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Chapter 7

Lymphatic System and Immunity リンパ系と免疫

Chapter Concepts この章のコンセプト

7.1 Lymphatic System リンパ系
7.2 Nonspecific Defenses 非特異的防御
7.3 Specific Defences 特異的防御
7.4 Induced Immunity (誘導された)免疫
7.5 Immunity Side Effects 免疫の副作用
7.6 Homeostasis 恒常性

くさめをする Paula. C 嬢
Figure 7.1 Allergies. アレルギー
 免疫系は我々を病気から守るのだが、例えば、身体には何の害も無い環境物質に対する反応(アレルギー)、といったような厄介な副作用をおこす。

 Paula C.(ポーラ)は毎年春になると何がやって来るかを知っている。花が開花するのだ。風が吹くのだ。すると彼女はふんふんいって嗅(か)いで、鼻がむずむずして、くさめをして、うるんだ目をティッシュでこするのだ。Paula はアレルギーの季節の襲来を耐えることになるのだ。
 皮肉なことに、Paulaの苦悩の源は、彼女のもっている免疫系の病原体を撃退する秀悦な能力なのである。アレルギーは、大部分の人には問題とならないような物質に対しての免疫反応である。しかし、Paulaの身体は通常は問題にならない物質を異物として感知し、抗体が発動し、狂ったように複製しだすのである。気を利かせて出た分子が組織内の特定の白血球細胞に結合し、そのことによりヒスタミンのような化学物質が大量に放出され、アレルギー症状をきたすのである。
 対症として、アレルギー患者は、抗ヒスタミン剤やヒスタミンの産生を抑制する非処方薬に頼ることができる。そこで、Paulaは薬を飲み、ティッシュを掴んで薬が効くのを待つのだ、不意に天候が寒くなるかもしれないから・・・。
 免疫機構の中には、非特異的防御と呼ばれる防御機構がある。非特異的防御は、体に侵入するあらゆる種類の病原体(細菌やウィルス)に即座に反応することからその名がある。自分で自分を切りつけると、白血球細胞が障害部位に急行して攻撃を開始することで肌は炎症をおこす。次に、白血球と同様に細菌の表面に結合して(細菌の壁に)孔を開けて水分と塩類が浸入して細菌が破裂するように働く血漿タンパクが動員される。これらのタンパクは"補体系"に属するタンパクで、補体系は特定の免疫反応を補足することからその名がある。
 特異的防御は開始するのが遅いと言えるかもしれない。しかし、大量の同じ型の抗原が侵入した際に特異的防御の仕事は機能する。(抗原 Antigen とは、生体からみて外来の物質なら何でもそうであり、通常、タンパクや炭水化物で免疫系を作動させることとのできるもののことである。) 風邪(通常ウィルスや細菌が原因)をひいたら、自身の免疫系が戦いに勝利をおさめるまで待つ以外に手段はない。
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感染前の身体の状態と異なって、リンパ球は大量の自分にとって有益となるようにぴったりと一致した特定の型の抗体の産生を促進するようになる。抗体は抗原と結合し、抗原抗体複合体がマクロファージによって貪食される過程により抗体は自発的に崩壊する。
 Paulaの免疫機構が彼女にアレルギーをもたらしたという事実があるにせよ、免疫機構は Paulaを健康に保つすばらしい役割を果たしている。残念なことに、153ページの Ecology readingに述べたように、殺虫剤には免疫能を抑制する働きがあることがわかった。



7.1 Lymphatic System リンパ系

 リンパ系には、リンパ管とリンパ器官が含まれる。この系は、心血管系と密接な関係があり、恒常性に役立つ以下の三つの主要な働きがある。(1) リンパ毛細管は過剰な組織液を吸収して、血流に戻す。(2) リンパ毛細管は腸管の絨毛で脂肪を吸収し、血流に乗るまで運ぶ。(3) リンパ系は病気から身体を守るのに役立つ。


Lymphatic Vessels リンパ管

 リンパ管は非常に広範に広がっている。体の大部分にはリンパ毛細管が十分に張り巡らされている。(Fig.7.2) 径の太いリンパ管の構造は心血管系の静脈の構造に類似していて、弁を持っている。また、リンパ管の内部のリンパ液の動き(流れ)は静脈と同様に骨格筋の収縮運動に依存している。筋が収縮すると、リンパ液は圧出されて、閉じることでリンパ液の逆流を防ぐ弁を通過する。
 リンパ系はリンパ毛細管より始まる一方通行の系である。リンパ毛細管は、毛細血管から滲出して毛細血管からは吸収されない液体を吸収する。浮腫は組織液の貯留が原因でおこる局所の腫張である。浮腫は、組織液の産生が過剰であるか、組織液の吸収が不十分である際におこる。組織液が一旦リンパ管に入ると、リンパ液と呼ばれるようになる。リンパ毛細管は結合して、リンパ管を形成し、リンパ管は二つの管、つまり胸管と右リンパ本幹に入るまでに合流する。胸管は右リンパ本幹よりも大きい。胸管は、下肢、腹腔、左腕、頭頚部の左側のリンパを受ける。右リンパ本幹は、右腕、頭頚部の右側、胸部の右側のリンパを受ける。胸管と右リンパ本幹は、胸部領域の心血管系の静脈である鎖骨下静脈に注ぐ。

リンパ液は、毛細血管から次々により大きなリンパ管へと一方通行で流れ、最終的には鎖骨下静脈へと注ぐリンパ管(胸管右リンパ本幹)へ到達する。

Figure 7.2 Lymphatic system. リンパ系
 リンパ管は組織から余剰な液体を吸い出し、心血管系に戻す。拡大図ではリンパ管が逆流を防ぐ弁をもっていることを示している。

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Figure 7.3 The lymphoid organs. リンパ器官
 リンパ器官には、リンパ節、脾臓、胸腺、赤色骨髄があり、どの臓器にもリンパ球が含まれている。

Lymphoid Organs リンパ器官(臓器)

 リンパ器官のうちで興味深いものといえば、リンパ節、扁桃、脾臓、胸腺、骨髄であろう。(Fig 7.3)
 リンパ節は、小さな卵型もしくは球状(1-25mm)の構造で、リンパ管に沿った特定の部位に見られる。皮質と髄質として知られている二つの異なったリンパ球を多く含んだ領域があり、それを被膜が包んでいる。リンパ洞と呼ばれるリンパ毛細管に沿って存在しているマクロファージは、感染性生物やデブリス(細胞の破片)を浄化する。リンパ節の皮質や髄質に流れ込んだ抗原により、リンパ球はその抗原に対して免疫反応に着手するように活性化される。リンパ節はそのリンパ節の存在する部位により名前が付いている。鼡径リンパ節は鼠径部(そけいぶ=腿の付け根)に、腋窩リンパ節は腋窩(えきか=わきの下)に存在する。内科医はしばしば頚部に腫脹して圧痛を持ったリンパ節が無いかどうか調べて、身体が感染と戦っているかどうかを調べる。この診断手技は、そういった(感染等の)診断をするための予備試験的なものである。
 扁桃は、部分的に被膜に包まれたリンパ組織で、咽頭付近に輪状に存在する。アデノイドとも呼ばれるよく知られた咽頭扁桃は、口腔後部の両側に位置する口蓋扁桃であり、炎症をおこしやすい。扁桃は体内のリンパ節と同様の機能を行っているが、その位置のため、鼻や口から体内に侵入する病原体に最初に感作するのである。
 脾臓は腹腔の左上側、横隔膜直下に位置する。脾臓はリンパ節よりもずっと大きく拳大(こぶしだい)である。リンパ節がリンパ液を浄化するのに対し、脾臓は血液を浄化する。白色脾髄はリンパ球を含んでいて、脾臓の免疫機能を司っている。赤色脾髄は赤血球と大量のマクロファージを含んでいる。赤色脾髄は、脾臓を通過する血液を、細菌や寿命が尽きたり傷害を受けた赤血球を除去することで、浄化するのに役立っている。
 脾臓の外側の被膜は比較的薄く、感染や外傷により脾臓は容易に破裂する。脾臓の機能は他の臓器により代替できるとはいえ、脾臓の無い人は多少は感染症にかかりやすく、永久に抗感染治療を受けることが必要になることもある。
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 胸腺は気管に沿って胸腔内の上部で胸骨の裏側に位置する。胸腺の大きさはまちまちであるが、小児の方が成人より大きく、老人になると完全に消滅する。胸腺は結合組織により小葉に区分される。Tリンパ球は胸腺の小葉で成熟する。小葉の内部(髄質)は、大部分が上皮細胞からなり、染色すると明るく染まる。髄質は、Tリンパ球の成熟を助けると考えられているサイモシンのような胸腺ホルモンを産生する。サイモシンは他にも免疫に関係した他の機能をもっているかもしれない。
 赤色骨髄は、Figure 5.2に図示したような5つの型を含んだ、あらゆる型の血液細胞の発生の起点となる場所である。骨髄には幹細胞があり、幹細胞は分化能を保持しており、様々な型の血液細胞に分化していくことができる(Figure 5.4 を見られたし)。小児では大部分の骨には赤色骨髄があるが、成人では、頭蓋骨、胸骨、肋骨、鎖骨、骨盤骨、脊柱にのみ赤色骨髄が存在する。赤色骨髄には、細網細胞により産生される細網線維と呼ばれる結合組織線維の網がある。細網線維と幹細胞と幹細胞から分化した細胞は、静脈血の詰まった壁の薄い洞に封じ込められている。分化した血液細胞はその洞から血流に入る。

リンパ器官には免疫を補助する特別な機能がある。リンパ液はリンパ節で浄化される。血液は脾臓で浄化される。Tリンパ球は脾臓で成熟する。白血球細胞は骨髄で産生される。



7.2 Nonspecific Defenses 非特異的防御

 免疫は体が具えている、感染性物質や外来の細胞、さらには癌細胞のような異常な体細胞に対して、自分で自分を守る能力である。それ故(免疫があるので)、内部環境は安定した状態を保ちやすい。免疫には非特異的と特異的防御がある。四種類の型、つまり、入り口での防御、炎症反応、ナチュラルキラー細胞、防御タンパクがある非特異的防御は、多くの型の感染性物質に対して効果的である。

Barring Entry 侵入の阻止

 1. 皮膚や 2. 気道、食道、消化管を被う粘膜 は病原体の侵入を防ぐ機械的防壁となっている。脂腺の分泌物には、皮膚上の特定の細菌を殺傷する化学物質が含まれている。上部消化管に粘液を掃き出す線毛をもった細胞に被われていて、粘液に捉えられた粒子は咽喉に押し戻され、咽喉で嚥下もしくは喀出される。胃は酸性のpHであり、多くの型の細菌の発育を抑制したり殺菌をしている。消化管やその他の領域、例えば腟に常在する細菌は、他の細菌が繁殖することを防いでいる。病原体というのは、病気の原因となる物質なら何でもそうであり、例えばウィルスや幾つかの細菌がそうである。

Inflammatory Reaction 炎症反応

 皮膚が、微小な傷害によって破損すると、一連の炎症反応として知られる事象が起こる。炎症をおこした領域は外面に四つの徴候を示す。発赤、発熱、腫脹、痛覚。Figure 7.4 には、炎症反応に関与する物質が示されている。組織に存在する肥満細胞は、血液中に見られる白血球の一種である好酸球に類似している。
 傷害が発生すると、傷害を受けた組織の細胞と肥満細胞はヒスタミンキニンのようなケミカルメディエーターを放出する。ヒスタミンやキニンは毛細血管を弛緩(→拡張)させて透過性を亢進させる物質である。毛細血管が拡張すると皮膚は発赤し、上昇した血管透過性によりタンパクや液体が外部に流出して、(局所の)腫脹がおこる。温度(局所の体温)の上昇により、白血球による貪食作用が促進する。腫脹した部位(による機械的圧迫)は、キニンによる自由神経終末の刺激と同様に、痛覚を発生させる。
 好中球と単球は傷害のおこった部位へ移動する。好中球と単球はアメーバー状で、形状を変化させて毛細血管壁を透過して組織液に入ることができる。好中球は、また肥満細胞も同様に、細菌を貪食する。貪食された細菌は、エンドサイトーシスにより運ばれた小胞が細胞内小器官の一つであるリソソームと結合することで、加水分解酵素により破壊される。(訳注: エンドサイトーシス; 小胞にして内部に取り込むこと)
 単球は分化してマクロファージになる。マクロファージは大きな貪食細胞で、百個ほどの細菌やウィルスを貪食してもなお生存しつづけることができる。ある種の組織、特に結合組織にはマクロファージが常駐していて、定期的にスカベンジャー(訳注: 片仮名が適当と思う。清掃動物ゴミさらいでもいいけど。)の如く働き、古い血球や死んだ組織の破片や他のデブリスを貪食している。マクロファージはコロニー形成刺激ホルモンを遊離することにより、白血球の数の爆発的上昇をひきおこすことができる。コロニー形成刺激ホルモンは、血流に乗って赤色骨髄に辿り着き、そこで白血球、主に好中球の産生と放出を刺激する。
 血管が破裂すると、凝血が損傷部位を封印する。以前に述べたようなケミカルメディエーターや抗体が組織液とリンパ液を介してリンパ節へと移動する。この時、リンパ球は活性化されて感染の脅威に反応することもできる。感染が制圧されると、幾つかの好中球が死んでいるだろう。これらの死んだ好中球は、死んだ組織や細菌や他の生きている白血球と一塊となって、白色の物質である膿(うみ/のう)を形成する。膿があることは、身体が感染を克服しようとしていることの証拠である。
 時には感染が持続し、結果として慢性炎症になり、しばしば、アスピリン、イブプロフェン、コルチゾンといった抗炎症薬の投与によって治療される。病変部位に於て抗炎症薬は白血球により放出されるケミカルメディエーターの代わりに働く。

炎症反応は '軍隊動員の号令' である。炎症反応により細菌の侵入部位に貪食白血球が送り込まれ、感染の可能性に対して免疫系を発動させるための刺激が行われる。

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Visual Focus


Figure 7.4 Inflammatory reaction. 炎症反応

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Natural Killer Cells ナチュラルキラー細胞(NK細胞)

 ナチュラルキラー細胞はウィルスに感染した細胞や腫瘍細胞を細胞どうしの接触により殺傷する。NK細胞は大きくて顆粒を持っているリンパ球である。NK細胞は特異的な標的や記憶能力をもっていない。NK細胞の数は免疫(訳注: 例えばワクチンのような)によって増加しない。


Protective Proteins 防御タンパク

 しばしば単に補体とも呼ばれる補体系は、幾つもの血漿タンパクからなり、補体タンパクはCの文字に下付きの数字が付いて示される。ごく限られた量の活性化された補体が補体系の活性化に必要である(限られた量で充分である)、というのもドミノ効果がおきるからである。一連の補体タンパクのそれぞれは多くの別のタンパクを活性化する能力をもっている。
 補体は病原体が身体に侵入すると活性化される。補体はある種の免疫反応を「補う」ので、補体の名がついている。例えば、補体は炎症反応に関与していて炎症反応を増幅する。それは、補体が貪食細胞を病巣部へ引き寄せるからである。ある種の補体タンパクは既に抗体に被われた病原体の表面に結合し、病原体が好中球やマクロファージにより貪食されるのを確実にする。
 別のとある補体タンパクは結合して膜を攻撃する補体複合体を形成し、細菌の細胞壁や形質膜に孔を開ける。すると細菌の細胞の内部に液体や塩類が進入し、やがて破裂する。
 インターフェロンはウィルスに感染した細胞が作るタンパクである。インターフェロンは感染していない細胞に結合し、やがて起こるかもしれない病原体からの攻撃に、ウィルスの複製を妨害するような物質を産生することで備えるよう指示する。


免疫には、以下の非特異的防御が含まれる。
入り口での防壁、炎症反応、ナチュラルキラー細胞、防御タンパク。

破裂する細菌
Figure 7.5 Action of complement system against a bacterium. 細菌に対する補体系の反応



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7.3 Specific Defences 特異的防御

 非特異的防御が感染を防御することができなかった場合、特異的防御の出番が来る。抗原とは、刺激により免疫系が働くような外来物質のことである。(多くの場合、抗原はタンパク質や多糖類である。) 病原体は抗原を持っている。しかし、抗原は外来細胞や腫瘍細胞の部分でしかない可能性もある。我々は通常の場合は自分自身の細胞に対して免疫機構を発動させることはないことから、免疫系は自己と非自己を区別することができると言われている。この方法によってのみ免疫系は恒常性に対抗する作用に対抗して機能することができる。
 免疫機構は、通常、暫くの間持続する。例をあげると、いったん麻疹にかかって回復すると、通常、二度目の感染では発病しない。免疫は、本来Bリンパ球とTリンパ球の活動の結果としておこる。Bリンパ球は骨髄で成熟し、Tリンパ球は胸腺で成熟する。Bリンパ球はB細胞とも呼ばれ、形質細胞の数の上昇を促す(うながす)。形質細胞は、抗原と結合して抗原を中和することのできる抗体を産生する。抗体は血流、リンパ液、その他の体液に分泌される。対照的に、Tリンパ球はT細胞とも呼ばれ、抗体を産生しない。代わりに、T細胞のあるものは、直接抗原を提示する細胞を攻撃する。他のT細胞は免疫反応を調節する。
 リンパ球は抗原を、表面にもっている受容体分子を用いて認識することが出来る。特定のリンパ球上に存在する受容体の形状は、どれでも対応する特定の抗原と相補的である。受容体と抗原がぴったりと当てはまる様子は、しばしば鍵穴と鍵の関係に形容される。我々は一生の間に、100万種類もの異なった抗原に遭遇する。そのため、我々は抗原から我々を守るためにかなりの数の異なった種類のリンパ球をもっている必要がある。リンパ球の成熟の過程で、このような規模で多様性が生じていて、感作の可能性のあるあらゆる抗原に対して対応するリンパ球が一種類ずつ用意されていることは注目に値する。




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B Cells and Antibody-Mediated Immunity B細胞と抗体を介した免疫(= humoral immunity 液性免疫、体液性免疫)

 どの型のB細胞も、膜に結合した受容体の形で、表面に特異的な抗原をもっている。リンパ節や脾臓のB細胞が、細菌細胞や適当な抗体を呈示している毒素と遭遇すると、活性化された状態となり、何回も分裂するようになる。抗原と遭遇したB細胞の大部分は形質細胞となり、抗原に対して抗体を分泌するようになる。形質細胞はB細胞の成熟したもので、リンパ節や脾臓で抗体を大量生産化する。
 クローン選択説は、抗原によりどのリンパ球がクローンによる増産を受けて、同じ型の受容体をもつリンパ球を産生するようになるかが決まるということを述べている。B細胞は、対応する抗原があらわれて受容体と結合するまで分裂を開始しないということに注目されたい。B細胞は、次のセクションで述べるように、ヘルパーT細胞からの分泌によっても分裂して形質細胞になるように指令を受ける。クローンによって増産されたB細胞のうちの幾つかはメモリー細胞(記憶細胞)になる。メモリー細胞の意味は、長期間持続する免疫が可能になることからきている。同じ抗原が身体に再び侵入すると、メモリー細胞は急速に分裂してリンパ球の数が上昇し、迅速な抗体の産生が可能になる。
 いったん、感染の危機が去ると、新たな形質細胞の産生は停止し、体内に存在する形質細胞はアポトーシス(アポプトーシスともいう)を受ける。アポトーシスは、プログラムされた細胞死の過程(PCD, プログラム細胞死)で、特有の細胞内でのイベントのカスケードがおこって、細胞の死と破壊が結果としておこる。プログラム細胞死の方法論は、解明中である。けれども、プログラム細胞死の過程は生体内での細胞の数を調節するために必要な生理機構であることは周知の事実である。プログラム細胞死は通常、組織の恒常性の維持に関して中心的役割を果たしている。
 B細胞による防御機構は、様々な型のB細胞が抗体を産生することから、抗体が仲介した免疫と呼ばれる。また、抗体が血液やリンパ液の中に存在することから液性免疫とも呼ばれる。humor(体液)は身体に通常の状態で存在する液体である。

Characteristics of B cells B細胞の特徴:
・抗体が関与した免疫
・骨髄で産生され、骨髄で成熟
・脾臓とリンパ節に駐留、血流とリンパ流に循環
・抗原を直接認識し、その後クローン選択が行われる
・クローン増殖により、抗体を分泌する記憶B細胞と同様の形質細胞が産生される。

Figure 7.6 Clonal selection theory as it applies to B cells. B細胞に関するクローン選択説
 抗原はB細胞のみを活性化する。B細胞の受容体は抗原と結合することが出来る。このB細胞は次にクローン性増殖をする。その過程で、抗原に対応した抗体を産生する形質細胞が多く産生される。感染が去ると、形質細胞はアポ(プ)トーシスを受ける。抗原認識能を保つ記憶細胞は、体内に留まっている。

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Structure of IgG IgGの構造

 もっともありふれた型の抗体(IgG)は、アルファベットのY字型のタンパク分子で、二つのアームをもっている。アームのそれぞれが"重"(長い)ポリペプチド鎖と"軽"(短い)ポリペプチド鎖を持っている。それぞれの鎖がアミノ酸の配列が一定である定常領域と、抗体によってアミノ酸の配列が違う可変領域を持っている。定常領域はあらゆる抗体で全て同じというわけではない。むしろ、異なったクラスの抗体どうしでも殆ど同じようであるという感じである。可変領域は抗原結合部位を形成する。抗原結合部位の形状は、特定の抗原に対して固有のものである。抗原は抗体と抗原結合部位で鍵穴と鍵の関係で結合する。
 抗原抗体反応は、幾つかの形態をとりうる、しかし、反応の結果しばしば見られるのは、抗体と結合した抗原の複合体の形成である。そのような抗原抗体複合体は、免疫複合体と呼ばれることもあり、抗原を標識して破壊を受けるようにする。例えば、ある抗原抗体複合体は、好中球やマクロファージによる貪食を受けることがあるし、補体を活性化する事だってある。補体は、以前に述べたように、病原体をよりファゴサイトーシスを受けやすいようにさせる。

Other Types of Antibodies 他の型の抗体

 5種類の異なったクラスの循環抗体タンパク、別の言い方をすれば免疫グロブリンが存在する。IgG抗体は血中で主要な型であり、リンパ液と組織液には少量存在する。IgG抗体は病原体と病原体の産生する毒性物質と結合する。トキシンとは他の生命に毒性を示す特定の化学物質のことである(例えば細菌によって作られる)。IgM抗体は五量体である、五量体の意味は、Y字型の Figure 7.7a に示したような構造を五つ含んでいるということである。IgM型抗体は感染の開始直後に発現し、感染が終了する以前に消失する。IgM型抗体は補体系をよく活性化する。IgA抗体は、単量体であったり、二量体であったり、二つのY字型のつながった構造を含んだ巨大分子であったりする。IgA型抗体は体液分泌に見られる抗体の主要な型である。IgA型抗体は、病原体が血流に辿り着く前に病原体と結合する。IgD型抗体の主要な機能は、成熟したB細胞上の抗原と結合する受容体となることであると考えられる。IgE抗体は、即時型のアレルギー反応を惹き起こす物質であり、p.158で紹介されている。


a.

b.
Figure 7.7 Structure of the most common antibody (IgG). 最も多く存在する抗体であるIgGの構造
a. IgG型抗体は、二本の重ポリペプチド鎖と二本の軽ポリペプチド鎖が配列していて、二つの可変領域が存在する。可変領域では特定の抗原が抗体と結合できる。
b. 抗原分子のコンピューターモデル。このモデルでは、抗原は二つの横の枝に結合する。

 抗原は抗体と抗原結合部位で鍵と鍵穴の関係で結合する。この反応により、幾つかの抗体と抗原が組み合わさった抗原抗体複合体が形成される。



 殺虫剤は、55,000もの人間の活動を妨害する昆虫や植物や真菌(つまり害虫や雑草)を殺すのに用いられる化学物質である。近来、我々は殺虫剤が環境や人間に対しても害を及ぼすということがわかってきた。殺虫剤の免疫系に対する影響は、新たに関心が高まってきた領域である。皮膚の知覚以外の試験は全く必要ない。接触や気道アレルギー反応は即座にわかる殺虫剤によっておこる中毒症状である。殺虫剤は免疫系の抑制をもたらし、そのことによって感染しやすくなり、腫瘍が発育しやすくなる。リンパ球損傷は





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T Cells and Cell-Mediated Immunity T細胞と細胞性免疫

 T細胞の二つの主要な型は細胞傷害性T細胞(Tc)とヘルパーT細胞(Th)である。細胞傷害性T細胞は細胞性免疫を担っている。細胞傷害性と呼ばれる理由は、ウィルス感染細胞や癌細胞といった特定の抗原提示細胞の破壊をもたらすからである。細胞傷害性T細胞は、パーフォリン分子を貯えた貯蔵小胞を持っている。パーフォリン分子は形質膜を貫通し、水分や塩類が通過できるような孔を形成する。すると細胞は腫脹し、やがて破裂する(Fig 7.8)。
 ヘルパーT細胞は、他の免疫細胞の反応を増強することで免疫機構を調節する。ある抗原に暴露されると、ヘルパーT細胞は大きくなってサイトカインを分泌する。サイトカインは刺激性の分子で、ヘルパーT細胞の分裂や、他の免疫細胞に機能の発現を促す。例えば、サイトカインはマクロファージの貪食作用を刺激し、B細胞に抗体を産生する形質細胞になるように刺激する。AIDSの原因ウィルスであるHIVはヘルパーT細胞や他の特定の免疫系の細胞に感染するので、HIVは免疫反応を不活性化させる。
 同様に、記憶T細胞というものも存在する。記憶T細胞は体内に留まって、以前に体内に存在したことのある抗原に対して迅速な免疫活動を開始できるようにしている。



Figure 7.8 Cell-mediated immunity. 細胞性免疫

Activation of T cells T細胞の活性化

 T細胞は胸腺から巣立つと、B細胞が持っているのと同様な特異的な受容体を持つようになる。B細胞の場合とは異なって、細胞傷害性T細胞とヘルパーT細胞は、リンパ液や血液や組織の中に存在する抗原を、援助なしで認識することは出来ない。抗原は、抗原提示細胞(APC)によって、TcやThに示される。通常はマクロファージであることの多いAPCは、病原体を貪食し、貪食された病原体はエンドサイトーシス小胞内で断片(フラグメント)に分解される。断片は抗原性を持っている、つまり、抗原の特性をもっている。断片は、形質膜の主用組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパクと結合して、T細胞に提示することができる。  ヒトのMHCタンパクはHLA抗原(ヒト白血球抗原)と呼ばれる。HLA抗原は、細胞が特定の個人に関するものであることを記しているので、自己を示す抗原であると言える。
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形質膜に存在する自己抗原の重要な意義は、自己抗原が組織の特異性に関与していてあるヒト(あるいは動物)から別のヒトへ組織を移植するのを困難であることが発見された時に最初に認識された。言い方を変えれば、ドナーとレシピエントが組織的に適合であれば、移植は成功しやすい、移植片は生着しやすいということである。
 Figure 7.9 には、マクロファージがT細胞に抗原を提示している様子が示してある。いったん、ヘルパーT細胞が抗原を認識して、あるいはそのように刺激されると、クローン性増殖と免疫細胞を活性化状態に保つような刺激を行うサイトカインの放出がおこる。この機序で細胞傷害性T細胞が活性化されると、Tc細胞はクローン性増殖して、提示されたのと同様の抗原を正しくHLAに提示したウィルスに感染した細胞をどれでも破壊するようになる。感染が消失すると、免疫反応は弱まり、サイトカインはほとんど産生されなくなる。すると、活性化されたT細胞はアポ(プ)トーシスを受けやすくなる。以前に述べたように、アポトーシスはプログラムされた細胞死のことであり、臓器の内部の、この場合では免疫系全体の細胞の数を調節して恒常性に役立っている。2,3のコロニーではT細胞がアポトーシスを受けないように働く。そうして残った細胞が記憶細胞である。感染に対してT細胞が即座に対応するようならば、それは後で同じ抗原に感作したということである。
 アポトーシスはT細胞が成熟していくのに合わせて胸腺の中でもおこる。自己抗原を認識する(自己免疫反応を起こすような)受容体を提示するT細胞は自殺するようになっている。アポトーシスが適切におこらなければ、T細胞は癌化する(つまり、リンパ腫や白血病になる)ことになる。


Characteristics of T cells: T細胞の特徴
・細胞を介した免疫
・骨髄で産生され、胸腺で成熟する
・抗原は HLA分子の型で提示されている必要がある
・細胞傷害性T細胞は抗原提示細胞を破壊する
・ヘルパーT細胞は免疫反応をコントロールするサイトカインを放出する



Figure 7.9 Clonal selection theory as it applies to T cells. T細胞に関するクローン選択説。


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7.4 Induced Immunity (誘導された)免疫

 免疫は感染にかかった場合か、あるいは医学の介入によって人為的にもたらされる。免疫の誘導には二つの型がある。能動免疫と受動免疫である。能動免疫では、対象者は独力で抗原に対する抗体を産生する。受動免疫では、対象者は予め用意された抗体を与えられる。


Active Immunity 能動免疫

 病原体に感染することで、能動免疫を自然に獲得することが時々ある。けれども、能動免疫は通常、健康でその後に感染があるとしても受け付けないようなくらい健康な場合に導入されるといえる。感染から身体を守るために、ヒトは人工的に感染症に対する免疫を導入することができる。アメリカ合衆国では、全ての児童に対して、Figure 7.10aに列挙したように小児が罹患する病気の主要な型に対する免疫を与えることを目標にしている。
 免疫するということは、免疫反応が反応する抗原を含んだ物質であるワクチンを使う場合も含まれる。元来は、ワクチンは病原体そのもの、もしくは病原体が産生する物質から病毒性を取り除いたものであった(virulentの意味は病気になる)。今日では、遺伝工学により細菌を操作して、病原体由来のタンパクを大量生産して、そのタンパクをワクチンとして用いることができる。この手法は、現在では、ウィルス性疾患であるB型肝炎のワクチンの製造に用いられているし、原虫疾患であるマラリアに対するワクチンを製造するのにも用いられている。
 ワクチンが投与されると、血清のサンプルの中に存在する抗体の量を決定することで免疫反応の経過をフォロー(観察)することが可能になる。---この抗体の量のことを抗体価という。ワクチンにはじめて感作すると、初期反応がおこる。数日の間、抗体は存在しない。その後、抗体価は、ゆるやかに上昇し、続いてまず平衡に達し、次に抗体が抗原に結合したり単に分解したりすることで徐々に減少していく。次回に抗原に感作したときには、二次反応がおきることが予想される。抗体価は急激に上昇し、以前よりもはるかに高い平衡域に達する。二度目の暴露で抗体価は高い値に達することから、二回目の抗原との接触は「ブースター(加速器)」と呼ばれる。高い抗体価は、実際に病原性を持っている抗原に暴露されたときに、病的徴候にならないようにするのに役立つ。
 能動免疫は、抗原に対して応答して抗原の量を減らすことができる記憶B細胞と記憶T細胞の存在に依存している。能動免疫は、場合によってはブースターが必要になる場合もあるにせよ、通常は長期間持続する。(?)

 能動免疫は、ワクチンの使用により誘導することができる。能動免疫は、体内の記憶B細胞と記憶T細胞の機能を利用している。


ワクチン 新生児で
接種する月
乳児以降で
接種する歳
B型肝炎 生後、2,4,6,12〜15ヶ月 11〜12歳
DTP三種混合
・ジフテリア
・破傷風
・百日咳
2,4,6,15〜18ヶ月 4〜6歳
破傷風   11〜12,14〜16歳
経口ポリオ接種 2,4,6,12〜15ヶ月 4〜6歳
b型インフルエンザ 2,4,6,12〜15ヶ月  
MMR三種混合
・麻疹(はしか)
・流行性耳下腺炎
・風疹
12〜15ヶ月と一月後 4〜6,11〜12歳
う〜ん、小児科の知識やね〜



Figure 7.10 Active immunity due to immunizations. 免疫(ex.ワクチン)による能動免疫。

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Passive Immunity 受動免疫

 受動免疫は、病気と戦う目的で予め用意された抗体(免疫グロブリン)を持っているときにおこる。抗体は、患者のB細胞で産生されるものではないので、受動免疫の寿命は短い。例えば、新生児はある病気に対しての受動免疫を持っていて、それは母体血由来の抗体が胎盤を通過して胎児に移行するからである。母体由来の抗体はやがてすぐに消失してしまうので、生後数ヶ月で乳児はより感染症にかかりやすくなる。母乳による授乳は、乳児が受け取る天然の受動免疫である。それは、母乳の中に抗体が含まれているからである。
 受動免疫は持続(永続)しないとはいえ、予見することのできなかった感染性の疾患に曝された患者を発病させないようにする目的で受動免疫は使用されることがある。通常、患者は、その疾患にかかって回復した患者からとりだしたガンマグロブリン製剤(つまり抗体を含んだ血清)の注射を受ける。過去には、馬に免疫を獲得させて、その馬から血清を取り出して、ジフテリア、ボツリヌス菌中毒、破傷風といった疾患に対して必要な抗体を得ていた。そして、過去には、そういった抗体を投与された患者のうち、約50%が病気になることがあった。それは、ウマ血清中に被接種者の免疫系が異物として認識するようなタンパクが含まれているからである。このことは、血清病と呼ばれる。他の方法で用意された製品に関しても問題はおこりうる。免疫グロブリン製剤(静脈投与)のガンマガードとよばれる静脈内物質がマーケットから回収された。それは肝炎の伝染に関連がある疑いがあるからである。

 受動免疫は、火急を要する感染性の疾患に曝された状態の時に発動する 即時的な防御である。受動免疫は短期間しか続かない、というのも記憶する細胞がないからである。



Figure 7.11 Passive immunity. 受動免疫。


Cytokines and Immunity サイトカインと免疫

 サイトカインは、リンパ球、単球、その他の細胞が作る伝達分子である。サイトカインは白血球の形成や機能をを調節するので、サイトカインを用いての癌やAIDSに対する治療が研究されている。インターフェロンとインターロイキンは、様々な白血球により産生されるサイトカインであるが、免疫治療製剤として実際に用いられている。特に、自信のもっているT細胞(おそらくB細胞も)の機能を増強し、癌と戦う能力を増強する目的で使われる。
 インターフェロンは、150ページでも紹介したとうり、白血球や、線維芽細胞や、おそらくはウィルス感染に対して反応する大部分の細胞が産生する物質である。インターフェロンは、依然として癌の治療薬として研究中であるが、特定の患者にしか有効でないという状態で、この現象に対する的確な説明付けはなされていない。
 癌細胞が患者のものではない抗原を提示した新しいタンパクを表面に作り出すと、その細胞は細胞傷害性T細胞により破壊される。癌が発育するときはいつも、細胞傷害性T細胞が活性化された状態にあるとは限らない。そういった場合、サイトカインは免疫系を呼び起こし、癌細胞を破壊するように導く。ある治療手技が研究中である。研究者は、最初にT細胞を患者から取り出し、その細胞をあるインターロイキンの存在下で培養して活性化状態にするのである。活性化した細胞は患者に注射され、その患者には一定量のインターロイキンを持続投与してT細胞の殺傷能を保持させる。
 インターロイキンの研究に熱心に取り組んでいる研究者は、インターロイキンはそのうちに、慢性感染症の治療目的のワクチンに付加して投与されたり、癌の治療の際に投与されるようになるだろうと信じている。インターロイキン拮抗物質はまた、皮膚を守ったり、移植臓器の拒絶反応を防いだり、自己免疫疾患やアレルギーを抑制したりするのに役立つであろうと考えられている。

 インターロイキンやその他のサイトカインにより、自己の免疫系の賦活が約束されている。

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Monoclonal Antibodies モノクローナル抗体(単クローナル抗体)

 同じB細胞に由来する形質細胞はどれでも特定の抗原に対する抗体を分泌する。そういった抗体はモノクローナル(単クローナル)抗体である。同じB細胞から産生される形質細胞の作る抗体は全て同じ型であるからである。試験管で(生体外でという意味)モノクローナル抗体を製造する手技のひとつがFigure 7.12 に図示してある。Bリンパ球が動物(マウスが通常用いられる)から取り出されて、特定の抗原に曝される。活性化されたBリンパ球はミエローマ細胞(悪性の形質細胞で、生存して無限に分裂し続ける)と合体させられる。合体した細胞は、ハイブリドーマと呼ばれる。二つの異なった細胞か合体しているのでhybrid、片方の細胞が癌細胞だから、-oma
 現在では、モノクローナル抗体は、様々な状態に関する迅速で信頼性の高い鑑別診断の検査として用いられている。例えば、あるホルモンが妊娠中の女性に存在するとして、あるモノクローナル抗体がそのホルモン検出するのに用いられる。そのホルモンが存在する女性は、妊娠とわかるのである。モノクローナル抗体は、感染症の識別にも用いられる。癌細胞と正常組織細胞の鑑別にも用いられる。モノクローナル抗体はラジオアイソトープ(放射性同位体)を運搬したり、毒性をもった薬剤を腫瘍まで運んで、選択的な破壊作用をもたらすのに用いられたりする。




Figure 7.12 Production of monochronal antibodies. モノクローナル抗体の産生


(page 158, right)

7.5 Immunity Side Effects 免疫の副作用

 免疫系は通常は、自己と非自己を識別することで我々を病気から守る。しかしながら、時々免疫系は身体に害を及ぼすように働く。例えば、アレルギーのときや、間違った輸血をしたときや、自己免疫反応のときがそうである。


Allergies アレルギー

 アレルギーは、花粉や動物の体毛のような本来は生体にとって害のないはずの物質に対する過敏性の亢進である。そういった抗原に対する反応はアレルギーと呼ばれ、通常、何がしかの程度の組織の損傷を伴う。四種類の型のアレルギー反応が存在する。が、ここではそのうちの二つだけについて見ようじゃないの: 即時型アレルギー反応と遅延型アレルギー反応について。

Immediate Allergic Response 即時型アレルギー反応

 即時型アレルギー反応は抗原に接触してから数秒で発生する。159ページの読み物で述べているように、風邪様の症状が通常見られる。アナフィラキシーショックは、突然おこる生命を脅かす程の大きな血圧の低下を特徴とする重篤な生体反応である。
 即時型アレルギー反応はIgEとして知られる抗体によっておこる。IgE抗体は組織内の肥満細胞や血中の好酸球の形質膜に結合する。肥満細胞や好酸球上のアレルゲンがIgEに結合すると、ヒスタミンや他の物質が放出されて、風邪様の症状や、稀にではあるがアナフィラキシーショックがおこる。
 アレルギーショットはアレルギー反応の発症を抑えることもある。アレルゲンの注入は身体に大量のIgGを産生させ、環境由来のアレルゲンとIgGが複合体を作ることで、アレルゲンが肥満細胞や好酸球上のIgE抗体と結合する確率を低下させる。


Delayed Allergic Response 遅延型アレルギー反応

 遅延型アレルギー反応は、身体の中のアレルゲンが存在する部位で感作T細胞により発現される。感作T細胞とは、以前に体内に存在したことのある抗原に対して反応する準備ができている細胞である。T細胞はマクロファージの助けを動員することでアレルギー反応を指示する。マクロファージは攻撃性を持ったウィルス性物質や感作細胞を貪食することができる。反応全体はT細胞とマクロファージの両者により放出されるサイトカインによって調節される。
 古典的な遅延型アレルギーの例はツベルクリン皮内反応である。ツベルクリン反応の結果が陽性であれば、抗原が注入された部位に発赤と組織の硬化がおこる。このことは、結核の原因菌であるtubercle bacilli に以前に感作されたことがあることを示している。接触皮膚炎、つまり、ツタウルシや宝石類、化粧品等に対するアレルギーもまた、遅延型アレルギーの例である。


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Autoimmune Diseases 自己免疫(性)疾患

 T細胞や抗体が間違って自分自身の細胞をあたかも外来の抗原であるかのように攻撃しておこる状態が自己免疫病である。自己免疫病がどのようにしておこるかについては詳細にはわかっていない。しかしながら、感染から回復したおこることが時にあるようである。
 自己免疫病である重症筋無力症(MG)では、神経筋接合部が適切に働かなくなり、筋力低下がおこる。多発性硬化症(MS)では、神経のミエリン鞘が崩壊し、それが原因で様々な神経筋障害が発生する。全身性エリテマトーデス(SLE)では、様々な症状が発生し、中でも腎障害は死因になる病変である。慢性関節リウマチ(RA)では、関節に病変が発生する。学者はリウマチ熱(RAとは別の疾患)の後で発生する心臓の障害やI型糖尿病もまた、自己免疫疾患であると考えている。自己免疫疾患には有効な治療法がないのではあるが、薬物(ステロイドなど)で症状をコントロールすることはできる。

 自己免疫疾患は抗体や細胞傷害性T細胞が自分自身の細胞を異物として認識して破壊することでおこる。


Tissue Rejection 拒絶反応

 特定の臓器、例えば、皮膚、心臓、腎臓は、ある人から別の人に移植することが可能である、もしも、身体がそれを拒絶しないのなら。拒絶は、身体の中で抗体と細胞傷害性T細胞が外来の組織を破壊するためおこる。拒絶がおきるなら、免疫系は自己と非自己を区別できているといえる。
 臓器拒絶はは移植される臓器の注意深い選択と免疫抑制剤の導入によってコントロールすることができる。ドナーの臓器のHLA抗原がレシピエントのHLAと一致していればベストである、というのも細胞傷害性T細胞は外来のHLA抗原を認識するからである。免疫抑制剤であるサイクロスポリン(あるいはシクロスポリン)は、長年にわたって使用されてきた。新しい薬、つまり、タクロリムス(FK506として知られている、藤沢製薬が筑波山のカビから発見した、あ〜どうでいいそんなこと)は、なんか有望そうである、特に肝臓移植の患者に対しては。しかし、サイクロスポリンもタクロリムスもT細胞のサイトカインに対する反応を抑制する作用機序のだけど、腎障害がある(副作用)ことが知られている。
 希望の星は、組織工学である。組織工学は抗原をもたない、あるいは抗原を免疫機構に曝されないような仕組みをもつようにしたものである。いつの日にか組織工学により、拒絶反応の問題は解決されるだろう。例えば、防御能をもったカプセルに閉じ込められた膵臓の細胞を腹腔内に埋め込まれるなどして。

 臓器が拒絶されると、免疫系は臓器を受ける人とは別のHLA抗原を提示する細胞を異物として認識して破壊する。


7.6 Homeostasis 恒常性

 血液と組織液は体内に内部環境を構築し、その環境は体細胞に供される。リンパ管は過剰な組織液を集め、リンパ液にして胸腔で心血管系の静脈に返す。リンパ器官は免疫系とあいまって我々を感染性の疾患から守っている。
 非特異的に感染から身体を防御する手段は、特異的免疫機構よりも先に機能する。皮膚、気道、消化管、泌尿器系に存在する粘膜の全てがウィルスや細菌の侵入に対して抵抗する。病原体が身体に侵入しようとするなら、感染の規模はできるだけ局所に限られるようになる。炎症反応の間、貪食能をもった白血球は、即座に病巣へと移動し、可能な限り多くの病原体を貪食する。マクロファージはウィルスや細菌をファゴサイトーシスによって貪食することに関して優れている。感染を防ぎきれず、病原体が血液中に入ると、一連のタンパク物質である補体が発動して、多様な方法で血液から病原生物や病原生物の発する毒性物質を除去しようとする。
 驚くべきことではないが、特異的防御機構は血球細胞の種類によって異なる。リンパ球とマクロファージが中心的役割を担っている。B細胞とT細胞は抗原と結合する受容体をもっていて、受容体を用いてそれらの細胞は自己と非自己を区別している。抗原の接合部位により、どのB細胞やT細胞がクローン性増殖を受けるかが決まる。B細胞は抗原を直接認識する能力をもっているが、T細胞はHLA抗原が一致したAPC(抗原提示細胞)によって抗原が提示されていることが必要になる。形質細胞(成熟したB細胞)は抗体を産生するが、T細胞は感染した細胞を直接殺傷する。
 リンパ臓器は免疫機構で中心的な役割を果たしている。白血球細胞は骨髄で産生され、B細胞の成熟も骨髄でおこっている。T細胞は胸腺で成熟する。脾臓は血液(寿命の尽きた赤血球など)を直接濾過する。リンパ球のクローン性増殖しリンパ節でおこり、リンパ節ではリンパ液の濾過も行っている。
 免疫系、神経系、内分泌系の間には強い関連がある。リンパ球は多様なホルモンに対する受容体をもっていて、胸腺は免疫系に影響を及ぼすホルモンを産生する。サイトカインは、脳の温度中枢を刺激して身体が疾患から回復するのに役立つ。熱が出て体温が高くなると、外来の侵入者(感染しようとする病原体)にとって都合の悪い環境になる。サイトカインは、だるさ、眠気、食欲不振の感情ももたらす。そういった徴候は、我々に回復するまで自分の身体を気遣うように働く。コルチゾンが関節の炎症反応を軽減させる働きをもっていることは、免疫とホルモン系の間の密接な関係を示している。

 リンパ管は過剰な組織液を集め、リンパ液にして心血管系の静脈に戻す。免疫系は通常、身体を感染性の疾患から護っている。