間違いだらけのネットワーク作り(512)2007/11/12
記事評「これがワイヤレス・ブロードバンドだ」

  おだやかないい天気の土曜日、いつもどおり気持ちのいい引きこもり生活を楽しんでいます。 先週ここに書いた、拙著にサインを求められた方、お 二人が記事を読んでメールをくれました。 お一人は新しい固い本を待っていますという内容。 もうお一人は私の情緒的な文章がいいので、気にせずやわらか い文章を書いてくださいというものでした。  技術的で固い内容でも、文学的なものでも読んでくれる方がいるのはありがたいことです。  今週書き上げ た、11月のITpro版間違いだらけのネットワーク作りは、思いっきり情緒的なものにしました。  11月26日に掲載されるので、お読みください。

記事評「これがワイヤレス・ブロードバンドだ」(日経コミュニケーション 07.11.15)

 日経コミュニケーションも、私と同様、これからは光ファイバでなくワイヤレスだ、と考えているようで興味深い特集を書いてくれました。   ちなみに、来年1月30日から2月1日まで開催されるITproEXPO(NET&COMのリニューアル版)では「ネットワーク最前線」という主催者展 示コーナーで「ワイヤレス祭り」(これは私が勝手に呼んでいるだけです)が行われます。 私はそこにワイヤレスを光ファイバやADSLの代替に固定通信で 使うためのルータの展示と、プレゼンをします。  残念ながら講演はしないのですが、短時間(20分)でインパクトのあるプレゼンをするつもりです。 ど んどん、ワイヤレスを盛り上げたいものです。 ちなみに、私が「ワイヤレス・ネットワーク」という言葉を使い、決して「モバイル」と言わないのはワイヤレ スはモバイル(移動通信)とフィックスト(固定通信)の両方を含むからです。  私はFixedでの用途が相当広がると予想していますし、 広げたいと思っています。

  この特集記事ではワイヤレス・ブロード・バンドの特徴を「オープン」であることだとしています。  従来のケータイ・オペレータがネット ワークから端末・アプリケーションまで垂直統合・支配するやり方と180度ことなり、ワイヤレス・ブロードバンド業者はネットワークの提供に徹し、端末や アプリケーションはオープンなインタフェースで自由に参入できるビジネスモデルです。 それによって、ワイヤレス業者、端末メーカー、アプリケーション事 業者、さらにはMVNO事業者が共存共栄できるエコシステムを目指すのです。

 ここで2つの疑問があります。 まず、アプリケーション事業などというのがワイヤレス・ブロードバンドで成り立つのだろうかということです。   ADSLと同じ水平分散・オープンモデルなのですが、ADSLが成功したのはインターネット・アクセスサービスとしてであって、ADSL網の上でしか使え ないアプリケーションがある訳ではありません。 アプリケーションやサービスはインターネット上にあるのであり、ユーザがワイヤレス・ブロードバンドに求 めるのは快適で安価なインターネット接続でしょう。 記事にあるとおり、ワイヤレス・ブロードバンドはベストエフォートであり、QoSを必要とする電話は 対象としていません。 アプリケーション事業者にしてみても、ワイヤレス・ブロードバンド・ユーザだけでなく、ADSL、NGN、3Gなど、どんなネット ワークからでも使える方が、ユーザを増やす上で有利です。 それにはインターネット上でアプリケーションを開発するのが一番です。  YouTubeや SalesForce.comがインターネットからNGNやワイヤレス・ブロードバンド網に引越して来て、NGNでしか使えないAP、ブロードバンド・ワ イヤレスでしか使えないAPを提供するなど考えられません。 

 つまり、アプリケーション事業者やコンテンツ事業者がワイヤレス・ブロードバンドのエコシステムに加わってメリットがあるとは思えないのです。 イン ターネットでサービスしておけば、それをワイヤレスから使おうが、NGNから使おうがどうでもいいことだからです。 TBSなどがワイヤレス・ブロードバ ンド会社に出資している狙いが分からないですね。  NGNは需要がどれだけあるかは別にして、インターネットより高品質なサービスが出来るので「NGN でしか使えないサービス」は出てくると思います。 ベストエフォートなワイヤレス・ブロードバンドはインターネットと同じなので、ワイヤレス・ブロードバ ンドでしか使えないサービスは意味がありません。

 二つめの疑問はエコシステムにユーザが入ってないことです。 エコシステムで一番重要なのは、その参加者たちが成長するための売り上げをもたらすユーザ です。 ユーザがそのエコシステムに入るには、3GやNGNにはないワイヤレス・ブロードバンドならではのメリットがなければいけません。 快適で安価な インターネット接続を使いたいというのがユーザの一番のニーズです。  それを3Gより快適で、安価に提供できることがワイヤレス・ブロードバンドの課題 です。  3Gはイー・モバイルのサービスが下り3.6M/上り384Kで月額約5000円。 1、2年のうちに最大速度は20M程度まで速くなることが 予想されています。  さらに、2010年には3.9Gで100Mになろうとしています。  

 ユーザは今持っている3G端末や3Gカードを捨てて、ワイヤレス・ブロードバンドに乗り換えるでしょうか? あるいはこの特集記事にある「セカンド端 末」を購入し、それでワイヤレス・ブロードを使うのでしょうか?  セカンド端末を持つ、ユーザのメリットは何でしょうか?  音楽プレーヤーやゲーム機 が想定されているセカンド端末に月額3000−5000円のコストをプラスαで支払うメリットはあるのでしょうか?  かなり厳しいと思います。  

 この特集ではウィルコムの次世代PHSについてはほとんど言及されていません。 WiMAXが世界的なフォーラムが結成され、「オープン」であるための 基礎が出来ているのに対し、次世代PHSは独自性が強すぎるからでしょうか。  もう一つ気になるのは現在のPHSの後継として電話サービスをすること、 そのためベストエフォートでなくQoSを保証する仕組みが必要で、コストが高くなることです。 いつでも、どこでも快適にインターネットを使いたい、とい うユーザの最大のニーズに焦点を合わせるWiMAXと違い、インターネット接続も、電話も、というのは中途半端な気がします。

 いずれにしても、ワイヤレスの世界が進化と競争の時代に入ったことは間違いなく、ユーザの立場である私は大歓迎です。 固定通信は1994年のフレーム リレー、1997年のATM、1999年の広域LAN(クロスウェーブコミュニケーション)、2000年のIP−VPN(日本テレコム)と進化し、高速化 と低価格化が進み、競争に敗れたいくつかの事業者が消えていきました。  これからワイヤレスで同じことが起こります。  事業者にとっては大変ですが、 ユーザにとってはその変化の中で利益を享受できるいい時代です。


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