タイトル 1orW
内容(参照)
「【るーみっくわーるど】高橋留美子短編集 1orW」より
初出掲載誌 週刊少年サンデー 1994年36号
発行元 小学館
単行本 【るーみっくわーるど】高橋留美子短編集 1orW


<解説>

 1989年8号の復帰以来続いていた「らんま1/2」の連載を1回休んでの掲載と、パターンが「うる星やつら」連載時の「犬で悪いか!!」と同じであったため、「らんま1/2」の後継作品のプロトタイプになるのではないかという憶測が飛んだ作品だったが、そう安直ではなかったようだ。(笑)

 この作品に登場した若田部先生は、ノリがよく、強引だが憎めない非常に面白いキャラだったが、人の話を聞かないという悪い癖を持っていた。これが作品上でも悲劇を生む結果となったのだが、この「人の話を聞かない」という部分に、ちょっと意味としてくるものがあるのだ。

 この作品のタイトルは「1orW」。表面上で意味をとれば、「1」は一柳、「W」は若田部ということになる。この「1」と「W」が一柳の体を舞台に、「1」→「W」→「1」という展開を見せることになる。この作品では、「W」の状態が中心に描かれているのだが、この状態は宮本や当の一柳を含めて、周囲にとって迷惑な状態で、とっとと戻って欲しいというオチがつくことになる。

 「W」が自発的に舞台を去れば事態は解決するわけで、それを指摘する声も出されているのだが、若田部先生は人の話を聞かないから、困った状態が続くことになってしまっていたわけだ。この図式というのが、「らんま1/2」の「公紋竜編」や「最後の顔」で再三指摘してきているのに話を聞いてくれない(気づいてくれない)考察者を示しているように思えてしかたがないのだ。

 そもそも「1orW」というタイトルからして意味深だ。表面上は、上記のような意味となるが、「W」を「ダブル(dubble)=二重」という意味として捉えるならば、作品の意味が「1(シングル)」か「W(ダブル)」かと問いかけているものと読むことができる。

 しかも、この作品の1ヵ月前には、「らんま1/2」に「仕返し人形編」が描かれている。この冒頭でなびきによって語られた仕返し人形にまつわる言い伝えの部分は、まさに飛鳥杏華を含む一部の考察者が指摘していた「危険な裏の意味」の骨子を簡潔に説明するかたちになっており、ほとんど洒落になっていなかった。

 さて、目をかけていた宮本の成長を見届けると、若田部先生は「思い残すことはない」と舞台から去り、成仏する意志を見せる。結局、若田部先生の体も見つかって、すべてもとに戻ることになるのだが、やはり「最後の顔」と同様に自発的な消滅を示唆するものが見られたという点は注目すべき部分であろう。

 しかし、これほど繰り返してきているような図式が見られるということは、「危険な裏の意味」の提示は、よほどいやだったということなのだろう。悪い奴だな、飛鳥杏華って…。(笑)


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