和尚と小僧(道心坊主)(語り)

 和尚さんが、「道心坊主を20、はらみ女を20、初霜が一斤」と書いた書き付けを 小僧さんに渡して、買い物に行って来るように言いつけます。
 このお話も、41番のお話の語り手である八束村の池田たきのさん(明治19年生まれ)が語られます。
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 る寺に、和尚さんと小僧さんと 二人おったそうなが、和尚さんが、まことに いやしい いやしい 人で いっつも 何やら かんやら、買うといて 食べる人だったそうなが、食べるもんが のうなると、
「小僧、また 湯原(地名)へ行って買い物をしてこい」いうて言われ、
「へえ」 そえから、小僧が湯原へ買いい行く。

 うすると、書き付ょうしてもろうて、
「書き付けをしてやるけい、これだけの物う買うてこい」
「へえ」

 えから、書き付ょうしてもろうて、そいつう持って、店へ行って、
「こがな書き付けをしてもろうて来とりますが、こがいなもんがあるでしょうか」
いうて、書き付けを出いたそうな。
そがいしたところが、店の者が見ょったそうなが、
「へえへえ、ありますあります。」
そえから、
「道心坊主が二十」言うたかと思うたら、みかんを二十、紙袋に入れたそうな。そえから、 「はらみ女も二十」いうて言うたかと思うたら、まんじゅうを紙袋へ入れたそうな。 そえから、「初霜が一斤」いうて言うたら、砂糖を一斤紙袋へ入れた。
ふーーん。はらみ女ちゃあ、まんじゅうか。道心坊主いやあ、みかんか。初霜いやあ砂糖。 ふうん。これはしたりと思うて、小僧が見よったげな。

 えから、そいつう風呂敷い包んで、負うて戻りょったそうなが、負うて戻りもどり、 深谷の長い峠(たわ)あ 戻るに退屈でこたえんもんだけえ、あのほんに、道心坊主を 一つ食う たろうかしらと思うて、そえからそいつう一つ、皮あむいて食うた。

  まいでなあ、うん、うまい。こりゃあ、酢い物を食うただけえ、ちいと砂糖をちょいとねぶってやろうかと思うて、また砂糖をねぶって、 また、砂糖をねぶりしょったところが、砂糖をねぶってしもうたげな。砂糖をねぶってしもうたもんだけえ、 今度ぁ、みかんを、みかんの皮をむいちゃあ食い、みかんの皮をむいちゃあ食い、
「こりゃあまあ、何とかええ分別う考えて、去なにゃあいけんが、早やみかんもだいぶん食うた、砂糖も食うてしもうた。 ふうん、いっそ何も皆食うちゃれえ。その方がええわい。ふうん」

 えから、まんじゅうの穴あ開けて、餡(あん)をほぜり出いて、まんじゅうの餡ほだあ(ばかり) 皆食うてしもうて、ほいから、まんじゅうの皮と、みかんの皮と紙袋へ入れて、持って戻って
「和尚さん今帰りました。」
「ふん、ご苦労、ご苦労、注文の品があったか」
「へえ、ありました。」
「ふん、そりゃあ良かった。」
「あの、和尚さん 戻りがけに、ええ天気になって、日があたりましたら、初霜が皆とけてしまいまして なあ」
言うて、紙袋の空あ出いたげな。

「そえから、道心坊主う逃がすまい逃がすまい思うとって捕まえとりましたら、衣を脱いでしもうて、 つい逃げてしまいましたけえ」
言うて、みかんの皮の入った紙袋を出いたげな。
そいから、
「まあ はらみ女ほどないと、まあ 思うとりましたら、はらみ女が、戻る途中で とうとう 皆 産んでしまいまして」
言うて、まんじゅうの皮ばっかし出いて、和尚さん、そがな事を書いとった もんだけえ どがい言おうようもない。

 んじゅうならまんじゅう、みかんならみかんいうて おきゃあ良かったものを、そがん事を 書く、食うけえ と思うて書いといて、みな食われしもうて、ように小僧にゃあ和尚さんも  しごうしられましたとな。(行儀をされました。)

 昔こっぽり とびのくそ。

話者:池田たきの
「蒜山盆地の昔話」稲田浩二・福田 晃 編 三弥井書店より