間違いだらけのネットワーク作り(57) 99/01/02
「99年、企業ネットワークを楽しくするものは?」
 
 
 日経コミュニケーション誌(98.12.21)の予想では99年のLAN/WAN機器の市場規模は98年比26%増の3800億円とのこと。(絶対額としてあまりにも小さすぎるように思うのですが、こんなものなんでしょうか?)不況の中でも成長している、というのは情報通信の仕事をしている者としてよろこばしい限りです。
 
 今年もネットワークの世界はどんどん変化するのでしょう。変化は多いほどネットワーク作りの選択肢も増え、ビジネスチャンスも増え、ネットワークの仕事は楽しくなります。そんな中でも、これは楽しくなりそうだと思われるトピックスを思いつくまま並べて新年の記事にします。

1.目的の変化

 10年以上前からつい最近までTDMや交換機を使ったネットワークの目的は通信コストの削減でした。しかし、通信コストが安価になり同時に高速化できることが今では当たり前になりました。 ネットワークの高速性、経済性を活かすとコンピュータ資源、人的資源の再配置による効率化やBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)に役立てることができます。
 
 いまだに通信コストの削減だけをクローズアップして、「新しいネットワークを導入すると通信コストがこれだけ減って、3年で投資が回収できる」などと稟議書に書いているようではその企業のIT感度は低いと言わざるを得ません。また、通信費削減のためのネットワークを提案しているようなベンダーがいるとすれば・・・新年早々の悪口はつつしみましょう。

 
2.ATMのブレーク

 ここ数年のネットワーク・サービスの中で、私の仕事である企業のプライベート・ネットワーク構築にとって最もインパクトがあったのはNTTのATMメガリンクです。ATMメガリンクがサービスとして優れているのは本来は複雑な技術であるATMをシンプル化していることです。固定速度、固定接続(VP)でパイプを提供するから自由に使いなさい。SVCも、VBR・ABRといった余計なサービスクラスもない。私はネットワークに限らず、新しい技術や製品が普及する条件はシンプルで使いやすいことだ、という信念があります。いくら高度な製品やサービスでも複雑なものは受け入れられない。ATMメガリンクによって、ATMの中味など知らないユーザでも「安価で高速なパイプ」としてATMを使えるようになりました。

 ATMメガリンクを契機にNTT以外の通信事業者もATM専用サービスをはじめ、さらにNTTはATMセルリレーでの全国一律定額料金のVC単位のサービス、SVCによる従量制サービスをメガリンクより割安な料金で始めました。そしてATMシェアリンクというベストエフォート型のより安価なサービスの開始。

 安価になったのはATM回線だけではありません。ATM交換機をはじめとするATM対応機器も数年前と比較して随分安くなりました。現時点では大企業のネットワーク投資においてWANの基幹をになうATM交換機が占める比重はLAN機器よりもはるかに小さくなっています。「ATM機器は高い」という時代は終わりました。

 99年は安価で多様になったATMベースの回線サービスと機器を組み込んだ企業ネットワークがブレークするでしょう。

3.ATM vs. IP

 ATMとIPとどちらが企業のプライベート・ネットワークの世界で勝者になるか?ATMです。少なくとも今後数年間は。現時点では「ATM vs. IP」などという勝負自体が成り立ちません。

 この点に関してもNTTは大きな貢献をしました。ATM回線サービスという具体的な貢献より、さらに大きな貢献です。それは今後10年間、電話網のバックボーンは従来のSTMを、高速マルチメディア網のバックボーンはATMを使うことを宣言したことです。

 変化することは楽しいことです。しかし、変化しすぎると「混沌」という非効率、無駄をまねきます。NTTのこの方針によって少なくともWANのインフラ技術としては当分ATMで大丈夫だという安心感をユーザにも、私のようなSI業者にも、そしてATM機器を製造するベンダーにも与えました。激しい変化の流れの中で、少なくとも軸足を置くべきところが一カ所はっきりしたのです。10年間はともかく5〜6年はATMで大丈夫だな、と思ったのは私だけではないでしょう。

 米国ではSPRINTのようにATMでマルチサービスを提供して行こうという通信業者とLEVEL3のようにIPで電話も何もかも提供しようと目論んでいるところがあります。しかし、IPで電話サービスまで提供しようとしても現在の技術ではQoSの保証があまりにお粗末でビジネス・ユースに充分とはとても言えません。これについてはルータによる音声・データ統合の実力ということで次項で述べたいと思います。

 IPでマルチサービス何てアメリカだけのことかと思っていたら日本テレコムが同じことを2000年から始めるとのこと。IPベースのインフラはコストがATMベースよりはるかに安いと言いますが、実際にそうなるのでしょうか?最も投資の大きい光ファイバ等の伝送設備はATMだろうと、IPだろうとWDM(波長分割多重)でコストダウンがはかれます。加入者線はxDSLでコストダウンできます。SPRINTはATM派ですが、WDMとADSLで従来の電話より安価なマルチサービスを実現しようとしています。

 ATMとIPを比較して差がでるのはQoSのためのコストでしょう。ATMはその仕組みが完成しています。ATMをインプリメントする機器が普及すれば交換機等の機器もさらに安価になるでしょう。一方、IPにおけるQoSはまだまだこれからです。ATMと同等のきめ細かいQoSを実現しようとすれば、IPノードが持つソフトウェアも複雑で大きくなりコストが高くなるのは当然です。 IPの良いところは「いい加減だけど、安くてシンプル」というものでしたが、ATMのマネをすると自分本来の良さを失うのではないでしょうか?RSVPだ、ポリシー・ルーティングだ、MPLSだ、Diffserveだ、とIPの世界は今でもATMより複雑になったと思いませんか?

 私のようなSIの立場で言えばATMだろうがIPだろうが、どこの製品だろうが、自分のやりたいことをより安価に実現できるものを選択すれば良いのですが、完成された技術で、ATM回線サービスの普及によって機器も一層安くなることが予想されるATMを捨てて、IP製品でのネットワーク構築をする理由は当分見つかりそうにありません。

 そんなことを考えていると、また米国発のニュースが飛び込みました。通信事業者、機器ベンダー24社によってATMベースで音声、IP、ビデオなどを統合し、ネットワーク機器を相互接続するための仕様を規定するMultiservice Switching Forum( http://www.msforum.org/ )が98年11月に設立されたとのこと。そのミッションステートメントを引用しましょう。

          The mission of the Multiservice Switching Forum (MSF) is to
                      define:

                      (1) an architecture that separates the control and user/data
                      plane aspects of an ATM-capable Multiservice Switching System
                      and establishes a framework which can be easily extended to
                      support new user/data plane and control functions

                      (2) a set of open intra-switch interfaces and promote
                      implementation agreements for these interfaces that allow
                      service providers to deploy ATM-capable Multiservice Switching
                      Systems composed of best-of-breed components from multiple
                      vendors.

 米国でもマルチサービスはATM、というのが主流になりそうですね。面白いのは日本テレコムと組んでIPベースのインフラを作るベンダーが、MSFにも顔を出していること。

 IPでのマルチサービス?売れ行きの鈍ったルータを売るために音声を無理やりルータで統合するのと同様で、世の中に+になる変化を起こすのか、「混沌」をもたらすのか分かりませんが、興味を持って見届けたいと思います。

4.Voice over Packetsの行方

 結論から。大企業ではVoATM/VoFRでないと音声品質に対する要求は満足できません。また、現在のVoFRやVoIPの可能なFRADやルータだけで大規模なネットワークを構築するのは無理があります。SVCや独自方式による電話交換機能を内蔵したATM/FR交換機を核にしないと規模と品質の両立はできません。理由はこのシリーズの記事の中で繰り返し述べてきたのでここでは書きません。

 ちなみに日経コミュニケーション(98.12.21)で「フレームリレー・ノード」として取り上げられていた機器はノードというより、FRAD(アクセスデバイス)です。大規模なネットワークは無理です。いつも思うのですが機器を取り上げるなら、どうしてもっと網羅的に公平に取り上げないのでしょう?

 私はエンドユーザの方によく申し上げるのですが、クルマにグレードがあるようにネットワークにもグレードがあります。軽四レベルのネットワーク、カローラ・レベルのネットワーク、クラウン・レベルのネットワーク、製品によって明確な差があります。自分の求める品質や性能のグレードをエンドユーザが明確にするのは困難です。SI業者や機器ベンダーが理解できるように説明し、納得して貰う必要があります。

 以前このページで取り上げた事例のように、「無音圧縮で回線が効率的に使えます」といって売っておいて、動かしてみたら音質が悪いから無音圧縮を止める、というのではベンダーの責任を果たしているとは言えないでしょう。
 

 さて、グレード別ネットワーク、現時点では大企業にはATMがベストでしょう。IPでデータ・音声統合なんて、今のルータの実力ではせいぜい10カ所未満の小規模ネットワークでどうか、というところでしょう。小型のFRADやルータだけで規模の大きなネットワークを作るとどうなるか、最近またトンデモナイ情報が飛び込んできました。

 規模が大きいといっても20サイトほどのネットワークです。公衆フレームリレー利用。本社のIP用のルータと音声用のルータは別。公衆FRへの回線も別々に2本。IP用のPVCは本社から各サイトへ1本づつ。ここまでは普通です。ビックリしたのは音声用PVCの使い方。各サイトは自分以外のサイト全てに対して1本ずつ、19本の音声用PVCを張っているのです。PVCの本数はIP用19本、音声用は19+18+・・・+1=190本。

 公衆FRの料金がPVC数にほぼ比例することを考えるとトンデモナイ。これではデータ・音声統合ができているとは言えないでしょう。このルータの電話交換能力が充分なら、本社のルータから各支店のルータへ音声用PVCを1本づつ張ればOKなのですが、それが可能な能力がないのでしょう。

 FRADでもこれと同じようなPVC設計をしている事例(約30サイト)を知っています。クラウンでないと満足させられないお客様を無理やり軽四に詰め込んでいるようなものですね。機器費用だけは安いでしょうが、品質・拡張性が満たせないだけでなく、回線コストも安くつくとは思えません。

5.国産メーカーのLAN機器自社開発

 最近のニュースで私が良かったなあ、と思ったものの一つ。NECがLAN機器を自社開発路線に転向。日立は自社開発のハイエンド・ルータGR2000を発表。富士通は元々自社開発ですが、新シリーズのルータを発表。

 メーカーが自分で製品を作る、当たり前です。当たり前ですが、ネットワーク機器の世界で日本で一番大きなカスタマー・ベースを持っているNECが米国製LAN機器の国内最大手ディーラーだった。それが自社開発に転換したことは、日本のLAN機器市場の流れを大きく変えると思います。LAN機器のコンペをやったら製品は皆同じで価格しか決定要素はなかった、なんてツマラナイ話もこれからはなくなるでしょう。

 国産大手3社がすべて自社開発中心になったことで、LAN機器はより良く、日本の環境により適合したものが
どんどん登場することが期待できます。米国の後追いばかりでなく、独自性のある高品質で安価な製品を提供して欲しいものです。
 

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