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Chapter 5

Composition and Function of the Blood 血液の組成と機能

Chapter Concepts この章のコンセプト

5.1 The Red Blood Cells 赤血球

5.2 The White Blood Cells 白血球

5.3 Blood Clotting 血液凝固

5.4 Plasma 血漿

5.5 Capillary Exchange 毛細管を介した物質交換

5.6 Blood Typing 血液型の決定



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Figure 5.1 Childhood leukemia. 小児白血病

 白血病から回復しつつある子供たちがキャンプに行くことを楽しんでいる。子供たちは化学療法の副作用としての一時的な脱毛があるにも関わらずである。


 ジョニーはあまり良い気分ではなかった。彼の母親がジョニーは熱があるので家にいるように言いつけ、寝いすで横になっているように言ったからだ。次の日になってもジョニーの体調は良くならず、母親はジョニーを医者に診せに行った。医者はジョニーが頻繁に感染症にかかり体重が減っているので心配した。医者はジョニーに精密な身体所見の検査を受け、血液検査もいっしょに受けるように指示した。
 二三日後、結果が返ってきて、その結果はジョニーは急性リンパ白血病(ALL)であると告げていた。ALLは子供に(多く)おこる癌である。急性 acute というのは、病状の進行が速いということである。リンパ球は白血球でまとめられる細胞群の型の一つで、白血病は未熟なリンパ球の異常な増加が起こる状態を指す。ジョニー少年の症例では、他の多くの症例と同様に、白血病の原因は不明であった。
 ジョニーの両親は非常に心配したが、医者は安心するように言った。ジョニーが紹介された施設では、幾つかの抗癌剤を組み合わせた治療が行われていて、その治癒成功率は症例の75%であった。一年後、ジョニーはすっかり良くなって、辛い目にあってきたなどとは言えなくなっていた。ジョニーはボール遊びをし、普通の子供と見間違えるほどであった。
 どうしてジョニーは多くの感染症にかかったのだろう。我々の白血球は感染源と闘う。しかし、ALL(Acute Lymphocytic Leukemia 急性リンパ白血病)の患者では、全ての型のリンパ球の数が多いにもかかわらず、リンパ球は未分化で、感染に対して適切な防御をすることができない。ジョニーの病気では、血液の別の機能は障害されていない。血液は様々な物質を体細胞とやり取りする。赤血球はヘモグロビンをもっているので赤い。ヘモグロビンは、酸素と結合する呼吸色素である。



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Figure 5.2 Composition of blood. 血液の組成

 血液は試験管に移され抗凝固処理が施されると、二つの層を形成する。透明で黄色の上層は血漿であり、血液の液体成分である。下層にあるのは有形成分である。表は、有形成分と血漿の組成を詳細に示している。
FORMED ELEMENTS
有形成分: 血液の45%
Function and Description
機能と説明
Source
産生部位
赤血球O2の輸送とCO2の輸送に関与赤色骨髄
-赤血球
血中に4,000,000〜6,000,000個/mm3
直径7〜8um、紅色〜暗紫色、両凹の円板状で無核
白血球
血中に4,000〜11,000個/mm3
感染防御赤色骨髄
-顆粒球
--好塩基球 血中に20〜50個/mm3直径10〜12um、球状の細胞、分葉核をもつ、大きくて不整形の濃い青に染まる顆粒を細胞質にもつ
--好酸球 血中に100〜400個/mm3直径10〜14um、球状の細胞、二分葉した核をもつ、きめの粗い濃赤色に染まる均一な大きさの顆粒を細胞質にもつ
--好中球 血中に3,000〜7,000個/mm3直径10〜14um、球状の細胞、多分葉した核をもつ、鮮やかで、ピンク色に染まる顆粒を細胞質にもつ
-非顆粒球
--リンパ球 血中に1,500〜3,000個/mm3直径5〜17um(平均9-10um)、球状の細胞、大きな円形の核をもつ
--単球 血中に100〜700個/mm3直径10〜24um、大きく球状の細胞、腎臓のような形状の円形もしくは分葉した核をもつ
血小板凝固の補助赤色骨髄
-血小板
血中に150,000〜300,000個/mm3
直径2-4um、円板状の細胞の断片、無核、紫色に染まる顆粒を細胞質にもつ
PLASMA
血漿: 血液の55%
Function and Description
機能と説明
Source
産生部位
水分血液量の保持、分子の輸送腸管から吸収
血漿タンパク血液浸透圧とpHの保持肝臓
-アルブミン血液量の保持、血漿浸透圧の保持
-グロブリン輸送、感染防御
-フィブリノーゲン凝固
塩類血液浸透圧とpHの保持、代謝の補助腸管から吸収
ガス
-酸素細胞呼吸肺胞
-二酸化炭素代謝の最終産物組織
栄養細胞の食べ物腸管から吸収
-脂質、ブドウ糖、アミノ酸
窒素老廃物腎臓からの排泄肝臓
-尿素、尿酸
その他代謝の補助様々
-ホルモン、ビタミン等


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 この章は、血液の構造と機能についてを網羅している。血液が患者の静脈から試験管に移され抗凝固処理が施されると、二つの層に分離する。下層には、赤血球、白血球、血小板が存在する。それらをひっくるめて、有形成分(?, formed element)と呼んでいる。有形成分は、全血の大凡45%の容積を占める。上層は血漿である。血漿には、様々な無機および有機分子が、水分中に溶解もしくは浮遊している。血漿は、全血の大凡55%の容積を占める。
 血液の機能は恒常性に役立っている。恒常性は、身体の内部環境の動的な平衡である。細胞は、組成が一定の限られた正常域に保たれている必要のある組織液に取り囲まれていて、そうでないと細胞は効果的な作用の働きを停止する。血液の機能は三つのカテゴリーに分けることができる。すなわち、輸送、防御、調節である。この三つの機能の全てが組織液を相対的に安定な状態に保つのに必要である。
 血液は酸素と栄養を組織に運び、組織から老廃物を取り除いて体外に排泄する。血液は、ホルモンも運搬する。ホルモンは、身体の臓器の機能をコントロールする物質である。血液は、病原体(最近やウィルスといった顕微鏡で見える大きさの感染物質)の侵入から身体を護り、凝固して血液の損失を防ぐ。血液が持つ多くの機能の中には、体温や身体組織のpHを正常域に保つといったことがある。

 血液は恒常性を保ち、細胞の環境(組織液)は相対的に安定した状態を保つ。

(訳注: 血漿 plasma; 血液から細胞を取り除いた液体成分, 血清 serum; 血漿からフィブリン塊(含フィブリノーゲン)を除いたもの)




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5.1 The Red Blood Cells 赤血球

 赤血球は、小型で、両凹の円板状の形をした、成熟した状態で無核な細胞である。赤血球は大量に存在する。全血には、1mm3あたり4,000,000(4百万)〜6,000,000(6百万)個の赤血球が存在する。赤血球は無核であることで、ヘモグロビンが存在するための領域がより多く存在する。ヘモグロビンは、酸素を運搬することから呼吸色素と呼ばれ、赤色である。赤血球には、大凡200,000,000(2億)ものヘモグロビン分子が存在する。もし、この大量のヘモグロビンが細胞内に閉じ込められていないで血漿に浮遊していたとすると、血液はより粘稠(ねんちょう)で心臓から拍出することが困難になってしまう。ヘモグロビン分子の内部には、ヘム鉄の部分で細胞呼吸に必要な分子である酸素を運んでいる。ヘモグロビンの酸素化の反応式は、通常、以下のように記される。

Hb+O2
HbO2
組織

 右側のヘモグロビンは、酸素と結合していて、オキシヘモグロビンと呼ばれる。肺で形成されるオキシヘモグロビンは明るい赤色をしている。左側のヘモグロビンは、組織に酸素を供与した状態で、デオキシヘモグロビンと呼ばれる。デオキシヘモグロビンは、暗紫色をしている。残念なことに、114頁の Ecology reading で述べているように、一酸化炭素は酸素よりもよりヘモグロビンと結合する傾向が強く、数時間結合した状態が持続して、ヘモグロビンが酸素を結合できなくしてしまう。

 赤血球にはヘモグロビンが存在し、細胞呼吸に必要な分子である酸素を運搬する。



Figure 5.3 Physiology of red blood cells. 赤血球細胞の生理学

a. 赤血球細胞は、一筋になって狭い毛細血管を通過する。
b. 赤血球はそれぞれ両凹の円板状の形状であり、内部に大量のヘモグロビン分子を含んでいる。
c. ヘモグロビンは四つのポリペプチド鎖をもっている。からなる。ポリペプチド鎖の二つはα鎖で、二つはβ鎖である。それぞれの鎖の中心には、鉄を含んだヘム類がある。ヘモグロビンが酸素化された際には、酸素が鉄とゆるく結合する。酸素化されたヘモグロビンは明るい赤色であり、酸素と解離したヘモグロビンは暗赤色である。




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Visual Focus

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Figure 5.4 Blood cell formation in red bone marrow. 赤色骨髄内での血球の形成。
 多くの細胞に分化する能力をもっている(骨髄-)幹細胞は、二つの主要な特化した幹細胞に分化する。骨髄性幹細胞は更に別の細胞、つまり、赤血球、血小板、リンパ球以外の全ての白血球に分化する。リンパ性幹細胞はリンパ芽球への分化を経てリンパ球に分化する。


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The Life Cycle of Red Blood Cells 赤血球の生活環

 乳児では赤血球は全ての骨の赤色骨髄で産生されるが、成人では頭蓋骨、肋骨、胸骨、椎骨、骨盤骨の赤色骨髄で主に産生される。
 赤血球を含んだ全ての血球細胞は幹細胞(かんさいぼう)と呼ばれる特別な骨髄細胞から形成される。幹細胞は分裂能を維持していて、特別な型の別の種類の細胞を産生することができる。赤血球が成熟する過程で、核が消失して、ヘモグロビンが流入する。核を欠いていることが原因かもしれないが、赤血球はわずか約120日の寿命である。赤血球は古くなると、肝臓や脾臓で破壊され、そこで巨大な食細胞であるマクロファージにより貪食(どんしょく)される。一秒間に 約2,000,000(2百万)個の赤血球が破壊されると考えられており、それ故、釣り合いを保つにはそれと同数の赤血球が産生される必要がある。
 赤血球は破壊されると、ヘモグロビンを解離する。ヘモグロビンのグロビン部分は、分解されて生体を構成するアミノ酸となって身体で再利用される。鉄は再び血中を輸送されて骨髄に戻って再利用される。ヘモグロビン分子のヘム部分は化学的に分解されて、肝臓より胆汁内の胆汁色素の形で排泄される。表面の色調により分類されるビリルビンとビリベルジンの二種類の胆汁色素が存在する。ヘムの化学的な分解の過程は、皮膚の表面の傷の色調が赤や紫から青、緑、黄色へと変化していく過程の説明でもある。
 1.はじめて標高の高いところで生活するようになったり、2.赤血球を喪失したり、3.肺の機能が限界に達したりして、動脈血が運搬する酸素の量が減少すると、産生される赤血球の数は増加する。赤血球の産生が増加する事態では、腎臓によるエリスロポ(イ)エチンの放出が増加している。エリスロポエチンはホルモンで、血流に乗って赤色骨髄に到達する。エリスロポエチンが赤色骨髄に到達すると、赤血球への成熟過程にある細胞の成熟の速度は加速する。肝臓やその他の組織もエリスロポエチンを産生することが知られている。今日では、生命工学の進歩により、エリスロポエチンが大量生産されている。赤血球数を増加させて血液の酸素運搬能を増加させるという目的で、運動選手によりエリスロポエチンが乱用(濫用)されることがある。


 赤血球は赤色骨髄に於て、幹細胞から分裂した細胞が数段階の成熟過程を経て赤血球となる仕組みで産生される。赤血球の寿命は、わずか約120日で、肝臓や脾臓内で貪食細胞により破壊される。



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Anemia 貧血

 赤血球の数が少なかったり、赤血球がヘモグロビンを十分な量もっていないと貧血になり、疲労を訴える。貧血の幾つかの型では、血中ヘモグロビン量が低い。(訳注: この種類の型の貧血は hypochromic anemia 低色素性貧血。)この型の貧血の原因は、食事中に鉄分や葉酸が少ないことが原因で ある可能性がある。ある種の食物、例えば全粒シリアルは鉄分と葉酸を多く含んでいて、食事の中にそういった食物を取り入れることが貧血を防ぐのに役立つ。
 別の型の貧血として、悪性貧血と呼ばれる貧血がある。悪性貧血では、消化管からビタミンB12を吸収することができない。ビタミンB12は、乳製品、魚、卵、鶏肉などに含まれている。ビタミンB12は赤血球が正しく形成するために必要であり、ビタミンB12が無いと、未成熟な赤血球が骨髄に大量に蓄積するようになる。特別食や、ビタミンB12注射が悪性貧血の治療に有効である。
 溶血は赤血球が破壊される現象である。溶血性貧血では、赤血球破壊の頻度が亢進する。鎌状赤血球症は遺伝性疾患であり、患者の赤血球は鎌状の形をしていて、狭い毛細血管を通過する際に破壊されやすくなる。この症の末尾で述べている 新生児溶血症 も溶血性貧血の一つの型である。


 血液中の赤血球数が少なかったり、赤血球中のヘモグロビン量が少ないと貧血になる。


Figure 5.5 Action of erythropoietin. エリスロポエチンの作用

 血液の酸素運搬能が減少すると、腎臓は大量のエリスロポエチンを放出する。エリスロポエチンは赤色骨髄に酸素を運搬する赤血球の産生を加速する刺激となる。血液の酸素運搬能が、細胞が通常の機能を営めるまでに回復すると腎臓はエリスロポエチンの産生を削減する。
(訳注: フィードバック機構による調節)




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5.2 The White Blood Cells 白血球

 赤血球は白血球と比べて、1.通常白血球のほうが赤血球よりも大きいこと、2.核をもっていること、3.ヘモグロビンをもっていないこと、4.染色しない状態では半透明であることで異なっている。白血球は、血液中にわずか 5,000〜10,000個/mm3しか存在しない。白血球は感染と闘い、恒常性にとって重要な役割を果たしている。白血球の感染防御の機能については、免疫能について述べている7章で長々と述べられている。
 白血球は赤色骨髄の幹細胞から発生し、その過程も(赤血球の場合と同様に)幾つかの成熟の段階を経て行われる。身体に病原体が侵入すれば必ず白血球の産生が亢進する。コロニー形成刺激因子(CSF)と呼ばれるホルモンが白血球から放出されて、心血管系を循環して骨髄に戻り、白血球の産生を刺激する。
 赤血球は血液中にのみ存在するのに対して、白血球は毛細血管壁の孔を通って滲出することが可能であり、それ故、白血球は組織液やリンパ液にみられる。感染症にかかると、白血球数は大きく増加する。多くの白血球の寿命は数日(2,3日)であり、おそらく病原体と結合すると死ぬのだと思われる。白血球の中には、数ヶ月から数年の寿命をもつものも存在する。


 白血球は感染と闘う。白血球は身体に侵入する病原体から我々を護る。



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Types of White Blood Cells 白血球の型

 白血球は顆粒球と非顆粒球に分類される。どちらの型も核を取り巻く細胞質に顆粒をもっているが、顆粒球の場合は染色することで顆粒がより見易くなる。顆粒の中には様々な酵素やタンパクが入っていて、白血球による生体防御の機能に役立っている。顆粒球には三つの型があり、非顆粒球には二つの型がある。それぞれの型は大きさや核の形状で幾分異なっていて、機能に於いても異なっている。

顆粒球
 好中球は白血球の中で最も数の多い細胞である。好中球には多分葉した核があり、分葉した核は核糸で繋がっている。それ故、好中球は多核白血球とも呼ばれる。好中球の中には顆粒があり、顆粒は、ピンク〜赤色に染める色素であるエオジン(エオシン) と 青〜紫色に染める色素である塩基性染料 のどちらにも良く染まらない。(このことが好中球という名の由来である。) 好中球は感染防御の機能を果たす最初の白血球の型であり、貪食作用により病原体を貪食する。
 好酸球は二分葉した核をもち、豊富に含まれている大きくな顆粒はエオジンを吸収して赤く染まる。(このことが好酸球という名の由来である。) 好酸球の機能についての詳細な事実はあまり知られていないが、寄生虫感染やアレルギー反応が起こる際にその数が増加することが知られている。
 好塩基球は、アルファベットの'U'字型もしくは分葉状の核をもっている。好塩基球の顆粒は塩基性染料を吸収して暗青色に染まる。(このことが好塩基球という名の由来である。) 好塩基球は組織に入り、肥満細胞になると考えられている。肥満細胞はアレルギー反応と関連のあるヒスタミンを放出する細胞である。ヒスタミンは血管を拡張させ、平滑筋を収縮させる。

非顆粒球
 非顆粒球には、腎臓状の形をした核をもつ単球 と 球状の形をした核をもつリンパ球 がある。非顆粒球は特定の病原体とその毒素に対する特異的な防御機構を担って(になって)いる。病原体は抗原と呼ばれる分子をもっていて、免疫系は抗原を識別して病原体を異物として認識する。
 単球は白血球の中で最も大きな細胞で、組織中に移行すると、より大きなマクロファージに分化する。マクロファージは 病原体 や 老朽化した細胞 や 細胞の老廃物 を貪食する。マクロファージはリンパ球を含んだ他の白血球を活性化させ機能も持っていて、身体を感染から護っている。
 リンパ球には、Bリンパ球(B細胞)と Tリンパ球(T細胞) の二つの型がある。Bリンパ球は、抗原と結合することで標的病原体を破壊させる働きをもつ抗体を産生することで我々を護っている。一方で、Tリンパ球は、抗原を持っているあらゆる細胞を直接破壊する。Bリンパ球 と Tリンパ球に関しては 7章でより詳しく紹介している。


 白血球は顆粒球と非顆粒球に分類される。白血球のそれぞれの型は、疾病から身体を護る特異的な機能を持っている。


白血病
 白血病の特徴は、異状に増加した未熟な白血球が赤色骨髄を占拠し、赤血球の産生が妨げられることである。結果として貧血がおこり、未熟な白血球により疾患に対する防御能が低下する。癌の一種である白血病の原因は不明である。しかし、多剤併用化学療法が最も有効な治療であり、特に急性小児白血病の治療で有効である。


Figure 5.6 Mobility od white blood cells. 白血球の血管透過性

 白血球は毛細血管壁の孔を通って身体の組織に滲出することが可能。




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5.3 Blood Clotting 血液凝固

 血小板は赤色骨髄に存在する巨核球と呼ばれる大きな細胞の断片から作られる。血小板は一日に200,000,000,000(2000億)個もの割合で産生され、血液中には1mm3あたり150,000〜300,000(15〜30万)個の血小板が含まれている。この有形成分は血液凝固の過程に関与している。
 血液中には少なくとも12種類の凝固因子があり、血餅(けっぺい)の形成に関与している。血小板、プロトロンビン、フィブリノーゲンの働きについて述べよう。フィブリノーゲンとトロンビンは肝臓で合成されて血液に分泌されるタンパクである。緑色野菜に含まれており、また腸内細菌により産生される ビタミンK は、プロトロンビンの産生に必要であり、もしもビタミンKが食物中に欠けているならば、出血性疾患を発症することになる。(訳注: ビタミンK 依存性凝固因子はU\Z])


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血液凝固の各段階
 身体の内部の血管が障害を受けると、血管の孔の開いた部分に血小板が凝集し、血管からの漏れをある程度封印する。血小板と傷害を受けた組織は凝固因子の一つであるプロトロンビンアクティベーターを放出する。プロトロンビンアクティベーターはプロトロンビンをトロンビンに変換する。この反応にはカルシウムイオン(Ca++)が必要である。一方でトロンビンは、フィブリノーゲン分子から二本の短いアミノ酸鎖を作り出す酵素として働く。断片(アミノ酸鎖)は端と端で結合し、フィブリンの長い糸を形成する。フィブリン糸は血管の傷害部位に存在する血小板でできた血栓に巻きつき、凝結塊の枠組みとなる。フィブリン糸は赤血球にも巻きつき、故に凝結塊は赤い。フィブリン塊は一時的に存在するにすぎない。血管修復が開始すればすぐにプラスミンと呼ばれる酵素がフィブリン網を破壊し、再び血漿が通過できるようになる。
 血液が試験管で凝血する状態であれば、黄色の液体が凝固物質の上層に存在するようになる。液体成分は血清と呼ばれ、フィブリノーゲン以外の血漿の全ての成分を含んでいる。Table 5.1 は、血液に関連した種々の身体の液体成分に関する多くの異なった用語を記載している。


Figure 5.7 Blood clotting. 血液凝固

 血小板と傷害を受けた細胞はプロトロンビンアクチベーターを放出し、プロトロンビンアクチベーターはカルシウムイオンの存在下でプロトロンビンからトロンビンを産生するように働く。トロンビンはカルシウムイオンの存在下でフィブリノーゲンからフィブリン糸を形成するように働く。走査電顕による凝血塊の画像では、フィブリン糸が赤血球を捕縛している様子を見ることができる。


Table 5.1 Blood Plasma 血漿
用語構成物質
Blood 血液有形成分 と 血漿
Plasma 血漿血液の液体成分
Serum 血清血漿からフィブリノーゲンを除いたもの
Tissue fluid 組織液血漿から大部分のタンパクを除いたもの
Lymph リンパ液リンパ管内の組織液


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Hemophilia 血友病

 血友病は遺伝性の凝固障害であり、凝固因子の欠乏が原因である。ちょっとした打撃が原因で患者の関節では出血がおきる。関節内での軟骨組織の変性がおこり、下層に存在する骨の吸収が続いて起きる。筋組織内部への出血により神経が障害を受け、筋が萎縮する。死亡の最多原因は神経学的損傷を伴った脳内出血である。




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5.4 Plasma 血漿

 血漿は血液の液体成分であり、血漿の約92%は水分である。血漿の残りの8%は、種々の塩類や有機分子からなる。血漿に(単純に)溶けていて、血液の pH と 浸透圧 の保持に役立っている。ブドウ糖、アミノ酸、尿素といった小有機分子も血漿に溶けている。ブドウ糖とアミノ酸は、細胞の栄養となる。尿素は窒素性老廃物で腎臓から排出される。血漿の大きな有機分子には、ホルモンや血漿タンパクがある。(Table 5.2)


Table 5.2 Blood Plasma Solutes 血漿溶解成分
無機イオン(塩類)Na+, Ca++, K+, Mg++, Cl-, HCO3-, HPO42-, SO42-
ガス酸素、二酸化炭素
有機栄養成分ブドウ糖、脂肪、リン脂質、アミノ酸等
窒素性老廃物質尿素、アンモニア、尿酸
調節物質ホルモン、酵素


The Plasma Proteins 血漿タンパク質

 血漿タンパクは血漿に残ることからその名がある。血漿タンパクの三つの主要な型は、アルブミン、グロブリン、フィブリノーゲンである。大部分の血漿タンパクは肝臓で造られる。例外として、Bリンパ球により産生される抗体(i.e. 免疫グロブリン)がある。抗体は免疫機能を担って(になって)いる
 血漿タンパクは多くの機能を持っていて恒常性の維持に役立っている。血漿タンパクは水素イオンを吸収したり放出したりすることができる。それ故、血漿タンパクは血液を緩衝して血液のpHを7.40近辺に保つのに役立つ。血漿タンパクは浸透圧の調節にも行っていて、水分を血液中に保持するのに役立っている。ある種の血漿タンパクは大きな有機分子と結合して輸送を行う。例えば、アルブミンはヘモグロビンの分解産物であるビリルビンを輸送する。リポタンパクのタンパク部分はグロブリンであり、コレステロールの輸送を行っている。α-, β-, γ- の三種類のグロブリンが存在する。抗原と結合することで感染防御に役立っている抗体はγグロブリンである。他の血漿タンパクも特異的な機能をもっている。例えば、フィブリノーゲンは血液凝固に必要である。

 血漿タンパクは多くの機能で恒常性の維持に役立っている。




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5.5 Capillary Exchange 毛細血管を介した物質交換

 身体の内部環境には 血液 と 組織液 が存在する。組織液の成分は比較的一定に保たれていて、それは毛細血管の部分で物質交換を行っているからである。水分は組織液の大部分を占め、余分な組織液は通常毛細血管の近傍に存在するリンパ毛細管より吸収される。

Blood Capillaries 毛細血管

 毛細血管には 動脈端 と 静脈端 が存在する。

Arterial End of Capillary 毛細血管の動脈端
 血液が組織の毛細血管に流入すると、その部分は酸素を運搬している赤血球があるため赤く見える。動脈血は(酸素だけでなく)栄養も豊富に含んでいて、栄養は血漿に溶けている。毛細血管の動脈端では血圧(30mmHg)は血液の浸透圧(21mmHg)よりも高い。血圧という言葉から思い浮かぶのは、血圧は心臓の拍動により形成されるということである。浸透圧は、1.塩類の存在 と 2.毛細血管壁を通過するには分子が大きすぎる血漿タンパク により形成される。血圧が浸透圧よりも高いので、栄養(ブドウ糖とアミノ酸)を含んだ液体は毛細血管の外に出る。赤血球と大部分の血漿タンパクは通常毛細血管内に残る。しかし、小さい分子は毛細血管の外に出る。それ故、こういった機序(毛細血管からの滲出)で形成される組織液は、タンパク以外の血漿の全ての成分を含んでいる。

Midsection of Capillary 毛細血管の中央部分
 毛細血管の全長にわたって、物質の拡散による分子の濃度勾配が発生する。拡散といえば、濃度の高い部分から濃度の低い部分へと分子が移動することが思い浮かぶ。組織に関して言えば、栄養と酸素の濃度が高いのは常に血液側である、というのも、栄養と酸素の分子は組織液に移行した後、組織の細胞によって吸収されて代謝を受けるからである。細胞はブドウ糖(C6H12O5)と酸素(O2)を好気呼吸に利用し、アミノ酸をタンパク合成に利用する。細胞の好気呼吸の結果、細胞は二酸化炭素(CO2)と水(H2O)を解離する。二酸化炭素と他の代謝の老廃物は細胞から拡散して離脱する。組織液は常にそういった老廃物の濃度が高いので、老廃物は毛細血管へと拡散する。


 酸素と栄養分子(つまりブドウ糖とアミノ酸)は動脈端近辺の毛細血管から離脱し、老廃物(つまり二酸化炭素)は静脈端近辺で毛細血管に流入する。

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Venous End of Capillary 毛細血管の静脈端
 毛細血管の静脈端では血圧は大きく減少していて(15mmHg)、そのことは Figure 5.8 を見ることで確認できる。しかしながら、浸透圧は減少しておらず(21mmHg)、そのことが毛細血管に液体を吸引する誘引となっている。水が毛細血管に入ると、それに付随して老廃分子も運搬される。毛細血管から出てくる血液は濃い紫色で、それは赤血球が酸素を解離したヘモグロビンを含んでいるからである。
 浸透圧の観点から見れば、液体の回収は完全であるとはいえない。静脈端には吸収されない液体が常にいくらか残っている。この過剰な組織液はリンパ毛細管に流入する。


Figure 5.8 Exchange between blood and tissue fluid across a capillary wall. 毛細血管壁を介在した血液と組織の物質交換。


Lymphatic Capillaries リンパ毛細管

 リンパ毛細管は、最も小さななリンパ管である。リンパ管は一方通行の系である。リンパ管の構造は心血管系の静脈の構造に類似しているが、リンパ管は壁が薄くて弁を静脈よりも多くもっていることで異なっている。弁構造があることで、リンパ液が胸腔内に流れるというようなリンパ液の逆流を防いでいる。リンパ毛細管は結合してより大きな管となり、リンパ管を形成する。右リンパ本管は胸腔内で心血管系の静脈にリンパ液を全て注ぐ。
 リンパ管は組織液と同じ組成のリンパ液を運搬する。何故や?それは、リンパ毛細管は余分な組織液を毛細血管の近傍で吸収するからだ。リンパ系は幾つかの方法で恒常性に関与している。一つの役割として、余分な組織液を血液に戻すことで、通常の血液量と血圧の保持することがある。浮腫は、組織液がリンパ毛細管で回収されない際におこる。浮腫の原因は様々である。仰天するような原因の一つとして、リンパ管に寄生する寄生虫感染がある。寄生虫がリンパ管に感染した脚はとても大きくなり、そのことからこの疾患は象皮病(ぞうひびょう)と呼ばれる。
(訳注: 象皮病; 主にバンクロフト糸状虫 Wuchereria bancrofti, マレー糸状虫 Brugia malayi といったフィラリア虫などの感染数年後に,最も一般的にリンパ管が長期間閉塞されて起こる,皮膚,皮下組織,特に下肢,性器の肥大および線維症 < Stedman)

 栄養や老廃物の交換は毛細管の部分で起こる。リンパ毛細管は余剰な組織液も回収する。


Figure 5.9 Lymphatic capillaries. リンパ毛細管
 矢印は リンパ管毛細管が余分な組織液を回収してリンパ液が形成されることを示している。リンパ毛細管は毛細血管の近傍に存在する。




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5.6 Blood Typing 血液型の判定

 血液型の判定の際には、抗原と抗体の二つの型の分子が関与する。前に述べたように、抗原(外来物質=異物)が体内に存在すると、抗体が抗原と結合して反応する。


ABO System ABO式血液型

 最も一般的な血液型の判定は、ABO式血液型の判定である。ABO式血液型では、赤血球上の A抗原 や B抗原 の存在の有無が個人の血液型を決定している。例えば、ある人がA型の血液を持っているとすれば、赤血球上には A抗原が存在するはずである。A抗原の分子は本人にとっては抗原とはならないが、A型でない血液を持っている人には抗原となる。
 単純化した ABO式血液型では、四つの型の血液型が存在する。A型、B型、AB型、O型である。血漿には、本人の赤血球上に存在しない型の抗原に対する抗体が存在する。そういった抗体には、抗A抗体、抗B抗体といった名前がついている。 (訳注: 御存知の如く、抗O抗体はありません)

血液型赤血球上の抗原血漿中の抗体
A型A抗原抗B抗体
B型B抗原抗A抗体
AB型A抗原, B抗原ない
O型ない抗A抗体, 抗B抗体

 A型の血液は血漿に抗B抗体を持っていて抗A抗体を持っていないことは理にかなっている。もしも、A抗体が血漿中に存在するならば、凝集反応、つまり赤血球の凝集がおこってしまう。赤血球の凝集は、小血管内での血液循環を停止させ、そのことにより臓器は障害を受ける。そのことは、続いておこる溶血症の発症をも意味し、溶血症により死に至ることもある。
 供血者(ドナー)から血液を受け取る受血者(レシピエント)にとって、受血者の血漿は受血者の血球が凝固するような抗体を含んでいてはならない。この理由から、供血者と受血者の血液型を判定することは重要である。Figure 5.10 は血漿から抽出した抗体を用いて血液型を判定する方法を示している。血液の試料を特定の抗体と混和(x懇話)させて凝集がおきれば、被検者はその抗体が示す血液型をもっている。
 今日、輸血にまつわる問題としては、血液型の不一致だけではなく、良い品質で感染物質を含んでいないことが重要であるということもある。血液は、AIDS、肝炎、梅毒といった重篤な感染症の原因となる物質の検査を受けている。供血者は血液を提供してはいけない場面を知っていることで、国家の血液供給に貢献することができる。このことは、117ページの Health reading の topic である。

 輸血目的で、供血者の血液は受血者の血液に適合するものでなければならない。ABO式血液型は供血者と受血者の血液の適合性を調べるのに用いられる。


Figure 5.10 Blood typing. 血液型の判定

 ABO式血液型とRh式血液型を決定するための標準的な検査の方法として、スライド上に別々に 抗A抗体, 抗B抗体 抗Rh抗体 を滴下する方法がある。抗体を滴下した溶液のそれぞれに被検者の血液が滴下される。
a. 右上の写真に示したように凝集がおこると、被検者の赤血球上には抗原が存在することを意味する。
b. 幾つかのありうる結果。ABO式血液型は A, B, O の文字を用いて示される。Rh式血液型は (+) と (-) のシンボルを用いて示される。


Rh System Rh式血液型

 もう一つの重要な血液型を判定する抗原として、Rh因子がある。合衆国国民の85%の人口が Rh+(Rh陽性)の特異的な抗原を赤血球上に持っている。15%はこの抗原をもっておらず、Rh-(Rh陰性)である。Rh+の個体は通常Rh因子に対しての抗体を持っていないが、Rh因子(抗原)に暴露されると、抗Rh抗体を産生するようになる。抗Rh抗体を血液型判定に用いることは可能である。Rh+血 を 抗Rh抗体 と混和すると凝集反応が起こる。
 妊娠の際に母親が Rh- の個体で、父親が Rh- の個体であると、子供は Rh+ となることがある。Rh+ 赤血球は胎盤を通過して母体の心血管系に流れ込み、胎盤組織は通常出生前後に崩壊する。Rh抗原 の存在により、母体は 抗Rh抗体 を産生する。その回、もしくは次回の Rh+の児を出産する妊娠では、母体により抗Rh抗体が産生され、胎盤を通過して胎児の赤血球を破壊することになる。この現象は新生児溶血性疾患と呼ばれていて、溶血症は出産後も続く。赤血球破壊が原因で血液中に増加したビリルビンは脳に障害を及ぼし、精神遅滞をおこしたり、死に至ることさえある。
 Rh不適合は、Rh-の女性にRh抗体を 1.最初の妊娠の途中か もしくは 2.Rh+児が出生して72時間以内に 注入することで防ぐことができる。注入液には 抗Rh抗体が含まれていて、胎児赤血球が母体の免疫系を刺激するより前に母体血中の全ての胎児赤血球を攻撃する。


 母体血が Rh-で、胎児血が Rh+であると、新生児に溶血性疾患が発生する可能性がある。





Bioethical Issue 生命倫理学的な論点