間違いだらけのネットワーク作り(764)2012/12/08
書評「ビッグデータがビジネスを変える」

 今週はいつもとは毛色の違った提案や、打合せをしま した。 一つはコンテンツ 配信サービスの提案で、もう一つはセンサーネットワークの話です。  企業ネットワークだけを見ると、「ツルハ・モデル」といった新しいアイデアで差別化 する余地は少なくなっています。 2年前から始めたiPadアプリもそうですが、ネットワークに近接する領域にも手を広げていかないとネットワーク・ビジ ネスは先細りします。  コンテンツ配信もセンサーも遅ればせながら、の感はありますがその一環です。  センサーをやっている人との打ち合わせは面白い ものでした。 

 さて、情報化研究会の創立以来のメンバーであり、京都研究会等でも講演していただいている稲田さんが、9月に総務省を官房審議官で退官し、11月に東京 大学先端科学技術研究センター特任教授に就任されました。  同時に「ビッグデータがビジネスを変える」という著書を出版しました。  今週はその書評を 書きたいと思います。


書評「ビッ グデータがビジネスを変える」(稲田修一著、アスキー新書、2012年12月10日刊)

 この本は著者の「ビッグデータで日本の企業や社会を復活させたい」という熱意が全編から伝わってくる好著です。 ビッグデータとは何か、 その活用がビジネスをどう変えるのか、その実現のために誰が何をしなければならないのか、豊富な事例と著者の経験・知見をもとに分かり易く述べられていま す。 この本を読むべきは先ず経営者や行政担当者であり、マーケティングやICTにかかわるビジネスマンであり、イノベーションに関心を持つ学生であり、 ビッグデータの恩恵を受ける一般の人です。 

 情報通信技術(ICT)の目的は効率化やコスト削減から、新しいビジネス・モデルの創造や付加価値の実現に変わった、というのがこの本の根底にありま す。 しかし、日本の企業や行政機関の経営者や行政官はそのことに気づいていません。 相変わらずICTを省力化やコスト削減中心に考え、その結果、 GDPに対するICT投資の割合は欧米5%に対して、日本は3%。 しかも、欧米は増加傾向にあるのに日本は減少傾向だそうです。  実際、企業では ICT予算を削るとシステム部長が褒められるような状況になっていますね。 

 新しいビジネス・モデルや付加価値創出のための切り札がビッグデータです。 ビッグデータとは「ビジネスに活用することが可能な大量の情報の集積」で す。 これに、それを活かす「アイデア」が加わると、大きなビジネス・モデルの変革が実現されます。 数多くの事例が紹介されている中で、印象に残ったの は冒頭部分で触れられているクックパッド、日本酒酒場、スヌースの3つです。

 クックパッドは既に高い知名度があり、使っている人も多いでしょう。 利用者が投稿した料理レシピを集積したサイトです。 2012年7月時点でレシピ の数は127万品、利用者は月2000万人以上、20代女性の90%、30代女性の77%が利用しているそうです。 主婦が考えて実用的=手間のかからな い、おいしい料理のレシピがあるのが魅力のようです。 クックパッドは1998年創業。 レシピの数が20万件に達したのは9年後の2007年、20万件 から6倍の現在の数になるにはわずか5年しかかかっていません。  「情報が情報を呼ぶ」のですね。 数が増えれば便利になるから利用者が増える、利用者 が増えれば投稿が増え、さらに便利になる。 ビッグデータは寡占化しやすい、早くデータ集積の仕組みを作った企業が有利ということがよく分かります。 ど んな時間帯にどんな端末から、どんなレシピにアクセスされたのか、食品メーカーや食材生産者にとって、あるいは主婦に効果的なプロモーションをしたい広告 代理店等にとって価値の高い情報が生まれています。  ネットスーパーとか宅配と結びつくと簡単に新しいビジネスが生まれます。

 ビッグデータは大企業のものか、否、という事例が個人がやっている日本酒酒場です。 日本酒を専門に扱った口コミ・評価サイトです。 サイトに登録した 約1400人の日本酒愛好家が全国のお酒の評価を書きこんでいるのです。  日本酒ランキングは客観性を保つために独自の計算式で算出、と書かれているそ うです。 200位までのランキングが掲載されています。 酒造業と利害関係のない、消費者が客観的に評価を書いているのが価値です。  都道府県別ラン クや飲食店情報も魅力があるとのこと。 

 スヌースはワイン専門のソーシャルメディア・サイトです。 英語版のみで、世界を対象に口コミや評判を集積し、数百万のレビューと数十万種類のワインを 網羅。 一万を超えるワイン流通業者にアクセスでき、実際に購入できるそうです。 このサイトの客観的な消費者の評価情報はワイン生産者や流通業者に対す る力になっているそうです。 品質の意図的な低下(詳しくは本を読んでください)を防止できるのです。

 この3つの事例は稲田さんを知る者にはなるほど、と思えるのです。 稲田さんは2006年から09年にかけて関西に単身赴任されており、その時期にクッ クパッドの話を聞いたことがあります。 自ら使っていたのでしょう。 同じ時期に休日には日本酒の造り酒屋を巡っているという話も聞きました。 2009 年夏には丹波の伊根にある造り酒屋を研究会旅行で訪問したこともあります。  稲田さんは大のワイン通なので、スヌースはふだんから使っているのでしょ う。  著者が自ら体験したこと、強い興味や嗜好を持っているものを題材にしているので、書いてあることに説得力が出るのです。

 ふつうの官僚や東大教授では書けない本です。 強く、お勧めします。
 
全体像をとらえていただくため、目次を書いておきます。

1.ビッグデータが変えるマーケティング
  行動履歴情報を活用する=アマゾン、集合知を形成さらにマーケティングも=クックパッド、他
2.ビッグデータが変えるものづくり
  建設機械の保守・運用に付加価値=コマツ、他
3.位置情報が生み出すビジネス・イノベーション
  タクシー業界、NTTドコモ、他
4.ビッグデータが創るサービス
  翻訳、異変の察知=クレジット会社、他
5.コンテンツ・ビジネスの進化とビッグデータ
  オンデマンド化で定着する持たない自由、他
6.ビッグデータにより進展する情報革命
7.ビッグデータで解決する社会問題
  医療、健康管理、他
8.ビッグデータの活用法
9.ビッグデータを制する者が世界を制する
  必要なのは危機意識と責任感
 
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 tuguhiro@mti.biglobe.ne.jp


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