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笑いってどれだけ重要? 筋により表情を作っている。筋により、口を開いたり、目を開けたり、もちろん笑ったりすることが可能になっている。 大部分のちびっこは、おニューのおもちゃ、あま〜いクッキー、その他の休みの日のお楽しみを期待しているところを、7歳になる Chelsey Thomas チェルシー=トーマス はたった一つのものだけを欲していた。それは、笑えるということであった。 Chelsey はまれな疾患である メビウス症候群 をもって生まれた。メビウス症候群は、顔面筋に麻痺を生じる疾患である。友達はみんな、ニコニコ・ニタニタと笑っているのに、Chelseyは、ちらっとすら笑うことができなかった。彼女は、頑張って楽しそうにしようとした。しかし、それは難しかった。そして、Chelseyの両親は、娘が不意に落ち込んだりひっこみじあんになってしまわないかと心配した。 そこで、十分に準備して、医者と話し合った後、Chelsey と両親は California のメディカルセンターに赴いた。センターで、外科チームにより、Chelseyに笑いを作り出すための10時間の手術が行われた。 慎重な操作で、医者は Chelseyの大腿から動静脈の付いた筋を摘出した。頬に切開を入れて、摘出した筋を Chelsey の下顎骨に沿った位置に縫いつけた。顕微鏡下での手術で、ヒトの髪の毛よりも細い糸で縫合が行われた。 丁寧な手術で Chelseyの顔面の左側に植えられた筋の移植片は、きちんと機能した。彼女は、歪んではいるが、いい笑顔をした。その次に医者は右側にも同様の手術を施した。そして、彼女が切望していた笑顔を得ることができた。今では、Chelseyは笑いつづけることができる。彼女が新たに得た笑顔により、家族は喜び、学校でも友人とうちとけることができるようになった。 |
(page 226) 学者は、現在、多様な筋や神経の移植術を習得している。そういった手術は、例えば、患者の腕や足の機能を回復したり改善したりすることを可能にしている。筋肉に関する知見が深まれば、移植は発展するだろうし、施行も容易で安価になるだろう。そして、医者は、全ての人が笑うことができるようになる、というようなことを言っている。 笑う ということから つま先立ちでバランスをとる ということまで、ありとあらゆる行動は、単独では収縮するというだけの筋肉により支配されている。このことは、外科医が足からとった筋肉を顔に植えて Chelseyに笑顔を与えることを可能にした理由になっている。この章では、よく知られている筋肉の位置と機能について紹介している。この章では骨格筋の構造について肉眼(マクロ)から顕微鏡(ミクロ)のレベルまで集中して紹介している。筋が収縮すると、二種類のタンパクでできた線維が互いに個々の筋線維の中でスライドする。それらの線維の相互作用については多くが知られていて、筋収縮がどのようにして発動するのかについて詳細に調べることが可能である。 筋収縮には ATPの存在が必須である。ATPは酸素の存在下で最も効率的に産生される。しかしながら、ある種の筋線維は、嫌気的状態に順応していて、そういった筋線維は、特にウェイトリフティングのような持久力を必要とする運動と関係がある。筋の解剖と生理学は、スポーツ愛好家にとっては激烈に興味深い学問であるし、この章ではスポーツと関連したトピックについて強調して記載している。 |
筋には様々な機能があり、よく鍛えたものがよりよく働くきらいがある。 骨格筋は体を支持する。骨格筋の収縮は、重力に対抗し、真っ直ぐと立つことを可能にさせている。 骨格筋により骨が動く。筋収縮は手足の運動の源であるだけでなく、眼球の運動や、顔面の表情、呼吸の運動も支配している。 骨格筋により、体温は一定に保たれる。骨格筋の収縮によりATPが分解し、熱が放出され、熱は体内に分散する。 骨格筋収縮は、血管やリンパ管内の内容物の流動を助ける。骨格筋の収縮により発生する圧によって、心血管系の静脈内の血液の移動と、リンパ管内のリンパ液の移動が維持される。 骨格筋収縮は内臓の保護に役立っている。骨格筋は骨を被い、その下にある臓器、例えば腎臓や血管のようなを守っている。 心筋と平滑筋は特異的な機能をもっている。心筋の収縮により心臓は血液を拍出する。平滑筋の収縮により、消化管は食物を押し出し、尿管は尿を送り出す。 |
Figure 11.2 Anatomy of muscle. 筋の解剖 筋膜は筋の表面を被い、筋が骨に付着している腱まで続いている。筋膜は、筋原線維と呼ばれる筋線維の束の区分も行っている。筋原線維内の筋フィラメントの配列は、骨格筋の横紋を形成している。サルコメアは筋原線維の収縮単位である。 |
Muscles Work in Pairs 筋は対で働く この章では、主に骨格筋について述べる。骨格筋は、ヒトの身体の大部分を占めている構造である。筋は数層の線維性結合組織からなる筋膜と呼ばれる構造に被われている。筋膜は筋の先端にある腱まで伸びている(Fig. 11.2)。筋膜はまた、筋束を被っているとも言える。筋束は筋線維の束で筋膜の内部で筋線維を区分している。筋線維の内部には多くの筋原線維と呼ばれる収縮成分が含まれている。筋原線維は筋線維の全長の長さを走行しており、筋組織を観察するとサルコメア内の筋フィラメントの配列に起因する横紋を観察することができる。サルコメアは筋原線維の構成単位である。筋原線維内には、細いアクチンフィラメント と 太いミオシンフィラメント が存在する。 骨格筋は骨格に付随していて、骨格筋の収縮は関節部分での骨の運動をひきおこす。筋が収縮して、片方の骨がしっかりと静止していれば、もう片方の骨は動くことになる。 |
筋の起始は静止している方の骨にあり、停止は動く方の骨にある。 しばしば、体の部分は協調して働く一連の筋のグループによって動かされる。更に、働きの大部分を司っている筋は prime mover 主要筋 と呼ばれる。補助をする筋は synergists 共同筋 と呼ばれる。筋が収縮すると、長さが短くなり、それ故、筋肉は引くことしかできず、押すことはできないのである。 筋には拮抗筋が存在する。拮抗する筋の対は、お互いに反対の動作をし、反対方向の運動をもたらす。例えば、上腕二頭筋と上腕三頭筋は拮抗筋であり、片方(ニ頭筋)が収縮すれば前腕が屈曲し、別の一方(三頭筋)が収縮すれば前腕は伸展する(Fig. 11.3)。
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Figure 11.4a |
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Figure 11.4b |
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1. 大きさ。大殿筋は殿部を構成する筋の中で最大。 2. 形状。三角筋は三角形状の形状。 3. 位置。前頭筋は前頭骨を被っている。 4. 線維の方向。腹直筋は腹部を縦走する筋(rectus は真っ直ぐの意味)。 |
5. 付着部位の数。上腕二頭筋は二つの付着部位(あるいは起始)をもっている。 6. 動作。指伸筋は手足の指を伸ばす。伸展により関節角は増大する。外転は身体の部位を正中から横向きに引き離すように動かす運動で、内転は身体の部位を正中線方向に動かす運動である。 |
Overview of Muscular Contraction 筋収縮の概観 Figure 11.5 に筋収縮に至る各段階が示されている。筋は脳もしくは脊髄から発生する神経活動電位(インパルス)による刺激を受けて収縮する。神経活動電位は運動ニューロンを下行して、ニューロン線維と筋線維が出会う神経筋接合部に達する。 筋線維のそれぞれは通常の細胞の構成成分を含んでいるが、構造の中には特別な名前を与えられているものもある。plasma membrane 形質膜はsarcolemma 筋細胞膜、cytoplasm 細胞質は sarcoplasm筋形質、endoplasmic reticulum 小胞体は sarcoplasmic reticulum 筋小胞体と呼ばれる。筋線維は、他にも特異的な解剖学的に特徴のある構造をもっている。その一つとして、T(横)システムがある。サルコメアはT管を形成する。T管は細胞を貫いて、筋小胞体の膨大部で接触する。しかし、細胞とは融合しない。筋小胞体の膨大部は、筋収縮に必要なカルシウムイオン(Ca++)を含んでいる。筋小胞体は数百から数千もの筋原線維を包んでいる。筋原線維は筋線維の収縮部位である。 Myofibrils and Sarcomeres 筋原線維とサルコメア(筋節) 筋原線維はシリンダー(円筒、円柱)状の形状で筋線維の全長の長さを走行している。光学顕微鏡で見ると、筋線維は横紋と呼ばれる明暗の縞を持っていることがわかる(Fig. 11.6)。電子顕微鏡で見ると、筋原線維の横紋は、サルコメア(筋節)と呼ばれる収縮単位内の筋フィラメントの配置により形成されることがわかる。サルコメアは、二つのZ線と呼ばれる暗い線の間に伸びている。サルコメアには二つの型のタンパクでできた筋フィラメントが含まれている。太いフィラメントはミオシンと呼ばれるタンパクでできていて、細い線維はアクチンと呼ばれるタンパクでできている。アクチンを補助する別の種類のタンパクも存在する。I帯は明るい色調である、といのも、I帯の部分にはZ線に付着したアクチンフィラメントのみが含まれているからである。A帯の暗い部分にはアクチンとミオシンフィラメントが折り重なっていて、H帯はミオシンフィラメントのみが存在する。 |
Figure 11.6 Light micrograph of skeletal muscle. 骨格筋の光顕像 Sliding Filaments フィラメントのすべり 神経筋接合部で作られたインパルスは、T管を下行し、筋小胞体からカルシウムが放出される。すると、筋原線維のサルコメアが短くなって筋線維が収縮する。サルコメアが短くなる際、細いアクチンフィラメントは太いミオシンフィラメントに沿ってすべり、別のアクチンフィラメントに近付く。このことによりI帯が短くなり、H帯はほとんど完全に消失する。ミオシンフィラメントの絡んだアクチンフィラメントの運動は、筋収縮のフィラメントすべり説と呼ばれる。すべりの間、フィラメント自体の長さはそのままでサルコメアは短くなる。 筋収縮に関与する物質が、Table 11.3 に示してある。ATPは筋収縮のエネルギーを供給する。アクチンフィラメントはミオシンフィラメントに沿ってすべるのであるが、実際に仕事をしているのはミオシン線維である。ミオシン線維はATPを分解して、アクチンフィラメントをサルコメアの中心部に引き込む架橋となっている。
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Muscle Innervation 筋の神経支配 筋は運動神経線維により収縮するよう刺激を受ける。神経線維のそれぞれは軸索バルブを末端にもつ幾つかの枝をもつ。軸索バルブは筋線維のサルコメアと近接している。その領域全体を神経筋接合部と呼ぶ(Fig. 11.17)。 |
軸索バルブはシナプス小胞を含んでいて、シナプス小胞にはアセチルコリン(ACh)と呼ばれる神経伝達物質分子を含んでいる。神経活動電位が運動ニューロンを下行して軸索バルブに到達すると、シナプス小胞はアセチルコリンをシナプス裂溝に放出する。アセチルコリンはシナプスクレフトを速い速度で拡散してサルコメア内の受容体タンパクと結合する。すると、サルコメアはサルコメア内を広がって、T管を下行し筋小胞体に達する活動電位を生じる。筋小胞体からのカルシウムイオンの放出は、以前に述べたように筋線維内の筋原線維の収縮をひきおこす。
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Figure 11.8 には、二列のひねったミオシン分子でできている太いフィラメントと関係がある二つの別のタンパクの配置を示している。トロポミオシンの糸はアクチンフィラメントに巻きついている。トロポニンは糸に沿って規則的に介在して存在する。筋小胞体から放出されたカルシウムイオン(Ca++)はトロポニンと結合する。結合すると、トロポミオシンの糸の位置がシフトしてミオシン結合部が表面に出る。 太いフィラメントは、実際にミオシン分子の束であり、それぞれが二つの球系のATP結合部位の頭部をもっている。頭部はATP分解酵素の機能をもっていて、ATPをADPとリン酸に分解する。この反応により頭部はアクチンと結合する。ADPとリン酸はミオシン頭部上に、頭部がアクチンと結合して架橋を形成するまで残っている。すると、ADPとリン酸は放出されて、架橋の位置が変化する。この反応は、power stroke パワー発作?と呼ばれ、細いフィラメントをサルコメアの中心部に引き込む。 |
別のATP分子がミオシン頭部と結合すると、頭部がアクチンと離れて架橋は壊れる。そして周期が再び開始される。アクチンフィラメントは周期が繰り返される毎にサルコメアの中心に近付く。 神経活動電位が静止するまで収縮は続き、カルシウムイオンは貯蔵嚢に戻る。筋小胞体の膜には、カルシウムイオンを筋小胞体に汲み取って戻す能動輸送タンパクが含まれている。
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Basic Laboratory Observations 研究室での基礎的な観察 研究室で筋の収縮を研究するためには、通常、カエルの腓腹筋(ふくらはぎの筋)が取り出されて可動性のあるレバーに取り付けられる。筋は刺激を受けると、収縮による機械力はミオグラム(筋運動図)として視覚的に記録される。 (cf. 筋電図 electromyogram EMG) 最初は、刺激は収縮をおこすには弱すぎるが、刺激が刺激閾値に達すると、筋は収縮し、その後 弛緩する。この反応は、わずか一秒足らずの持続の収縮であるが、筋収縮(単収縮)と呼ばれる。Figure 11.9 a は単収縮のミオグラムである。単収縮のミオグラムは、慣例として、刺激と収縮の着手までの間の潜伏期間、筋の長さが短くなる収縮期間、筋が収縮前の長さに戻る弛緩期間に分けられる。 筋の内部の個々の線維への刺激により、通常、筋線維は全か無の最大収縮をする。しかし、筋全体の収縮は、筋収縮の大きさを調べれば分かるように、どのくらいの筋線維が収縮するかによって決まる力により様々な大きさをとることができる。 筋に収縮閾値に達する刺激を短い間隔で連続して与えると、筋は完全に弛緩する前に次の刺激に対して反応(∴収縮)することがありうる。この手順で、筋収縮は加重されて最大収縮に達し、テタヌス(持続性筋強直)と呼ばれる状態に達する(Fig. 11.9b)。こうなると、ミオグラムには単収縮は見られない。収縮は融合して、渾然一体(こんぜんいったい)となって直線状になる。テタヌスは筋がエネルギーが枯渇して疲労するまで続く。疲労は、刺激が続いていても筋が弛緩したときにはっきりする。 (cf. tetanus は破傷風の意味も重要。カルシウム不足だと テタニー tetany になる。) Muscle Tone in the Body 体内での筋の張力 テタヌス様の筋収縮は、通常、骨格筋が活発に利用されている状態で体の筋でおきる。しかし、ある筋が収縮している際には、別の筋が弛緩していると言うことができる。このことが原因で、損なわれていない筋が完全に疲労することは滅多にない。筋が休息状態であるかのように見えても、その筋を構成する筋線維の幾分かは収縮をしていて緊張している。筋緊張は特に姿勢の保持に関して重要である。首や、体幹や、肢の筋の筋線維の全てが突然弛緩したとすれば、体は崩れ落ちてしまう。 適当な筋緊張を保持するには、筋紡錘と呼ばれる特別な受容体の利用が必要である。筋紡錘は、適量の筋線維の束と、それに短い特別な部分で巻き付いた感覚神経線維でできている。筋紡錘は筋の収縮に合わせて収縮し、収縮すると感覚神経活動電位(インパルス)を中枢神経系に送り出し、その情報によって筋収縮は調節されて張力は保持される(Fig. 13.3 を見よう)。 |
Figure 11.9 Physiology of skeletal muscle contraction. 骨格筋の収縮の生理学 Recruitment and the Strength of Contraction 収縮の漸増と収縮力 どの運動ニューロンも、同時に幾つかの神経線維を支配している(シナプスを形成している)。一本の運動ニューロンと、その支配する全ての筋線維を合わせて、運動単位と呼ばれる。神経刺激の強度か増すと、それだけ多くの運動単位が活動するようになる。この現象は、漸増(ぜんぞう)として知られていて、漸増する毎に収縮は強くなる。 もう一つの重要な多様性の要因は、運動単位内の線維の数である。眼球を動かす眼筋(外眼筋)では、1本のニューロンに対して23本の筋線維の神経支配となっている。それに対して、殿部の腓腹筋では1本のニューロンに対して1,000本の筋線維の神経支配である。眼球を動かすには、足を動かすよりも明確なコントロールが必要である。
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運動に動員するために以前に産生されたATPは数秒の間 存続し、その後に3種類の異なった経路で新しい ATPが筋へ運ばれてくる(Fig. 11.10)。筋がATPを迅速に得る 2種類の好気的な経路が存在する。第1の経路は、筋が静止時に産生される高エネルギー化合物であるクレアチンリン酸が絡んでいる。クレアチンリン酸は、直接 筋収縮に関与することはない。代わりに、以下の反応式で ATPを再合成するのにクレアチンリン酸は使用される。 この反応は、スライドしているフィラメントの中心部でおこっていて、それ故、このATPの供給経路は筋へATPへ動員する最速の手段となっている。クレアチンリン酸は、大凡たった8秒間の力の入った活動分のATPしか供給できず、8秒経つと枯渇してしまう。クレアチンリン酸は、筋が静止状態のときにATPからクレアチンにリン酸グループを転送することで再生される。 発酵によってもATPを得ることができるが、酸素は消費しない。発酵の過程で、ブドウ糖は乳酸に分解される。 筋線維に乳酸が蓄積することで、細胞質のpHはより酸性に傾き、酵素の活性が不意に停滞するようになる。2〜3分以上の間 発酵が続くと、痙攣(けいれん)やこむら返りがおこったり、疲労したりする。痙攣は、カルシウムイオンを筋小胞体に汲み戻したりアクチンとミオシンフィラメントの間の結合を切断して筋線維が弛緩できるようにするためのATPが欠乏することが原因でおこると考えられている。 幸いに、ミトコンドリアにおける好気呼吸により、通常は筋のATPの大部分がまかなわれる。筋細胞は、筋に燃料として貯蔵されているグリコーゲンや脂肪酸を利用することができるのだが、ATPを産生するためには、やはり酸素の供給が必要である。 |
ミオグロビンはヘモグロビンに類似した構造をもった酸素担体である。ミオグロビンは筋細胞で産生され、ミオグロビンの存在により骨格筋の色調は赤茶色である。ミオグロビンはヘモグロビンよりも高い酸素親和性を持っている。それ故、ミオグロビンは血液から酸素を取り出して、筋のミトコンドリアで好気呼吸につぎ込むことができる。ミオグロビンの高い酸素結合能は、好気呼吸開始時に迅速に必要な酸素の供給を満たすことにもなる。最終代謝産物(二酸化炭素と水)は迅速に取り除かれ、取除かれる産物によって体の体温は暖かく保持される。 ATPを得る3種類の経路は筋収縮の際に共に働く。体が好気的な安定した状態を得ている限り、嫌気的経路は通常は必要とされない。この段階では、幾らかの乳酸が蓄積することはあっても、疲弊の状態にはなっていない。 運動トレーニングをしている人々は、していない人々に比べて、好気呼吸がしっかりしている。トレーニングしている人々は、筋のミトコンドリアの数が増加し、ATPの産生に乳酸発酵がATPの産生に必要でなくなる。彼らのミトコンドリアは、筋収縮の際にADPの濃縮が開始するとすぐに酸素の消費を開始する。ミトコンドリアは、ブドウ糖の代わりに脂肪酸を分解できるので、血中のブドウ糖は脳の活動の為に保持される(脳は他の臓器と異なって、ATPをブドウ糖からしか産生できない)。トレーニングをしている人々には乳酸が少ないので、血液のpHは定常に保たれる。そして、酸素負債は少ない。 Oxygen Debt 酸素負債 筋がエネルギー需要に対して嫌気的な手段をとると、酸素負債を負うことになる。酸素負債は、運動後に呼吸を激しく行いつづける際に明らかである。呼吸負債を増す能力は、筋組織の最大の長所の一つである。脳組織は、筋組織が酸素無しで持続できるようにはなってない。 酸素負債に対する支払いは、クレアチンリン酸の供給を補充したり、乳酸を処理することで行われる。乳酸は、ピルビン酸に戻されてミトコンドリアで完全に代謝されたり、肝臓に運ばれてグリコーゲンの再構築に用いられたりする。ゴールラインを通過したばかりのマラソンランナーは、酸素負債があるために消耗しきっていない。代わりに、ランナーは、筋やおそらくは肝臓のグリコーゲン供給の全てを消費し尽くしている。高炭水化物食でグリコーゲンの貯蔵を回復するために約2日がかかる。
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Exercise and Size of Muscles 運動と筋の大きさ 使われていなかったり、弱い収縮しかしない筋は、大きさが縮小したり萎縮する。萎縮は肢がキャスト(ギプス包帯)の中に固定されていたり筋を支配している神経が傷害を受けるとおこる。神経刺激が回復しなれば、筋線維は徐々に脂肪と線維組織に置換されていく。残念なことに、萎縮によって筋線維は進行性に短くなり、身体のパーツが均整の取れた位置から引き離されていくようになる。 長時間にわたる力の入った筋の活動により、筋線維内の筋原線維の数が増加して、筋の大きさが大きくなる。筋の大きさの増大は筋の肥大と呼ばれ、筋が最大張力の75%以上の収縮をする際にのみ認められる。 運動選手の中には、テストステロンや類似の化学物質といった蛋白同化ステロイドを使用し、筋の成長を促す者がいる。この行為は、有り難くない副作用をもたらす。例えば、心血管系疾患や、肝腎の機能不全、インポテンス、不妊症、'ロイドマニア'と呼ばれる分別のない軽率な行動の増加といったものさえが副作用としておこる。 Slow-Twitch and Fast-Twitch Muscle Fibers 遅い収縮と速い収縮の筋線維 あらゆる筋線維は好気的と嫌気的の両者の経路の代謝をすることを学んだ。しかしながら、線維によっては筋原線維にATPを供給するのに他の手法よりも特定の手法をより多く用いている。遅い収縮の線維は好気的に、速い収縮の線維は嫌気的に代謝するきらいがある(Fig. 11.11)。 |
Slow-Twitch Fibers 遅い収縮の線維(遅筋) 遅い収縮の線維は、筋線維の少ない筋単位にも関わらず、しっかりとした収縮力と強い耐久力をもっている。これらの線維は、長距離ランニング、自転車こぎ、ジョギング、水泳といったスポーツに最も役立つ。それは、エネルギーの多くを好気的に得ていて、燃料供給がなくならない限り疲れないからである。遅い収縮の線維は、多くのミトコンドリアを持っていて、また、筋内に見られる呼吸色素であるミオグロビンを持っているために暗赤色調の色調である。遅い収縮の線維は、密な毛細血管床に取り囲まれてもいて、速い収縮の線維よりも多くの血液と酸素を引き出すことができる。遅い収縮の筋の線維の最大張力は低く、最大張力はなかなか発達しない。しかし、疲労には良く耐えることができる。遅い収縮の線維は、潤沢な量のグリコーゲンと脂肪を貯蔵しているため、豊富なミトコンドリアは定常を保つことができ、酸素の存在下で長い間ATPを産生することができる。 Fast-Twitch Fibers 速い収縮の線維(速筋) 速い収縮の線維は、嫌気的な代謝で、力をよりえるための構造になっている。それは、運動単位に多くの線維が含まれているからである。爆発的エネルギーを産生することができ、短距離走、ウェイトリフティング、ゴルフクラブのスウィング(ショットを打つ)といったスポーツに役に立つ。速い収縮の線維は、遅い収縮の線維に比べて、少ないミトコンドリア、少ないもしくは存在しないミオグロビン、少ない支配血管で、白色の色調を呈している。速い収縮の線維は、遅い収縮の線維に比べて、迅速に最大収縮に達することができ、最大収縮は強い。しかしながら、嫌気的エネルギーに依存しているため、乳酸が蓄積しやすく、早く疲労しやすい。
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前(後)の頁ではどのようにして筋系が他の身体の系と協力して恒常性を保っているかについて述べた。 心筋の収縮は、血液を動脈や細動脈に送り出す力である血圧を造る心拍動をおこす。細動脈は分岐して毛細血管になり、毛細血管で物質交換がおこって組織液が産生されて浄化される。血液と組織液は身体の内部環境であり、心筋の収縮がなければ血液は物質交換の場である毛細血管にたどりつけない。血液は心血管系の静脈を通って心臓に戻り、余剰な組織液はリンパ管を通って心血管系に還る。骨格筋の収縮によって心血管系の静脈とリンパ管が圧迫され、両者の管の液体を動かす圧が形成される。 動脈壁の平滑筋により、細動脈への血流が調節され、括約筋の収縮により一時的に毛細血管への血流が遮断される。これは内的恒常機構ということができる。何故なら、緊急時に必要な機構であるからである。例えば、骨格筋への血流を消化管への血流より多くしたい際に役に立つ。 平滑筋の収縮は、消化管に沿って食物を移動させる過程である蠕動を発生させる。蠕動が無ければ、食物は消化によって栄養物が血流に入る消化管の様々な臓器に到達することができない。 |
平滑筋の収縮は尿の排泄を補助する。尿の生成は、身体から代謝性老廃物を除去し、血液量 や 体液の塩分濃度やpH を調節するのに必要である。 骨格筋は骨やその他の内臓を保護している。骨格筋の収縮により、呼吸の活発相(つまり、吸息時)に、肋郭(ろっかく)が上昇し横隔膜が下降する。呼吸により、酸素が血液に入り、筋組織を含んだ組織に運ばれる。筋ではミトコンドリアによってATPがさ産生され、副産物として熱が産生される。骨格筋の収縮によって産生された熱は、体温を人の正常域に保つのに役立っている。 筋収縮の健康の保持に対する全般的な重要性は、過大評価できない(→実際、重要である)。運動により、心機能は上昇し、呼吸量は増加し、免疫能は増強され、個体全体の健康が推進する。
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