REAL LOVE SPECIAL −映像犬聞録− Vol.1より



【各話本編犬聞録】


 まず、第一に感じたのが、第1話のような詰め込みすぎという印象は受けなかったという点である。対応する原作のページ数はほとんど変わらないのだが、逆にアニメオリジナルのシーンも加えられ、余裕すら感じられた。


 前半においては野盗の子分たちが、様子のおかしいお頭の行動におびえ、うろたえ、すっかり頼りない連中と化してしまい、指示を出すかごめを「親分」と呼んでしまう部分が笑いを誘う。これによってこの野盗の子分たちが妙に憎めない連中になってしまった。親子で一緒に見るアニメということを考えると、こういう微笑ましいシーンの追加はいい狙いだと思う。斬られた子分も一人きりだし、首が落ちる部分も描かれなかった。視覚的には一貫して気を遣っていることがうかがえる。だが、その一方で吹き出した血が床に流れ落ちる音が結構リアルに入っていた。このギャップをどう考えるべきなのであろうか? 視覚的に描かかなければいいということなのだろうか? ちょっと疑問を感じるシーンであった。


 後半ではやはりかごめが川に落ちた子供を救うシーンだろう。あの「河童じゃ、河童じゃ!」は非常によかった。この時代の日本にクロールという泳法はない。当時の常識では考えられないものを見るとすぐに河童だ、天狗だと騒いでしまう昔の人の気質をうまく使っている。こうした遊びは原作でストーリーの展開を知っている者も楽しませてくれる。


 ただ、細かいことを言えば、かごめが服を着たまま泳いでいるというのが引っかかる。スイミング・スクールに通っているという突発的な設定を作って一応フォローはしてはいるが、いかに泳ぎが達者な者でも、服を着たままではうまく泳げない。ライフ・セーバーでさえ、下手をすれば溺れてしまう危険性がある。少なくとも下着姿にならなければ自らの泳ぎをコントロールできないのではないだろうか? まして流れのある川である。プールで覚えた泳ぎでは、そう簡単に流れに対応できないのではないかと思うのだが…。


 第1話のスカートの話に続いてこんなことを書くと、そんなにかごめを脱がしたいのかと言われてしまいそうだが、原作にないシーンをあえて作ったのだから、そこに対する充分な配慮もして欲しいのだ。蛇足になるが、川から上がった直後の制服の表現もちょっと不自然だ。このシーンのスカートこそ、濡れてお尻や太腿にピッタリ張りついているはずである。上着が肌に張りついて下着が透けて見えるとか、そこまでのリアルさを追求する必要はないと思うが、せめて水滴がしたたり落ちるくらいの表現は欲しかった。足元の地面も全然濡れていないのだ。地面の濡れた部分が次第に広がるくらいの芸が欲しかったと思うのは贅沢だろうか?


 また、季節的にも続く第3話のみそぎシーンで水を冷たがっているところが出てくるのだから、そんなに思い切りよく飛び込めるのか疑問だし、水温の低さは泳ぎにも大きく影響するはずだ。必死だったからと言えばそれまでかもしれないが、緊張感が切れればすぐに寒さに襲われるだろう。裸なら体表の水滴をふき取ればいいが、ぬれた服を着たままだと余計に凍える。そういうことが全然考えられていない。かごめのキャラは、自信に満ちたスーパー・ヒロインではないのだし…。


 もちろん、子供はそんな細かいことまで考えないだろう。それよりも見た目のかっこよさの方が大切かもしれない。だが、子供向けなんだから細かい設定上の裏付けは適当でかまわないということにはならない。見ているのは子供だけではないのだし、子供向けを意識するのならば、あのシーンはかえってまずいと言える。泳ぐ前にはちゃんと準備運動をするように教えなければいけないし、いきなり冷たい水に飛び込んだら心臓マヒを起こして死ぬかもしれないことを伝えるべきなのに、それを完全に無視(あるいは失念)している。配慮が足りてないと言われてもしかたがなかろう。


 もっとも、かごめがあのシーンでいちいち準備体操をしたり、水の冷たさを調べて飛び込むのをためらったりしていたら間に合わないだろうし、思いっきりギャグになってしまう。(笑) それはそれでおもしろいかもしれないが、緊張感が台無しだし、あの展開であれば、あれがいちばんアニメとしていい流れであるということは言えるであろう。


もう一つ気になったのが、屍舞烏の体長設定の不統一である。最初に犬夜叉に追い払われて夜空を飛んでいく姿はかなり大きい。ところが、四魂の玉を飲み込んだところはそれに比べると翼も小さく、尾もかなり短いのだ。このあたりは、ちゃんと統一して欲しかった。途中で変化して、大きさが変わるキャラであるだけに、余計…。


 さて、再びよかった点に戻り、視覚的効果として印象的だったものを三つ挙げたい。


 まず最初は、楓が言霊の念珠を神通力で飛ばして犬夜叉の首にかけるシーンである。この方が原作より遥かにハデで見栄えがするし、桔梗の死後、村を守ってきた楓の力の片鱗が見られる点がいい 。


  次に、最初に屍舞烏が登場したシーンで、四魂の玉を狙う三つの瞳に楓の家の屋根が映り込んでいたところだ。こんなさり気ないシーンにも並々ならぬこだわりが感じられる。球状の瞳を意識して魚眼レンズ風に歪んでいるのはもちろんだが、三つの瞳に映っている屋根は、それぞれ微妙に角度が変えてある。シーンの重要性から言えば、ある程度ごまかしてもかまわない部分なのだが、アニメーターの心意気が感じられて妙にうれしい。


 三点目は、やはり四魂の玉が砕け散ったシーンだろう。ちょっと大げさすぎる気もするが、四魂の玉が持つ得体の知れない力の大きさのことを考えるならば、むしろあのくらいやった方がいいだろう。これらの効果は、このあとも『犬夜叉』という作品の売り物の一つとなっているし、将来的にも続けていって欲しい部分である。


 全体的に見て、この第2話は、第1話の急展開を受けて基本設定の補足説明をしていく部分でもあるので、ストーリー展開に若干余裕が感じられた点は非常によかった。あまり細かい部分にこだわらなければ、充分に楽しめるものになっていると言えるだろう。



《引用画像:(C)高橋留美子/小学館/読売テレビ/サンライズ2000》
※画像は、同人誌に掲載した網かけ処理を施したものをそのまま縮小して使用しています。


・戻る