週間情報通信ニュースインデックスno.1517 2026/3/7


1.米国で話題集める「SaaSの死からAI不況」論に異議、経済学の常道に反する (3.6 日経XTEC)
ソフトウエア開発の生産性がAI(人工知能)によって急激に向上したことによって、「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の死」に続いて「AI不況」が起きる。そんなリポートが2026年2月末に話題になった。しかし即座に反論の声も上がっている。議論をおさらいしよう。

 2026年2月22日(米国時間)に発表されて大きな話題を呼んだのは、調査会社の米Citrini Research(シトリニ・リサーチ)が公開した「The 2028 Global Intelligence Crisis」というリポートだ。ここでいうCrisisは不況、経済危機という意味合いだ。日本では俗に「リーマン・ショック」と呼ばれる2008年に始まった金融不況も、英語圏では「2008 Financial Crisis」と呼ばれる。

 シトリニ・リサーチがリポートで主張したのは、AIによる生産性向上を起点に、様々な「負の連鎖」が生じることで、最終的に経済が不況に至るというシナリオだった。大きな連鎖は3つある。

 1つは、AIによるホワイトカラーの生産性向上が、ホワイトカラーの雇用減少を生み出し、その結果、個人消費が減少し、景気が悪化するという連鎖だ。

 同時に、ホワイトカラーの雇用が減少すると、企業の利益は増大するが、企業はその利益を雇用拡大ではなくさらなるAI投資につぎ込む。その投資の結果、AIによる生産性向上が進み、それがホワイトカラー雇用の減少につながるという「負の再生産」が働く。これが2つめの連鎖だ。

 3つめは、AIによるホワイトカラーの生産性向上が、SaaS企業の不振につながり、近年SaaS企業に多額の投資をしてきた機関投資家が打撃を受けた結果、金融市場が冷え込み、景気悪化につながるというものだ。

 シタデルがリポートでまず指摘したのは、ソフト開発の生産性が急上昇している2025年11月以降、求人サービス「Indeed」におけるソフト開発者の求人数が米国で急増しているという事実だ。求人数全体の伸び率に比べると、ソフト開発者の求人数の伸びは突出しているという。

 シタデルはリポートで「AI主導の自動化は、本質的に生産性ショックである。生産性ショックは正の供給ショックであり、限界費用を低下させ、潜在的な生産量を拡大し、実質所得を増加させる」「歴史的に、蒸気動力、電化、内燃機関、コンピューティングといった主要な技術進歩はすべて、このパターンをたどってきた」と主張。AIによる生産性向上は、所得を増加させるとの見通しを示した。

 さらにシタデルは「生産性が向上するのに、総需要が減少するという予測は、マクロ経済学における会計恒等式に反する」と述べ、AIによる生産性向上が不況につながる「負の連鎖」は、経済学の常道に反すると位置付けた。

 これまでも「理想的には、新しいアイデアを思いついた瞬間に、それを試すソフトをすぐにつくるべきであった。それが実現していなかったのは、ソフト開発のコストが高すぎたからだ」とショレ氏は語る。世界にはまだ膨大な「ソフト開発需要」が眠っているというのがショレ氏の見立てだ。

2.ランサム攻撃の「二重脅迫」最強神話が崩壊、窃取データによる脅し通用せず (3.4 日経XTEC)
現在、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃の主流は「二重脅迫」である。業務データを暗号化して「復元したければ身代金をよこせ」と脅迫するとともに、盗まれたデータを公開されたくなければ金銭を支払うよう脅す。

 だが、窃取データによる脅迫が通用しなくなっているという。データの公開を阻むために金銭を支払う企業が減っているのだ。

 ランサムウエア攻撃とは、文字通りランサムウエアを使ったサイバー攻撃だ。ランサムウエアは、データを暗号化するマルウエア(悪意のあるプログラム)である。ランサムウエアを使って企業の業務データを暗号化し、元の状態に戻したければ身代金を支払うよう要求する。

 なぜ、被害企業は身代金を支払わなくなっているのか。データを窃取されることの影響を、企業が深く理解し始めているためとコーブウエアは分析する。ここ数年の事例から、窃取データの公開を防ぐために身代金を支払っても、リスクは軽減されないというコンセンサスが高まっているという。

 データの暗号化に対抗するには、やはりバックアップが重要になる。とはいえ、「自社はバックアップを取っているから大丈夫」などと安易に考えてはいけない。バックアップを取っていても、迅速かつ正確にデータを戻せるとは限らない。バックアップまで攻撃者に暗号化されるおそれもある。

 警察庁によると、2025年上半期にランサムウエア攻撃被害を報告した企業の約96%がバックアップを取っていた(有効回答数53件)。ところが復元できたのは、わずか約15%だった(有効回答数48件)。ランサムウエア攻撃者が戦略を変えたとしても、バックアップの重要性は変わらない。改めて確認する必要がある。

3.エリクソン、6G見据え「AIを最大限活用」 アジア太平洋地域CTO (3.4 日経XTEC)
エリクソンのエヴァブリング氏は「AIは6Gにとって極めて重要になる。AIをベースとして規格を設計するようになる」と述べた。 スウェーデンEricsson(エリクソン)は6G(第6世代移動通信システム)に向け、通信業界におけるAI(人工知能)の活用に注力する。同社アジア太平洋地域の最高技術責任者(APAC CTO)を務めるMagnus Ewerbring(マグナス・エヴァブリング)氏に、技術の展望や取り組みについて聞いた。

AI活用に関して、エリクソンは何に取り組んでいますか。 AIのポテンシャルを最大限に活用できるよう取り組んでいます。  AIを支援する通信を構築する「Network for AI」についての取り組みです。例えばアプリケーションがあり、ユーザーが「Chat(チャット)GPT」に質問を投げかけ、素早い回答を求めるとします。質問はクラウドへ送られ、そこでLLM(大規模言語モデル)の処理が実行され、準備された回答がユーザーに送信されます。我々の通信ネットワークはこれに対して遅延を起こさないよう、迅速な動作を保証します。

 AIによって通信ネットワークの性能向上を実現する「AI for Network」の事例では、周波数スペクトルの使用において、情報を送信するに当たり要した時間を1割以上圧縮することができました。これは実質的に、通信事業者が情報を送信するためのスペースが1割以上増えたことを意味します。モバイル事業者にとって、この価値は計り知れません。これは、アルゴリズム内にAIを実装することで実現されました。

 AIは6Gにとって極めて重要になると考えています。我々は6GをAIネーティブであると表現しています。つまり、最初からAIをベースラインとして規格を設計し、その規格に基づいて製品を設計するということです。これまでの世代の通信規格では、AIはシステムに後から付け加えられるようなものでした。しかし、最初から設計に組み込めば、あらゆる構成要素においてAIの活用を検討できます。6Gに向けて、AI活用の可能性はさらに広がると考えています。

4.「AIは産業革命、仕事の定義を変える」 村田製作所の社長らが討論 (3.3 日経XTEC)
経営者や有識者が集まり、3月3日・4日に開催される「AIリーダーズ会議 2026 Spring」(主催=日経ビジネス、日経BP)。3日に行われたパネルディスカッションに、村田製作所の中島規巨社長、SOMPOホールディングス(HD)の奥村幹夫社長、イトーキの八木佳子常務執行役員、ベイン・アンド・カンパニー アジア太平洋地域代表の奥野慎太郎氏、FIXERの松岡清一社長、伊藤忠テクノソリューションズの柘植一郎会長が登壇した。モデレーターは日経BPの浅見直樹専務取締役CMO(最高マーケティング責任者)が務めた。

 パネルディスカッションのテーマは「トップが語る、AIエージェントと企業経営」。AI活用の効果を最大化するには、経営トップのビジョンや全社を巻き込むリーダーシップが重要となる。AIの力を最大限引き出すために、経営の意思決定や業務プロセス、企業文化をどのように変えていく必要があるのか。日本で先進的なAI活用を行っている経営者が議論した。

 村田製作所の中島社長は「AIは一つの産業革命だ。AI活用を通じて人の仕事の定義を変えていきたい」と意気込む。  同社はエージェントとして使えるAIツールを自前で開発している。「年間30億円ほどの経済効果をもたらすだろう」(同)。経営指標として重要視している投下資本利益率(ROIC)を高めるという観点でも、AIを積極的に活用していく構えだ。

 SOMPOHDの奥村社長は「意思決定のプロセスを変えずにAIを組み込んでも、効果は存分に発揮されない。不要なプロセスをどれほど捨てられるかが、マネジメントの仕事だ」と指摘した。日本では少子高齢化による人口減が続くが、AIを活用することで「サステナブルな社会が見えてきた」とも述べた。

 オフィス家具大手のイトーキは、AIを活用して自らが最先端のオフィスのあり方を追求している。八木常務執行役員は「AIを使うようになると、働き方が全面的に変わる。自分たちが前時代的な働き方をしていては、社会の変化に対応したオフィスを顧客に提案できない」と危機感を募らせる。「(AIは)新型コロナウイルス禍を超える大きな変化で、業界にとって死活問題だ」(同)

 サービス開発や提案を強化するために、AIを活用しているという。例えば会議室の予約をAIに任せるシステムを社内で開発したところ、稼働率が15%程度上がるといった効果を確認した。顧客向けにも提供を始めたという。

5.検討中の無線LAN「Wi-Fi 8」 7の高速通信を踏襲、安定性と利便性を強化 (3.2 日経XTEC)
2027年後半の製品化を目指して標準化が進められている次世代無線LAN規格。無線信号をセンサー代わりに利用できるなど、AIと組み合わせることで、新たな活用方法を提案できる機能が盛り込まれる。

 日常生活に欠かせない無線LANについて、さらなる使い勝手の向上を目指した次世代規格「Wi-Fi 8」の検討が進められている。対応製品は2027年後半に登場する見込みだ。

 無線LAN規格の策定で大きな影響力を持つ米インテルや米クアルコムなどが公開した資料によると、Wi-Fi 8では現行規格のWi-Fi 7で実現した高速通信性能に加え、通信の安定性や使い勝手を高める機能が重視されている。例えば、複数のアクセスポイント(AP)を連携させ、広い範囲を単一のAPとして運用するローミング機能では、従来、実際のAP切り替え時に通信速度が一時的に低下することがあった。Wi-Fi 8では複数のAPを同時に制御できるようになり、通信速度を連続的に変化させることで、より快適なローミングを実現できる。

 Wi-Fi 8では、無線LANの電波をセンサーのように活用する機能も追加される。「Wi-Fi sensing」は、無線LANの反射波を使って人の動きや障害物を検知する機能だ。また、「Proximity ranging」は、無線LAN対応機器同士の距離を測定できる機能。これらの機能とAIを組み合わせることで、周辺の状況を把握できるようになるという。

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