古屋の漏り(語り)

 漏るとは雨漏りのことですが、勘違いした動物たちがあわてる様子がおもしろいです。 ウサギのしっぽが短くなり、後ろ足が前足より長くなり、耳も長くなった理由が結末となっています。
 このお話は、昭和40年頃、岡山県でも有数の伝承者である八束村の池田たきのさん(明治19年生まれ)が語る お話を稲田浩二先生が採話されたものです。お話の中の擬声語・擬態語の語り口調がとてもすばらしいです。是非お聞き下さい。
 お話の音声を載せるにあたって、緋桜 明竜さん作の「LongRec」というソフトウェアを使いました。 60秒以上のWebファイルを作るために、大変役に立ちました。ありがとうございました。
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 に むかし あったところに、じいさんとばあさんと たいへん まずしい まずしい じいさんとばあさんと おったげなわい。こどものない人で、馬の子を飼うて、たいへん、自分の子のように かわいがって 大事い大事い 育てて、よう太らかいておったそうな。

 うしとったところが、冬がきて 毎日毎日 雪が降るようになって、雪が降るようになったら、 山のけだものが
 「まあ ほんに 今年ゃあ えらいことだ。毎日毎日 雪が降って ように早い 食い物が 無いことになって、 ように 困ったものだが、何とか いい 分別あ ないだろうかなあ」
言うて 、狐や 狸や 狼や みんな 寄りおうて相談をしたそうな。そがいしとったところが、猿が
 「そりゃあ 村へ出りゃあ じいとばあが 馬の子を飼うて、よう 肥やいとる。あいつう 行って 取って食うたりゃあええ。」
いうて 猿が言いだいた。
 「ふん、そがなよう、馬の子う 肥やいとるか」
 「そのもなあ、そいつう行って取って食うたりゃええがそえでも どがいして 入るだら」
いうて、言うたら、
 「ふん、まことに 貧乏な家で 屋根がいっぱい破れて、屋根へ大けな穴が開いとるけえ、どっからでも 入れらぁ」
いうて 言うそうな。猿が
 「ふん、そのもなあ 行こう。行こうや。早いがええわ。早う行こう。な、今夜行こう。」

 えから、狸や狐や、猿や、狼や、兎もおるし、ぞろぞろついて、やって来て、 そえから屋根へ這い上がって、屋根の破れ処(と)から入って、馬屋の上へ降りて、
「さあ、入るこたあ入ったが、これからどがいして あの馬の子を 取り出そうかなあ」
「ふん、それだっちゃあ。どがいして出そうか」
言よったところが、婆さんが目ょう 覚まいて、
「爺さん、爺さん」
いうて、言いだいたそうな。
「困ったもんだぞのう。こがに毎日毎目、雪が降りゃあ、むるが来るだが、困ったもんだぞのう、爺さん」
いうて婆さんが言うたそうな。そがいしたら爺さんが、
「ふうん、また今夜も むる かいなあ。困ったもんだなあ。何が恐とい かにが恐とい 言うたって、この世の中に むる ほど恐とい ものあ 無いわい」
いうて爺さんが言うた。
そがいしたところが、婆さんが、
「今夜あ 大方 むるだが、困ったもんだ。」
言うて、婆さんがそがいしょったら、その馬屋のそらの狐や狸が
「なんと爺と婆あと、『世の中にむるほど恐とい物あ無い』ちゅうが、わしらより恐とい物ちゃあ、どがいな 物だろうか。なんと ここへこがいしとって、むるに食われちゃあつまらんが、 馬の子を盗ろうと思うてってんが、むるい食われたあいけんけえ、去のうや」
言いだいた。
「うん それがええ 去のう」

 えでごそごそ そっと皆降りて、そえから、庭口の破れ戸を押しはずいて、出たところが 爺さんは馬の子が飛び出いたと思うて、
「やれ婆さん馬の子が飛び出いたぞ」
言うて、そえから、起き上げて 簑を着て、笠あかついで、みとれ雪が びたびたびたびた、 降りょるもんだけ、そがいして 馬の面形へ 鈴の付いたやつう 下げてそいで駈けって、 尻いついて行きょうござるところが、狐や狸や ピチャピチャピチャピチャいわして、 とっとっとっとっ駈ける。それへ爺さんもついて
「だあ、だあ、だあ、だあ、だあ、だあ」
言うて 駈けらさるところが、その面形の鈴が、チリンチリンチリンチリンいう。
簑がカサンカサンカサンカサンいう。
「そりゃあ むるが来る。早い駈けれ。そりゃあ むるが 追っかけて来るけえ 早い駈けれえ」
 一生懸命 狐や狸も、駈けって逃げるし、爺さんも一生懸命そりょう追うて行かさるし、 しょうったところが 山の奥い奥い 行きょったら、どこへ入ってしもうたか、ちょっとも足音がせんようにな った。

 てこの辺までは やって来たはずだが、確かにここらで、足音が聞えたが、 どこへ逃げただろうか。まあ、どがいなろうに。ここの木の株い 腰ゆう掛けて、様子う まあ見るだわい、 思うて 木の株い腰ゅう掛けて、煙草う、火ゅう打って、カチリカチリ 火ゆう打って、煙草に火ゅうつけて、 そいで待ちょうござったところが、穴の中では狐や狸が相談して、
「なんと むらあ 逃げただろうか」
「さあやな。どがいしただろうか。誰ぞちょっと出て、見てこいや。狐 お前は狡滑なもんだがな、お前出て見てこい」
いうて狼が言うそうな。
「いんにゃ、わしゃよう出ん。お前出るがええがな。こん中でお前が一番元気なだもの、お前が出て見りゃあええ」
「わしゃあ まあ よう出んじょ」
そない言うて狐が言うそうな。
「いんにゃ、あの、虎狼よりも恐といような、むるい、なんでわしがよう出ように。まあ、そんな、狸出て見い」
「いんにゃ。わしゃあよう出んよう出ん。わしゃあ、早あ そがいな所にゃ てんでよう覗かん」
いうて、狸が言うた。そないしはったところが兎がふだん、あんまり みんなの馬鹿い会うもんだけえ、 この時こそ、ちいとわしが なんだやったろうかと 思うて、きんぺえ(でしゃばり心)出いて、
「なんとそんなら、わしが この長い尻尾を出いて 振る時、もし むるが さばり付いたらみんな 手伝して ごせえ(ください)」
「うん、そりゃあ 手伝うしたる。そんならまあ尻ごう出いて振ってみい」

 えから、兎は昔にゃあ長い長い尻尾をしとったそうなが、その長い尻尾を出いて ぷりぷりっと 振ったげなわい。
そうしたところが 爺さんが、ありゃ、馬の子が尻ごう出いだぞ、と思うて、それをじっと さぱり(つかまる)付いたそうな。 そがいしたら、兎が、
「やあれ むるが取り付いた。みんな手伝うしてくれ」
言うもんだけ、う、そのもなあ いうところで、みんなが、どこう さばる所が 無いもんだけえ、耳い さぱり付いた。 そえから 爺さんは、こりょう 放いてはならん思うて、一生懸命 引っぱらさる。

  がいしようったところが、つい尻尾がむしれて、ちぎれてしもうて、ちぎれたあ 見るところが 馬の子の尻尾じゃあない。
ありゃ、このもなあ、馬の子じゃないぞ。思うて、そがいしよるうちに、 ちいたあ 明うなるしして、爺さんは戻らさるし。
 そえで その時に ウサギが一生懸命 そこばった(ふんばった) 拍子い 後足ゃあ長くなるしして みんなが耳ゅう引っ張った拍子に 耳ゃあ あがいに長うなるし、しただとな。
それで昔こっぽり とびのくそ、ぴんろろう。

話者:池田たきの
「蒜山盆地の昔話」稲田浩二・福田 晃 編 三弥井書店より