タイトル | 炎トリッパー |
内容(参照) | 「高橋留美子傑作短編集 2」より |
初出掲載誌 | 週刊少年サンデー 1983年真夏の増刊号(8月号) |
発行元 | 小学館 |
単行本 | るーみっくわーるど 1 高橋留美子傑作短編集 2 |
<解説>
シリアス第3弾であるとともに、初の時代ものだ。数ある短編作品の中でも高橋先生自身、気に入っていると公言している作品である。冒頭のシーンから、すずが涼子であることは誰もがわかることだが、宿丸が周くんだったという二重のタイムパラドックスは見事だった。
また、ガス爆発の直前、サラリーマン風の男二人が、「きょーびのガキはよー」「なんなんだありゃー」と言っている。これは最初のシーンだけではわからなかったが、つまり、人目もはばからずにキスしていた過去に戻る直前の宿丸と涼子を見て言っていた言葉だったのだ。実にさり気ない部分だが、時系列の構成がしっかりとなされているのがここからわかる。
この「炎トリッパー」も週刊少年サンデー1000(1983年12月20日号)再録時と単行本「るーみっくわーるど1」収録時の2回に渡って描き下ろしが加えられている。
前者では、タイムスリップしたすずが、河原で拾われるシーン1ページが描き下ろされている。このページにあたる部分は初出掲載時には広告となっていた。ただし、このとき描き下ろされたページは墨一色であった。
後者の段階で、すずが拾われた1ページがカラーとなり、さらに仲間にひやかされた宿丸が酔った勢いで涼子を押し倒そうとして、そのまま納屋で眠ってしまうシーンや、それに続く涼子の水浴びシーンなどが描き下ろされた。
「炎トリッパー」の描き下ろしは、「笑う標的」とは違って読者サービス的色彩が強いが、涼子の心が宿丸に近づいて行く過程としての意味も持っているし、殺伐とした時代の中でホッと一息つける瞬間を見出せるこの部分は、「つらくなんかなかったさ!」「みんな結構いい仲間だし!」という宿丸の台詞に説得力を与えるものにもなっていて、功を奏していると言える。