「企業内データ・音声統合網の構築技法」
VoATM、VoFR、VoIPによる音声網再構築

松田次博著、日経BP社2000年1月刊

本書の特徴
@Voice over Packetsに1章をさき、VoPの仕組み、種々の音声劣化要因とその対策、VoATM/VoFR/VoIPの詳細を体系的に解説している。
A企業ネットワークの主役であるデータ系のレスポンス・スループットと音声系の品質を両立するための論理パス設計・帯域設計の手法を実際の大企業に近いモデルを設定し、ケーススタディ形式で計算過程まで含めて解説している(もちろん、同じモデルにATM、FR、IPを適用した3とおりの設計を解説しています)。
B企業ネットワークを単純な通信コストの削減という目的でなく、どんな観点から企画すべきかというヒントを第1章および第4章のケーススタディに盛り込んでいる。

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日経BP書店ネットワーク分野
 

以下、「はじめに」と目次を引用。

はじめに

 本書の目的はATM、フレームリレー、IPというパケット技術を使ってデータ・音声統合ネットワークを企画、設計しようとする方に基本的な「道具」と「ヒント」を提供することである。

  企業ネットワークに適用できるネットワーク技術と回線サービスは90年代後半になって激変した。大きくまとめると技術の流れはパケット化の進展、回線サービスは高速化と低価格化、とまとめられる。84年に高速デジタル回線が提供されて以来、企業のネットワークは音声系(電話・FAX)とデータ系をTDM(時分割多重化装置)で統合する方式が10年近く主流をしめていたが、90年代半ばになって高速パケット技術であるATMやフレームリレーによる企業ネットワークが構築されるようになった。その背景には技術的要因としてネットワーク機器用のMPUの高速化・メモリを始めとする半導体技術の進歩、それを活かす高速化やQoS(通信品質)制御に適したネットワーク技術(プロトコル)の開発がある。需要側の要因としてはWindows95を契機としたインターネット、イントラネットの普及とそれによる企業内のIPトラヒックの急増がある。

  高速化されQoS制御機能を持ったパケット技術はデータだけでなく、電話音声を扱うことも容易になった。そして2000年1月現在、データ・音声統合技術としてATMを用いるVoice over ATM(VoATM)、フレームリレーによるVoFRは既に定着し、IPを使ったVoIPが普及の緒についている。本書ではこれらパケット技術を用いた音声伝送をVop(Voice over Packets)と総称する。音声伝送とデータ通信には大きな性格の違いがある。データ通信が正確さ(ビット列を誤りなく伝送する)、レスポンス/スループットという客観的な尺度で評価できるのに対し、音声伝送は人間の聴覚によって音質が主観的に評価されることである。ここにVopの難しさがある。Vopを成功させるにはパケットによる音声伝送において音質を劣化させる様々な要因を知り、それを抑えるための設計手法や必要な機能を備えたネットワーク機器の選択、適切なインストールが出来なければならない。これらの手法が本書の提供する1番目の「道具」である。

 Vopは目新しいことではあるが、企業ネットワークの主役ではない。主役はPCを主体としたクライアント・サーバ型のコンピュータ・システムであり、イントラネットである。これらのアプリケーションではレスポンスやスループットといったサービス目標を満たすことがエンドユーザにとって極めて重要である。データ・音声統合の主たる目的は通信コストの削減だが、それを実現してもミッション・クリティカルなアプリケーションのサービスが低下したのでは本末顛倒である。アプリケーションのレスポンスやスループット目標を満たすようにネットワークを設計するにはデータ・音声統合網でどう考えればいいのだろうか?これに対する答えが本書の扱う2つめの「道具」である。

 そして、ネットワークを仕事とする我々にとって最も大切なのはネットワークの新しい使い方を提案することである。高速で安価になったネットワーク、すなわち豊富で安価なネットワーク資源をぜいたくに使うことでコンピュータ資源や人的資源を再配置して節減することも可能になっている。エンドユーザから与えられたRFP(Request for Proposal:提案要請書)に基づいて淡々とネットワークを設計する技術者は付加価値の高い仕事をしているとは言えない。システム全体のあり方や経営のあり方にinfluenceを与えるようなネットワークの使い方を企画・提案することが、これからのネットワーク技術者にとって最も大切な仕事だと筆者は考えている。そのための「ヒント」を少しでも提供できればと思っている。

 本書ではATM、フレームリレー、IPという3つのパケット技術を扱っている。これらは排他的な関係にはない。ユーザニーズによって適合する技術は変わるし、複数の技術を組み合わせることが最適な解であることも多い。要件を分析し適切な技術や製品を選択して設計する。この「選択」というプロセスがないのは何処かに「無理」や「無駄」を含んでいると私は思う。

 「選択」できるということは「自由」である、ということである。かつてメインフレーマー(大型汎用コンピュータのメーカー)全盛時代にはメーカーがサポートを打ち切ると言えば、したくもないOSのバージョンアップをし、高価なハードウェアを買わざるを得ず、独自プロトコルの世界に封じ込められて自由な機器選択もままならなかった。選択の自由が無かったのである。現在のネットワークの世界も同じ状況に陥りつつあるのではないだろうか?特定技術や製品への画一化は知らないうちにその信者を「選択する能力を持たない」奴隷にしてしまう。

 私はこれまでも、これからも中立的・客観的視点からお客様の要件に最適な技術・製品を選択し、ネットワーク機器も回線サービスも必要があれば何時でもスイッチ(他のものに入替える)できる設計を心がけたいと考えている。それがお客様に選択の自由を保証し、我々ネットワークを仕事とする者の存在価値を高める唯一の方途と思うからである。
 このような考え方に読者の方が賛同するかどうかは別として、この本が自由で客観的なネットワークの企画・設計に少しでも役立ってくれればと願っている。

 くしくもこの本の発行は新しいミレニアムが始まる日となった。新しい時代に参加でき、そこにささやかな記録を残せることを素直に喜びたい。前著に続き出版の機会を与えてくださった日経BP社出版局橋爪主任編集委員に深く感謝する。
 最後に常に私の支えである四人の家族、節子・力・陽平・将吾と、16年にわたってお付き合い頂いている情報化研究会の方々に感謝したい。
2000年1月1日
                                松田 次博
tuguhiro@mti.biglobe.ne.jp
http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/
情報化研究会ホームページ
                                

目次

推薦のことば
はじめに
図表一覧

第1章 企業ネットワーク構築の視点

1.1 企業ネットワークの進展

 電話主役の時代からPC主役の時代へ
 「画一的経済性追求」の時代(84年〜94年)
 「多様化と付加価値追求」の時代(95年〜97年)
 「帯域爆発と発想転換」の時代
 「高度利用と融合」の時代

1.2 企業ネットワーク構築の視点

 エンドユーザがネットワークに求めるもの
 技術革新の流れ−−糸電話方式からパケット方式へ
 回線サービスの多様化と高速化
 高速ネットワークが変えるコンピュータ・システムのあり方
 高速ネットワークとBPR
 ネットワーク・プラニングの視点

第2章 企業ネットワークを構成する技術要素

2.1 ネットワーク企画・設計のフレームワークとしてのOSI

 OSIの現在的意義
 OSIの仕組み
 物理層(レイヤ1)
   ●DTE/DCEインタフェース
 データリンク層(レイヤ2)
   ●HDLC(High-level Data Link Control)
   ●HDLCのモード
   ●HDLC-NRMのシーケンス例
 ネットワーク層(レイヤ3)
   ●パケット通信(X.25)
   ●VCとPVC/コネクション型通信
 トランスポート層(レイヤ4)
 セション層(レイヤ5)
 プレゼンテーション層(レイヤ6)
 アプリケーション層(レイヤ7)
 フレームワークとしてのOSI

2.2 TDM

 TDM(Time Division Multiplexer:時分割多重化装置)の原理
 TDMの特徴

2.3 フレームリレー

 フレームリレーの概念
 X.25とフレームリレー
 PVCとDLCI
 CIR
 輻輳制御
 LMI(Local Management Interface)
 SVC(Switched Virtual Circuit)

2.4 ATM

 ATMの概念
 ATMのプロトコル構造
 バーチャル・コネクションと通信の流れ
 ATMアドレス
 シグナリングとPNNIルーティング
 ATMサービス・カテゴリー
 サービス・カテゴリーとAALタイプ
 トラヒック制御

第3章 Voice over Packets

3.1 VoPの概観

3.2 VoPの基本構成

 (1)PBXなどとVoP-GWのインタフェース
 (2)送信側VoP-GWの処理
 (3)送信側ノード/中継ノードの処理
 (4)受信側VoP-GWの処理

3.3 VoPにおける音声劣化要因

 (1)VoPにおける主な音声劣化要因
 (2)遅延
 (3)パケット・ロス
 (4)エコー
 (5)レベル
 (6)周辺雑音と無音圧縮
 (7)その他の音声劣化要因

3.4 VoATM

 (1)VoATM概要
 (2)VoATMの特徴と留意点

3.5 VoFR

 (1)VoFR概要
 (2)VoFRの特徴と留意点

3.6 VoIPとH.323

 (1)H.323の概観
 (2)H.323プロトコル・スタック
 (3)VoIPの通信の流れ
 (4)VoIPにおけるQoS
 (5)VoIPの特徴と留意点

3.7 FAX over Packets

 (1)FAX over Packetsの仕組み
 (2)FAX over Packetsの留意点

3.8 VoATM/FR/IPの比較

第4章 企業ネットワークの考え方と設計のポイント

4.1 ネットワークのとらえ方

4.2 ネットワークのライフサイクル

4.3 ネットワーク企画・基本設計フロー

4.4 ケーススタディの状況設定

4.5 コンセプトの明確化

4.6 対象メディアの決定

4.7 システム要件=具現事項の整理

 (1)コンセプトから具体化される要件
 (2)性能・信頼性・その他の要件

4.8 ライフサイクルの設定

4.9 トラヒック分析

4.10 適用技術の検討

4.11 ネットワーク構成設計

 (1)トポロジー設計
 (2)帯域基本設計
 (3)待ち行列理論とレスポンス・タイム
   ●M/M/1モデル
   ●待ち行列理論の簡便化
   ●設計時のレスポンスのとらえ方
   ●CSSのミドルウェアとレスポンス
   ●ストア&フォワードとカットスルー
 (4)ATM帯域設計
   @ATMへの各種メディアの収容
   Aレガシー・データの帯域設計
   Bリアルタイム・データの帯域設計
   Cバッチ・データの帯域設計
   DCESの帯域設計
   E音声系の帯域設計
    ●必要チャネル数の決定
    ●接続方式/無音圧縮の採否/圧縮方式の決定
    ●無音圧縮を使用しない帯域設計
    ●無音圧縮を使用する帯域設計
   F中継回線帯域幅の算出
   G迂回トラヒックの反映
 (5)フレームリレー帯域設計
   @フレームリレー網設計の基本的考ヲ方
    ●ノード処理能力設計の留意点
    ●専用線か公衆フレームリレー網か
    ●音声用PVC(SVC)とデータ用PVCは分けるべきか,1本にすべきか
   Aデータ系帯域設計
   B音声帯域幅の算出
   C中継回線帯域幅の算出
 (6)IPネットワーク帯域設計
   @データ系帯域設計
   A音声帯域幅の算出
   B中継回線帯域幅の算出
 (7)回線設計
 (8)ノード設計
   @処理能力
   A各種パラメータの設定
 (9)信頼性設計
   @信頼性対策の考え方
   Aネットワーク機器のバックアップ
   B中継回線・アクセス回線のバックアップ
   Cネットワーク管理システム
 (10)ネットワーク構成設計のまとめ
   @ATMネットワーク構成図
   Aフレームリレー・ネットワーク構成図
   BIPネットワーク構成図
   C共通事項
   D次のステップへ

引用文献/参考文献/参考ホームページ
索引
著者紹介

 

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