線LANサービスの一つだ。日本での知名度は現状ではいまひとつだが、海外ではまずまず成功を収めているといっていいだろう。世界での実績を見ると、アクセスポイントは約4万、会員数が約19万となっている。出資者にはグーグルやスカイプの名前も挙がっている。公衆無線LANのサービスを使えば、どこでも検索やスカイプ(インターネット電話)が利用できるので、両社が出資するのも当然ではあろう。

 その FON が昨年(2006年)末、日本市場に参入してきたのである。日本では2万から3万のアクセスポイントを目標にサービスを提供すると発表している。つい最近もISAOと提携した。ISAOはCSK系列のISP(インターネットサービスプロバイダー)で、名称は設立者の大川功氏(故人)にちなむ。これで ISAOの契約者も FON が利用できるようになったわけだ。

 もっとも、これまで日本市場に公衆無線LANのサービスがなかったわけではない。ISPやライブドア、パソコン周辺機器メーカーのバッファローなどがサービスを提供してきたのである。では FON はそれら従来のサービスと何が異なるのか。大きな違いはアクセスポイントの設置方法だ。

 従来のサービスでは、ISPなどの業者が駅や街角、喫茶店、ホテルなど、人の集まりやすいところにアクセスポイントを設置し、それを契約ユーザーが利用するという方法が取られていた。ところが FON では、アクセスポイントを設置するのは業者ではなく一般ユーザーである。一般のISPを使ってブロードバンド接続をしているユーザーが、自宅に FON に対応したアクセスポイントを設置し、それを他の FON ユーザーがアクセスできるように開放するのだ。つまり、自宅のブロードバンド環境を、行きずりの第三者にも公開してしまうわけだ。

 そして自宅のアクセスポイントを開放したユーザーは、他の家の FON のアクセスポイントが無料で利用できる。開放しなくても、月額料金を支払えば FON のアクセスポイントを利用できる。このように一般ユーザーのネットワークを使って、公衆無線LANを構築するのが FON なのである。アクセスポイントの設置には多大なカネがかかるが、これを利用者負担でやってしまおうというところがユニークな点である。スペインで2004 年にスタートした FON は、ヨーロッパを中心にかなりの勢いで普及しつつある。

 では、日本で成功するのだろうか。わたしは FON にコンセプトの面白さこそ感じるものの、将来性については疑問に思っている。その理由をこれから述べていこう。

公衆無線LANの利用率が減っている日本の事情

 まず、日本の公衆無線LANはどのような状況なのかを確認してみよう。

 各サービスのアクセスポイント数をまとめたのが以下の図だ。一番多いのは、バッファローが中心となって展開している「FREESPOT」だ。これは飲食店など人が集まる場所に設置されている無料のアクセスポイントだ。ほかにもソフトバンクテレコムの「BB Mobile Point」をはじめ、ライブドア、NTT系の各社がサービスを提供している。

 では、実際に公衆無線LANはどの程度利用されているのだろうか。これがなんと最近は利用率が減っているのが現実なのである。公衆無線LANの契約は増えているのに、利用者は減っているのだ。また利用している人の使用頻度を見ても、6割が「月に1回未満」で、「ほぼ毎日」というのは約6%という驚くべき低さだ。この利用頻度の低さは FON にとって大きな問題となるはずである。

 なぜこれほど公衆無線LANの利用率が低いのか。それは日本ならではの特殊事情が背景にある。日本ではブロードバンド料金が安く、都市圏では常時接続が当たり前だ。となれば「わざわざ外でインターネット接続しなくても」と考えるのは当然ではある。また、どこでもパソコンを使ってインターネットにアクセスしたいというヘビーユーザーは既にエアエッジなどのPHSを使ったカードを利用している例が多い。接続速度は32kbps−256kbps(W- OAM形式なら408kbps)で、速いとはいえないが、何しろ安い。

日本のモバイルを担うのは携帯電話

 もう一つ大きなポイントは、日本では携帯電話が発達していて、外出中はWebやEメールも携帯電話で事足りることが多いことだ。多くの人はパソコンに送られてきたメールなどを携帯にも転送している。だから、電車の中や喫茶店でパソコンを開く風景も、以前に比べていると減っていると感じられる。確かにホテルや空港のラウンジなどでは、パソコンを開いてデータを見る仕事もしたいので必要ではある。しかし電車や喫茶店でとなると携帯電話のほうが手軽だ。

 また、ホテルのようにじっくりインターネットが利用できる場所では、有線のLANケーブルが常備されていたり、既に無線LANのサービスが提供されていたりする。昔は料金も高かったのだが、いまでは無料のところも少なくない。つまり、外出中にパソコンからインターネットを利用したいというような場所は、既にアクセスポイントが設置されているのである。日本全国至る所でユビキタス環境が整ってしまった、と言い換えてもよい。

 それに対して FON の場合、アクセスポイントは個人宅が中心だ。つまり、住宅地である。そこで冷静に考えてみよう。はたして住宅地で公衆無線LANの需要はどれだけあるだろうか。もちろん自分の家の中では使うだろうが、住宅街を歩いていて、突然「今、公衆無線LANが使いたい」というケースはそれほど考えられない。だから、 FON の主体となる住宅地では利用頻度が低いと思われるのだ。

 スペインのように、熱狂的といっていいほどたくさんの人が加入している地域は、FON が非常に便利だと思う。またアジアでも韓国のようなブロードバンド先進国では、既に FON のアクセスポイントが約1万8000もあるという。仕事でスペインや韓国によく行く人であれば、FON に加入するメリットも高いだろう。しかし、日本国内だけの使用がメインという人にとっては FON のメリットは疑問だ。

 もう一つ懸念していることがある。FON をはじめ現在の公衆無線LANは、Wi-Fiという技術を使っている。しかし、今はWiMAXという次世代型の無線LANの技術が登場しようとしているタイミングである。通信速度は最大75Mbpsとされ、基地局から数キロはカバーできる。いまさらWi-Fiでシステムを構築しようとしても、普及したころには時代後れになっている可能性が高い。下図はそのあたりの技術の、分野ごとのカバー範囲を示したものである。

 わたしが FON のCEOの立場だったら、市場調査をした段階で日本参入は断念したに違いない。もしどうしても日本でサービスを展開するのであれば、無線ルーターでシェアの高いバッファローと提携して、その製品に FON の機能を埋め込んでもらうなどの対策を考えるだろう。
 
iPhoneの商標にこだわったアップルの先見性

 ここからジョブズがこだわる理由が見えてくる。おそらく彼は、若者にはパソコンなんて不要なのではないかと考えているのだ。そこでこれからの戦場は携帯電話と見ているのだろう。携帯電話かポータブル機器でパソコンにもなり、またiPodにもなる。1台ですべての機能を果たせる中核マシンとなる、あるいはそういう使い方をする世代が伸びてくると。
 

 4.自分の知識・スキルを電話で販売、新機能搭載のSkype 3.1登場(3.15 nikkeibp.jp)
ルクセンブルグのスカイプ・テクノロジーズは3月15日、IP電話ソフトウエアの最新版「Skype 3.1」の提供を開始した。今回新たに搭載したのは、友人同士でお店などの情報を共有できる「SkypeFind」と、自分の知識やスキルを電話経由で販売する「Skype Prime(ベータ版)」の2機能。

特に興味深いのが、Skype Prime。Skypeの全ユーザーに対し、自分が提供できるサービスを公開し、通話によってその知識やスキルを伝えることで、対価を得ることができる。例えば、英会話サービスや恋愛相談、パソコンの使い方相談などが考えられる。ただし、アダルトや医療、税金などの内容のサービスは提供できない。

5.第2回 企業システムとWeb、融合の構図(3.15 nikkeibp.jp)
時代の変化に柔軟に対応し、新たな価値を生み出そうとする企業は、社外の情報を含め、これまで埋もれていた情報を活用できるシステムを求める。その構築にあたっては「Web2.0」と総称されるインターネット技術が不可欠だ。米デルとカシオ計算機の取り組みから、企業システムとWeb2.0 が融合する構図を探る。

オペレーション・ルームに、アナウンスが響く。「レッド・アラートです。お客様IDは○○…」。スクリーンに大写しになっていた日本列島の衛星写真画像が拡大し、町並みが見えてきた。

 スクリーン内には赤い丸印が点滅している。担当者がカーソルを合わせると、社名や顧客ID、住所、製品名などが表示された。「住所は東京都港区○○です。急行してください」、「了解。30分で到着予定です」。マイクの向こうから、保守サービス担当者が答えた。

 ここは神奈川県川崎市にある、デル日本法人の企業向け保守サービス監視施設「エンタープライズ コマンドセンター(ECC)」だ。デル製サーバーやストレージの障害発生状況の監視、保守技術者や部品の手配、保守サービスの実施状況監視などを担う。「製品導入後の保守サービスは、顧客満足度を左右する極めて大きな要素。ECCは顧客と直に接する最前線だ」(眞砂良明カスタマーサービス本部エンタープライズコマンド センター所長)。
システム開発費を5分の1に

 米デルは2005年11月、ECCの監視システムを全面刷新した。米国、アイルランド、中国、マレーシア、そして日本と、世界5カ所にあるECC から、同じ監視システムを利用できる。この監視システムの開発にあたって、デルは米グーグルの力を借りた。障害の発生状況や保守サービス拠点を地図に表示する機能に、グーグルが提供する衛星画像の検索サービス「Google Earth」を利用したのである。
 

 ECCの監視システムのプログラムから、グーグルが公開している「WebサービスAPI」を使って、グーグルが持つGoogle Earthサーバーにアクセスし、衛星画像データを監視システムに取り込む。監視システムの画面に衛星画像を表示する時、社名、住所、製品の型番、保守履歴といった顧客情報や、デルの保守サービス拠点の情報を、衛星画像上に重ね合わせて表示する。この場合、デルが持つ顧客データベースなどから抽出した情報を、Google EarthのAPIを使って衛星画像上の吹き出しに挿入するだけでよい。Web上のサービスを組み合わせる「マッシュアップ」と呼ぶ方法である。

 デルがGoogle Earthを利用した理由は、世界統一の衛星画像データを使って、低コストかつ短期間で監視システムを構築するためだ。以前の監視システムを稼働させた時は、デルの各国現地法人が、各国で地図サービス業者から個別に地図データを購入し、ECCの監視システムに組み込んでいた。当然、国ごとにデータの詳しさが違うし、表示できる範囲も限られていた。「地図データ購入に多額の費用がかかる上に、各国のECCが別々に地図データを管理していたため、運用コストの面でもムダがあった」(眞砂所長)。

 Google Earthを使った監視システムの開発・運用コストは、「大まかに言って前システムの5分の1程度」(眞砂所長)。デルはGoogle Earthの商業利用ライセンスを購入しており、利用料金はクライアント1台当たり年400米ドル。「基幹業務に使っていることを考えると、タダ同然。本当にいい時代になった」(眞砂所長)。

 今後は、衛星写真に加え、地名や住所を表示できる地図データを、監視システムに組み込む考えだ。利用する地図サービスは選定中だが、グーグルが提供している「Google Maps」を選ぶ可能性が高い。「選択の基準は、高品質な地図サービスであり、全世界で同一の地図データを利用できること。となれば、自ずと選択肢は限られる」(眞砂所長)。
社内外の情報を見直す― カシオ計算機 ―

 大熊グループリーダーは、梅田氏がWeb2.0の本質として指摘した次の点に強い印象を受けた。「不特定多数の顧客がサービスを受けるだけでなく、新たな技術やサービスの開発に能動的にかかわってくる」といった内容だ。

 「ロングテール」と称される発想からも刺激を受けた。インターネットの世界では、それまで捨てられていたニッチな商品やサービスを事業として成立させるチャンスが出てくる。ビジネスの世界では「上位2割の顧客から利益の8割を得る」と言われるが、ロングテールは利益を生まないとされた8割に注目する。

 ロングテールと呼ぶようになったのは比較的最近だが、これは少し前のインターネット・オークション、今ならば米グーグルの検索連動広告で注目された考え方だ。これは、インターネット・ビジネスの世界でだけ成立するとされている。

 そこで大熊リーダーらは、ロングテールの考え方をカシオ流にそしゃくし、「見落としていた社内に散在する情報、社員が漠然と抱いているが形にできていない情報」だと結論づけた。

 生産、販売、会計、顧客に関し、さまざまな情報が蓄積されているが、事業予測や経営層の意思決定に役立っているかというと心もとない。「社内外の情報について、ロングテールの考えを取り入れて整理し直したい」(大熊グループリーダー)。

 埋もれていた情報の掘り起こしをどう進めるか。ソーシャル・ブックマーク、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)、RSSといった Web2.0の技術をまず評価し、適時採用していく。とはいえ「Web2.0を採用する」という意識はあまりない。カシオが2.0になれるかどうかが問題なのである。
 
 
 

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