1 始めに伝承文芸としての「昔話」は今や忘れ去られようとしています。いろりのそばでおじいさん おばあさん、両親から子へ孫へ、そのまた次の代へと語り継がれてきた文化は、テレビなどの 普及に伴いほとんど姿を消してしまいました。 かつて、岡山県と鳥取県の県境へ昔話の採話に行き、お年寄りの方に「昔話」を話してく ださいと頼むと、「そんな話をしたら嫁にしかられる」と言いながらも、うれしそ うに、恥ずかしそうに、いろいろな話を語ってくれました。多くのお話をテープに収め、書き取りを行っています。その中からも数話、このページで紹介しています。 日本の昔話の種類は,「日本昔話大成」の分類では,843話型(動物昔話117,本格昔 話312,笑い話627),「日本昔話通観」の分類では,1272話型(むかし語り479, 動物昔話166,笑い話627)となっています。 岡山県では,「岡山民話の会」の方々などのおかげで,第2次世界大戦前までの調査で,わ ずか180話にすぎなかった記録が,「日本昔話通観」岡山編(1979年)で660型, 2369話となっています。その後採集が進んでいますので,3000話以上にはなっている と思います。 このページで紹介するお話は、岡山県で採話されたものを基本としていますが、ほとんどの話は、日本各地でも聞くことができます。ただ、地域によって伝えられていくうちに、いろいろな習慣や考え方で微妙に変わっていっています。少し読みづらいかもわかりませんが、岡山弁で記載していきたいと思いますので、プリンタなどで印刷して読むことをお勧めします。 私の所属する、稲田浩二先生主催の「昔話研究会」は、月1回の定例会を行っています。研究会の話題なども紹介しながら、少しずつ、「昔話の世界」を紹介できたらと思います。 |
2 民話(昔話)の伝承について民話(昔話)の伝承形態は主として炉辺伝承ですが、村の色々な行事などでの周辺住民との交流や、交易・往来など季節ごとに訪れる職人や薬売りの人たちとの接触による伝承も重要でした。当時、大工等の職人は数日間泊り込みで仕事をするため、その家の人たちと夜を過ごし、珍しい話をせがまれることもしばしばだったようです。 岡山の蒜山地方を例にとると、 大工・・・・石州・石見地方から 左官・・・・伯耆から
屋根葺・・・備後・備中から 早乙女・・・伯耆から 田植婆さん・・・伯耆から 等、様々な職種の人たちによる「語り」で新しい話が広まっていきました。
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話し始めの言葉 | 結びの言葉 | 相槌の言葉 |
むかし。むかしむかし。 昔々なあ。その又昔の大昔。 ずっと昔のその昔。 昔々あるところに。 昔あるところにな。 なんと昔。 なんと昔があったそうな。 なんと昔があったげな。 なんでもな昔。 あるところに。 |
昔こっぷり。 昔こっぷりどじょうの目。 昔こっぷりどじょうの目くそ。 昔こっぷりどじょうの目玉。 昔こっぷりさんしょの芽。 昔こっぷりとびのくそ。 それ昔こっぷり・・・・。 せえで昔こっぷりじゃ。 こりゃまあ、これだき。 これもこれも一昔 ・・・・と。 ・・・・じゃ。 「昔こっぷり」は地域によって変化 し、「昔どっぷり」や「昔こっぽり」など と使われることがある。 |
話をしてもらう者(聞き手側)は、 相槌を入れる。「ふん」,「ふんふん」, 「ほーん」等で、「ほーーん」という ように長く言うのが話し手にとって話 しやすいという。 次から次に話を催促されて、話し 手がもう終わりにしたいときには、 「話ははげた、昔はむけた」等と言っ てその日のお話は終わりとなる。 |
書 名 | 編 者 | 発行所 |
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蒜山盆地の昔話 | 稲田浩二 福田 晃 編 | (株)三弥井書店 |
奥備中の昔話 | 稲田浩二 立石憲利 編 | (株)三弥井書店 |
日本の民話9山陽 | 稲田和子 立石憲利 編 | (株)ぎょうせい |
犬のごろたろう | 立石憲利 | 岡山県新庄村 |
しんごうの民話 | 立石憲利 | 神郷町教育委員会 |
砂鉄の村の民話 | 立石憲利 | 美甘村教育委員会 |
哲西・神郷町昔話集 | 採話集 | ガリ刷印刷 |
日野・日南町昔話 | 採話集 | ガリ刷印刷 |
岡山の民話 | 岡山民話の会 | 岡山文庫39 |
岡山の笑い話 | 稲田浩二 稲田和子 | 岡山文庫71 |
岡山のむかし話 | 岡山県小学校国語教育研究会編 | (株)日本標準 |
岡山県大百科事典(下) | 山陽新聞社出版局 | 山陽新聞社 |
岡山むかし話101選(上) | 立石憲利 | 山陽新聞社 |
岡山むかし話101選(下) | 立石憲利 | 山陽新聞社 |
桃太郎伝説の謎 | 山陽新聞社編 | 山陽新聞社 |
長船町史民俗編 | 長船町史編纂委員会 | 長船町 |
芳井の昔話 第一集・第二集 | 芳井町教育委員会 | 後月郡芳井町 |
民話集人形峠(岡山県上斎原村の採訪記録) | 立石憲利編著 | 上斎原村教育委員会 |
上斎原村の伝説 | 立石憲利著 | 上斎原村教育委員会 |
絵本岡山のむかしばなし | 岡山の昔話刊行会 編 | 山陽新聞社 |
母と子のための岡山のむかしばなし | 稲田浩二 監修 | 文教社 |
絵本日生のむかしばなし | 日生町郷土史研究会 | 日生町教育委員会 |
日本各地の民話(昔話)に関する書籍
「日本昔話ハンドブック」(三省堂)稲田浩二・稲田和子編 平成13年7月に出版されました。 (New) |
一冊で「日本の昔話」のすべてがわかる、最も正確で新しい小事典。昔話の誕生から今日に至る歴史、地域比較・国際比較、代表的昔話200のあらすじと背景、昔話の普及活動等を体系的に解説。図版も多数収録。昔話の誕生から今日に至る歴史、地域比較、世界の昔話との国際比較、代表的昔話200のあらすじと背景の解説、昔話の普及活動等を体系的に説明。貴重な図版も多数収録している。(三省堂のページから引用) 執筆 稲田浩二 第一部1・2・3・5 前田久子 第二部 山根尚子 第二部 福嶌 志 第二部 稲田和子 第三部1 筒井悦子 第三部2 河田則子 第三部3 鵜野祐介 第一部4・第四部 2001年 7月10日 発行 1,680(1,600)円 A5変 272頁 ●「日本昔話ハンドブック」(三省堂のページ) |
「かもとりごんべえ」(岩波少年文庫)稲田和子編 平成12年6月に初版が出版されました。 |
うまれかわった岩波少年文庫 岩波書店のホームページから購入できます。 013かもとりごんべえ―ゆかいな昔話50選― 稲田和子編 日本各地に伝わるユーモラスな昔話 「ねずみ経」「へやの起こり」「とろかし草」など方言を生かして選んだ楽しい50話 |
「日本昔話通観」全31巻(同朋舎出版)稲田浩二責任編集 昔話の集大成というべき書籍で、平成10年3月に全31巻が完結しました。 |
(朝日新聞の記事から抜粋) 全31巻、総ページ数2万5千という膨大な本が来年1月刊行予定の「研究編2」で完結する。 責任編集にあたった稲田浩二京都女子大名誉教授は「編集を始めて20年、当初は5,6年あれば と思って手掛けたことなのですが」と苦笑する。 昔話の資料としては、柳田国男「日本昔話名彙」、関 敬吾「日本昔話大成」がある。「通観」は、この2冊が出たあと昔話の調査が非常に進み、同時に昔話 がこれまでのように伝承されなくなってきている危機感のなかで編まれた。 29巻の「資料編」には収集された20万話のうち6万話が収められた。編集作業に百数十人、調査 にあたった人は数万人にもなる。 問い合わせ先:梅花女子大児童文学科鵜野研究室(0726-43-6221) 31巻はまだ残部があるそうです。購入希望の方は連絡をしてください。 |
書 名 | 編 者 | 発行所 |
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柳田国男全集 全32巻 | 柳田国男 著 | (株)筑摩書房 |
日本昔話100選 | 稲田浩二 稲田和子 編・著 | 講談社 |
子供に語る日本の昔話 @〜B | 稲田和子 筒井悦子 編 | こぐま社 |
天人女房 | いなだかずこ みやけただあき 編 | 温羅書房 |
日本昔話ばなし101 | 川内彩友美 編 | 講談社 |
昔話の民俗学 | 桜井徳太郎 著 | 講談社学術文庫 |
昔話のコスモロジー | 小澤俊夫 著 | 講談社学術文庫 |
日本の昔話上・下 | 稲田浩二 編 | ちくま学芸文庫 |
かもとりごんべえ−ゆかいな昔話50選− | 稲田和子 編 | 岩波少年文庫 |
現地録音 日本の昔話 CD6枚組 | 稲田浩二 監修 | バンダイ・ミュージックエンタテインメント |
研究書・紀要等
「昔話」とその周辺1〜5 | 筒井悦子 著 | 自費出版 |
「パロディソング」に見る 「子どものコスモロジー」 | 鵜野祐介 著 | 梅花女子大文学部紀要 |
チ・ランケ・ハル 日本農耕文化の二つの底流 | 稲田浩二 著 | 梅花児童文学 |
昔話「産神問答」(水の神型) と由来譚のこと | 酒井薫美 著 | 島根大学法文学部紀要 |
運定めの昔話「水の神」考 「立ち聞き者」をめぐって | 前田久子 著 | 梅花児童文学 |
5 その他
2001[good site]賞をいただきました。
掲載誌など |
岡山市 河田則子 (昔話研究会会員、アジア民間説話学会会員)