間違いだらけのネットワーク作り(511)2007/11/10
「新世代ネットワークはSF的」

 今週もいくつかのお客様と会話をしました。  けっこう実りのある会話で、そうだったんだと気づかされたことが一つ、ハッとするアイデアに結びつ いたのが一つありました。 どちらも商売ネタになることなので、ここに書けないのが残念です。  口にしている方はまったくことの重要性には気づいておら ず、打ち合わせの主題とは関係ないので会話はそのまま流れていきます。 しかし、帰りの電車の中で、私は例の薄っぺらいノートにキーワードを書きとめるの です。  お客様との接点から新しいアイデアが生まれるというのが私の持論なのですが、今週はまた新しい種が出来てうれしくなりました。  ちなみに、お 客様と関係なくアイデアが出来ることもあります。  その一例がモバイル用のデータ通信カードを、ルータに組み込んで固定通信に使う「ワイヤレス・ルー タ」です。 これは自分でイー・モバイルのカードを朝から晩までノートPCで使った経験から思いついたものです。 こんなに速くて長時間安定してつながる なら光ファイバの代わりに使おう、という発想です。 ワイヤレス・ルータは来年1月30日から2月1日まで開催されるITproEXPOで展示することが 決まりました。 


 もう一つうれしかったのはあるお客様との打ち合わせが終わったあと、その中のお二人が拙著「ネッ トワークエンジニアの心得帳」を持って来てサインを求められたことです。 こういうことはこれまでも何度か経験してるのですが、「そろそろ新しい 固い本も読みたいですね」と言われたのがうれしかったのです。  「心得帳」は日経バイトに連載していたコラムをまとめたもので、やわらかめの文章なので す。 固い本とは「フ レームリレー/セルリレーによる企業ネットワークの新構築技法」「企 業内データ・音声統合網の構築技法」「企 業ネットワークの設計・構築技法−広域イーサネット/IP電話の高度利用」という一連の企業ネットワーク設計についての本です。 つまり、これら の続編を読みたいということです。  今までの本は全部読んだそうです。  「そろそろ新しい固い本も読みたいですね」という言葉で目覚めました。 実は かなり前から新しい固い本を準備しているのですが、ネットワーク環境がどんどん変わるので手戻りが多く、停滞していたのです。 この一言で背中を押され た感じになりました。 

「新世代ネットワークはSF的」

 
総務省は11月6日、新世代ネットワークの実現に向けた取組を推進するため、「新世代ネットワーク推進フォー ラム」を設立したことを発表しました。  新世代ネットワークは「間違いだらけ のネットワーク作り(509)「NextGNからNewGNへ」で述べた、NewGenerationNetworkのことです。 NGN (NextGenerationNetwork)がIP化を主眼とするネットワークであるのに対し、新世代ネットワークは非IPで、IPネットワークの持 つ課題を解決しようとするものです。  以前書いた内容はNICTの稲田さんの講演をもとにしたもので、端末数、速度、セキュリティの限界を具体的にこう 解決するという分かりやすいものでした。

 ところが総務省の発表資料に参考で載っていた新世代ネットワークのレポート、「ネットワーク アーキテクチャに関する調査研究会」報告書を読んであぜんとしました。  現実から遊離したSFのようです。 新世代ネットワークが目指すのは 「超監視社会を実現するおせっかいネットワーク」です。  あらゆるところにセンサーがあり、人の位置や行動やバイタルデータは知らないうちにネットワー クに蓄積され、人の行動を予測したり、あなたはこうすべきだとアドバイスしてくれるようになるそうです。  つまり、すべての情報はネットワーク内のデー タベースに集中され、人の思考に代わって分析や判断がなされ、それを具現するアプリケーションもすべてネットワーク上にある。   

 私もネットワークの仕事が好きでやっているので、その重要性や役割が高まるのは歓迎なのですが、この報告書の新世代ネットワークは明らかにtoo  muchです。 こんなネットワーク上の住民にはなりたくないですね。  どこで何をしようが、知られたくもないし、自分がどうすべきか、などということ は自分の思考と好みで決めるものです。 

 ネットワークを専門としない人も入って検討された内容だそうですが、「すべてネットワーク上でやってしまうんだ」と考える人だけだったようです。  偏 りすぎですね。 アンチ・ネットワークな人も入れて考えるべきです。  自分に関する情報は自分で必要か、不要かを判断し、第三者がかかわれないコン ピュータに持ちたい。 アプリケーションだって、ローカルな独自なものもどんどん使いたい。 シンクライアントなんていらない。 そういう意見の人もたく さんいるでしょう。  ネットワークの役割を高めることが自分たちの役割を高めることになる人たちばかりで議論しても、ふつうのユーザ、というか自然な人 間にとって好ましい「新世代ネットワーク」になるとは思えません。 「ネットワークの役割を高める」という言い方はなまぬるいかも知れません。 この報告 書の内容は「ネットワークの神格化」あるいは「ネットワークの絶対化」に近いと思います。

 報告書の中から、「超監視社会を実現するおせっかいネットワーク」としての特徴を表している部分を抜粋します。

「ア ユビキタスアプライアンスとネットワークの連携により未来予測
街角や住宅内など、あちこちに設置されるユビキタスアプライアンスからの情報や、
活動情報(バイタルデータ)や行動履歴等をネットワークを通じて入手し、これらの情報
や過去における活動情報、さらにはこれまでの個人の経験からユーザーの行動を予測
することができるようになる。
また、ユビキタスアプライアンスとネットワーク上に蓄積されている「知の集合体」とが
連携することで、ネットワークがユーザーにアドバイスをしたり、さらにはユーザーの未
来を予測したりすることができるようになる。」(p.26)

「イ 行動履歴や環境情報の自動収集・記録技術及び未来予測技術
ライフログのようにユーザーが能動的に自分の行動履歴をネットワークに記録したり、
あるいは、センサーネットワーク技術が進歩して、個人のバイタルデータや環境情報を
自動的に収集し、ネットワークに蓄積したりすることが可能となってきている。今後、蓄
積された各種データを分析・加工し、ユーザーからの要求に応じて的確なアドバイスや
未来予測を返す技術が必要である。」(p.32)

 「知の集合体」の具体的説明はありません。 AI(人工知能)を持つコンピュータとデータベースの集合体でしょうか? まさにSFですね。  ありがた いですね、ネットワークが私たちの未来を予測してくれるなんて。

新世代ネットワークのアイデアの中には現実的で有用なものも、もちろん多いです。 たとえばネットワーク・ポータビリティ技術。

「ア ID ポータビリティ技術
新世代ネットワークにおいては、これまでの画一的なサービスでなく、個人の状況や
嗜好等に合った適切なサービスが提供されることが期待される。
これを簡単に実現する方法として、ユーザー毎に割り振られたユーザーID を利用す
ることが考えられる。ネットワークはこのユーザーID によって回線速度やQoS などのサ
ービスを選択して提供することが考えられる。具体的には、端末側のサービスとして個
人のID カードを共用端末にかざすことで、その端末上に個人の利用環境を安全に再現
するサービスが考えられる。
このようなID ポータビリティ環境を実現するためには、オフィスや家庭、モバイルなど
からのアクセス方式や利用状況に合わせたシームレスなアクセスを実現する技術が必
要である。この際、モバイル環境下等においてネットワークが切り換わる場合でも、シー
ムレスにサービスを受けるためにセッションを維持するための高度なネットワーク接続
や、ユーザー認証結果をネットワーク間で適切に引き継ぐ技術が必要である。」(p.30)

 これは私が繰り返し、いろんなところに書いたり、講演で言及している「今の電気通信番号は明治時代の考え方で、通信設備や回線を物理的に識別するもの だ。 固定は03、移動は090、FMCは060などと一人のユーザが複数の番号を使い分けるなどナンセンス。  ユーザを識別するIDが一つあって、 TPOで音声、映像、テキストなどの通信手段が使い分けるようにすべき」というのと同じですね。  実はそんなことはSkypeがSkypeIDでとっく に実現しているのですが。 

 ただし、引用文中の「ユーザーIDによって回線速度やQoSなどのサービスを選択」というのは間違いです。  同じIDでユーザ要求とネットワーク環境 とのネゴシエーションでサービス条件がその都度決まるべきです。 

 この報告書を読んで分かったこと。 我々ユーザはネットワークを神格化する人たちが行き過ぎないようにチェックし、無駄なこと不要なものにはNOと大声 で言わなければいけません。

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