間違いだらけのネットワーク作り(52) 98/11/21
「無音圧縮を止めて音質改善」
 
 9月にルータを使って本社と20カ所ほどの支店等の間でVOFRを始めた大阪の方から、経過の連絡がありました。話し始めの音声が消える、という現象が長い間解決できないでいましたが無音圧縮を止めると改善されたそうです。改善されたこと自体は良いことですが、ここから技術的な問題と契約的な問題が派生します。

(1)技術的問題
 無音圧縮を使う場合と、使わない場合を比較するとどんなVOFR/VOATM製品でも使わない方が音質は向上します。これは話はじめに限りません。無音圧縮は有音か無音かを装置が検出し、有音の時だけ音声をデジタル化してフレームやセルのペイロードとして転送します。しかし、有音検出は100%完璧には出来ないのです。その不完全さが音声のトギレや雑音の要因になります。
 無音圧縮を使わない場合は電話の呼が張られた瞬間から、有音・無音にかかわらず8kbit/sのCS−ACELPなら1秒間に8kbitのペイロードが転送されます。オーバーヘッドを含めると通話中は10kbit/s強の帯域が確保されることになります。有音の検出をしませんから、それに伴う問題も発生しないのです。
 ただ、VOFRで音質が悪くなる要因は他にもありますから、無音圧縮を止めさえすれば音質が良くなるというものでもありません。

 無音圧縮を使わない場合の技術的問題は帯域利用が非効率になること、装置の処理負荷が倍増することです。帯域利用が非効率になるのは言うまでもありません。通話の有音率は50%以下といいますから、無音圧縮を使わないと2倍以上の帯域が必要になります。

 もっと深刻なのはルータへの処理負荷です。音声フレームは遅延を少なくするため普通20ミリ秒程度の単位でデジタル化され、転送されます。8kbit/sCS−ACELPなら、8kbit×20ms/1000ms÷8bit/バイト=20バイトの音声ペイロードがフレームに格納され、1秒間に50フレーム転送されることになります。上り/下り両方向とも同時に転送されますから、ルータでは通話1チャネルあたり50×2=100フレームの処理負荷がかかります。

 大阪の方のネットワークでは各支店2チャネル程度の電話を収容しています。ネットワーク構成は本社を中心としたスター状です。通話は全て本社のルータを経由することになります。仮に全社で同時に20チャネルの通話が使われると本社のルータには音声だけで20×100フレーム=2000フレーム/秒の負荷がかかります。
 もちろんルータなのですから本来データが沢山流れています。はたして本社のルータは充分な処理能力があるのでしょうか?担当の業者はルータの処理能力を明確にしていないようです。

 処理負荷の問題は潜在化してユーザに分からないことがあるので注意が必要です。回線ネックが処理負荷を軽減することがあるからです。このネットワークでは本社と支店間で公衆フレームリレーを使っています。本社と公衆フレームリレー網間の回線速度が小さすぎる懸念があります。ここがネックになっていると、そもそも音声の必要帯域が確保できませんから、電話をかけてもルータは呼の設定ができません。ビジー音(話中音)が返されることになります。電話がつながらないのですから、負荷はかかりませんが「使えないネットワーク」になります。恐いのは使えてないのに、「話中が多いなあ」と思うくらいでユーザが気づかないことです。

 大阪の方のケースも本社と支店間で同時に何通話使えるのかテストすることをお勧めします。

(2)契約上の問題
 契約上の問題とはこのネットワークを提案し設計した業者が提案時点の約束を果たしているかどうか、ということです。おそらく売り込みの時には「無音圧縮で回線が効率的に使えます」というのをセールスポイントにしていたでしょう。事前のデモも無音圧縮を使っていたでしょう。でも、実際には無音圧縮は使えなかった。

 ユーザは余分な帯域を使うか、帯域を増やさないなら「つながらないネットワーク」にあまんじることになります。
また、装置の負荷も増えますから、無音圧縮を使う場合に比べればネットワークの拡張性が損なわれることになります。

 これらのユーザの損失に対して業者がどう責任を取るか、というのが契約上の問題です。提案時点から無音圧縮を使わないことを前提にしていれば何の問題もありません。設計し、ネットワーク構築まで終わって「作ってみたら音質が悪いので、無音圧縮を止める」というのが問題なのです。
  
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